EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
「日本では今、いくつかの要因が絶妙に組み合わさることで投資機会が拡大し、プライベートエクイティ(PE)市場は活況を呈しています」とEYの清水石覚氏は述べています。
現在、日本のPE市場は国内外から熱い視線を集めています。またとない好機と感じられるこうした状況は、絶妙に重なり合ういくつかの追い風が関係していると考えられます。
まず挙げられるのが円安です。円安により、米ドルベースのPE投資家から見みて、日本の企業はターゲットとして魅力が増しています。
それから、日本政府と東京証券取引所が推進してきたコーポレートガバナンス改革も影響していると考えられます。この改革が進展したことで、日本市場の透明性が向上し、投資家はより実効性の高い投資判断を行うことが可能になりました。
これを機に、アクティビスト投資家は全面的な合理化改革を声高に求めるようになり、非中核事業の売却をはじめとするキャンペーン(提案・要求)で成功を収めています。結果として、日本市場ではPE企業による投資が増加の一途をたどっており、特に、資産規模の大きい企業を対象とするディールが増加しています。
そして最後に挙げられるのが、中国市場への逆風が強まったことで、多くの投資家がアジア地域における投資配分の見直しを行っているという点です。
こうした流れの中、日本市場に対して多種多様な投資機会が見込まれるとの期待感が増し、海外投資家にとって日本はアジア地域の主要なターゲット市場となっています。
この3つの追い風が掛け合わさることで、日本では今、PE投資ブームが巻き起こっており、資金調達環境は非常に良好な状態にあります。
2024年の資金調達額は70億米ドル超に達し、多くのファンドでハードキャップ(募集上限額)を上回る応募がありました。国内外のリミテッドパートナー(LP)は、日本がアジア市場で最も投資に適していると考えています。
日本の上場企業の株式を保有しているアクティビスト・ファンドの数は、2014年のわずか8社から、2024年には73社と、9倍に増加しました。
この間、アクティビスト投資家による株主提案の件数も16倍に増加しました。
大手アクティビスト・ファンドの構成メンバーを見てみると、PE企業やコンサルティング会社、投資銀行などでの経験を持つ専門性の高い人材が増えています。
彼らは、何が企業価値を高めるのかを理解しています。そのため、キャンペーンの内容は、PE企業の支持を得ることができるプレイブック(行動計画)に基づいたものになっています。
アクティビスト投資家は、自ら企業を買収しようとしているのではありません。彼らは、投資先企業に非公開化や非中核事業の売却を検討するよう促します。これが直接的にPE投資の増加につながります。
こうしたアクティビスト活動の結果として、例えば、小売、電子機器、製造などのセクターの大手コングロマリット(複合企業)が子会社や事業を売却するケースが見られます。また、ここ数年間、資金調達環境が良好に推移したことから、多くのゼネラルパートナー(GP)が、かなりのドライパウダー(投資待機資金)を積み上げています。GPはそうした資金を活用してアクティビスト投資家がもたらす機会を捉えようとしています。
調査会社のPitchBookによると、2024年末時点におけるPE企業が投資に投入可能なドライパウダーは、世界全体で1兆4,000億米ドルに達しています。
全体的に見て、アクティビスト投資家の提案を無視できないという認識が企業の間で高まっていることから、こうした動向は着実に勢いを増しています。変革やイノベーションを受け入れることで、企業は新たな扉を開くことでき、大規模な非公開化や事業のカーブアウトの機会を多数もたらします。
すでに多くのサクセスストーリーが生まれていることを踏まえると、今後、日本を主要市場とみなすアクティビスト・ファンドが国内外で増加していくと見られます。
現在の日本の状況は、大手コングロマリットが関連性のない多数の事業を抱えていた、1980年代の米国の状況に類似しています。
アクティビスト投資家は、こうしたコングロマリットの分割にビジネスチャンスを見いだしており、PE企業は、売却された資産の購入と最適化を目指しています。
日本のPE市場は欧米に比べて歴史が浅く、プレイブックは進化の途上にあります。
当初はバリュエーションの低い不良資産の取得が中心でした。その後、事業承継に伴う機会の拡大を受け、市場の関心は業績の良い中堅・小規模企業に向かいました。
2010年代後半以降は、事業のカーブアウトに焦点が移り、日本を本拠地とする相当規模のグローバル企業のうち、資金不足で親会社の管理が行き届いていない可能性のある企業に狙いを定めるPE企業が増加しました。
このようなトランザクションは、特に対象企業の事業が親会社に深く組み込まれている可能性のあるカーブアウトの場合には、複雑になります。
金融工学を用いて簡単にリターン(投資収益率)を増加させることが可能だった時代は終わりました。PE企業が価値を生み出すにはポートフォリオ企業の事業に深く関わらなくてはなりません。
こうした必要性が顕著な領域の1つがテクノロジーです。
日本はハイテク国として知られているにもかかわらず、PE企業が買収している日本企業の多くは、改善が必要なITインフラを抱えています。
インフラが肥大化し、合理化が必要な場合もあれば、不十分な点や技術プラットフォームの分断が生じている場合もあります。
基盤となるテクノロジーが、PE企業の究極の狙いである価値創造計画の実行をサポートするようには設定されていないことも少なくありません。
同様に、財務業務も、プロセスやデータの利活用において改善の余地がかなりある領域です。
価値創造の取り組みでは、数値の可視性が極めて重要です。成果を数値で把握できなければ、その取り組みが期待通りの効果を挙げているかどうか判断できません。
また、手元にどれだけの資金があるかを把握していなければ、対象企業の事業への再投資として価値創造計画にどれだけの資金を投入できるか決められないでしょう。
しかし、買収時点で財務システムが分散した常態にある企業が多く、数値入力や報告作成が複数のシステムを介して行われています。
EYでは、この領域の変革を進めるクライアントのために、技術インフラの最適化に寄り添い、円滑で効率的な財務業務プロセスの構築による価値創出を支援しています。
PE企業は、価値の最大化を目指すにあたり、革新的なアイデアを提供することができる人材が重要と考え、多様なセクターや業務経験を持つ専門家を幅広く採用しています。
日本では、従来の手法に固執する企業が多いですが、PE企業は、そうした企業に斬新な視点と専門的知見を注ぎ込み、変革や成長を促進します。
こうした専門家は、業務上の非効率な点を明らかにし、ベストプラクティスを導入し、改善を常に追求する企業文化を醸成することができます。長期的な成功にはこうしたプロセスが不可欠です。また、彼らのネットワークを通じて、PE企業は、被買収企業にはアクセスできないような卓越した人材を取り込み、競争優位性を強化して将来の市場での成功につなげることも可能です。
Dealogic社とAVCJ社によると、日本では、2024年にPE企業によるイグジットが89件あり、総額で130億米ドルが回収されました。2023年の81件、100億米ドルと比較して、件数、回収額ともに増加しています。資本市場の開放に伴い、スポンサーIPOも散見されるようになりました。
大半のイグジットでは、戦略的買い手や金融投資家が新たな保有者になる傾向が高いのですが、過去数年間にPE企業が多額のドライパウダーを積み上げてきたことを受け、スポンサー間の売却が圧倒的多数を占めるようになっています。
運用資金が5億米ドル以上の日本のファンド数については、2012年の15件から、2023年には26件に増加しました。
この期間に大型ファンドの数はほぼ倍増しており、これらのGPは資金投入について紛れもなく圧力にさらされています。これがセカンダリーバイアウト(別のファンドへの売却によるイグジット)の増加につながっています。
市況の回復が続いていることから、今後、より多くのIPOが見られるようになるでしょう。
現状では、トレードセール(第三者への売却)やセカンダリーバイアウトは比較的迅速で利用しやすい道筋であり、IPOほど目を引くものではないにしても、成長と成功に向けての貴重な機会を提供しています。
清水石覚氏はEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社のプライベートエクイティ・リーダー兼パートナーです。
※本記事はPEIの「2025 Japan Special Report」に掲載されたものです。文章・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。
※執筆者の所属・役職は掲載時点のものです。
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