2021年3月期 有報開示事例分析 第1回:収益認識会計基準(早期適用)

2022年2月2日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 清宮 悠太

Question

2021年3月決算会社における企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」の早期適用状況と開示内容は?

Answer

【調査範囲】

  • 調査日:2021年8月
  • 調査対象期間:2021年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書
  • 調査対象会社:上場会社のうち、以下の条件に該当する2,430社
    ① 3月31日決算
    ② 2021年6月30日までに有価証券報告書を提出している
    ③ 日本基準を採用している

【用語定義】

本調査では、以下のとおり用語を定義している。

会計基準名 略称
2018年3月30日に公表されている企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」 2018年収益認識会計基準
2020年3月31日に公表されている改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」 2020年改正収益認識会計基準
上記の両方 収益認識会計基準等

【解説】

収益認識会計基準等の適用にあたっては、次の2つの方法が認められている。

適用初年度の取扱い 略称
収益認識会計基準の適用初年度において、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及(そきゅう)適用する方法(収益認識会計基準等84項本文) 原則的な取扱い
適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用する方法(収益認識会計基準等84項ただし書き) 84項ただし書きの取扱い

さらに、収益認識会計基準等の適用にあたっては、「原則的な取扱い」と「84項ただし書きの取扱い」のそれぞれについて、次のような実務上の便法が認められている。

  • 「原則的な取扱い」における実務上の便法
    「原則的な取扱い」に従って遡及適用する場合、<図表1>に記載した方法の1つ又は複数を適用することが認められている(収益認識会計基準等85項)。
<図表1>「原則的な取扱い」の実務上の便法
  1. 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約について、適用初年度の前連結会計年度の連結財務諸表及び適用初年度の前事業年度の個別財務諸表(以下、これらを合わせて「適用初年度の比較情報」という。)を遡及的に修正しないこと
  2. 適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に変動対価が含まれる場合、当該契約に含まれる変動対価の額について、変動対価の額に関する不確実性が解消された時の金額を用いて適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること
  3. 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、次の(1)から(3)の処理を行い、適用初年度の比較情報を遡及的に修正すること

(1) 履行義務の充足分及び未充足分の区分
(2) 取引価格の算定
(3) 履行義務の充足分及び未充足分への取引価格の配分

※上記のほかに四半期又は中間の連結財務諸表及び財務諸表に係る実務上の便法が設けられているが、ここでは説明を割愛する。

  • 「84項ただし書きの取扱い」における実務上の便法
    「84項ただし書きの取扱い」を適用する場合、<図表2>に記載した方法の1つ又は複数を適用することが認められている(収益認識会計基準等86項)。
<図表2>「84項ただし書きの取扱い」の実務上の便法
  1. 適用初年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に、新たな会計方針を遡及適用しない(以下「86項本文の取扱い」という。)
  2. 契約変更について、次のいずれかを適用し、その累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減すること(収益認識会計基準86項また書き)

(1) 適用初年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、<図表1>の3(1)~(3)の処理を行うこと(以下「86項また書き(1)の取扱い」という。)

(2) 適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、<図表1>の3(1)~(3)の処理を行うこと(以下「86項また書き(2)の取扱い」という。)

【調査結果】

1. 早期適用と適用初年度の取扱いの状況

① 早期適用の会社数

調査対象会社(2,430社)を対象として、2018年収益認識会計基準の早期適用の状況を調査したところ、2018年収益認識会計基準を新たに早期適用した会社数は21社であった(なお、2020年3月期に2018年収益認識会計基準を早期適用した会社は7社であった)。

② 適用初年度の取扱いの状況

当該21社について、適用初年度の取扱いの状況を調査したところ、<図表3>に記載のとおり、「原則的な取扱い」を適用した会社が1社、「84項ただし書きの取扱い」を適用した会社が20社であった。

<図表3>2018年収益認識会計基準に係る適用初年度の取扱い
  2020年3月期に早期適用した会社数 2021年3月期に早期適用した会社数
原則的な取扱い 0 1
84項ただし書きの取扱い 7 20
合計 7 21

※IFRSを任意適用しており、かつ、個別財務諸表において収益認識会計基準を早期適用した会社が8社(2020年3月期は3社)あるが、上記表には含めていない(なお、8社のうち5社については、2021年3月期からIFRSへ移行している)。

続いて、早期適用した会社について、実務上の便法の適用状況を調査したところ、結果は<図表4>のとおりであった。

2021年3月期に早期適用した会社のうち、「原則的な取扱い」を適用している会社1社については、<図表1>「原則的な取扱い」の実務上の便法1と2を適用していた。

また、2021年3月期決算における「84項ただし書きの取扱い」における実務上の便法の適用に関する記載のない会社が12社であり、2020年3月期よりも増加した。そのほか、「86項また書き(2)の取扱い」を適用していると記載した会社は、2020年3月期から引き続き1社もなかった。

<図表4>収益認識会計基準等に係る適用初年度の取扱い(「原則的な取扱い」及び「84項ただし書きの取扱い」における実務上の便法の適用状況)
  2020年3月期に
早期適用した会社数
2021年3月期に
早期適用した会社数
原則的な取扱い 「原則的な取扱い」の実務上の便法1 1
同上 2 1
同上 3
「84項ただし書きの取扱い」における実務上の便法の適用に関する記載なし 3 12
「84項ただし書きの取扱い」における実務上の便法を適用している旨の記載あり(※) 86項本文の取扱い 2 5
86項また書き(1)の取扱い 4 6
86項また書き(2)の取扱い
合計 9 25

(※)同一の会社で複数の項目を記載している場合、それぞれ1社としてカウントしているため、合計社数は<図表3>の会社数とは一致しない。

③ 会計方針の変更に伴う影響の分析

2018年収益認識会計基準を早期適用した21社を対象として、適用に伴う経営成績(主に売上高と営業損益)への影響の有無を確認するため、会計方針の変更の注記内容を分析したところ、<図表5>のとおりであった。

売上高については、収益認識会計基準等の適用に伴って減少した会社が13社と最も多く、この中には売上高が50%以上減少した会社も見受けられた。一方、営業損益については、増加した会社が最も多く、8社であった。

<図表5>2018年収益認識会計基準の適用に伴う影響の分析
 区分 会社数
売上高への影響 営業損益への影響
影響あり 増加 5 8
減少 13 6
影響が軽微である旨を記載 1 2
影響がない旨を記載 2 5
合計 21 21

※「原則的な取扱い」を適用している1社については、前連結会計年度の売上高及び営業損益へ与える影響を調査対象としている。

※連結財務諸表を作成していない会社1社については、個別財務諸表上の売上高及び営業損益への影響を調査対象としている。

2.「2020年改正収益認識会計基準」に関する開示(表示及び注記事項)の適用状況

2018年収益認識会計基準を早期適用した29社(早期適用時期の内訳として2019年3月期が1社、2020年3月期が7社、2021年3月期が21社)を対象として、2020年改正収益認識会計基準に関する開示(表示及び注記事項)の状況を調査した。

調査結果は、<図表6>のとおりであり、2020年改正収益認識会計基準に関する開示を行っている会社は10社であった。

<図表6>2020年改正収益認識会計基準に関する開示(表示及び注記事項)の適用状況
2020年改正収益認識会計基準の適用(予定)時期 2018年収益認識会計基準の早期適用時期 会社数
2021年3月期 2021年3月期 10
2022年3月期(※1) 2019年3月期 1
2020年3月期 3
2021年3月期 11
2022年12月期(※2) 2020年3月期 1
その他(※3) 2020年3月期 3
合計 29

(※1)①未適用の会計基準等に関する注記において2022年3月期の期首から適用する旨を記載している会社13社のほか、②未適用の会計基準等に関する注記において2022年3月期の期首から適用する旨を記載していない場合で、かつ、収益認識関係注記において2020年改正収益認識会計基準に関する開示をしていない会社2社を含む。

(※2)2020年3月期から2018年収益認識会計基準を早期適用し、その後、3月決算から12月決算(2021年12月期)に決算期変更した会社。

(※3)「その他」の内訳は、①2021年3月期からIFRSへ移行した会社が2社、②2021年3月30日に上場廃止し、2021年4月1日付で単独株式移転により設立した持株会社(株式移転設立完全親会社)が上場した会社1社である。

さらに、2021年3月期から2020年改正収益認識会計基準に関する開示(表示及び注記事項)を行っている10社の収益認識関係注記において、セグメント情報との関連で、どのような収益の分解情報を記載しているか分析した結果は、<図表7>のとおりであった。

<図表7>収益の分解情報における分解区分
収益分解情報の区分 セグメント注記における報告セグメント
主に製品・サービス別 地理的区分 単一セグメント
財又はサービスの種類 3 1 2
顧客との契約から生じる収益か、それ以外か 4 - 2
地理的区分 3 - -
財又はサービスの移転の時期 1 - 2
契約形態別 - - 2
得意先別(主要な取引先グループとその他) - 1 -

※複数の区分での開示を行っている場合には、それぞれ1社とカウントしていることから、合計は一致しない。

(旬刊経理情報(中央経済社)2021年9月20日号 No.1622「2021年3月期 「有報」分析」を一部修正)