オーストラリア経済を読み解く-州や特別地域違いに着目して-

オーストラリア経済を読み解く-州や特別地域違いに着目して-


関連トピック

要点

  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から受けた影響は州や特別地域によって異なる。ニューサウスウェールズ州とビクトリア州はロックダウンによってかなり厳しい経済的影響を受けたが、西オーストラリア州やクイーンズランド州のような鉱業が盛んな州では、高いコモディティ価格により、その影響は緩和された。
  • 住宅市場もまた、都市により異なる動きを見せた。シドニーとメルボルンは、パンデミック時に住宅価格が最も上昇し、現在は金利上昇に伴い最も下落している。アデレード、パース、ダーウィンでは、今のところ住宅価格のほとんどが上昇傾向にある。
  • 一方、労働市場やスキル人材不足は州や特別地域に共通しており、首都特別地域や北部準州(ノーザンテリトリー)では求人数に対する失業者数が0.6と低い水準にある。インフレ率の急上昇に伴い、実質賃金は全国でマイナス域に落ち込んでいる。


州・特別地域の経済状況の相違点とは


新型コロナウイルス感染症の流行によるロックダウンが解除されると、失業率がほぼ50年ぶりの低水準になったことからも分かるように、財政・金融刺激策とコモディティ価格の高騰に支えられたオーストラリア経済は、堅調に回復しました。しかし、オーストラリア経済で起きていることを理解するためには、州や特別地域の違いに注目することが重要です。


2021年度は8つの州・特別地域のうち、ビクトリア州と北部準州を除く、6つが成長を遂げました。最も急速な成長を見せたのは南オーストラリア州で、タスマニア州、西オーストラリア州がそれに続いています。9月7日に発表される6月期の国民経済計算(National Accounts)では、全ての州と準州が2022年度に力強い成長を示すと予想されており、その証拠を見ることができそうです。


ニューサウスウェールズ州とビクトリア州の経済は、新型コロナウイルス感染症の流行によるロックダウンの間、特に影響を受けましたが、西オーストラリアやクイーンズランドなどの鉱業が盛んな州は出入国が厳しく制限されたにもかかわらず、高いコモディティ価格の恩恵を得ました。変化を求めた人が移住したことで、クイーンズランド州は、オーストラリアで最も人口が増加しました。


2022年の消費者マインドは、高いインフレ率と金利の上昇により、ほとんどの州で冷え込みました。しかし消費者マインドは州によって様相が異なります。パースとブリスベンは国内で最もインフレが進んでいるにもかかわらず、西オーストラリア州の消費者は他の州と比べると、楽観的な傾向が見られます。


全ての州と特別地域はスキル人材不足に直面しています。求人1件に対する失業者数を比較すると、首都特別地域(求人1件に対して失業者0.6人)、北部準州(同0.6人)、西オーストラリア州(同0.8人)が最も労働市場が逼迫した状態です。一方、西オーストラリア州と北部準州では、実質賃金の伸びが国内で最も低くなっています。


住宅市場は、おそらく都市間の違いを示す最も大きなポイントの1つになるでしょう。シドニーとメルボルンは、パンデミック時に住宅価格が最も上昇し、現在は金利上昇に伴い最も下落しています。アデレードやパースといった人口の少ない都市の住宅価格は、まだほとんど下落していません。


賃貸の空室率は、ほとんどの都市で過去最低(1%未満)にまで低下しました。例外はメルボルンです。好調な雇用の伸びと政府の援助により、一般家庭が都心部にこだわらず、より大きな物件を求める中、人口が減り住宅のサイズも小さいことから、メルボルンの空室率は新型コロナウイルス感染症パンデミック前の水準にとどまりました。


賃貸価格は、ほとんどの州で2桁(年間成長率ベース)の伸びを見せています。アデレードは空室率がわずか0.37%で、最も厳しい賃貸市場となっています。


過去20年間で、各州の相対的な規模に変化が生じ、資源によって西オーストラリア州とクイーンズランド州の経済シェアが拡大し、ビクトリア州とニューサウスウェールズ州のシェアが低下しました。オーストラリアの輸出に占める割合は、西オーストラリア州が45%以上と圧倒的に高く、次いでクイーンズランド州の20%となっています。資源は予想以上のロイヤルティ収入と税金を生み出し、財政を支えています。しかし、このような高い歳入水準は、商品サービス税(GST) システムを通じて再分配されることで、遅まきながら他の州にも利益をもたらしています。


輸出を除く国内活動だけを見ると、ニューサウスウェールズ州が32%を占め、次いでビクトリア州が25%となっています。

州や特別地域をチャートから読み解く


サマリー

州や特別地域のチャートは、州間の比較や主要な経済動向を把握するとともに、各州の強みや重要な問題点を浮き彫りにしています。


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