医療機関(病院)向けオールハザード対応BCP策定アドバイザリー

医療機関におけるリスクは、近年自然災害だけに限らず、サイバー攻撃、SNS対策等その幅は大きくなっています。リスクに迅速、的確に対応するためにはオールハザードでの対応が求められます。EYでは現状の把握から計画作り運用定着、訓練支援まで一貫してご支援します。

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医療機関(病院)向けオールハザード対応BCP策定アドバイザリー

オールハザードBCP

地震、豪雨、そしてサイバー攻撃。医療機関の診療を止めかねない脅威は、ここ数年で確実に多様化しています。多くの病院では、自然災害を想定したBCP(事業継続計画)をすでに整備していますが、その前提は転換期を迎えています。

原因が地震であれ、ランサムウェアであれ、医療機関にとって重要なのは「必要な医療が止まらないことと、それに必要なリソースを確保すること」です。いま求められているのは、ハザードごとに別々の計画を積み上げることではありません。あらゆる事象を1つの枠組みで束ねる「包括BCP(オールハザードBCP)」への転換です。

一方で、病院の皆さまからは、

  • どのようにリスクを整理すればよいか分からない
  • 現状がどうか分からない
  • 対応するための時間や人材が十分ではない
  • 実効性を高めるための訓練や研修の方法が分かりにくい

などのご相談を頂くことが多くなってきています。

EYでは、現状の整理・分析、BCPの作成、見直し、訓練実施・評価等、総合的にご支援することが可能です。

医療機関に対する脅威は複合化の傾向が進んでいます

日本は災害大国です。2024年元日の能登半島地震、各地で頻発する線状降水帯による豪雨、そして近い将来の発生が懸念される南海トラフ巨大地震。内閣府は2025年12月に首都直下地震の被害想定を更新するなど、想定の見直しが続いています。

そして、災害はもはや単独では起こりません。地震が停電を招き、停電がシステム停止につながる「複合災害」が現実味を帯びています。2018年の北海道胆振東部地震では、北海道全域が停電するブラックアウトが発生し、震源から遠く揺れの小さい病院でも診療に影響が出ました。

同じ年の西日本豪雨では、岡山県の医療機関において、1階天井付近まで水没し、停電・断水・固定電話の不通に加え、1階に設置していた予備電源やCT・MRIが水没して使用できなくなりました。ライフラインの寸断は、そのまま医療提供の停止に直結します。

ここに新たな脅威として加わったのが、サイバー攻撃です。警察庁の集計では、ランサムウェアの被害件数は2021年度の7件から、2022年度には20件へと急増しました。2021年には徳島県のつるぎ町立半田病院、2022年には大阪急性期・総合医療センターがランサムウェア攻撃を受け、電子カルテが暗号化され、長期間の診療停止に追い込まれました。後者では、復旧までに約2カ月を要しています。

閉域網で守られていたはずの病院ネットワークも、クラウドやAIの活用により外部との接点が増え、誰もが標的になり得る時代になりました。電子カルテへの依存度が高まるほど、その停止が診療全体に及ぼす影響は大きくなります。

制度の動向と「義務化」の現状

制度の流れも、災害単独の備えから、サイバーを含む包括的な備えへと広がっています。

まず、自然災害についてです。災害拠点病院は、東日本大震災や熊本地震の教訓を踏まえた指定要件の改正により、BCPの策定が要件、すなわち義務として課されています。

指定要件では、施設の耐震化、通常時の6割程度の電力を確保できる自家発電設備、3日分程度の燃料・食料・飲料水・医薬品の備蓄、停電時にも使用できる井戸の確保、優先的な給水協定の締結などが具体的に求められています。

厚生労働省は、「BCPの考え方に基づいた病院災害対応計画作成の手引き」や、災害拠点病院向けのBCP策定ガイドラインを示してきました。各都道府県も、独自のガイドラインを整備しています。

一方で、これらの義務が及ぶのは災害拠点病院に限られます。それ以外の一般病院には、法的なBCP策定義務はありません。2018年の調査では、災害拠点病院・救命救急センターを除く病院のBCP策定率は、約2割にとどまっていました。

なお、介護分野では2024年4月から、すべての施設・事業所にBCPの策定と訓練が義務付けられています。医療の周辺領域でも、「備えの標準化」が進んでいるといえます。

次に、サイバーセキュリティについてです。2023年4月施行の医療法施行規則改正により、病院・診療所・助産所の管理者に対し、サイバーセキュリティを確保するための措置が義務化されました。従来の「努力義務」から、法的責任を伴う「義務」へと位置付けが変わった意味は大きいです。

これと連動して、厚生労働省は2023年5月に「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」を公表しました。同ガイドラインでは、訓練・演習の結果をBCPに反映させる、いわゆるBCM(事業継続マネジメント)の重要性が示されています。

併せて、クラウドサービスや外部委託の利用が広がる中では、システムを提供する事業者側の安全管理を定めた総務省・経済産業省の関連ガイドライン、いわゆる「3省2ガイドライン」も踏まえる必要があります。自院だけでなく、委託先を含めたサプライチェーン全体で備える視点が欠かせません。攻撃者は、しばしば守りの薄い委託先や保守経路を狙うためです。

さらに2024年6月には、医療機関向けに「サイバー攻撃を想定した事業継続計画(BCP)策定の確認表」と、その解説となる手引き、Word形式で編集できるBCPのひな形が公開されています。これらは、BCPに「平時対応 → 攻撃検知 → 初動対応 → 復旧対応 → 事後検証」という一連の流れを盛り込むことを求めるものです。

そして、これらは「努力目標」にとどまりません。都道府県による医療法第25条に基づく立ち入り検査では、2023年からサイバーセキュリティ対策の確認が行われています。令和6年度版のセキュリティ対策チェックリストには、「サイバー攻撃を想定したBCPの策定の有無」が確認項目として加わりました。未策定であれば、具体的な改善めどの提示を求められる可能性があります。

診療報酬の面でも、2024年度改定で診療録管理体制加算の要件が見直されました。サイバーセキュリティ対策に加えて、「年1回程度の定期的な訓練・演習の実施と、その結果を踏まえた改善」が要件化されています。

つまり、「計画を作る」だけでなく、「訓練して回す」ところまでが、経済的なインセンティブとともに制度に組み込まれたのです。

現場で起きている具体的な課題

制度が整いつつある一方で、現場では計画の実効性が十分ではないと考えられる事例が後を絶ちません。

発生時の初動対応が事前に協議されておらず、証拠保全が不十分で被害範囲を特定できなかった。ネットワーク機器が院内のどこにあるか分からず、原因究明に時間を要した。バックアップが適切に確保されておらず、復旧が難航した。いずれも、「平常時に決めていなかったこと」が有事に致命傷となるパターンです。

とりわけサイバー攻撃では、災害とは初動の「作法」が異なる点に注意が必要です。自然災害では、全員が一刻も早い復旧に向けて動くことが基本です。一方、サイバーインシデントでは、まず感染拡大を止めるためにネットワークを遮断するだけでなく、同時に原因究明のために安易な端末初期化を避け、証拠を保全することが求められます。

さらに、個人情報漏えいの公表判断や、警察・所管官庁・委託ベンダーへの連絡といった対外対応も同時に進める必要があります。

自然災害とサイバー攻撃の微妙な初動対応の違いを十分に理解せずに対応を開始すれば、復旧やその後の報告、事後対応に支障を来す恐れがあります。自然災害対応の延長線上ではサイバー攻撃対応を扱えない理由が、ここにあります。

災害面でも、課題の本質は変わりません。予備電源を浸水しやすい1階に置いていたために再び停電する、断水で受水槽の水を使い切る、公共交通の停止で職員が参集できず人手が足りない、通信手段が携帯電話だけでバッテリーが尽きる。これらは特別な事例ではなく、過去の災害で繰り返し起きてきた「想定できたはずの想定外」です。

そして最大の課題は、組織の「縦割り」です。災害は防災・事務部門、サイバーは情報システム部門、感染症は感染対策部門というように、リスクごとに担当も計画も分かれているのが実情です。

その結果、指揮命令系統や連絡網、職員の参集基準、紙運用などの代替手段といった、本来は共通であるべき備えが分断されてしまいます。さらに、何を何時間以内に復旧させるのか、つまり重要業務と目標復旧時間(RTO)が定義されていない病院も少なくありません。

これでは、原因が複合したときに計画はうまく機能しません。災害時の病院は、医療スタッフや医療物資といった供給能力が低下する一方で、患者数という需要が急増する「逆転現象」に直面します。限られた資源をどの業務に集中させるかという優先順位こそ、BCPの核心です。

例えば、大型台風による停電でシステムが不安定になった矢先、復旧作業の混乱に紛れて外部からの不正アクセスやウイルスによって電子カルテに影響が発生したとします。災害担当は参集と情報収集に追われ、情報システム担当はシステム障害対応に追われ、現場の職員は患者対応に追われます。

原因が1つであれば機能したはずの対応も、複合した途端にリスクが増大します。それぞれのBCPが個別に機能するように設計、作成されているからです。包括BCPが目指すのは、まさにこうした「複合型のリスク」への対応です。

事例:能登地震

備えの有無が結果をいかに分けるかを示したのが、2024年の能登半島地震です。震源に近い石川県七尾市の総合病院は、震度6強の揺れに見舞われながらも、発災当日から医療提供が継続できました。発災から約10時間後には出産に対応し、1月4日には例年どおり外来診療を再開しています。

それを支えたのは、長年積み上げてきたハードとソフトの備えでした。受電を2系統に分けた上で、自家発電装置と無停電電源の多重化を行っていました。水道が止まった約2カ月間は、井戸水を活用することで対応しました。

また、サーバー室を免震構造の上層階に置き、万一被災してもバックアップデータが翌日には届く体制を整えていました。通信が途絶える中でも、東日本大震災の事例を元にインターネット回線を電話でも利用することで障害を最小限にとどめました。さらに、患者が自分の診療情報を持ち歩けるサービスにより、避難先の医療機関でも投薬・治療内容を確認できました。

そして、初動で確認すべき情報を整理したBCPを「辞書のように」使い、混乱の中でも必要な判断と行動を明確にしました。電源・水・データ・通信等の異なる領域の備えが1つのマネジメントとして連動していたからこそ、医療が途切れなかったのです。

これは、包括的に備えることの重要性が分かる事例です。一方で、災害に強い病院をつくるには多額の費用がかかることから、政府・自治体の支援と必要性に応じた中・長期的な経営計画への災害対応の組み込みの重要性も考慮する必要があります。

BCPは経営課題

診療の停止は、単なる現場のトラブルではありません。患者の安全はもとより、収益、地域からの信用、地域医療の維持、そして経営課題に直結する経営リスクです。

制度は、災害拠点病院のBCP義務化に始まり、サイバーセキュリティの義務化、立ち入り検査での確認、診療報酬による訓練の要件化へと、着実に「備えの標準化」を進めています。BCPは、一部の担当者が片隅で作っておけばいいという段階を越えつつあります。

災害もサイバーも、1つの計画で守る――。そのためには、経営層がその必要性を理解し、部門の壁を越えて備えを束ねる必要があります。

包括BCP(オールハザードBCP)の策定は、これからの病院に課せられた、待ったなしの経営課題です。リスクが発生した際には、実効性が求められる時代になっています。

EYでは建築・経営・システム・災害対応等のプロフェッショナル集団が現状の把握から計画作り運用定着、訓練支援まで一貫してご支援します。


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