2022年2月28日
Digital技術の最新動向とFinance DX戦略

Digital技術の最新動向とFinance DX戦略

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

2022年2月28日

多くの企業でファイナンス部門においてもDX推進が求められています。本稿では、ファイナンス領域においてDXが必要となる背景やデジタル技術のトレンド、Finance DX戦略を考える上での要点について解説します。

本稿の執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) 山岡正房

BC-Finance(CFO部門向けコンサルティングチーム)において、Finance DXおよびトレジャリー領域のオファリング責任者を務める。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)アソシエート・パートナー。


EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) 川勝健司

BC-Digital Governanceにて、企業のDXガバナンス構築や新技術リスク評価支援に関する責任者を務める。EYストラテジー・コンサルティング(株)パートナー。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) 橋本堅太

BC-FinanceのFinance DXオファリングチームに所属。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)シニアマネージャー。

要点
  • 経済のデジタル化、グローバル化によってファイナンス部門に求められる役割が変化する中、どのようなFinance DXが求められているのでしょうか。
  • Finance Transformationを実現するための重要なイネーブラーとして、デジタル技術をどのように活用・導入すべきかについて説明します。
  • ファイナンスを取り巻くデジタル技術の進化とトレンドについていくつかの重要な要素を説明します。

Ⅰ はじめに

デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)という言葉は半ばバズワードと化しており、さまざまなメディアでDXという文字を目にしない日はありません。そうした中、多くの企業でファイナンス部門においてもDX推進が求められています。

一方で、最新のデジタル技術をイネーブラー、すなわち実現要因としてファイナンス部門はどのような将来に向かうべきか、すなわちFinance DX=「Digitalを活用したファイナンス業務そのもののTransformation」という文脈で、包括的に言及した文献は意外と少ないと考えます。

そこで本シリーズでは、全8回にわたってファイナンス領域におけるデジタルの活用ポイントを解説します。第1回となる本稿においては、Finance DXが求められる背景やデジタル技術のトレンド、Finance DX戦略を考える上での要点について解説します。

Ⅱ Finance DXが必要となる背景

経営環境を取り巻く大きな地殻変動として、経済のデジタル化、および経済のグローバル化の2点が挙げられます。

経済のデジタル化は、相次ぐイノベーションによる技術の陳腐化や製品ライフサイクルの短命化、ビジネスモデルや収益構造そのものの変化、口コミ等による顧客との情報の非対称性(企業にとっての比較優位性)の低下、あるいは従来の業界の垣根を越えた新規参入を巻き起こします。

また、経済のグローバル化は、国境を越えたバリューチェーンの複雑化、現地の顧客嗜好(しこう)の多様化、あるいはグローバルレベルでの財務リスクや統制リスクの増大や、M&Aの機会と脅威など、さまざまな課題を伴います。

こうした経営環境下では、ファイナンス部門に求められる役割も変わってきます。<図1>は、ファイナンス部門の役割を2軸4象限で整理したものですが、ファイナンス部門は現在のScore Keeperの領域から、今後はBusiness Partnerの領域に、より多くの人的リソース・工数をシフトしていく必要が生じます(=Finance Transformation)。

図1 ファイナンス部門の役割

Ⅲ Finance TransformationにおけるDigitalの使いどころ

それでは、Finance Transformationを実現するための重要なイネーブラーとして、デジタル技術をどのように活用・導入すべきでしょうか。デジタルの使いどころを前述の4象限で整理します。

まず、Score Keeperの領域ですが、ここは「効率化」がメインのテーマになります。仕訳記帳から開示に至るまでの経理「作業」を、デジタルを活用して徹底的に自動化・省力化することで、そこで浮いた人的リソースを、今後ますます重要となる他の3領域の「仕事」に振り向けることが可能になります。

次にCustodianの領域ですが、ここは「可視化」という観点が重要です。企業内のさまざまな取引データを集中管理することで、海外の子会社・孫会社を含むグループ全体の取引実態をガラス張りにする、あるいは大量の取引データを解析することで不正の傾向を検知し、統制の強化を図ります。また、財務リスクの観点では、グループ内の通貨別ポジションといった各種エクスポージャーを把握することで、適時・最適なヘッジが可能になります。

Commentatorの領域では、「データ分析」の観点でDigitalを活用できます。業績管理指標をさまざまな管理軸(製品別、顧客別等)で、かつリアルタイムに実態把握することが可能なデータモデルやシステム・アーキテクチャを実装することで、Commentator領域で発生していた多大な配賦作業やレポーティング作業を廃止し、事業運営者がセルフサービスで業績ダッシュボードや分析ツールを駆使して、必要な意思決定を適切かつ適時に行うことが可能になります。

最後に、Business Partnerの領域で肝となるDigitalの使い方は、「将来予測」の観点です。過去情報の把握や予実管理にとどまらず、市況予測・着地予測やシナリオ・シミュレーションを駆使することで、ファイナンス部門は財務数値の裏付けを持って経営者や事業管理者とともに企業価値の向上に取り組むことが可能になります。この領域はどちらかといえばテクノロジーによる実現よりも人がリードする傾向が強いですが、今後のAIの発達により、人の勘・コツ・経験に引きずられない事業運営が可能になります。

Ⅳ 今後のDigital技術の進化・動向

本章ではいったん、最新のデジタル技術に関する動向に話題を移します。<図2>はファイナンスを取り巻くデジタル技術のトレンドですが、この中から何点か、重要な要素を解説します。

図2 ファイナンスを取り巻くデジタル技術のトレンド

1. クラウド化とデータ基盤

これまで多くの企業では中央集権的なメインフレームやサーバー型の基幹システムの開発・保守を行ってきましたが、この10年ほどでクラウドファーストの考え方が広がってきており、ビジネス要件に対して柔軟・迅速に対応することが可能となりました。また、クラウドサービスの選択肢も増え、既存のシステム要件を維持しつつクラウド基盤に移行することも比較的ハードルが低くなっています。

こうしたクラウド化の流れの中で企業が強化すべきは、クラウド基盤で取り扱う多様・大量のデータ収集です。そこで重要となる要素技術はIoTです。例えば、プラントにおける各機器の稼働状況のIoTを通じてデータを収集し、分析することで、設備投資のROIを最適化するなどの事例が増えています。IoTに必要な機材やソフトウェアの導入コストが今後低減することが予想される中、IoTを通じた各種データのリアルタイム収集という傾向が続くものと考えられます。

2. 自動化の領域進化

自動化は、「業務効率化」「予測・最適化」「意思決定の自動化」という三つの段階で進化します。「業務効率化」については、RPAなどのIntelligent Automationツールを適用することで、多くの企業が一定の効果を享受しています。また、「予測・最適化」についても、AI、機械学習機能などを用いた取組みが進んでいます。

そしてさらなる発展段階として「意思決定の自動化」があります。これはCognitive Automation(CA)と呼ばれるもので、状況を可視化し、高精度の予測を通じた最適解の導出を行い、最終的に意思決定を自動化することを可能にします。CAは人間の思考を再現するものであり、認識・分析・判断という一連の技術が集積されたものです。さらにCAは人が介在せずに自己学習を続けることが可能です。数年前から一部の領域においてCAアプリケーションは存在していましたが、自然言語処理、画像処理およびパターン認識などの各種技術の品質向上により、さらなる普及が期待されます。

3. Digital Workforceの民主化

自動化の範囲が広がると、人間と自動化ツール(Digital Workforce:DW)との関係も変わってきます。RPA等の業務効率化段階では人間はDWを使用し管理する立場でしたが、自動化のレベルが上がるにつれ、人間が担うべき役割は次の三つに変化します。

一つ目は、DWに関する動向を把握する役割です。デジタルテクノロジーは日々進化しており、新たなツールや開発手法などが次々に出てきます。それらを収集し、メリットやリスクを関係各所に発信していくことが求められます。

二つ目は、DWをどの業務にどのように適用するかを検討する役割です。そのためには企業を取り巻く社会課題を大局的に把握し、課題を設定した上でDWの適用領域を見極める能力を備えることが肝要です。

最後は、DWを業務に実装する役割です。クラウドファーストでLow Code/No Codeのソリューションが発達することにより、デジタル実装は必ずしもIT部門やITベンダーの役割ではなくなりました。ビジネス部門が主体的に関わり、DWの民主化を進めることが期待されます。

V 複眼的なFinance DX戦略

さて、これまで述べてきたように、Finance Trans-formationのイネーブラーとしてのDigitalの重要性が高まる一方で、世の中には最新のデジタルテクノロジーやそれを活用したコンセプト、ツールが日々生み出されています。こうした中、いつ、どのテクノロジーを、何の目的で、どのように適用すべきか、といった戦略、計画を適切に判断することは、ますます難しくなっています。

これまでは、足元の最新(といわれる)デジタル技術に投資し、累積効果がそれを上回った後に、次のデジタル投資に備える、というサイクルが成り立っていました。しかし、昨今ではデジタル投資の巨額化に伴い投資回収に必要な期間が長くなる一方で、デジタル技術の進歩の速さにより、最新技術を適用したつもりがすぐに次世代技術が登場する、という状況になっています。つまり、<図3>のように、中長期の視座が抜けた行き当たりばったりのデジタル投資を繰り返していると、投資回収がおぼつかなくなってしまう状況です。

図3 デジタル投資の今までと今後

そうした状況下では、短期でROIが取れるQuick-Winのデジタル導入を積極的に進めつつ、一方で5~10年先の技術進化を見据えた中長期的な変革の準備を進める、複眼的なDX戦略を持つことが肝要になります。

Quick-Winのデジタル導入には、アジャイルに投資回収可能なDX推進だけでなく、法令対応を含む必須事項への対応や喫緊の労働環境変化への対応なども含まれます。これらを実施する一方で、中長期のDX戦略の策定、ファイナンス部門における近未来のデジタル技術活用のコンセプト・イメージの具体化、さらには、適用ソリューション選定、実現ステップ・時期の明確化など、いわゆるDXロードマップの策定を進めることが重要となってきます。

次号以降の各回では、<表1>のような短期Quick-Winと中期で目指すべき変革像について、プロセス変革、意思決定、リスク管理、内部統制、監査対応などさまざまな切り口から具体的に言及します。

表1 ファイナンスDXにおけるQuick-Win施策と中長期の検討・準備

Ⅵ おわりに

経済産業省のDXガイドラインでは、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とあります。これをファイナンス組織に置き換えれば、まさにⅡおよびⅢで述べたファイナンス組織の役割の変革に他なりません。あらゆる変革やイノベーションの創出がそうであるように、その目的やビジョン、実現のための戦略と道筋を、社内外のステークホルダーと共有することがその第一歩になるでしょう。

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サマリー

多くの企業でファイナンス部門においてもDX推進が求められています。本稿では、ファイナンス領域においてDXが必要となる背景やデジタル技術のトレンド、Finance DX戦略を考える上での要点について解説します。

情報センサー2022年3月号

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※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

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