プライベートエクイティの動向:2025年に注目すべき点とは

プライベートエクイティの動向:2025年に注目すべき点とは


2025年のプライベートエクイティ(PE)市場は6つのテーマが鍵となるでしょう。


要点
  • 2025年のPE市場に影響を与える新たなテーマとして、ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)やチェンジマネジメントなどが注目に値する。
  • 2024年に注目されたテーマは進化し、引き続き、新たな形でPE市場を形づくっていくと予想される。
  • 「成長」は依然としてPE市場の中心的テーマであり、デューデリジェンス、運営体制の整備、事業報告などを通じて2025年も同市場の成長が見込まれる。

PE業界は今、重要な転換点を迎えています。そのため、各PE企業は、現行の戦略や従来のアプローチを再評価し、収益を生み出すための革新的な方法を模索しています。2024年を振り返ると、PE市場のトレンドとして、EYでは、人工知能(AI)、インフラストラクチャ、価値創造、運転資本、小売市場への投資拡大という5つのテーマを取り上げました。2025年にはこれらのトテーマの一部は先鋭化が予想され、他方、PE市場の未来を形づくる新たなテーマも存在感を増しています。以下、2025年のPE市場のトレンドで注目すべき6つのテーマを考察します。

1. インフラストラクチャ

PE企業は、2025年もセクターを問わずインフラストラクチャへの投資を継続し、特にエネルギーとデジタルインフラの分野で重点的に投資活動を行うことが予想されます。AIをはじめとする先端技術の急速な進歩と普及に伴い、それに応じたデータセンター投資が求められる中、PE投資はこうした分野の成長をけん引する中心的な役割を果たしています。過去3年間を見てみても、PE企業は、データセンター関連プロジェクトにすでに1,000億米ドル以上の投資を行っています。投資の機会は、データセンターそのものに限りません。関連するソフトウェアやハードウェアを提供するベンダーから、さらにはそれらを稼働させるために必要な膨大な電力に至る、バリューチェーン全体に存在しています。データセンターは現在、世界の電力使用量の2%超を占めていますが、10年後にはその割合が3~4%にまで拡大すると予測されています1。投資機会はまた、従来の電力源と再生可能電力源の双方でも見込まれます。

 

2. 人工知能(AI)

人工知能(AI)は、2024年のトップテーマでしたが、2025年には、2番目に位置付けられています。なぜ、このような変化が生じているのでしょうか。AIに関してPE企業の現在の状況を見てみると、より焦点を絞った利用へと進化しています。2024年は、AIの持つ潜在力を最大限に引き出すための方法を模索し議論する段階にありました。それに対し現在は、AIの実用化が進んでいます。例えば、オリジネーションとデューデリジェンスのフェーズでAIツールの利用が広がっています。AIを活用して取引関連の膨大な文書データの分類、インデックス付け、検証を行うことで、処理コストを最大70%削減することが期待されます。投資期間中では、生産性向上と成長促進を目指す投資ファンドとその運営チームによるAIの利用が進んでいます。特に、従業員のパフォーマンス強化という点で、AIの活用はタスクの優先順位付けや社内プロセスの合理化に役立っています。

 

3. 成長

2024年の3番目と4番目のテーマは、それぞれ価値創造と運転資本でした。2025年は、これら2つのテーマを「成長」という形でひとつに統合しています。これは、PE企業が自社のパフォーマンス向上に向けて収益成長に注力していることを考慮に入れたことによるものです。では、2025年にはどんな取り組みがPE企業の成長に寄与するのでしょうか。

  • 高度な分析、人工知能(AI)、および自動化を活用する
    これにより、膨大な量のデータの分析が可能になるため、ディールソーシング(投資先探し)、デューデリジェンス、ポートフォリオ管理が大幅に改善され、投資の機会やリスクの特定が促進されます。
  • ノンコア業務を戦略的にオフショアリング、オンショアリング、アウトソーシングの対象とする
    これにより、PE企業はコストを最適化できるだけでなく、高い価値をもたらす活動への集中を促進されます。
  • 堅牢な報告体制を導入する
    これにより、透明性向上を求めるステークホルダーの要望に寄り添い、パフォーマンス、リスク管理、価値創造などに関する戦略を明確に示すことができます。
  • 税務、コンプライアンス、業務支援などを含む包括的な統合サービスを提供する
    これにより、PE企業は他社との差別化が可能になるだけでなく、IPO(新規株式公開)市場が成熟期に達していない状況下でも投資家への価値提供が促進されます。

4. ソブリン・ウェルス・ファンド

米国でソブリン・ウェルス・ファンド(政府系ファンド、以下SWF)の影響が増大することが予想されます。これは、SWFがリターン向上とリスク削減に向けて投資の分散化を進めていることが要因として挙げられます。SWFの資産は2030年までに18兆米ドルに達する見込みであり、PE企業はSWFとのパートナーシップに向けた動きを強めていくとみられます2。こうしたパートナーシップは合同運用ビークルを通じたコーナーストーン投資の形をとることが多いと考えられますが、他方で、オルタナティブ投資運用会社とSWFがパートナーシップを組んで、より大規模な案件に共同投資するという形もあるかもしれません。場合によっては、投資企業が特定の投資機会集合やソブリン投資家のリスクエクスポージャーに特化した、セパレートリー・マネージド・アカウント(SMA)を設定することも想定されます。また、説得力のあるトレンドの長期的成長が見込まれる魅力的な資産にソブリン投資家が直接投資する可能性もあります。年初来、ソブリン・ウェルス・ファンドはPE案件で米国企業に対し300億米ドル近くの投資を行っており、2018年からの累積投資額は3,670億米ドルを超えています。

5. 投資の定義拡大

2025年も引き続き、PE企業はプライベートエクイティの従来の枠をさらに広げて投資活動を展開していくと予想されます。経済的観点からもPE市場は極めて重要な役割を果たしており、特に、上場株式や債券市場、あるいは従来の銀行融資などによる資金確保に苦心している革新的な新興企業や中堅企業にとっては必要な資本源となっています。伝統的融資の縮小に伴い、こうした企業の資金不足が生じている中、PE企業は資金提供の最適化を図りながら、引き続き経済の需要に応えていく存在であり続けるでしょう。例えば、保有している巨額のドライパウダー(投資待機資金)を市場に投入すれば、銀行セクターのレバレッジ解消やシステミックリスク低減に寄与でき、これにより、レバレッジや借入に依存する業界に資本ソリューションを提供しやすくなります。また、投資を分散化すれば、自社の保有資産のリスク軽減も期待されます。プライベートクレジットファンドの運用資産残高(AUM)はすでに1.5兆米ドルに上り、今後5年間で3兆米ドル近くに達する見込みです3。市場への資本流入が増加すれば資金提供者間の競争が激化します。そうなれば、資本コストが低下し、借り手は必要な資金を調達しやすくなるでしょう。さらに一例として、PE企業と伝統的な貸し手が新たなパートナーシップを締結するという動きも見られます。これは、双方の強みを持ち寄りながら、企業のさまざまな資金調達ニーズに応えていこうというものです。

他方で、PE企業は、資本の流動性、柔軟性、アクセシビリティなどの向上が期待される新たなファンド構造も模索しています。これは、「小売市場への投資拡大」(2024年の5番目のテーマ)などを通じて投資家基盤の拡大を図ることを狙いとしています。例えば、セミリキッドファンドは、月次あるいは四半期ごとに定期的な購入・売却が可能であるため、機関投資家以外の投資家にとっても利用しやすい投資手段となります。

6. チェンジマネジメント

2025年のPE市場のテーマの最後を締めるのはチェンジマネジメントです。チェンジマネジメントは、PE業界のあらゆるレベルで重要性が増しています。PE企業では今、拡大と多様化が進む投資を管理するバックオフィスシステムの変革が喫緊の課題となっています。こうした変革には、人を中心に据えたアプローチによるチェンジマネジメントが不可欠であり、それなくしては効果的な成果は見込めないでしょう。また、投資家による関与や高リターン追求が強まりを見せていることから、ディ―ル戦略を効果的に実行できるよう、ディールの責任者と運営パートナー間で協働することがますます重要になっています。そして最後に特筆すべき点として、企業文化が、投資先企業の成長の重要な原動力として注目され始めています。これに関して、PE企業では、投資先のさまざまな従業員グループに必要に応じた研修を実施するなど、より的を絞った支援の提供に乗り出しています。また、報酬の適切な配分や、すべてのステークホルダーへの持続可能な長期的価値の創造にも取り組んでいます。

PE企業の運用資産残高(AUM)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック以降、135%もの増加を見せています。この勢いが続けば、2028年までに8兆米ドルに達すると予測されます4。引き続き、PE企業は、起業家的能力を発揮しながら進化を続け、世界経済の成長や投資家への持続的価値提供に寄与していくでしょう。

  1. “AI is poised to drive 160% increase in data center power demand,” Goldman Sachs, 14 May 2024.
  2. Georgopoulos, Ilias, “Sovereign wealth funds are positioning portfolios for growth,” IQEQ, 21 October 2024.
  3. “Q2 2024 PitchBook Analyst Note: Private Capital’s Path to $20 Tillion,” PitchBook, 1 May 2024.
  4. Private Capital’s Path to $20 Trillion,” PitchBook, 1 May 2024.

サマリー

2025年に入り、PE市場の進化に寄与する6つのテーマが存在感を増しています。2025年から新たに注目されているテーマ(ソブリン・ウェルス・ファンド、資本の定義拡大、チェンジマネジメント)と、昨年から続くテーマ(AI、インフラストラクチャ、成長)が相まって、2025年のPE市場は新たな様相を呈していくでしょう。

この記事について

執筆者


EYの最新の見解

プライベートエクイティの動向:2024年に注目すべき点とは

「PEの動向」は、プライベートエクイティ市場の動きと動向に関するデータと洞察を紹介する四半期レポートです。