EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(以下EYSC)では、過去10年程度にわたって金融機関や事業会社・公共機関に向けて業務自動化のご支援を行ってきました。筆者の所属する金融事業部門においても、メガバンク・大手保険会社に始まり多様な金融機関向けに、国内外金融当局からの要請も踏まえた厳格な要件を満たす業務自動化のデザインと実装をお手伝いして参りました。RPA(Robotic Process Automation)i と呼ばれるツール等を用いて、人の手で行っている業務(データ集計、データ突合、入力・転記、データベース更新、等)を自動化しようという施策なのですが、比較的簡素なロジックで繰り返しの回数が多い業務ほど自動化による時間削減効果(Return)が大きくなり、「業務分析を通じた業務自動化・AI化の余地把握」と「ツール実装・運用」に係る投資費用(Investment)をより短期に回収することができます。この投資回収期間(当該施策関係者はROIと呼称)が数カ月~1年等短期であることから、従来型のシステム開発と比べて柔軟性・採算性共に優れているとされておりまして、DXを標榜する弊社クライアントからも高評価を頂いていたご支援プログラムです。特に金融機関のように業務特性上抜け漏れやミスのないオペレーションを求められる業種を含め、内部監査の水準に沿った体系だったフォーマットで大規模な事案を作ることができた半面、業務自動化余地のある手作業業務の「塊(=対象業務量)」が小さめの中小企業さま向けのプログラムとしては、「ROIが高い」業務自動化案件を提示できる機会が少ないことがサービスをご提供する側からすると難点となっておりました。
ところが、2022年末ごろからのChat GPTの爆発的普及と歩調を合わせ、AI機能を用いて複雑なロジックとかシステム画面変更への柔軟な対応が可能となったり、2024年ごろから業務自動化のツール(RPA等)のライセンス料を低減する手段が顕在化したことにより、EYSCとして業務効率化・自動化をご提案できる余地が圧倒的に高まってきました。すなわち対象業務の「塊」が得にくかった中小企業さま向けにもサービスをご提供しやすくなっております。加えて、AIによるエージェント機能をてこにした近い将来のデータ駆動型会社運営という文脈において、本プログラムが有効な下地になり得るという定性的な意義も追記したいところです。
ここで読者のみなさまに鮮明なイメージを持って頂くために、RPAとAIの組み合わせで効果を発現したEYのメンバーファームによる事例を以下にお示しします。
EYのメンバーファームによるRPAとAIを用いた業務自動化の事例
さて、筆者は2025年初春に「Post Merger Integration:IT統合とDX推進」というテーマで事業会社中堅管理職・社員と協議を行う機会を得ました。想定ケースをしっかりと共有し焦点を定めた上での協議かつ30社以上の意見が結果的に集まったのですが、「M&AのタイミングでのTransformationの有効性、具体的にはPMIのタイミングで業務自動化さらにはAI化までも急速に推進し得るか」について議論し、おおむね肯定的なリアクションを得ました。平時の事業会社であれば既存のしがらみのためにトップダウンでの号令とリーダーシップなくしてスムーズにいかないことなのですが、M&Aという資本の論理で一気呵成のTransformationの推進がむしろ可能になるというご意見が多くありました。
また、これらのご意見を裏付ける、M&Aを起点とした業務自動化促進の事例も出てきており、ご参考までに公開情報となっているものを掲載します。
M&Aに絡めて業務自動化を推進している事例(Cineplex事例)
上記の議論をベースに筆者が所属する金融事業部門で接点のあるPEファンド関係者の方々(ヒアリング先5社あまり)とのヒアリングを本年10月に行った上で、「PEファンドによる投資実行(M&A活動)に絡めた業務フロー効率化・自動化・AI化デザイン」という観点で整理・一部考察することとしたのが本稿となります。
直近は個別施策としてのROIが得られやすくなった「業務自動化」施策について、EYSCのクライアントである外資ファンドやLarge Capii ファンド向けにPIVC(Post Investment Value Creation)メニューの1つとしてご要望に応じて追加ご提案するケースも増えてきています。しかしながら、当方側から積極的にご提案を進める状況にまで至っているのは、おおむねLarge Cap案件の場合となります。今回のPEファンドへのヒアリングを踏まえた筆者認識でも、M&Aのタイミングでの「業務自動化」検討というのは現状一般的ではないようです。詳細は後述しますが、M&Aディールを支援するコンサルタントである各種ファイナンシャル・アドバイザー(以下FAと表記します)と業務自動化のような施策を支援する業務コンサルタントの間の属性の違いもあって、業務自動化施策の即効性ある効果について殊更強調されてこなかったのだと筆者は考えます。
限られた時間軸で多種多様な交渉・手続きを行うM&AディールメーカーすなわちFAからすると多種多様な必須対応項目(一般例を下記に添付)と比べて劣後せざるを得ないため、「ITインフラ等テクノロジー資産のDD(IT DD)を行うならトッピング的に『業務自動化ツール実装の余地を調査』しよう」とか「Deal中ではなく、Day 1以降どこかのタイミングで検討しよう」というレベルでの対応にとどまることが実務上多かったように見えています。
一般的なM&Aディールのスケジュール
さて、前述の通り、恐らく昨年2024年の夏ごろ以降から明らかに潮目が変わってきているように感じており、本稿執筆の動機にもなりました。個社個別のツール名の例示は本稿では行いませんが、比較的安価な使用料/ライセンス料で(あるいはサンクコスト化している費用への追加負担程度で)非常に多くの業務の自動化・AI化を実現できる方法が普及してきました。つまり、業務改善コンサルタントの視点での施策の費用対効果が向上してきたことになり、ディールを促進するFAの視点で言っても、M&A後の新体制下でのコスト低減を織り込んだ上で、売り手に対して若干ながら高いValuationが出せるようになったと言えるのです。この点、入札案件に臨むPEファンド視点では副次的利益くらいには値するかもしれません。
以下に海外大手PEファンドが効果を発現できた事例について、公開情報をまとめました。投資検討に関する業務自動化・AI化の視点のみならず、ファンド運営業務でのAI活用も行われています。さらに、Mid Capの案件にも取り組む国内系PEファンドで、最近では「AIで何が変わるか」という分析と仮説づくりを投資決定の前に全案件で行うようになったという声も耳にすることができました。
グローバルPE投資ファンドのAI活用例
他方、「業務の自動化余地把握」として外部に調査依頼するための予算取りは(業務スコープが一部かぶるIT DDに追加する形であっても)難しいという障壁があるのは事実です。
特にEYが提供するメニューをフルにご活用いただける大規模案件と異なり、Small-Mid Cap案件、特に地銀ファンドや小規模PEファンドによるSmall Cap案件となると予算上の制約は顕著であり、売り手との合意形成のために最低限必須となる財務・税務DDとValuation以外をEYとして支援できないことがほとんどでした。また、大規模案件であっても、投資検討段階で、精緻なレベルでのIT DDを外部コンサルタントが入って行う事案は多くないというヒアリング結果もPEファンド関係者から得られました。
さらに、基幹系のIT基盤とそれに付随する主要アプリケーションたるITに加えて、昨今言葉が躍っているローコード・ノーコードのツールないしAI等に絡めた業務の効率化・自動化のようにITと仕分けできない項目まで踏み込んだ IT DDについては、サービス提供者である私たちの方から率先してクライアントにご提案することははばかられてきた感も正直あります。基幹系システムに関連する、いわば「ど真ん中のIT情報」に加えて「業務自動化のための余地把握に必要な情報」を短期間で準備・作成する場合、対象会社への負担も生じるため、M&Aディール成約前の特異な状況(すなわち、守秘性を伴うM&Aという文脈では、アクセスできる部局・人員には実務上限りがあることも多い)も踏まえると、クライアントからの要請なしに能動的に提案を行うメニューにはなりにくかったのです。
しかしながら、前述の繰り返しとなる以下の点を踏まえると、PEファンドによる投資実行というタイミングでの、「業務フロー分析と自動化(さらにAI化レビュー)」の検討重要度は明らかに増しています。
特に、地方で脈々と活動を行ってきている中小企業の場合、従来の業務手続きに人力による対応が多かったり、紙ベース主体のやりとりのためボトルネック箇所が多い等DX目線での課題が残ったままであることも多いのが現状です。PEファンドが重要視する「KPIデータ収集」や投資後の資本政策維持に必須となる「Covenantsトレーサビリティ」の観点は無論のこと、マーケティング力の観点で必要となる顧客属性とか取引履歴のデータなど、事業拡大のステージに応じて一層重要となるデジタル情報が整理・蓄積されていることは、ゆくゆくの高度自動化・自律化が見通せることを意味するため、ディール時のValuation以上の価値を将来生み出す源泉となり得ます。ついては、PEファンドによる投資実行に際して業務自動化の余地把握を実施することで「言うはやすし」のDXを成し遂げやすくする道筋ができると思量します。
従って、IT DDや業務DD等の既存の専門家DDの一環として、あるいは業務自動化余地把握という個別の観点でM&Aディールの段階で可能な限りのヘルスチェックを行い、Transformationないし戦略にあらかじめ落とし込んでおくことの重要性は、Small-Mid Cap事案においてこそ、著しく高まってきていると考えています。
DDのタイミングおよびDay1前後で業務自動化余地把握を行う場合のM&Aスケジュール(例)
業務自動化ツールとAIの導入余地把握から実装に至るまでのEYSCによるご支援例
時間軸で言えば、あくまでもディールあってのPMIです。従って、ストラクチャリング部分での専門性を含めてディールに際してFA機能は欠かせません。特に財務・税務DDはレベルの差こそあれおおむね全案件で必須であり、ディール全体を束ねるリード・アドバイザーを起用したり、事業DDとして戦略的なレビューを外部知見を入れて行ったりすることも通常です。すなわち、これらの外部サービスは、PEファンドが投資(M&A)に際して用意するコストとして理解されやすい機能となります(より厳密には、法律専門家に支払う費用、環境専門家に支払う費用も一般的です)。結論を先に述べると、今後は業務効率化・自動化の方向性をデザインできる業務コンサルタントをディール時に配置することも一般的になっていくべきだと筆者は考えています。
あくまでも一般論ですが、ITやそれに準ずる分野は専門性ないしニッチ度合いが高いため、一人ないし少人数のFAチームでフォロー仕切ることは難しく、直近のAIによる業務の在り方の変化という点では大きな抜け漏れが出てくる懸念もあります。例えば、2025年上半期の大きな動きとして「AIエージェントの急速な実務展開」という流れがあったため、従来業務をツールで単純に置き換えて自動化するだけでは、今後は競争力の源泉にならないという世界観が生じてきました。フルスコープでの業務自律化という高い頂に向けての出発地点としての業務分析・業務フロー全般のヘルスチェック・データの清流化すなわち「自動化やAI化実現のために必要な作業」の重要性は急速に高まっている一方で、それらは従来ディール中は優先検討されにくい状況でした。
他方、業務効率化・自動化を生業としている業務コンサルタントにおいては、M&Aのディール組成に関する知識は要請されないため、ディール成立の背景や交渉経緯を軽視して、個別最適に過ぎない提案をPMI段階で行ってしまうことも懸念されます。そもそもコスト制約のある案件では依頼されないこともあるパーツなのですが、依頼が来たとして当該業務コンサルタントは、上記ディールチームとの速やかな連携と全体感の把握を行うべき点くれぐれも留意が必要です。
なお、この点についてもLarge Capを対象とするPEファンドとSmall-Mid Capを対象とするPEファンド間では状況が異なっています。
主にLarge Cap案件では、ストラクチャーやPMI戦略に応じて最適なシステム構成を選び、基幹システムと周辺アプリケーションを連携させていくアドバイスを業務コンサルタント特に最新のテクノロジーに精通したコンサルタントや専任のチームに委ねるでしょう。
一方、コスト面で制約の多いSmall-Mid Cap 案件においては、高額な開発予算を伴うITシステム開発は不可能であり、より柔軟なシステム・データ連携に終始せざるを得ないと思われます。従って業務自動化支援ツールやSaaSサービスを有効活用することが選択肢となり得ます。特に既成のSaaSでカバーできない業務フローにおける業務効率化デザインや自動化デザイン(近い将来のAI化も見据える)は、2-3年前では現実的には採用しにくい打ち手でしたが、直近1年くらいで十分採算が見込める選択肢になってきました。ついては、全てのテクノロジーにまで精通していなくてもよいのですが、ディール段階でも以下のような観点での話くらいを主体的に仕切っていける人材が必要になってきているように見立てています。
筆者としては、業務の自動化に関するコストの急激な低下という直近1年程度の流れを踏まえて、従来大企業での実装しか想定できなかったレベルの業務効率化が中小企業においても可能になってきている点を強調します。繰り返しで恐縮ですが、M&Aディールの成立前を中心に集中的に実施されるDDにおいて、業務自動化・AI化の余地把握の観点を取り入れることは従来に増して重要と考えます。ディールチームとコンサルチームの観点をスムーズに両立しやすいファームの起用とか両者の立場を高レベルで理解できる希少な人材をディールチーム側で抱えておくことが大変有効であると考えます。
M&Aディールのサイズに関わらずDDの段階で幾つかの主要業務フローを確認し、PMI時点で順次実現していく自動化の余地把握を行うことの有効性について語ってきました。とは言え、Small Cap案件においては、財務・税務DDですら予算との兼ね合いでスコープを絞らねばならないこともある中、有用とは言えこの余地把握の作業に充当できる予算には限りがあります。これまで筆者が関わった実案件で言えば、「EV(Enterprise Value)300億円以上の案件であれば、(Buyerの意思次第ながら)なんとか費用対効果を認識し、予算化をしていただける場合がある」印象でした。AI系を筆頭にテクノロジーの「民主化」が進みコスト面での劇的な低下も得られた直近においては、スコープをやり繰りすることでEV50億円レベルの案件でも予算化できるようになったと見立てているのですが、地銀系ファンドが投資を企図する個別案件での対象先のEVはそれよりも小さい場合が多数のはずです。
そこで一案ですが、日本プライベート・エクイティ協会前会長である飯沼氏が「金融財政事情 2025.7.22」で語っておられた「地銀ファンドそのものの規模の拡大」を筆者としても期待しています。各地銀ファンドの関係者の方々におかれましては、ファンド規模を例えば30億円程度大規模化していただき、そこで得られる管理報酬の増加分を用いて、特に「有望な投資先だが、小粒なため発生時点で費用を付け替えるには予算制約がある」企業向けの個別スキームとか、「DD時の業務効率化・自動化の余地把握」をポートフォーリオ企業群向けに横ぐしを刺して支援していくスキーム等を構築いただければと考えています。いわば、地銀ファンド側お抱えで、ディール推進にも業務自動化推進にも精通した個人ないしはチームを起用いただく考え方です。この機能が充足されると、地銀内のコンサル部門からの紹介で経営人材を派遣することが容易化すると考えます(トップラインを伸ばすことに優れているという観点中心で人選できるため)。各地域の事業環境に精通し、投資を行う地銀ファンド側の事情も勘案できる経営人材においても、Value upのためのFP&A機能(従前ファンド運営者がサポートしてきた役割)や最新のテクノロジーを踏まえた最適な業務自動化、さらにはAI化の推進機能(新たに本稿で重要視している役割)が不足していることが課題であると想像しており、逆にこの役割を強化できれば、投資成功確率は上昇すると思量します。また、このような特色や優位性を主張できることで、LP資金調達も容易化し、実際に地銀ファンドが規模を拡大する際のPRにもなるのではないかと考えるものです。
なお、EYSCは、ディール系サービスとコンサル系サービスを同一会社で運営しているため、上記の業務はもちろんのこと、新ファンド設立や新しいLPを得る際の手続きについても一定条件下でワンストップご支援が可能である点を付記いたします。
本稿に関連するEYSC全サービスラインのメニュー概要図
以上は、PE投資ファンド、特に地銀系ファンド・地方事業承継ファンドの運営に当たる方々への「業務の自動化(Automation化)を投資ファンドによる投資実行の段階、遅くともPMIの初期のタイミングで行ってください。それにより新たな環境での一気呵成のTransformationと人員再配置を行い、事業拡大にも速やかに対応できるスケーラブルな組織になってください(地方の人員不足にも対応してください)。そして地方から全国・世界に活動領域を広げてください。」という応援のメッセージでもあります。最後はやや強引に地方創生に結び付けましたが、EYSCはこのようなストーリーのほぼ全般・ほぼ全局面、さらには前段や後段でもご支援を行えるメニューを持っていることから、ファンド・クライアントの利益極大化にとどまらず地域の活性化に至るまで、プロフェッショナルを次々と連携させたい所存です。コンフリクトチェック等の制約もあるにはあるのですが、何なりとお声掛けをいただければ幸いです。
なお、本稿は、筆者が金融サービス部門所属のため、投資ファンドを意識した書きぶりとしていますが、事業会社においてBuyサイドとしてM&Aやアライアンスに関わっている方々への一助となる部分もあると思量しています。
PEファンドが、数年程度の投資実行期間中に目に見える形でのコスト削減効果や利益上昇効果を得るための手段の1つとして、業務フローの見直しと自動化(さらには自律化)を明確にValue up施策に織り込むことの有効性および効果を得るための留意点について概説します。