モビリティ(海外赴任)コラム:海外出張者に関する注意点

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最近は海外渡航の制限も緩和され、海外へ出張者を送り出す、あるいは、海外からの出張者を受け入れるという機会が増えてきています。コロナ禍を経て、リモートで業務を行うことへの違和感も減り、加えて円安やインフレの影響で、海外での仕事を、長期の海外赴任ではなく出張ベースで行うことで、係る費用の削減を試みる会社が増えているようです。海外とはいえ、出張の場合は、出張者本人だけではなく、会社にとっても、日本国内の出張とあまり大差なく気軽に臨むイメージがあるかと思います。しかしながら、国を跨ぐ海外出張には、やはりそれなりに問題が潜んでいることがあるので注意が必要です。

「海外出張の日数を183日以下におさえることが望ましい」という、いわゆる「183日ルール」を耳にしたことはありませんか?これは、日本が各国と締結している租税条約で規定された給与所得者の短期滞在者免税(OECDモデル条約第15条2項)を参照したものと思われますが、出張日数が183日以内であれば税務上の問題はないというような誤解をされてしまうことが多々あります。租税条約の短期滞在者免税を適用するためには、確かに、出張先国での滞在日数が183日を超えないことが免税条件のひとつではありますが、そのカウント方法にも注意すべき細かいルールがあります。183日には入国日と出国日の両方を含める必要がある点、183日の対象期間は暦年、課税年度、連続する12カ月など、租税条約の相手国によって異なる点についても考慮する必要があります。また、短期滞在者免税の適用には、滞在日数だけではなく、出張者の給与の支払いやその労務費負担に関する免税条件も満たすことが求められているのです。

また、これら免税条件を満たした場合であっても、免税を適用するための税務申告が必要となる国もあります。免税適用が目的の申告なので納税額は発生しませんが、言い換えれば、申告をしなければ免税が受けられず、税金を支払うことになってしまうわけです。特に欧米では免税適用のための申告が必要となる国が少なくないので、長期出張者がいる場合には出張先国の免税適用ルールを確認することをお勧めします。

海外出張者に関する税務は、個人所得税に限ったことではありません。長期の海外プロジェクトなどにおいては、各出張者の滞在日数を183日以下におさえつつ、複数の出張者が同一プロジェクトに関与する場合など、その出張者の活動により、恒久的施設(Permanent Establishment:PE)の存在が認定されることがあります。PE認定された場合、現地での法人税課税だけではなく、出張者各人が183日ルールを満たしたとしても、短期滞在者免税における労務費負担の免税条件を満たすことにならず、滞在日数にかかわらず、出張先国で所得税が発生することになります。

また、海外出張者については、税務だけではなくイミグレーション(ビザ)に関しても注意したいところです。日本のパスポート保持者がビザ無しで入国できる国は非常に多いですが、出張目的で入国する場合には滞在日数にかかわらずビザが必要になる国もあり、長期出張にはおおむねビザの取得が必須となります。最近では、観光ビザで短期出張を度々繰り返した結果、然るべきビザの取得が求められ、入国に手間取ってしまったというケースも散見されています。入国の目的に合ったビザを取得することは法務の観点からも非常に重要なことです。また国によっては、イミグレーション当局と税務当局が横繋がりで連携していて互いに情報を共有していることもあります。そのような場合、出張者に相応でないビザを保持しているがために、現地税務手続きが必要になってしまうこともあります。一見、ビザと税務は別問題のように思われますが、実はビザの有無や種類によって税務取扱いが変わるということもあり、切り離して考えることは得策ではないかもしれません。

比較的気軽に思える海外出張ですが、意外と注意点があることがお分かりいただけたかと思います。海外出張の要否判断や承認手続などは、事業部などの部門単位で行われるケースが多いため、会社全体として海外出張者の状況を認識することが非常に困難という会社も少なくないかもしれません。これを機に、会社として海外出張者の情報を一元管理する体制を整え、コンプライアンスリスクを最小限に留められるような環境づくりを検討してみてはいかがでしょうか。

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