EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
※本税務ニュースは2024年2月22日2024-0449版Global Alertの和訳です。
2024年2月19日、経済協力開発機構(OECD)は、税務執行能力の低い国又は地域のニーズに焦点を当て、基本的なマーケティング及び販売活動への独立企業原則の適用を簡素化・合理化すること(Amount Bアプローチ)を目的とした、第1の柱Amount Bに関する最終報告書(本報告書)を公表しました。
第1の柱Amount Bは、他のBEPS2.0の措置とは異なり、1,000億円超の多国籍企業を対象とするというような売上高閾値が設定されていないため、より多くの多国籍企業が適用対象となる見込みです。
本報告書は、OECDの「多国籍企業及び税務当局のための移転価格ガイドライン2022版」(OECD移転価格ガイドライン)に組み込まれています。
各国・地域は、2025年1月以降に開始する事業年度を対象として、Amount Bアプローチを法制化するか否かを選択します。
本報告書では、どのような販売業者/販売代理店がAmount Bの適用対象となるのか、対象となる場合の価格決定方法等が示されています。有形でない商品の販売、サービス又はコモディティのマーケティング、トレーディング等は、Amount Bの対象から除外されます。
Amount Bアプローチは、適用対象となる販売会社の売上高利益率(ROS)を決定するために3段階の分析を行います。
2021年10月、OECDは、BEPS2.0プロジェクトの第1と第2の柱の主要な要素に関するBEPS加盟国による包括的枠組み(Inclusive Framework on BEPS)の大枠合意を反映した声明を、実施計画とともに公表しました。1
2021年10月の声明で説明されたように、Amount Bは、特に税務執行能力の低い国又は地域のニーズに焦点を当て、各国・地域での基本的なマーケティング及び販売活動に対する独立企業原則の適用を簡素化・合理化するものです。
OECDは2022年12月にAmount Bに関する作業草案を発表しました。2 この作業草案には、包括的枠組みにおける合意事項がまだ反映されておらず、利害関係者からの意見を収集するために公表されました。2023年7月、OECDは2回目のパブリック・コンサルテーション・ドキュメントを発表し、未解決の問題をいくつか残しつつも、Amount Bのさらなる発展的事項を反映させています。3
Amount Bに関する2度のパブリック・コンサルテーション・ドキュメントを経て、OECDは、インドによる留保事項を前提として、BEPSに関するOECD/G20包括的枠組みで承認された通り、報告書を公表しました。報告書はOECD移転価格ガイドラインの第4章の別紙として組み込まれています。
報告書は、Amount Bのいくつかの側面に関して行われている追加作業について説明しています。
- OECDモデル租税条約(OECD MTC)第25条に関する解説の更新 -
税の確実性及び二重課税の排除に関連する特定の文言を盛り込み、Amount Bを採用しない各国・地域の紛争解決メカニズムにおいても全ての選択肢が担保される予定です。こちらは、間もなく公表される予定です。
- 各国・地域が適用を選択できる追加的なオプションの定性的なスコーピング基準の策定 -
2024年3月31日までに包括的枠組みにより結論が出され、順次OECD移転価格ガイドラインに追加されます。
- 税務執行能力の低い国又は地域のリスト -
2024年3月31日までに包括的枠組みの中で決定される予定です。
- 税務執行能力の低い国又は地域においてAmount Bを適用するケースにおける二重課税の回避及び二重非課税の防止のための二国間租税条約での権限ある当局間の合意 -
2024年中に包括的枠組みの中で進展させる予定です。
- 一定期間の運用後、Amount Bアプローチの実務的な適用方法に関する情報収集の枠組み -
2024年中に包括的枠組みの中で進展させる予定です。
- 第1の柱(Pillar1)のAmount BとAmount Aのさらなる関連付け -
Amount Aに関する多国間条約の署名・発効までに包括的枠組みの中で実施予定です。
本報告書は、OECDがAmount Bの適用を選択する国・地域のリストを公表することを示唆しています。
Amount Bは、このアプローチを適用することを選択した国・地域においてのみ、独立企業原則に基づいているとされます。適用を選択しない国・地域では、OECDのモデル租税条約第9条、ひいては第25条の目的においても、Amount Bは独立企業原則に基づくものとされません。
ある国・地域がAmount Bアプローチに基づいて出した結果は、相手の国・地域を拘束するものではありません。
Amount Bの適用を選択する国・地域は、(1)その国・地域内で事業を行う検証対象者に対してAmount Bアプローチの適用を選択することを認める、又は、(2)税務当局により、規定された方法で国・地域内の検証対象者にAmount Bアプローチの適用を求めることができます。
この適用方法にかかわらず、対象外の取引はOECD移転価格ガイドラインの他のセクションに含まれるガイダンスに基づき、評価されるべきであると、報告書では述べられています。さらに、このガイダンスは、一般的な販売活動に対する利益の「下限」や「上限」を提供するものと解釈されるべきではありません。
OECDは、Amount BがOECDの移転価格ガイドラインに盛り込まれているため、包括的枠組みに参加していない一部の国・地域がこれらのルールの影響を受ける可能性があることを指摘しています。
本報告書では、Amount Bアプローチの概念について、以下の通り説明しています:
本報告書では、Amount Bの対象となる取引を以下のように規定しています。
卸売販売とは、最終消費者を除くあらゆる種類の顧客への販売と定義されます。さらに、卸売と小売の両方を行う販売業者は、過去数年間の加重平均に基づいて計算した小売純売上高が純売上高合計の20%を超えない場合、卸売のみを行うものとみなされます。
適格取引は、所定のスコーピング基準を満たす場合、Amount Bの対象となります。適格取引は、販売業者、販売代理店又はコミッショネアが検証対象者となる片側検証の移転価格算定方法を用いて、信頼性をもって価格算定できるような、特徴を有していなければなりません。つまり、Amount Bの対象となる販売業者は以下のような特徴は有さないことを意味します。
さらに、適格取引における検証対象者は、年間営業費用が、検証対象者の年間純売上高の3%未満であってはならず、また20%から30%の幅の上限を超えてはなりません。
包括的枠組みは、各国が適用を選択することができる追加的に選択可能な定性的スコーピング基準を検討中です。
また、適格取引の検証対象者は、非販売活動(製造や研究開発など)を行ってはなりません。ただし、適格取引がこれらの活動と切り離して適切に評価され、価格決定される場合を除きます。
Amount Bの対象範囲としては、「有形でない」商品及びサービスの販売、ならびにコモディティのマーケティング、トレーディング又は販売のための取引は除外され、除外対象となるコモディティの具体的な定義が規定されています。
対象取引の移転価格算定方法の選定を評価するにあたり、特定の方法が適切ではないことを証明する必要はなく、また、全ての移転価格算定方法の詳細な分析や個別検証の必要もありません。取引単位営業利益法(TNMM)が、提案されている価格算定方法を対象取引に適用する目的上、最も適切な方法であると考えられています。
本報告書では、特に税務当局及び納税者が必要な情報を容易に入手できる場合には、TNMMよりも、内部比較対象取引を用いた独立価格比準法(CUP法)の方が適切な場合も稀にあるとしています。 このような場合には、TNMMに代わってCUP法を使用することができます。
報告書では、Amount Bに基づく対象取引の価格決定方法について、段階的なガイダンスを提示しています。
a. 販売業者の業種、売上高営業資産比率(OAS)、売上高営業費用比率(OES)、価格決定マトリックスに基づくリターンを決定
b. 異常な結果を取り除くための営業費用を用いたクロスチェック
c. 対象国・地域のデータ入手可能性メカニズム基づく調整
価格決定マトリックス
報告書では、基本的なマーケティング及び販売活動を行う企業のグローバル・データセットの財務情報に基づいて決定された独立企業間の価格決定マトリックスが記載されています。当該データセットは、報告書の付録Aに記載されているベンチマーク分析に基づいて決定されたものです。
売上高利益率(ROS)は、対象取引の価格決定における純利益指標とされています。
価格決定マトリックスの独立企業間レンジは、3つの産業グループと、営業資産及び営業費用の集約度の5つのカテゴリーで構成されています(すなわち15種類の潜在的な売上高利益率(ROS)があります)。独立企業間利益率は1.50%から5.50%までさまざまです。Amount Bが適用される納税者の売上高利益率(ROS)が、特定の事実関係について、特定されたデータポイントを0.5%超上回る又は下回る場合、当該利益率はそれに応じて調整されます。
業種分類は以下のカテゴリーを指します。
下表は、売上高営業資産比率(OAS)、売上高営業費用比率(OES)及び産業グループの要素に基づく販売会社の売上高利益率(ROS)を示しています。
産業グループ |
産業グループ 1 |
産業グループ 2 |
産業グループ 3 |
|
---|---|---|---|---|
ファクター集約度分類 |
||||
[A]高OAS >45%/ |
3.50% |
5.00% |
5.50% |
|
[B]中-高OAS 30-44.99%/ |
3.00% |
3.75% |
4.50% |
|
[C]中-低OAS 15%-29.99%/ |
2.50% |
3.00% |
|
|
[D]低OAS 15%未満/ |
1.75% |
2.00% |
|
|
[E]低OAS 15%未満/ |
1.50% |
1.75% |
2.25% |
|
営業費用を用いたクロスチェック
営業費用を用いたクロスチェック(上限及び下限)を適用し、このレンジ内に、一次的に計算された売上利益率指標が収まるべきであると考えられます。
価格算定マトリックスに基づいて決定された販売会社の利息及び税金控除前利益(EBIT)が、営業費用レンジから外れる場合、EBITはそれに応じて調整されます。
営業費用の上限及び下限(キャップ・アンド・カラー)のレートは以下の通りです。
上限及び下限(キャップ・アンド・カラー)のレンジ |
|||
---|---|---|---|
ファクター集約度 |
デフォルトキャップレート(上限) |
対象国・地域の代替キャップ・レート |
カラーレート(下限) |
高OAS [A] |
70% |
80% |
|
中OAS [B+C] |
60% |
70% |
10% |
低OAS [D+E] |
40% |
45% |
|
対象国・地域のデータ入手可能性メカニズム
さらに、本報告書は、特定の検証対象者の国・地域について、グローバル・データセットにデータがないか、又はデータが不十分な場合の調整メカニズムを提供します。
検証対象者が適格国・地域に所在する場合には、前のステップ(すなわち、純リスク調整率と純営業資産の集約度(OAS)の比率)で決定されたリターンに対して調整が行われます。
適用
Amount Bアプローチを適用するための財務比率は、本レポートにおいて「適用可能な会計基準」と定義されており、「基本的な販売活動を行っている検証対象者が属する国・地域において、財務諸表作成の基礎として認められている会計基準、及び簡素化・合理化アプローチを適用する目的で、当該国・地域で適用が認められているその他の会計基準」を参照して決定されます。
定期的な更新
本ガイダンスでは、Amount Bに係るレンジ及び営業費用に対する利益率の上限及び下限(キャップ・アンド・カラー)のレンジに関する分析は(期中の更新が必要と考えられる場合を除き)5年ごとに更新され、財務データ及びその他のデータポイントは毎年更新されることが示されています。
Amount Bの文書化要件は、OECD移転価格ガイドライン第5章(特にローカルファイルに係る記載)に含まれる既存の文書化要件に基づいています。本ガイダンスでは、移転価格文書には、対象となる適格取引(機能分析を含む)、契約書、Amount Bの適用に必要な計算、区分及び調整に関する説明を含めるべきであると指摘しています。
納税者がAmount Bを初めて適用する場合、納税者は、対象期間において当該取引が対象外となる場合又は納税者の事業に重大な変更がある場合を除いて、最低3年間Amount Bを適用することへの同意を、ローカルファイル又は関連するその他の文書において表明する必要があります。納税者は、適格取引に関連する国・地域の税務当局に対して、Amount Bを適用する旨を通知する必要があります。
本ガイダンスでは、一部の多国籍企業グループが事業再編を実施し、結果としてAmount Bの対象となる又は対象から外れる可能性があると指摘しています。また、多国籍企業グループは、事業運営を自らが適切と考える方向に自由に組織することができ、税務当局は多国籍企業グループに対して、事業構造や事業活動の場所を指示する権利を有していないことを念押ししています。しかしながら、税務当局は、組織再編に起因する税務上の影響を決定する権利を有し、事業再編に関するOECD移転価格ガイドライン第9章の規定が適用されると述べています。
本ガイダンスでは、一部の関連者がAmount Bの適用により税制上の恩恵を受けようと意図的な再編を試みる可能性がある点を指摘しています。国・地域は、それらの懸念に対処するためのアプローチを採用する可能性があります。
本ガイダンスでは、Amount Bが、過年分の含み損を抱え、再編された販売会社に対して適用される可能性があるとしています。そのような損失の税務上の取扱い、特にそれらの控除可能性については、各国・地域の国内法令及び行政手続に依るところとしています。
本報告書は、二重課税の潜在的な原因と二重課税を排除するプロセスについて記述しています。
一部の国・地域は、国内法の規定を利用したユニラテラルな対応的調整を通じて、経済的な二重課税からの救済を提供しています。しかし、多くの国・地域では、二国間租税条約に基づく相互協議 (MAP)を踏まえた対応的調整を検討することができます。MAP又はその結果としての仲裁において、MAP協議に参加する国・地域が、Amount Bを適用すること又は受け入れることを選択していない場合は、Amount Bアプローチではなく、OECD移転価格ガイドラインの残余部分の規定を使用して(つまりAmount Bとは関係のない通常の租税条約の論理の中で)、適切な対応的調整に関する自らの税務ポジションを立証しなければなりません。
Amount Bの実施前にOECDモデル租税条約第25条(二国間又は多国間の事前確認制度やMAPの事案を含む)に基づいて得られた合意は、適格取引に関して引き続き有効です。
Amount Bは(第1の柱のAmount Aと第2の柱の両方とは対照的に)収益の閾値の対象とならないため、広く適用可能です。企業は、Amount Bの対象となる可能性のある取引の有無を検討し、Amount Bアプローチがそれらの取引に及ぼす潜在的な影響を検証する必要があります。
企業は、自社の事業に関連する国・地域がAmount Bを実施することを選択するかどうか、また選択する場合はその方法について注視することが重要です。これには、Amount Bを実施する国・地域と実施しない国・地域にまたがる対象取引の有無を精査することも含まれます。
関連する国・地域によるAmount Bに関連する規定の施行日は、税額への影響、ひいてはグループ全体の実効税率に関連する可能性があるため、注視する必要があります。また、これが法定監査の論点になることも想定されます。
巻末注
EY税理士法人
谷津 剛 パートナー
西村 淳 パートナー
矢内 卓人 パートナー
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