Aerial view of red wooden bridge walkway in a mangrove forest
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気候移行計画は、未来を切り開く力をどのように与えてくれるのか?


EYグローバル気候変動アクションバロメーター2024から、情報開示状況が改善したとはいえ、企業は気候変動に対してより緊急に対策を講じるべきだと指摘していることが分かりました。


要点

  • 気候関連情報開示の質が54%、カバー率が94%と向上しているものの、この成長ペースでは、差し迫った気候危機を回避することはできない。
  • 自らが直面する気候変動関連の物理的リスクを認識している企業は多いとはいえ、そうしたリスクを軽減するための計画を採用しているところは19%にとどまっている。
  • 持続可能な未来の実現に必要な脱炭素化とエネルギー移行を加速させるには、企業が断固とした姿勢で有意義な対策を講じなければならない。


EY Japanの視点

EYでは、企業の気候変動に関する情報開示と、移行を推進するための行動との関連性を分析しています。今回で6回目となる本調査を「グローバル気候アクションバロメーター2024」として公表いたします。

今回、EYのチームは13業界で活動する51の国と地域の約1,400社を調査し、分析を行いました。2024年はIFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)やEUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)などの進展により、各地域における開示の質の向上が見られました。一方で気候変動緩和のための移行計画を採用した企業はまだ少なく、パリ協定の目標を達成するには道半ばと言えます。

今回のレポートでは、世界的に増え続ける気候危機の科学的証拠があらゆるビジネスへの影響を示唆する一方で、企業が移行計画の開示に消極的であり続ける背景についての洞察を提供します。さらに、気候変動が中長期的に多くの企業にとって重要なリスクになることがほぼ確実であるため、気候変動リスクの情報開示と財務諸表との間の反映状況についても詳細に調査しています。


EY Japanの窓口

山口 岳志
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS(気候変動・サステナビリティ・サービス)事業部 エグゼクティブディレクター


気候変動がもたらす深刻な脅威に直面しているにもかかわらず、企業はネットゼロへの移行を加速させておらず、このままのスピードでは2015年パリ協定の目標を達成することができません。この行動不足は、EYグローバル気候変動アクションバロメーター2024(PDF)によって鮮明に浮き彫りになっており、世界の気温が過去最高を更新する中、気候変動の緩和を目的とした移行計画を公表している大企業は世界全体で半数に満たない(41%)ことが分かりました。

その上、企業に移行計画があるかどうかにかかわらず、多くは温室効果ガス(GHG)排出量削減目標への長期的なコミットメントを避けており、2030年以降の目標を設定している企業は全体の半数強(51%)にすぎません。

この状況だけでも気がかりですが、さらに懸念を深めるような課題が今回の調査結果から明らかになりました。財務諸表で気候関連の財務的影響に言及しているのは、わずか3分の1強(36%)の企業のみです。こうした状況にあっても、67%の企業が気候関連のシナリオ分析を行っていることから、企業は自らが直面する可能性のある脅威を認識していることを示唆しています。

EYのチームは本レポートのための調査を進める中で、こうした脱炭素化に向けた企業の目標と対策のギャップがますます明白になりました。「EYグローバル気候変動リスクバロメーター」の名で知られていた本レポートは、今年で6年目を迎え、気候関連情報開示の範囲と詳細さにおける世界的な進展を正確に測定するための業界標準を提供しています。残念なことに、2018年の初回のレポートではカバー率が61%であったのに対し、2024年では94%と顕著な向上をみせている反面、質はこれらの開示を下回るペースでしか向上していません。カバー率は、各企業が対応している気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言の数に基づいて、スコア(%)を算定しています。スコアが100%の場合、企業が各提言に準拠した情報をある程度開示したことを示しています(ただし、開示情報の質は考慮されていません)。情報開示の質の平均スコアは、2024年には54%に上昇しています(2018年は31%)。この質のスコアは、TCFD提言の11の開示項目すべてに対応している企業について、開示の質を最高スコアに対するパーセンテージで示しています。

企業が詳細な気候関連情報開示をしないことを選択する理由として、機密性の高い商業情報の漏えいや、グリーンウォッシングの疑惑を持たれたくない、または、戦略を達成できなかった場合にステークホルダーから訴訟を起こされることを避けたいと考えていることなどが挙げられます。あるいは、単に伝えるべきポジティブなストーリーがない、つまり十分な気候変動対策を講じていないため、詳細な情報を開示していない企業もあるかもしれないということです。

Aerial view of the sinuous curves of a scenic mountain road in Fuji-Hakone Izu National Park in autumn, Japan
1

第1章

セクターと市場の動向

規制の強化とステークホルダーの圧力を受けて、世界の市場とセクターで情報開示の質は向上しています。

今回の調査結果を全体的に見ると、気候危機対策を講じることに対し、企業側の切迫感が懸念されるほど欠如していることが分かった一方で、規制の強化などを受けて、企業による気候関連情報の開示がある程度進んでいることも明らかになりました。

先行企業と後発企業

気候関連報告に対する規制が厳しい国と地域では、気候関連情報開示の質の向上が目立っています。特に、英国(質のスコア:69%)とEU全体(同スコア:60%)でその傾向が顕著に見られます。移行計画を策定している企業が最も多いのも英国とEUです。こうした市場で前向きな動向が見られる一方で、インドや米国、中国の改善は限定的です。世界全体のCO2排出量に占めるその割合を考えると、これは憂慮すべき傾向です。「Global Carbon Budget 2023(世界のCO2収支2023年版)」と研究機関「Our World in Data(データで見る私たちの世界)」によると、2022年は中国(30.7%)と米国(13.6%)、インド(7.6%)の3カ国で世界全体のCO2排出量の52%を占めていました(CO₂ emissions - Our World in Data)。

中東と東南アジア、インドは他の国と地域と比べ、情報開示の質、カバー率の両方で共相対的に遅れが見られます。また、いずれの市場でも、昨年の調査から質が20%以上改善しているものの、世界全体の質の平均スコアである54%を大きく下回っているのが現状です。ステークホルダーが望む気候問題への対応や、サステナビリティを戦略や業務により的確に統合することへの期待に応えるため、企業は報告することを選択するようになってきましたが、求められる規模にはまだ及ばない状況です。国・地域別の内訳について詳しくは、レポート全文をご覧ください。


ISSB準拠に向けた準備

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が定める任意適用の基準が発効し、数多くの国・地域がこの枠組みを採用する方針であることを確認しています。そのため、今回調査対象となった企業全体のうち、国際財務報告基準(IFRS)のS2(Scope 2)である「気候関連開示」の提言に沿って情報開示を行っている企業の割合は著しく増加しました。

政府と公共セクターが中心となって、企業の持続可能な実践への移行とネットゼロ目標達成を支援しています。

ISSB準拠に向けた準備状況の平均スコアが最も高かったのは、いずれもISSBの枠組みの正式な導入をいち早く決断し、迅速に対応した台湾と英国(ともに68%)です。

セクター別に見た調査結果

今回の調査で情報開示の質が対前年比で大幅に改善したのは鉱業と銀行、輸送で、いずれも大きな移行リスクにさらされているセクターです。一方、質のスコアが全体的に最も高かった(59%)のはエネルギーセクターと保険セクターです。とはいえ、59%というのは低い数字であり、最もスコアの高いセクターでさえ、改善のスピードと規模が必要なレベルに達していないことが明らかになりました。

セクター

質(2023年)

質(2024年)

カバー率(2023年)

カバー率(2024年)

農業・食品・林産物**

46%

51%

88%

92%

銀行*

46%

52%

86%

92%

エネルギー**

55%

59%

95%

96%

金融資産保有会社・金融資産運用会社*

40%

41%

80%

84%

保険*

55%

59%

93%

96%

資材・建築**

54%

56%

95%

95%

鉱業**

51%

58%

93%

99%

その他の金融機関(証券取引所、その他の金融サービス事業者、格付け機関、信用調査機関など)*

54%

57%

84%

94%

不動産**

48%

51%

91%

92%

小売・ヘルスケア・消費財**¹

50%

55%

92%

96%

通信・テクノロジー**¹

52%

55%

91%

94%

輸送**

50%

56%

90%

96%

*金融セクター **非金融セクター
¹ TCFDのセクター分類の対象ではないが、2021年の調査でセクターリーダーから高リスクセクターとされたセクター

エネルギーセクターの質のスコアが高い背景には、移行リスクにさらされているだけでなく、他セクターの脱炭素化の実現で不可欠な役割を果たしていることを反映しています。それでも、今回の調査対象となったエネルギー企業のうち、(おそらく競争力に関係する理由だと思われますが)移行計画を開示しているのは半数未満(43%)にとどまり、気候変動が自社の事業に及ぼす影響を数値化して開示しているのはわずか24%です。


Sempra社

エネルギーセクターのうち、質のスコアが最も高かった企業の1つ*(スコア:44)

Sempra Energy社は将来的に異常気象の影響に対するレジリエンスが強化され、年齢や背景を問わずあらゆる人々と企業が安全で手頃な価格で、よりクリーンなエネルギーが利用可能になり、社会全体が繁栄するといったビジョンを持っています。同社によるサステナビリティへのアプローチの根底にあるのは、幅広いステークホルダーとの対話と、意欲的な目標に向けて会社全体が一致協力して取り組む姿勢です。そして、この対話と目標はいずれも、組織のトップレベルから支持されています。Sempra社は再生可能エネルギーの使用を拡大し、業務全体のエネルギー効率を向上させることを目指しています。また、環境への影響を最小限にとどめるため、節水と廃棄物削減に特に力を入れています。

社会的責任面においては、事業を展開する地域社会の支援に真摯(しんし)に取り組んでいます。具体的には、教育や経済発展、ヘルスケア、安全衛生を推進する取り組みなどです。同社はまた、従業員のダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I) を重視し、建設的でインクルーシブな 職場環境づくりにも努めています。

Sempra社のサステナビリティ戦略では、ガバナンスも重要な要素です。高い倫理基準を守り、ビジネス慣行の透明性を維持することに尽力しています。具体的には、強固なリスク管理とコンプライアンスプログラムによる、あらゆる業務における説明責任と誠実さの堅持の徹底などです。

*本調査の結果


保険セクターのヘルスケアにおいて、質のスコアが良い要因はいくつかあります。気候関連報告の義務化の拡大や、気候関連指標について開示する情報の透明化と内容の充実化、詳細化を保険会社に期待する投資家の圧力に加え、法人顧客の情報開示の質向上に伴い、意思決定の参考にし、また情報開示を改善するために利用できる、より質の高いデータを銀行と保険会社が入手できるようになったことなどです。とはいえ、他の多くのセクターに比べ、銀行や保険会社は移行計画を策定するところが少ない傾向にあります。今回の調査結果では、銀行の37%と保険会社の36%にしか移行計画がなく、セクター全体の41%を下回りました。


Lloyds Banking Group plc

金融セクターのうちで質のスコアが最も高かった企業の1つ*(スコア:44)

Lloyds Banking Groupは、より持続可能でインクルーシブな未来に向けた取り組みを先頭に立って積極的に推し進めるとともに、「Helping Britain Prosper(英国の繁栄を支える)」というコーポレートパーパスを掲げ、それを具体的なコミットメントと行動で裏打ちしてきました。遅くとも2050年までにネットゼロを実現することを目指し、2030年までに融資先のCO2排出量を50%以上も減らすという意欲的な目標を戦略の中心に据えています。同グループが掲げるコミットメントは、これだけではありません。2030年までに投資先のカーボンフットプリント(CO2排出量)を半減させるほか、同じく2030年までにサプライチェーンのCO2排出量を50%減らし、ネットゼロの事業運営を実現させることを約束しています。中でも 注目すべきは、CO2の直接排出量を少なくとも90%削減するという目標です。こうした目標は、環境への影響の軽減にとどまらず、より環境に優しく、レジリエンスの高い経済構築へのLloyds Banking Groupによる貢献を物語っています。同グループは、移行計画もすでに定めています。

グループ内のサステナビリティ対策の先を見据えるLloyds Banking Groupが重視しているのは、連携の力を活用して、自らの影響を拡大させることです。ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)の設立メンバーであり、また金融サービスタスクフォースに積極的に参画する同グループは、その影響力とリソースを生かして、業界全体のサステナビリティへの移行を推し進めています。最近では、英国のSoil Association Exchange社と連携して、英国における農場環境パフォーマンスに関し、最も包括的な評価の1つの実施をサポートしています。その評価結果を報告書にまとめ、英国各地の農業従事者700名近くに対し、それぞれに応じた、4,000を超える提言を行うことができました。

*本調査 の結果


真上からドローンで撮影した層状に見えるチューリップ畑
2

第2章

気候変動による財務的影響

企業は、気候関連リスクの影響を財務諸表に反映させることに消極的です。

今年の調査結果によると、財務諸表における気候関連の財務的影響について企業が言及することに関し、大きな進展が見られないことが明らかになりました。調査対象の企業のうち、気候変動の財務への影響について言及しているのは36%にとどまり、昨年の33%から若干増えたにすぎません。

この領域での進展が足りないのは由々しき事態です。今回の調査結果を分析したところ、さらなる気候変動対策が講じられなかった場合、対象となった51の国と地域の平均GDPは2100年までに35%低下すると予想されます。

北・中・南米地域では、気候変動リスクが事業に大きな財務的影響を及ぼす可能性があると回答した企業は全体のわずか17%です。気候変動によるGDPへの悪影響を受ける可能性が最も高い国・地域に米国とカナダが数えられているにもかかわらず、このような状況が報告されています。顕著な例としては、2021年にテキサス州を襲った冬の嵐が挙げられます。これは、同州の広い範囲に被害をもたらし、電気と水道の中断が引き起こされました。その被害総額は、推計でおよそ1,950億米ドルに上ります。同年には、カリフォルニア州の山火事で約100億米ドルの被害も発生しています。こうした事象が発生しているにもかかわらず、多くの企業が依然として気候変動リスクと財務的影響を結び付けることをためらっている背景には、時間軸が異なることがあるかもしれません。財務関連では通例、企業は3年から5年先の計画を立てますが、気候変動リスクはずっと後になるまで明らかにならない場合もあります。もう1つ考えられるのは、シナリオ分析を十分に行わず、企業がリスクをきちんと把握できていないという問題です。

理由が何であれ、気候変動リスクが自社の事業に中・長期的に及ぼす可能性のある財務的影響を見過ごすわけにはいきません。移行計画を利用することで、ネットゼロ経済への移行により、自社のビジネスモデルがどのような影響を受ける可能性が高いかを明らかにできると考えられます。


ライトアップされた矢印が周囲に放射状に配置された木を上から撮影した画像
3

第3章

サステナビリティへの道のり

現在の移行計画と目標設定は、脱炭素化を促し、気候変動による最悪の影響を防ぐ規模には至っていません。

現在進められている移行プランのレベルは、企業がどのように脱炭素化を図るべきかを見極めることや、気候目標の達成に必要な行動計画に取り組むことにいかに苦労しているかを如実に示しています。今年の調査対象企業のうち、移行計画があると回答したのはわずか41%です。一方、21%が現在はないものの、移行計画を策定する意欲を示していました。

おそらく予想されることですが、移行計画がある企業は概して、気候関連情報開示の質が高い傾向があります。

企業が気候関連に関して掲げる大きな目標に比べると、移行に向けた具体策が不足していると言わざるを得ません。移行計画に関する情報開示の分析結果によると、調査対象企業の大多数(83%)が短期目標を設定しており、2030年までに目標の達成を目指していることが分かりました。

移行計画:地域別の現状

移行計画:セクター別の現状


目標を設定することの重要性

ネットゼロ経済への移行を加速させる上で 、目標の設定は不可欠です。目標を設定するということは、企業が2015年のパリ協定での達成目標に沿うべく、世界の気温上昇を産業革命前の水準プラス1.5℃に抑制する強固な気候変動対策を講じる意向を表明することにほかなりません。科学に基づく目標設定イニシアチブ(SBTi) から承認を受けた目標は、気候変動による最悪の影響を防ぐにはどの程度の速さで脱炭素化を進める必要があるか、その具体的なスケジュールが設定されているため、ベストプラクティスとみなされます。

注目すべきは、今回の調査対象となった企業のうち、短・長期目標がSBTiから承認を受けているところがわずか24%だという点です。ただし、移行計画を定めている企業に限ると、この数字は41%に上昇します。これを考えると、気候変動に関わる科学的根拠に沿った目標設定を行うために企業ができることは、まだまだたくさんあると言えます。

全体として、調査対象企業の78%が、目標で考慮した排出量の範囲(スコープ)を開示しています。半数(50%)が目標で3つのスコープすべてを考慮する一方、21%はスコープ1とスコープ2しか考慮していません。企業が脱炭素化戦略で重視しているのは、スコープ2の排出量の削減です。こうした削減の多くは、電力使用量の削減に関連していますが、大半は電力購入契約(PPA)や再生可能エネルギー証書(REC)を通じた再生可能エネルギーの購入による間接的影響です。今回の調査結果から、スコープ1とスコープ3の排出量を対象とした取り組みへの企業による投資が少ないことが分かりました。これは大きな問題です。というのは、スコープ3の排出量が企業の温室効果ガス排出量全体の大部分を占めることが多く、ビジネスモデルの真の脱炭素化を図るには、スコープ3の排出量の削減が不可欠であるためです。


森林地域の外れに建ち並ぶ、非常に変わった形状の住宅の上空写真
4

第4章

次なる目標は?

企業はネットゼロへの移行をめぐり難しい課題に直面していますが、変化を加速させるために6つの核心的対策を講じることができます。

今回の調査結果から、市場やセクター全体で気候関連情報開示のレベルが向上したにもかかわらず、SBTiにて承認を受けた意欲的な目標を掲げる企業にすら、その目標を達成し、具体的な対策を進める移行計画を策定するための詳細な戦略がないことが分かりました。CO2排出量削減目標の達成と収益性確保のバランスを取ることを求める圧力や、スコープ1とスコープ3の排出量に対処するに当たっての現実的課題、低炭素技術を入手できないことやこの技術の費用など、移行を阻む、複数の困難な障害に企業が直面していることは間違いありません。そうした状況にあっても、意欲的で意味のある対策を講じなければ、ネットゼロ経済に移行することは、おそらく実現しないでしょう。

サステナビリティへの移行を加速させ、未来を形作るには、次に示す6つの核心的対策を講じる必要があります。

  1. 確実で実行可能な計画を策定して、移行をビジネス課題の中核に据える。この計画は、科学的根拠に基づく目標を土台とし、スコープ1、2、3の排出量に対する明確な短・長期的削減目標を示すものでなければなりません。また、この策定に当たっては、確かなシナリオ分析結果を参考にするとともに、サプライチェーンの明確な脱炭素化戦略も盛り込む必要があります。

  2. 財務諸表に気候変動リスクを反映させ、潜在的な機会を探る。企業は気候変動がもたらすリスクと機会を測定するために定量分析を採用し、財務報告に直接つながるようにしておく必要があります。気候移行に伴う財務リスクの定量化に加え、企業は新たなビジネスモデルや新たな働き方へのシフト、補助金やインセンティブの利用など、潜在的な機会も探るべきです。

  3. データを活用して、対策を加速させる。適切な方法で適切なデータを取得することで、企業はサステナビリティ情報を参考に、リアルタイムに意思決定を行うことができます。例えば、TCFDで要求される各柱について総合的に報告をしている企業では、その情報を活用して、将来の気候課題に備える体制を強化できます。同様に、GHG排出量に関する報告はネットゼロ実現に向けた目標の設定に役立ち、戦略の柱に関する情報の開示は気候変動リスクを軽減する方策の考案に役立ち、また、適したガバナンス体制の整備は気候変動に関するポリシーを組織に浸透させる上で役立ちます。そうすることで、企業は市場リスクと市場機会をより的確に予想し、より適切な対応を取れるようになるはずです。

  4. サステナビリティチームに十分なリソースを提供する。チームには、サステナビリティ戦略全体を先頭に立って推し進め、気候変動リスクの分析などの主要領域で慎重さが求められる作業を担いながら、コンプライアンス状況を管理する能力が必要です。また、戦略のすり合わせも欠かせません。それには、サステナビリティ部門を最高財務責任者(CFO)の下に置くか、さまざまな事業部門の各役割にサステナビリティを確実に浸透させる必要があります。

  5. トップダウン型アプローチの一環として、気候変動リスクを理解し、これについて検討するスキルを取締役会のメンバーに身につけさせる。そのために必要なのは、取締役を対象とした研修と教育を行うほか、専門知識を備えた人材を取締役に登用することです。また、サステナビリティのパフォーマンスを役員報酬に連動させることで、気候変動関連の目標の達成を優先し、この目標を戦略的意思決定と日常業務に組み込むことについて、役員の意欲を高めることができます。取締役会が主要経営幹部の役割のダイナミクスと5つの戦略分野に焦点を当てることでサステナビリティ目標の達成をいかに推進することができるかが、2023年度のEY Sustainable Value Studyで明らかになっています。

  6. セクターをまたいだ連携を模索する。サプライヤーとパートナーの身近なエコシステム以外に目を向けることで、企業は(多くの場合)独自の方法で価値を創造し、複数のステークホルダーにメリットをもたらすことができます。ネットゼロ目標の進捗の加速に政府と公共セクターは不可欠ですが、企業側も先を見越して規制の枠組みに沿った対応をし、官民連携に参加し、モニタリングの透明化を進め、持続可能な政策を支持するといった対応を取ることができると考えられます。

EYグローバル気候変動アクションバロメーター2024

コミットメントから行動へ、マインドセットを変えることがなぜ企業には必要なのか、詳しくはレポート全文をご覧ください。

サマリー

EYグローバル気候変動アクションバロメーター2024(第6版)から明らかになったことは、気候関連情報開示の状況が、急速に進行する気候危機にうまく対処するには十分なレベルに至っていないということです。世界各地の企業が求められるのは、気候関連情報開示の質を早急に改善することです。特に、移行計画を採用する企業を増やし、シナリオ分析結果をうまく財務情報につなげ、科学的に検証された短・中・長期目標を設定することが求められています。

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