2022年3月31日
CVO:Chief Value Officer-CFOの次のステージ-

CVO:Chief Value Officer-CFOの次のステージ-

今後5~10年の間に、CFOの役割は、企業の長期的価値を創出する原動力としての「CVO:Chief Value Officer」に進化させる必要があると考えます。EYが定義するCVOについて、解説します。

本稿の執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) Business Consulting -Finance 山岡正房

CFO部門向けのコンサルティングチームにおいて、クライアント企業のトランスフォーメーション戦略から実行まで包括的に推進するとともに、ファイナンス DXおよびトレジャリー領域のオファリングチームリーダーを務める。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) アソシエート・パートナー

要点
  • New Normal、VUCAの時代において、CFOはどのように役割を進化させるべきでしょうか。CVO(Chief Value Officer)という新たな役割について解説します。
  • CFOからCVOに転身するためは具体的にどのような変革が必要でしょうか。5つの変革アジェンダに分けて解説します。

Ⅰ はじめに

今から約20年前、日本にもCxOという言葉が定着してきた当時、「日本企業のCFOは本来の意味でのCFOではない」という話が、度々議論になりました。Accountant、Controller、Treasurerの3役を配下に置いて事業をグリップし、一定のコミットメントをもってビジネスをサポート・推進していく欧米型のCFOと比べ、日本企業のCFOは単なる経理・財務管掌役員にすぎないという議論です。

今日に至るまで、日本企業でもさまざまな変革プロジェクトが実施され、CFOおよび配下のファイナンス部門の役割やケイパビリティも、本来のCFO機能に近づいてきていると考えます。

しかし一方で、グローバル先進企業のCFOの役割は、ここ20年間不変だったわけではありません。特に今後5~10年の間に、CFOの役割は次のステージに移る潮流にあるとEYは考えています。

そのような変化を目の当たりにしたとき、日本企業はまたしても後追いで、現状課題解決型の演繹(えんえき)的な変革に追われるのかというのが、本稿における問いかけです。そうではなく、CFOの在るべき次の姿を具体的にイメージし、その実現に向けて施策を打っていく帰納的な変革が今こそ求められています。

Ⅱ CFOの次のステージとは?

<図1>はCFOの役割の進化を表しています。古典的には決算やレギュレーション対応など、企業の財務数値の管理人をつかさどる「経理担当役員」からスタートし、現在は短中期の業績管理をベースに企業の成長をナビゲートする「CFO」に役割を発展させました。

図1 CFOの次のステージ

そして今後は、企業の長期的価値を創出する原動力としての「CVO:Chief Value Officer」にその役割を進化させる必要があると考えます。

ここでいう「Value」とは企業の長期的価値を表す「LTV:Long-term Value」を指します。<図2>のとおり、LTVには「財務的価値」、「消費者価値」、「人材価値」、「社会的価値」の四つのカテゴリーがあります。

図2 LTVを構成する四つの価値カテゴリー

従来のCFOはこのうち「財務的価値」にフォーカスし、中計・年次予算などを通じた目標設定から、実績収集、予実管理、予実差に対する分析とリカバリーアクションの検討と推進を行い、最終結果について財務諸表などを通じて外部開示する役割を担っていました。

この目標設定→モニタリング→開示というサイクルは今後も基本的には変わりませんが、その範囲は大きく広がります。サステナビリティやCSR、SDGsに代表されるように、ステークホルダーの多様化、あるいは各ステークホルダーが企業に求めるアウトカムの多様化に伴い、財務的価値以外の三つの価値の重要性がますます重要になってきます。

したがって今後は、財務的価値だけではなく、消費者価値、人材価値、社会的価値についても、価値創造の重要ドライバーを特定し、その巧拙を図るKPIを定義し、目標設定し、期中のモニタリングと改善アクションを経て、統合報告書などの手段を通じてステークホルダーに開示するまでのサイクルをリードすることが、これからのCFOには求められます。

ここまでくると、もはやChief“Financial”Officerではなく、Chief“Value”Officerと呼ぶのがふさわしいであろうと、EYではCFOの次のステージをCVOという名称で定義しています。

なお、四つのカテゴリーの具体的な価値や、その重要ドライバー、あるいはモニタリングすべき指標については、次号で詳述します。

Ⅲ CVO実現にむけたアジェンダ

<図3>はCVOに進化するための、よりプラクティカルな五つのアジェンダを示しています。

図3 CVO実現に向けたアジェンダ

一つ目に、ファイナンス機能そのものの姿としては、よりレジリエントかつリーンな組織体となることが必要です。過去志向から将来志向への変革、専門的なジョブ型人材へのコマンド・アンド・コントロールによる組織から、多様な人材による自律的組織への脱皮、単なる標準化や自動化を超えて、そもそも標準化が難しい複雑な業務からいかに付加価値を提供するかへのフォーカス、などが挙げられます。

二つ目に、アカウンティング・アンド・コンプライアンスの領域では、標準化・自動化・シェアード化/BPO化が進展することにより、より低コストでアカウンティングオペレーションが遂行されるとともに、信頼性の高い財務数値をもとにした分析業務により多くのエフォートが割かれる傾向にあります。今後はさらに、アカウンティングそのものが結果積み上げ型、仕訳ボトムアップ型のものから、アナリティクス起点のものへと変化し、これまでコスト削減の手段とされてきたシェアードサービスは、今後CoE(Center of Excellence)として変革の推進役に生まれ変わります。

三つ目に、業績管理の観点でも大きな変革が必要です。これまでは、PDCAサイクルのチェックを担う役割を高度化するために、過去情報・実績情報をリアルタイムに集計し、予実分析を行うことで、改善アクションを導き出していました。またその実現のために、分析に必要なデータの標準化や統合に力を注いでいました。しかし、事業を取り巻く不確実性が高まる昨今では、社外データを含む非構造データをいかに経営判断に活かすかが、競争優位や差別化の源泉として重要であり、将来予測やシミュレーションを駆使した、OODA(Observe:観察、Orient:状況判断、Decide:意思決定、Act:行動)ループの推進役としての機能が重視されます。

四つ目の、コーポレートファイナンス、あるいはトレジャリーの領域では、これまでは資金の効率化や、財務リスク・ガバナンスリスクの低減といった、守りの施策が中心でした。今後は、長期の資金計画・資本政策と戦略のアラインメントを取り、バリューチェーン上のどこに、どのような形でリスクマネーを張るべきかの判断をナビゲートすることで、長期的な成長実現に向けた攻めのリスクテイクに寄与する資金管理が求められます。

最後に、五つ目は変革の進め方についてです。これまでの期間限定的なプロジェクト推進や単発のM&Aではなく、変革そのものを定常業務とするアジャイルなEX(Enterprise Transformation)チームが、エコシステム構築とイノベーション創出を主軸に置いた、継続的かつ包括的なトランスフォーメーションを推進していくことが求められます。

Ⅳ おわりに

何社かの日本企業のCFOの方と、CVOコンセプトについてディスカッションする中で、2点ほど示唆に富んだご質問を頂きました。

一つ目は、LTVの消費者価値、人材価値、社会的価値は、最終的に長期の財務的価値に帰着するものとして捉えるべきか、あるいは財務的価値とは独立して、言い換えれば財務的価値とのトレードオフが生じても伸ばすべきものなのか、という問いです。これは会社を取り巻くステークホルダーの状況によって変わります。株主や融資元が最重要なステークホルダーで、彼らが財務的価値を最優先する限りにおいては前者の説明が受け入れやすいでしょう。しかし、投資家の求めるアウトカムが財務的価値以外にも広がりを見せ、またクラウドファンディングなど資金調達手段も多様化する昨今、いずれ後者の位置付けが市民権を得ると考えます。

二つ目はCFOがCVOになった時に、他のCxOとの役割分担がどう変わるか、という問いです。企業のLTV創出の推進役をCVOが担った際、COOはより事業執行責任者としての性格を色濃くするでしょうし、CEOは各種外部団体を含むステークホルダーとのコミュニケーション、広告塔としての役割が増すかもしれません。

いずれにしても、CVOは新しいコンセプトです。今後、さまざまな企業の皆さまと議論を重ね、実行に移す中でブラッシュアップし、多くの企業に当たり前の変革として広まることを期待します。そして次の20年が、再び日本企業が世界をリードする20年となることを切に願います。

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サマリー

今後5~10年の間に、CFOの役割は、企業の長期的価値を創出する原動力としての「CVO:Chief Value Officer」に進化させる必要があると考えます。EYが定義するCVOについて、解説します。

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※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

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この記事について

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.