Florida Keys, USA
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投資家は、短期的な要求と長期的価値のバランスをどう取ればいいのか?

EY 2024 Institutional Investor Surveyは、サステナビリティに関する投資家の発言と行動に大きなギャップがあることを浮き彫りにしました。


要点
  • 調査対象となった投資家の88%が、ESG情報の活用機会が増えたと回答する一方で、投資家の92%は、ESG関連の取り組みは短期的な企業業績にマイナスの影響を及ぼすことを懸念している。
  • サステナビリティ情報の開示は増加しているが、投資家の66%は、自身の所属機関では、投資判断におけるESGの考慮が減少する可能性があると回答している。
  • 投資家の約85%が、グリーンウォッシュの問題が深刻化していると回答しているが、投資家の93%は企業がサステナビリティ目標を達成すると確信しているようである。

過去10年間にわたりEYでは、企業のサステナビリティパフォーマンス(当コミュニティではESG〈環境・社会・ガバナンス〉パフォーマンスと呼ぶことが多い)に関する投資家心理の調査を委託してきましたが、その傾向は継続して上昇しています。機関投資家のESGに対する関心は年々高まり、投資判断にESGを組み込む傾向が強くなっているように見えます。その一方で、投資家の発言と行動に大きなギャップがあることを示す事例は後を絶ちません。EYは今回、資産運用会社、ウェルスマネジメント会社、保険会社、年金基金など、世界各地の機関投資家から350人の投資意思決定者の意見を集めたEY 2024 Institutional Investor Surveyで、この現象を詳しく調べるために委託調査を実施しました。 

本調査の回答者の大多数(88%)が、自身の所属機関では、この1年間でESG情報を活用することが「ある程度」または「大幅に」増えたと回答しています。このことは、企業のサステナビリティ情報の開示が増え、それによって投資家が、投資判断の指針となる情報を以前よりも多く得られていることの表れです。しかし、こうした情報を手にしながら、投資家の92%は、短期的なパフォーマンスに対するリスクが、多くのESG関連投資や取り組みから得られる長期的な利益を上回ると考えています。 

さらに、当面の資本配分戦略において、ESG投資を積極的に優先する意向を示す兆候はほとんどなく、むしろ本調査結果はその逆を示唆しています。

気候危機が深刻化し、それ以外のサステナビリティ問題に対する懸念も高まっているにもかかわらず、
の投資家が、投資判断においてESG要素を考慮することは減少するだろうと回答しています。

よりサステナブルな経済への移行を推進する上で、投資家が果たす重要な役割を考えると、こうした結果が出たのは憂慮すべき事態です。例えば、エネルギー移行委員会(Energy Transitions Commission)では、エネルギー転換を進め今世紀半ばまでにネットゼロ経済を実現するには、平均すると、世界で年間3兆5,000億米ドルの資本投資が必要になると試算しています1。また、国連環境計画の排出ギャップ報告書2024では、さらなる対策を講じなければ、今世紀末までに世界は2.6°C〜3.1°Cの気温上昇への道を進むと警告しています。パリ協定が掲げる1.5℃目標を達成するには、2030年までに、2019年との比較で排出量を42%削減する必要があります2

Aerial view of field and road
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第1章

投資家が抱えるジレンマ

「短期的圧力」対「長期的パフォーマンス」

ESG情報の利用が広がっていることから分かるように、サステナビリティの経済的・政治的重要性を投資家は十分認識しています。企業がよりサステナブルなビジネスモデルへ移行することによって、長期的価値を生み出すことも理解しています。それにもかかわらず、マクロ経済的圧力や地政学的圧力が差し迫ると、やはり短期目標に照準を合わせた投資判断になることが少なくありません。

本調査では投資家のほぼ3分の2(63%)が、今後2年間で所属機関の投資戦略に最も「深刻な」または「実質的な」影響を与える要因は、景気循環の変化だと回答しています。この変化には、経済成長の鈍化や景気後退の時期も含まれます。景気動向や景気循環に影響を及ぼすと考えられる主要なマクロ経済要因に関しては、貿易制限と関税(62%)、資本コスト(53%)、人件費と人材確保(50%)に注目する傾向が見られます。


しかし、経済的懸念が投資家の最大の関心事であるように見えますが、投資家はサステナビリティも重視していると述べています。実際に、調査では投資家の半数以上(55%)が、気候変動の影響は近い将来、投資戦略に深刻な、あるいは大きな影響を与えると答えています。欧米の投資家は、他の地域の投資家に比べ、気候変動を投資戦略の重要要素と見なす傾向がかなり高くなっています。こうした傾向は、気候変動に関する規制や政策の観点から、これらの市場の成熟度と相関しています。  


しかし実際のところ、投資家が優先順位リスト上で気候変動を経済的な懸念事項と同等に位置付けているとは限りません。やはり、クライアントに短期的なリターンをもたらしたいというのが、多くの投資家の強い動機となっています。企業が投資家からサステナブルなビジネスモデルへの転換を目指すのではなく、現状を維持するよう圧力をかけられているという有名な事例もいくつかあります。 

投資家が、サステナビリティ関連リスクに関してポートフォリオレベルで十分に分散できていると考えている場合は、変化を求めようとはしないかもしれません。このような状況では、個々の企業レベルでのリスク分散については、特に懸念していないかもしれません。そのため、エクスポージャーがあるセクターの特定の投資先企業に対しては、新しいビジネスモデルへ移行するのではなく、現在のビジネスモデルのもとでできる限り、価値の最大化に注力するよう奨励しています。 

今回インタビューに応じた投資家も、サステナビリティ目標と財務パフォーマンスとの間には、歴史的な相関関係がみられないため、サステナブル投資のパフォーマンスの評価は難しい、と指摘しています。質の高い開示情報やデータの不足も一因ですが、この30年間で、サステナビリティに対するアプローチが進化したことも原因の1つです。 

発言と行動のギャップと、投資家が短期的なパフォーマンスに重点を置く傾向との関連性は、2022年のEY Global Corporate Reporting and Institutional Investor Survey(PDF)ですでに明らかです。それがよく分かるのが、調査対象となった投資家の4分の3以上(78%)が、短期的には利益が減少するとしても、企業は自社の事業に関わるESGの課題に対処する投資を行うべきだと回答していたことです。しかし同調査では、大企業の53%は「投資家からの短期的な収益圧力に直面しており、それがサステナビリティへの長期的な投資を妨げている」と回答していました。さらに、企業の20%が「投資家が主に四半期決算に注目し、サステナビリティなどの長期的な投資に関心を示さない」と回答していました。

Germany, North Rhine-Westphalia, Dusseldorf, Aerial view of traffic on edge of Rheinkniebrucke
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第2章

グリーンウォッシュに対する懸念

投資家は企業の情報は信用しないかもしれないが、それでも企業が目標を達成することは信用している

短期的な圧力に加えて、発言と行動のギャップが生じるもう1つの要因と見られるのは、投資家が企業から提供される情報を必ずしも信用していない点です。そのため、サステナビリティの実績をうたう企業への資本配分には慎重です。  

今回の調査では、投資家の5人中4人以上(85%)が、企業のサステナビリティのパフォーマンスに関するグリーンウォッシュや、それと同様の誤解を与えかねない表現は、5年前よりも大きな問題になっていると回答しています。これは懸念すべき結果です。サステナビリティ情報の開示とその第三者保証の義務化に移行する国や地域が増えるにつれ、また報告やサステナビリティの基準が今後も進化していくにつれて、企業のサステナビリティ情報に対する投資家の信頼が高まるのかは疑問に思わざるをえません。

グリーンウォッシュを巡る投資家の現在の懸念は、2024 EY Global Corporate Reporting Surveyで裏付けられたと考えられます。この調査では、企業が自社の非財務報告の信頼性に疑問を抱いていることが明らかになりました。同調査の対象となった財務リーダーの半数以上(55%)が、自社の業界におけるサステナビリティ報告にはグリーンウォッシュの要素が含まれていると見なされるリスクがあると考えていました。


提供されているESG情報への信頼性の欠如を考えると、本調査に参加した投資家の93%が、企業はサステナビリティと脱炭素化の目標を達成すると確信しているのは驚きに値します。EYの調査では、企業が実際には目標達成に苦慮していることが示唆されており、矛盾が起きています。2024 EY Global Corporate Reporting Surveyによると、財務リーダーは、半数以下(47%)が、自社がサステナビリティに関する主な優先事項に対して成果を挙げ、例えば期限内にネットゼロを達成するなど、設定した目標を達成する可能性が非常に高いと考えています。 

投資家の目標に対する自信と、企業自身の発言に「ずれ」がある原因は、いくつか考えられます。投資家側の希望的観測もあるでしょう。あるいは、目標に向けた企業の進捗状況を、投資家が積極的に把握しようとしていないためかもしれません。しかし、投資家は、企業のサステナビリティに関する発言を注視しつつも、時間の経過とともに企業がより達成可能な目標に転換するのを期待していると思われます。

自己資本を守り、リスクを効果的に管理するためには、投資家は投資先企業に対し、移行計画の公表と、移行活動に向けた財務的コミットメントを開示するよう奨励する必要があります。EYグローバル気候変動アクションバロメーター2024によると、気候変動緩和に向けた移行計画を採用した企業は41%に過ぎません。また、移行計画の有無にかかわらず、気候イニシアチブに関連する設備投資(capex)を開示したのはわずか17%、営業費用(opex)を開示したのはわずか4%でした。

変化への投票

今回の調査で、投資家はESG関連の株主決議を一貫して支持していると答えており、86%が最近の議決権行使の実績として、おおむね賛成票を投じたと回答しています。ESGおよびサステナビリティ関連の株主決議において、投資家の票に最も影響を与えたと思われる要因は、ESG問題に対する政治的または社会的圧力です(39%が「大きな影響を及ぼした」と回答)。これとほぼ同率だったのは、これまでのESGおよびサステナビリティ関連の取り組みの成果(38%)という回答でした。

しかし興味深いことに、別のデータを見ると、ESG関連の株主決議に対する機関投資家の支持の低さが示されており、今回の結果は一致していません。これもまた、発言と行動のギャップの一例かもしれません。例えば、責任投資原則(PRI)のデータによると、株主決議への平均支持率は、2023年の28.3%から2024年は 21.6%に低下しました。PRIによれば、この低下傾向にはいくつか理由があります。1つは、株主が特定の決議案が企業にとって過度な要求であると考え、結果的に決議案が撤回されることです。もう1つは反ESG感情で、一部の株主による反ESG決議の提出や、ESGを支持する決議に賛成しない結果を招いています3

さらに今回の調査では、ESGとサステナビリティに関する決議が株主価値に長期的な影響を与える可能性について、投資家の間には懐疑論があることが分かりました。決議案が長期的価値をもたらす可能性があるとして、自社の議決権行使に実質的な影響を与えたと回答したのは26%にとどまりました。決議案が短期的な収益性に影響を与えると考えたことが、自社の議決権行使の原動力となったと回答した投資家は10%とさらに少なくなっています。

Germany, Baden-Wurttemberg, Stuttgart, Aerial view on intersecting footpaths in Killesbergpark
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第3章

気候変動の影響を評価する

投資家は何を見ているのか

一般的に、サステナビリティ投資に対する投資家の戦略を左右するのは、次に挙げる要因のいずれかまたは複数です。 

  • 政府の政策と規制 
  • 自社が掲げる脱炭素化またはネットゼロ目標 
  • ファンドレベルおよび投資レベルでクライアントに対して行ったコミットメント(ファンドのマンデート) 
  • ポートフォリオのパフォーマンスとリスク(座礁資産リスクや物理リスクを含む) 

投資家は、政策や目標、マンデート、リスクのどれを重視するかによって、投資評価の枠組みを使い分けています。例えば北欧では、一部の年金基金が、2050年までに投資ポートフォリオの温室効果ガス排出量をネットゼロにすることを目指しています4。投資家が見ているのは気候問題だけではありません。他にも、生物多様性や自然、ガバナンス、人権に関する取り組みなど、幅広い社会問題や環境問題を注視しています。

気候変動の影響評価に関しては、投資家はポートフォリオのパフォーマンスとリスクを重点的に見ていることが、本調査で浮き彫りになりました。投資家のほぼ3分の2(64%)が、異常気象に関連した損失や座礁資産を特に注視する傾向にあると答えています。これは、そうした脅威がポートフォリオに及ぼし得る直接的な財務的影響を反映する結果です。

ある調査によると、物理リスクと自然災害に対する保険料は2030年までに50%増加し、世界全体で2,000億米ドルから2,500億米ドルに達すると見込まれています5。別の報告書では、エネルギー分野の座礁資産の廃棄コストは、世界全体で8兆米ドルに及ぶと予測されています6

保険損失や座礁資産に関する懸念から、投資家の63%は、天候や気温、氷床の融解などの長期的要因に関して定期的に報告されるデータを含む、気候に関する定期報告も注視しています。さらに、投資家は同業他社の動向にも関心があり、41% が他の投資家の気候関連方針の変化に注目しています。

企業の気候関連方針の変化を注視している調査対象の投資家はわずか17%です。これは、現状の企業報告からは、投資家が高度な意思決定に必要な知見を得られていない可能性があることを示唆しています。

全体的にみると今回の調査からは、投資家は企業固有の開示情報よりも、外部視点からのマクロ情報の方が有意義だと考えていることが見えてきます。企業の気候関連方針の変化を注視している投資家はわずか17%であり、現状の企業報告が、投資家の高度な意思決定に必要な知見を与えていない可能性を示唆しています。 


気候変動訴訟

投資家は気候変動訴訟リスクも注視しています。資金力のあるロビー団体や活動家グループを中心に、企業や政府を相手取った訴訟が増えています。中には、気候変動対策が不十分だとして企業や政府を訴えるものもあります。また、別の角度から気候問題に切り込む訴訟もあります。例えば「ESGバックラッシュ」と呼ばれる、ESGに反発し、気候変動リスクを財務上の意思決定に盛り込んだことに異議を唱える訴訟です。他にも、気候変動と生物多様性などの環境目標との間で生じ得るトレードオフに焦点を当てた「グリーン対グリーン」といったタイプの訴訟もあります。

訴訟の件数
件以上の気候変動訴訟が2015年以降、世界中で起きている。(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカルサイエンスのグランサム気候変動環境研究所調べ)

気候変動訴訟は、単に費用と時間を要するからリスクになるわけではありません。訴訟の勝敗にかかわらず、企業の評判に傷を付け、顧客や規制当局、そして広く社会に対する地位を損なう恐れがあり、ビジネスモデルにまで影響が及ぶこともあります。ひいては、投資家の事業に対する出資の価値が損なわれることにもなりかねません。

気候変動訴訟がもたらすリスクを強く認識している投資家は、自社のエクスポージャーを慎重に精査しています。回答者のほぼ半数(49%)が、クライアントやステークホルダーによる自社に対する気候関連訴訟リスクを体系的にレビューしており、40%は臨時の精査を行っています。同様に49%の投資家が、自社が投資している企業が気候関連訴訟を起こされるリスクの体系的なレビューを行っており、38%が臨時のレビューを実施していると回答しています。


Aerial shot of rice paddy
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第4章

サステナビリティ情報の開示

意思決定に役立つ情報を求めて

投資家は、1997年にグローバル・レポーティング・イニシアチブが発足して以来、数多くの取り組みや枠組みが立ち上げられたおかげで、多くのサステナビリティ情報にアクセスできます。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の開示の枠組みや、EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の一部を構成する欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)に基づいて報告する企業が増えれば、さらに多くの情報が入手できるようになるでしょう。 

しかし、サステナビリティ情報の開示が今後増えると予想される一方で、投資家は現在、意思決定に役立つ情報を得られていないようです。本調査対象者の3分の1以上(36%)が、新たな非財務パフォーマンス報告における企業の進捗状況に不満を示しています。さらに、投資家が最も失望しているのは、サステナビリティデータの重要性、比較可能性および正確性についてです。本調査では投資家の5人に4人(80%)が、サステナビリティ報告の重要性と比較可能性には改善が必要だと考えており、62%は正確性に関しても改善が必要と回答しています。 


投資家が重要性や比較可能性、正確性の面で求めている改善の多くは、ISSBとESRSの両基準が実際に実施されるにつれて見られるようになるでしょう。とはいえ、どちらも導入後まだ日が浅い枠組みです。ISSB基準は、特に投資家のニーズに対応しており、2024年1月以降の報告期間から適用可能です(注:ISSB基準への準拠を義務化するには、各国・地域の管轄当局による採用が必要)。一方、CSRDに従って最初に報告を行う企業は、2025年に2024年のデータに基づいて報告することになります。これらの基準のメリットが投資家にとって明確になるにつれて、投資家の企業のサステナビリティ報告の質に対する信頼は高まり、発言と行動のギャップの解消につながるでしょう。 

しかし現時点では、ESRSとISSBの基準の有用性に関して、投資家の見解は割れています。ISSB基準の方が投資家や企業により適していると考えられており、これはおそらく、ISSB基準が「企業の見通しに影響を与えると合理的に予想し得る重要な情報」に焦点を当てたものであることの表れでしょう。ESRSでは、財務マテリアリティに加え、「インパクトマテリアリティ」という視点も求められます。しかし、ISSBとESRSはどちらも(設計目的である)長期的な投資判断の支援には適しているが、短期的な投資判断の支援にはあまり適していないという認識があります。長期投資の重要性は理解しているものの四半期ごとにパフォーマンスを評価される投資家にとって、これは難しい問題です。発言と行動のギャップを悪化させ、言動不一致に理由を与え、助長さえしかねない事態です。さらに、投資判断をする上で、ESRSの報告基準は十分に詳細で完全であると考える投資家は3分の1未満(29%)であり、ISSB基準についても22%は同じであると考えています。

多くの場合、ESRSに基づいて報告された情報は、第三者による独立した保証が必須です。ISSB基準は保証に対応した情報の作成を目的としていますが、保証が必要かどうかは各地域の管轄当局が判断します。投資家は、企業が提供する情報の質を向上させるという点で、保証のメリットを理解しています。回答者のほぼ3分の2(64%)が、ISSBとESRSの報告は独立した監査を受けるべきと考えています。


非財務業績情報の評価

投資家は一般的に、企業のサステナビリティ関連の開示情報を評価する能力に自信を持っています。調査対象となった投資家の3分の2以上(68%)が、サプライチェーンのESG対応に関する情報を評価する体制が「非常によく」または「十分によく」整っていると感じており、62%が気候関連の情報についても同様に回答しています。 

しかし投資家は、ESGの方針やパフォーマンスに関して、長期的な影響の評価よりも、短期的な影響の評価に対してはるかに自信を持っています。 

しかし投資家は、ESGの方針やパフォーマンスに関して、長期的な影響の評価よりも、短期的な影響の評価に対してはるかに自信を持っています。それはおそらく、長期的なリスクや結果をモデル化することが困難な変数や未知数のためと思われます。


Aerial view above of wooden pier crossing Jubail Mangrove Park in Abu Dhabi, United Arab Emirates
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第5章

今後の見通し

今後、発言と行動のギャップは縮まるのか

この調査では、投資家がサステナビリティを投資判断に組み込むことについて、発言と実際の行動とのギャップが近い将来縮まるのか、それともさらに広がるのかどうかは明らかではありません。  

一方で、投資家は「サステナビリティ疲れ」の兆候を示しており、短期の企業業績が好調でないときに、長期的な価値創造というESGのメリットを定量化して販売することの難しさを認識しています。他方、投資家はサステナビリティに有意義なレベルで関わり続けています。また、ポートフォリオにおけるリスクとしての、あるいはバリュードライバーとしてのサステナビリティを深く理解し、投資戦略に組み入れることができるようになってきています。 

現実には、投資家は投資する市場によって、成熟度の段階が異なることが多々あります。一部の投資家、特に欧州の投資家は、目標や報酬などについて積極的に企業に説明責任を求めます。しかし米国では、投資家は以前より慎重な姿勢が強まっています。彼らは反ESGの反発に直面しており、その結果、一部の年金基金は、投資判断時にESG関連リスクを考慮したのはフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)違反であるとして訴えられています。また、1月の政権交代の影響も不確実性があります。しかし、2016年から2020年の経験を踏まえると、政治的環境にもかかわらず、投資家は投資リスクとしてESGに引き続き注目しており、今後もこの傾向は続くと予想されています。

それでもなお、世界が進む方向は変わりません。世界の主要市場では、依然として野心的なネットゼロ目標が設定されています。例えば、中国は2060年までにカーボンニュートラルを実現する目標を掲げ、EUと米国は共に2050年までにネットゼロ実現を目指しています。これらの目標を達成するには、政府による大型インフラプロジェクトの立ち上げや、企業によるサステナビリティ志向の新たなビジネスモデルの開発が必要になります。そうなれば、サステナビリティと企業の競争力との間にある実体経済の関連性が、前向きな投資戦略として浮上してくるでしょう。異常気象に関連する経済損失は、その頻度や激しさは増す可能性が高いため、投資家は少なくとも気候に関しては、サステナビリティへの注目を維持する要因になります。気候変動リスクは、今後20〜30年間に企業が直面する最大の混乱になる可能性があります。

気候変動リスクは、今後20〜30年間に企業が直面する最大の混乱になる可能性があります。

一方、自然に関連する経済リスクへの理解は大きく広がっており、これらのリスクに迅速に対応するよう企業への圧力が高まっています。実際に、オックスフォード大学の研究によると、生物多様性の損失と生態系破壊に関連する世界経済への打撃は、5兆米ドルを超えるだろうと予想されています7。こうした難しい状況を考えると、本調査のインタビューに応じたある投資家が、投資家側の現在の停滞を「一時的な逸脱」と表現したのもうなずけます。

今後、サステナブルな投資戦略には、サステナブル投資を一部の特性や企業に限定するのではなく、ポートフォリオ全体にサステナビリティを幅広く組み込むことが求められます。その結果、投資家には、投資リスクをより正確に評価する能力と、より良い投資機会を積極的に探すマインドが必要になってきます。

また「富の大移動(Great Wealth Transfer)」8(世代をまたぐ富の移動)も始まっています。この移動が定着するにつれ、サステナビリティ意識の高い新世代の資産保有者は、投資リターンに加えてサステナビリティの成果も求めるようになるでしょう。この移動に対する準備ができておらず、適切な投資戦略と実績を持っていない投資家は、取り残される可能性があります。

すでに資産運用会社では、クライアントがサステナブルな投資商品を求めていることを認識しており、その需要に積極的に応えようとしています。今回の調査では、資産運用会社の4分の3以上(77%)が、投資信託や上場投資信託(ETF)などのESG関連の投資商品の開発を強化していると答えています。また、ESG関連の投資商品に対するクライアントの関心が過去1年間で大幅に、またはやや高まったと答えた割合も同程度(74%)でした。


Evaporation Ponds at Cargil Industrial Plant
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第6章

何をすべきか

投資家と企業に対する「発言と行動のギャップ」を埋めるための提言

発言と行動のギャップを埋めることで、長期的にポジティブな変化をもたらす組織により多くの資本が配分されることが期待されます。また、サステナビリティは、ポートフォリオリスクだけでなく、投資戦略の主要なバリュードライバーとして認識されるようになります。  

では、ギャップを埋めるにはどうすればいいのでしょうか。投資家と企業に対するこれらの提言は、長期的価値のドライバーとしてのサステナビリティに対する信頼を高め、目標達成を後押しし、ネットゼロ経済への移行を加速させるのに役立ちます。  

投資家がすべきこと

企業がすべきこと


サマリー

気候変動とサステナビリティがもたらす投資リスクと投資機会は、企業とそのビジネスモデルに広範な影響を及ぼします。よって投資家は、それらをマンデートや商品のごく一部へのニッチな適用ではなく、投資戦略の不可欠な部分と考えるべきです。こうしたアプローチによって、短期的な需要と長期的な価値のバランスを取り、発言と行動のギャップを埋めることができるはずです。

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