内部監査の戦略:組織体の戦略との整合性を確保し、企業価値の向上に貢献する

内部監査の戦略:組織体の戦略との整合性を確保し、企業価値の向上に貢献する


組織体の戦略目標との整合性を確保し、企業価値の向上に貢献するためには、実効性のある内部監査の戦略の策定と実行が不可欠です。


要点
  • 実効性のある内部監査の戦略を策定・実行することで、内部監査部門は、監査業務のあり方を変革し、組織体の目標達成に欠かせない重要なパートナーとしての立場を確立することができる。
  • 戦略的計画は、内部監査部門が新たなリスクを特定し、組織体のガバナンスを強化し、データに基づく洞察で意思決定の高度化に資するうえで極めて重要である。
  • テクノロジーの活用と人材開発の推進は、内部監査部門が高付加価値なアシュアランス業務を提供し、企業価値を最大化するうえで不可欠である。



EY Japanの視点

有効な内部監査の戦略を立案、実行することで、内部監査業務を高度化させ、内部監査部門の価値を経営層に示すことが可能となります。

内部監査の戦略という概念は、2024年1月に公表された改訂版「グローバル内部監査基準」にて、内部監査部門に対する要求事項として明確に提示されたものです。そのため、日本における発展途上の内部監査部門では、まだ十分な対応ができていない場合や、内部監査戦略と内部監査年度計画(監査対象組織や監査実施予定時期の一覧)の違いに対する理解が曖昧である場面も見られます。

内部監査が長期的に価値を付加していくためには、内部監査部門長は内部監査の戦略策定を通じて、数年先のありたい姿、あるべき姿を模索し、取締役会や最高経営者等とコミュニケーションをとり、必要な支援を得る必要があります。

本稿では、内部監査の戦略の重要な構成要素(人材への投資、テクノロジーの活用、監査プロセスの品質確保)や、各ステークホルダーの役割等がまとめられており、効果的な内部監査の戦略を策定、実行するための具体的なポイントを押さえた有用な内容となっています。

EY Japanでは、本稿を実行に移すため、内部監査戦略の立案や、戦略を実行するための具体的な施策立案や遂行支援などの内部監査高度化支援を提供しています。内部監査の価値を高め、信頼されるアドバイザーとなるために実務レベルでのサポートを提供いたします。


EY Japanの窓口

林 直樹
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リスク・コンサルティング パートナー

鈴木 章嗣
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リスク・コンサルティング ディレクター



内部監査部門は、実効性のある戦略を策定・実行することにより、業務のあり方を変革し、組織体にとって価値のある戦略的パートナーへと進化することができます。2024年1月に改訂版「グローバル内部監査基準(GIAS)」が公表され、内部監査部門は従来の監査計画を超えて、包括的かつ戦略的な思考で取り組むことが、これまで以上に重要になっています。特に、基準9.2(内部監査の戦略)には、「内部監査部門長は、組織体の戦略目標と成功を支援し、取締役会、最高経営者及びその他の主要なステークホルダーの期待事項に沿う内部監査部門の戦略を策定、実行しなければならない」と明記されています。この要求事項は、テクノロジーやリスク環境、ステークホルダーの期待事項がかつてないほど目まぐるしく変化する今日のビジネス環境を踏まえると、まさに満を持したものと言えます。

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内部監査における戦略的な計画策定の重要性

 

戦略的な計画策定は、内部監査部門がアシュアランス・アドバイザリー業務を通じて、組織体のガバナンス強化や意思決定の高度化を実現するうえで極めて重要です。特に、幅広い視点を取り入れた内部監査戦略には、次のようなメリットがあります。

  1. データに基づく洞察と分析を活用し、企業が直面する新たなリスクを特定、予測、対応する。
  2. 将来直面し得る課題に対応するための技術力を構築しつつ、内部監査業務提供モデルを変革し、より高い精度でインパクトのあるアシュアランス業務を提供する。
  3. 組織への影響が最も大きい領域にリソースを重点配分し、革新的な監査手法とテクノロジーを活用した方法論を推進する。
  4. 的を絞ったスキル開発と後継者計画を通じて、組織体のニーズに対応する人材モデルを構築する。

 

これに関して、GIASのドメインI(内部監査の目的)に、「内部監査は、取締役会及び経営管理者に、独立にして、リスク・ベースで、かつ客観的なアシュアランス、助言、インサイト及びフォーサイトを提供することによって、組織体が価値を創造、保全、維持する能力を高める」と、記載されています。また、基準6.1(内部監査への負託事項)には、「内部監査部門長は、内部監査の権限、役割及び責任が、内部監査部門がその戦略を達成し、目標を達成することを引き続き可能にするかどうかを評価するために、取締役会及び最高経営者と内部監査への負託事項について議論しなければならない」と、明記されています。つまり、こうしたコミュニケーションにより、内部監査部門は自らの戦略を策定・実行しつつ、ステークホルダーの期待に適切に応えていくことが可能になります。さらに、次のセクションで示すさまざまな考慮事項を反映した包括的な戦略を構築することで、内部監査部門は、ドメインIに記載されているパーパス・ステートメントを果たしつつ、信頼されるアドバイザーとしての立場をより強固に確立することができます。

 

戦略目標の策定

 

複雑で急速に変化するビジネス環境に適応する戦略を策定する際、企業と内部監査部門は複数の重要事項を考慮する必要があります。これらはGIASの原則10(監査資源の管理)で示されており、特に「資源の効果的な管理」、「先進的な専門的能力の開発」、「一貫した品質での業務提供」が、戦略を成功に導く礎となります。

包括的な戦略には、少なくとも次の3つの主要な要素を含める必要があります。

人的投資

戦略的人材開発の領域で、以下の事項に優先的に取り組む必要があります:

  • 新興分野やリスクの高い分野の専門的能力を強化する。
  • 長期的な戦略的優先事項に対応するための後継者計画を策定する。
  • キャリア成長の機会を提供し、人材を定着させる。
  • イノベーションと継続的な能力開発を奨励する文化を醸成する。

変革の原動力となるテクノロジーの活用

先進的な内部監査の戦略のもうひとつの重要な要素であるテクノロジーの領域で、以下の事項に優先的に取り組む必要があります:

  • 人工知能(AI)、データ分析、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)を活用し、リスクアセスメントと監査の実行性を強化する。
  • リアルタイムにリスクを把握できるよう、継続的なモニタリングと監査の体制を整備する。
  • 監査の有効性を高めるため、テクノロジーを活用した品質保証プロセスを構築する。
  • リスクを早期に特定するための予測分析モデルを構築する。

品質と手法の強化

高付加価値の監査業務を一貫して提供するためには、品質と手法の強化が不可欠です。GIASの基準9.3(手法)を踏まえ、以下の事項に優先的に取り組む必要があります:

  • 新たなリスクに対応できるよう、監査アプローチを強化する。
  • 監査の質を担保できる強固な品質管理プロセスを導入する。
  • 一貫した品質の業務提供を実現するために、監査アプローチを標準化する。
  • 戦略目標に沿った内部監査部門のパフォーマンス目標を設定する。

上記3つの戦略的要素は、組織体の戦略でよく見られるものですが、内部監査機能の戦略的優先事項としても重要です。しかし、どれほどに精緻に策定された戦略であっても、効果的に実施・遂行されなければ、価値を生み出すことはできません。

計画の実施とコミュニケーションにより、戦略を成功へと導く

戦略的計画を成功裏に遂行するには、透明性を持って戦略目標を共有することが不可欠です。GIASの原則9(戦略的な計画策定)には、内部監査部門がその負託事項を果たし、長期的に成功を収めるには、戦略的に計画を策定することが重要であると明記されています。これを実現するには、取締役会、最高監査責任者(監査部門長)、監査委員会、最高経営者、内部監査スタッフを含む複数のステークホルダーの積極的な関与が極めて重要となります。

取締役会は、内部監査戦略に関する監督と助言の提供を行うに当たり、以下の行動が推奨されます:

  • 内部監査部門の戦略と組織体の方向性について整合性を検証する。
  • 内部監査部門の独立性を後押しする。
  • 内部監査戦略を達成するための要求事項を審査・承認する。
  • 新たなリスクや業界動向に関する情報・知見を提供する。

戦略の設計者であり推進者である最高監査責任者(監査部門長)は、独立性を維持しながら、積極的かつ体系的なアプローチを取る必要があるため、以下の行動が推奨されます:

  • その達成状況を測定可能な内部監査の戦略的イニシアチブを定義する。
  • 内部監査と組織体の優先事項の整合性を明確に示す。
  • 人材育成と後継者計画を内部監査の戦略に組み込む。
  • 内部監査戦略の実施に伴う課題を、取締役会および監査委員会に透明性を持って報告する。

監査委員会は、内部監査部門に対するガバナンスと戦略的な指針の提供という重要な責務を遂行するために、以下の行動が推奨されます:

  • 内部監査部門の戦略上の前提を問い直し、実現可能性を検証する。
  • 戦略的イニシアチブに必要な監査資源の配分を承認する。
  • 業界の知見を活用して内部監査部門の戦略的な計画策定の質を高める。
  • 結果をモニタリングし、報告に基づき戦略実行の進捗を検証・確認する。

最高経営者は、内部監査部門の戦略目標の達成に向け、以下の行動を通じた貢献が推奨されます:

  • 組織体の事業目標と業務上の優先事項に関する洞察を提供する。
  • 監査資源の配分と技術的取り組みを支援する。
  • 部門横断的な協働の機会を促進する。
  • 組織体の期待事項と内部監査部門の戦略的整合性についてフィードバックを提供する。

内部監査スタッフは、戦略の遂行の重要な立役者として、以下の行動が推奨されます:

  • 戦略的目標に沿って技術的・専門的能力を開発する。
  • 戦略遂行における課題や機会について、現場レベルのフィードバックを提供する。
  • 業務提供体制の改善に向けて革新的な提案を行う。
  • 監査業務の遂行において品質基準を維持する。

包括的なステークホルダーの関与、特に最高経営層や内部監査スタッフとの定期的なコミュニケーションは、内部監査部門の戦略と企業全体の優先事項の整合性を維持するうえで重要な役割を果たします。

結論

内部監査部門は実効性のある内部監査の戦略を策定・実行することにより、内部監査の価値を強化する絶好の機会を得られます。その要となるのは、綿密な計画、ステークホルダーの関与、そして果断な行動です。これらを通じて、内部監査部門は、リスク管理体制を進化させ、ステークホルダーの信頼を深め、組織体に確かな成果をもたらす機能としての立場を確立することができます。また、先進的な機能やテクノロジーを取り入れつつ、中核のアシュアランス業務に注力していくことで、将来にわたり意義のある価値創出が実現します。包括的戦略を策定し実行するための投資は、リスク管理の強化、ステークホルダーの信頼向上、企業価値の向上という大きな成果を生み出します。

本稿の執筆に当たり、Trey Hornung氏とSteve Kobert氏にご協力いただきました。この場を借りて、感謝の意を表します。

サマリー

組織体の戦略目標と整合した実効性のある内部監査の戦略は、企業価値を高める鍵となります。2024年に「グローバル内部監査基準」が改訂され、内部監査部門は従来の慣行を超えて、戦略的な計画の策定・実行へと かじを切ることが求められています。このアプローチを採用することで、新たなリスクの特定、ガバナンスの強化、情報に基づく意思決定が促進されます。そして、戦略を成功に導くためには、人材への投資、テクノロジーの活用、そして監査プロセスの品質確保が不可欠です。組織体の目標との整合性を確保し、ステークホルダーと連携することで、内部監査部門は価値創出とリスク管理を効果的に推進する信頼されるパートナーへと進化することができます。


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