本規格の4つの附属書は以下の通りです。
附属書A:制御目的および管理策の参考
附属書B:AI管理策の実装ガイダンス
附属書C:AI関連の潜在的な組織の目的およびリスク源
附属書D:複数の領域または分野にわたるAIマネジメントシステムの使用
ISO/IEC 42001とISO/IEC 27001を整合させる
AI技術の管理と情報のセキュリティという二重の課題に取り組む中で、ISO/IEC 42001とISO/IEC 27001を統合することは、ガバナンスとリスクマネジメントのフレームワークの強化に向けた一貫性のある戦略です。
両方の規格の相乗効果を的確に見極めることで、両者のポリシー、プロセス、管理策を一体化した統合的なガバナンス体制を構築できます。こうしたアプローチは、機密データの保護や、セキュリティ意識が高く規範を順守する組織文化の醸成に統一性をもたらします。
また、ISO/IEC 42001とISO/IEC 27001の間でリスクマネジメントのプロトコルを同期させることで、包括的なリスクマネジメント戦略を採用できるようになります。こうした全体的なアプローチは、リスクをくまなく特定・評価・低減する上で有効であり、脆弱性の抑制や、進化する脅威への防御力の強化につながります。
ISO/IEC 42001およびISO/IEC 27001の条項や管理策には多くの共通点があります。こうした共通性を活用することで、組織は業務プロセスや文書化プロセスを合理化し、AIおよび情報セキュリティ管理のさらなる効率化を図ることができます。これにより、重複作業が解消され、AIマネジメントおよび情報セキュリティ対策の文書化に、一貫したアプローチで取り組むことが可能になります。
スタッフがAIシステムの維持管理や機密データの安全な取り扱いにおける自らの役割を明確に理解できるよう、トレーニングや意識向上の取り組みを統合的に進めることも重要です。AI倫理、リスクマネジメント、情報のセキュリティに関する包括的な教育を通じて、AIガバナンスや規制順守に伴う複雑な課題に的確に対応できる人材を育成できます。
こうした統合的な取り組みは、インシデント対応や事業継続計画といった分野にも及びます。これらの分野では、AIや情報セキュリティに影響を及ぼす可能性のある障害に対応する上で、各部門の連携が不可欠です。対応チーム、連絡体制、復旧手順を整合させることで、組織は運用停止の時間を最小限に抑え、インシデントが事業継続に与える影響を軽減できます。
すでにISO/IEC 27001に準拠している組織であれば、ISO/IEC 42001を統合することで、さらなる利点が得られます。両規格は構成や目的に共通性があるため、マネジメントプロセスの一体化が進み、情報セキュリティとAIシステムのガバナンス全体の効率性が向上します。
結論
新たに導入されたAIマネジメントシステム規格は、組織がAI技術を利用する側、開発する側のいずれの立場であっても、責任あるAI活用に取り組めるよう支援するものです。また、組織が自社の目標達成と関連規制の順守を図りながら、責任ある形でAIシステムを提供・活用するための指針として策定されています。さらに、ステークホルダーへの義務を果たし、その期待に応えられるよう後押しします。
一部の組織にとっては、ISO 9001、ISO/IEC 27001、ISO/IEC 42001といったマネジメントシステム規格を統合することが、最適な戦略となるかもしれません。そうしたマネジメントシステムの統合は、複数の領域にわたって高いパフォーマンスを実現するための強固な土台を築き、変化の激しいビジネス環境およびテクノロジー環境の中でも、持続的な成功を支える基盤となります。
AI分野では、ISO/IECフレームワークのもとで国際規格の策定が急速に進んでいます。ISO/IEC 42001は包括的なシステムの導入について明確に定めた規格ですが、それ以外にも、説明可能性、透明性、バイアス、試験など、多様なAI関連トピックに関する知見や指針を提供し、具体的な要件を定める規格が多数策定されています。
特に注目すべき規格の1つに、AIシステムの品質モデルを示したISO/IEC 25059があります。これは、AIマネジメントシステムの品質目標を策定する上で、特に有用です。また現在、制御可能性に関する先行文書をベースに、AIシステムに対する人間の監視や介入に関する指針の提供を目的としたISO/IEC 42105の策定も進められています。
本稿の執筆に当たり、Eeshan Pandeyに、また協力いただいたMichael TippettとSarah Liangに感謝の意を表します。