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2025年6月期オーストラリア国民経済計算:経済は改善傾向、ただし企業投資の促進が必要

関連トピック

要点

  • 4~6月期の国内総生産(GDP)は0.6%増、通年では1.8%増となった。
  • オーストラリア経済は回復傾向にあり、家計消費、政府消費、純輸出が成長に寄与した一方、政府投資は減少した。
  • 企業投資は依然低迷しており、今後の成長の足かせとなりうる懸念事項である。

チーフエコノミストより

今回の国民経済計算は、非常に緩やかではあるものの、経済が回復傾向にあること示しています。最も良いニュースは個人消費の増加で、これは2月、おそらく5月の利下げ、インフレの緩和、家計可処分所得の改善が背景にあります。

家計消費の年間成長率が2%となったのは過去2年間で最も良い結果であり、オーストラリア準備銀行(RBA)の予測を0.5ポイント上回りました。イースター連休と祝日のアンザックデーが珍しく近かったことや、年度末セール、新製品の発売などが後押しとなりました。多くの家計が収入を支出に回したことで、貯蓄率はわずかに低下しました。一方で、ホテルや飲食、レジャー、交通業なども活況を呈しました。マイナス要素の支出としては、インフルエンザの流行で医療費が増加し、メディケアや医薬品給付制度(PBS)に対する政府支出も増えました。また、西オーストラリア州やクイーンズランド州では今期に電気料金の補助が削減されたため、公共料金への支出もやや増加しました。

堅調な消費傾向とは対照的に、企業投資は依然として低迷しています。非鉱業分野の民間企業投資は過去1年間でわずか1.0%の増加にとどまり、鉱業分野では2.7%の減少となりました。

GDPに占める企業投資の割合はわずか12.3%で、1~3月期の水準を下回り、パンデミック時の最低水準である11.1%や1990年代の不況時の10.6%に近い水準です。同様に、企業利益のGDPに占める割合は過去3年間で徐々に低下しており、企業の景況感を示す指標も依然として弱い状態が続いています。

データセンター関連の建設やソフトウェア支出の増加など、一部に好調な動きは見られるものの、全体的な見通しは依然として明るいものではありません。これらの数値は、厳しい国際経済環境の中で、企業部門における新たな活力の必要性を強調しています。輸出企業は長らくGDPを押し上げてきました。4~6月期には、悪天候の影響を受けた前期の反動もあり、鉄鉱石や液化天然ガス(LNG)の出荷増加によって輸出が堅調に伸びました。しかし、高値だった多くの資源は下落しており、今後も高水準に戻る可能性は低いこと、さらに世界的な脱炭素の流れもあり、輸出に依存することは難しい状況です。

住宅投資は、新築住宅および改修・増築の両方でわずかに増加しました。さらなる投資が必要であり、利下げや政府の政策が支援となる可能性はありますが、住宅供給の逼迫(ひっぱく)や価格の高騰といった問題を緩和するには、わずかな追加投資ではなく、より大規模な投資が求められます。

GDPに占める公共需要は依然として高水準にありますが、政府の投資支出は減少しました。もっとも、これは一時的なものである可能性が高く、今年の州政府および連邦政府の予算で示された活動拡大の計画を踏まえると、今後再び増加する見込みです(ただし、これらの予算見積もりは名目ベースであるため、一部は単に原材料費や人件費などのコストの上昇を反映している可能性もあります)。

国民経済計算におけるインフレ指標では、経済全体の物価上昇率が安定した水準にあることが示唆されています。国内価格の上昇率は年率3.0%で、2021年7~9月期以来最も低い水準となっており、国際価格の上昇率もわずかに低く2.9%でした。これらはより狭い範囲を対象とした消費者物価指数(CPI)とは直接比較できないものの、両者のデータが示す傾向はおおむね一致しています。インフレがRBAの目標レンジ内にあることから、さらなる金融政策の緩和が期待されます。しかしそれ以上に重要なのは、生産性向上のための改革の進展であり、8月の経済改革会議で議論されたように、企業投資へのインセンティブや税制の新たな仕組みの導入の促進が不可欠です。

労働生産性の伸びは、経済全体でわずか0.2%にとどまりました。これは、オーストラリア経済が安定に向かっているとはいえ、まだ多くの課題が残されていることを示しています。過去7四半期連続となった2%未満のGDP成長率も、生産性の向上によって大きく押し上げることが可能です。

2025 年 4~6 月四半期の国民経済計算を 10 枚のチャートで見る(英語版のみ)

生活費の負担が緩和、家計消費が力強く回復

家計消費は0.9%増加し、GDP成長に0.4ポイント寄与しました。この結果は、年度末セールや新製品の発売、さらに今年は祝日のイースターマンデーとアンザックデーが異例にも同じ週に重なったことなどが一因と考えられます。こうした要因を踏まえても、家計支出の回復が始まっていることを示唆する内容となっています。

年間ベースでは、家計消費の伸びは2.0%まで持ち直し、前期の0.8%から大きく改善しました。この消費の回復は、インフレ率と金利の低下によって可処分所得が増加したことが背景にあります。社会保障給付控除後の納税額の可処分所得に対する割合は、6月期において大きな変化は見られませんでしたが、依然として高い水準にあります。

家計の貯蓄率は、4.2%へと低下し、前期の5.2%から減少しました。これは、家計支出の伸びが、可処分所得の増加ペースを上回ったことが要因です。貯蓄率は2022年12月以降、パンデミック前の10年間平均(6.6%)を大きく下回る水準で推移しています。

裁量的支出は1.4%増加し、前期の0.4%から大きく伸びました。これは、価格に敏感な消費者が年度末セールを活用したことが背景にあります。特に、家具や家庭用品への支出は1.7%増加しました。年間では、2.6%増で、前期の0.4%から大幅に改善しました。一方、生活必需品は、健康関連や食料品への支出が増えたことから0.5%増加し、年間ベースでは、1.5%増加しました。

家計の負担がやや和らいできたとはいえ、家計消費の伸びはパンデミック前10年間の平均成長率である2.6%にはまだ戻っていません。しかし、今後1年間で消費者マインドの改善や、RBAによるさらなる利下げが見込まれることから、家計消費はさらに増加する余地があります。

失業率は依然として低水準にありますが、ここ数カ月で労働市場の状況はさらに勢いが弱まっており、この変化が消費回復の勢いに対する下振れリスクとなっています。

住宅投資は低調

住宅投資の成長率は、前期の2.1%の大幅な増加から鈍化し、今期は0.3%の緩やかな伸びにとどまりました。年間では、住宅投資は4.8%増となり、前期の5.0%と比較してわずかに減速しています。

新築住宅の建設は0.3%増加し、年間では4.8%の伸びとなりました。これは、前期の5.3%という堅調な結果に続くもので、2023年4~6月期以来最も高い年間成長率でした。住宅の改修・増築に関する投資も今期は0.3%の増加にとどまり、伸びは鈍化しましたが、年間では4.9%と依然として高水準を維持しています。不動産市場が活発化したことにより、所有権移転に伴う費用は1.1%増加しました。年間ベースでは、これらの費用は緩やかに減少しており、前期の2.8%から今期は1.7%となりました。

住宅投資の改善に向けた条件は整いつつあります。実質所得の増加、建設コストの緩和、金利の低下により住宅建設許可件数の増加が見込まれています。ただし、供給が依然として制約されているため、住宅価格やアフォーダビリティ(取得可能性)が改善する見込みは低いと考えられます。

労働生産性は上昇したものの、依然として低水準

労働生産性(1時間当たりのGDPで測定)は、0.3%上昇し、年間では0.2%の上昇となり、前期までの年間で0.9%の減少を記録していた状況から改善が見られました。ただし、生産性の伸びが依然として弱いことから、RBAは最近、中期的な生産性成長率の見通しを0.7%に引き下げており、今後の経済発展に向けた課題を浮き彫りにしています。非市場部門の年間生産性成長率は2022年7~9月期以降マイナスが続いており、市場部門でも年間でわずか0.3%の成長にとどまるなど、依然として低調な状況です。

経済全体の賃金総額を示す指標である従業員の報酬(COE)は、1.1%増加しました。公共部門では、連邦政府機関の労使協定に基づく給与引き上げや連邦選挙に伴う人員増強により、2.1%の堅調な伸びを記録しました。民間部門のCOEは0.8%増加しており、雇用者数と賃金の双方が増加したことが背景にあります。特に、医療・福祉分野での伸びが顕著でした。年間では、COEは6.7%増となり、前期の6.5%を上回り、より範囲の狭い指標である賃金価格指数(Wage Price Index:前年同月比3.4%で横ばい)を大きく上回る水準を維持しています。

名目単位労働コスト(労働コストのより広範な指標)は、0.7%増加しました。年間では4.4%の上昇となり、2022年4~6月期以来最も低い伸び率となりました。この成長の鈍化は、生産性の改善を反映したものです。ただし、単位労働コストの上昇率は依然として十分に低いとは言えず、労働市場からのインフレの上振れリスクを完全に払拭するには至っていません。

非金融部門の企業利益は、0.1%減少し、年間では4.0%の減少となりました。主な要因は、鉄鉱石、石炭、LNGの価格下落による鉱業部門の低迷で、供給が堅調に推移する一方で、世界的な需要の弱さが影響しています。GDPに占める企業利益の割合は過去3年間で次第に低下し、2022年4~6月期の39.1%から今期は35.2%となりました。ただし、依然として過去30年間の長期平均を上回る水準を維持しています。

国内価格は上昇したが、交易条件の悪化により相殺

交易条件(輸出価格と輸入価格の比率)は、1.1%低下しました。これは、鉄鉱石、石炭、LNGといったオーストラリアの主要鉱物資源の価格下落により、輸出価格が1.7%下落したためです。中国からの鉄鉱石と石炭の需要減少が下押し要因となり、米国主導のLNG供給増加が価格をさらに押し下げました。一方、豪ドル高と原油価格の下落により、輸入価格は0.6%下落し、交易条件の悪化を一部相殺しました。

国民経済計算に基づく国内経済の物価圧力の指標は、主に労働コストの上昇により、0.7%増加しました。年間ベースでは、国内価格の上昇率は3.0%で緩やかに低下しており、これは2021年7~9月期以来最も低い伸び率です。この水準は、国内価格がRBAの目標レンジ内に収まってきたことへの安心材料となる可能性があります。一方、国際価格は0.7%下落しましたが、年間では2.9%上昇しました。ただし、前期の3.8%の上昇率を下回る結果となりました。

民間投資の低迷が回復のリスク要因に

民間投資は0.1%増加とほぼ横ばいでした。年間では1.5%の増加となり、前期の2.1%から減速しています。

民間企業の設備投資は依然として低調で、0.1%の減少となりました。主な要因は再生可能エネルギー関連プロジェクトや鉱業投資の減少により、非住宅建設が1.2%減少したことです。一方で、知的財産製品は1.6%、機械・設備は0.1%それぞれ増加し、全体の下落を一部相殺しました。

4~6月期までの1年間で、企業投資はわずか0.1%の増加にとどまり、RBAの予測値である0.6%を大きく下回りました。企業投資はGDPの約12.3%にとどまり、過去の水準と比較しても低く、コロナ禍や1990年代の景気後退時の最低水準に近い状態です。

鉱業投資は引き続き低迷し、1.3%減少しました。一方、非鉱業投資は0.2%増加しました。

企業投資の先行指標である設備投資意向は、2025/26年度が1,750億豪ドルで、2024/25年度と比べて3.1%の増加となりました。これは主に非鉱業分野の設備投資計画が4.7%増加したことによるもので、鉱業分野の設備投資見通しは0.6%減少しました。この指標は名目ベースであり、今年の実績の推移が前年と同程度であることを踏まえると、実質ベースでは投資活動が前年を下回る可能性が高いと考えられます。

公共需要は今期の成長に寄与せず

公共需要はほぼ横ばいで、GDP成長への寄与はありませんでした。政府消費が増加しましたが、政府投資の減少によって相殺されました。

主に経常的な支出を反映する政府消費は、1.0%増加し、前期の0.3%から上昇しました。この結果、GDP成長率は0.2ポイント増加しました。連邦政府の支出は、連邦選挙関連の活動や、インフルエンザの流行によるメディケアおよび医薬品給付制度(PBS)の支払い増加、患者負担なしの診療(bulk billing)の利用拡大を背景に、2.4%増加しました。さらに、今期に実施された軍事演習に伴い、防衛関連の消費も増加しました。一方で州・特別地域政府による支出は、州政府の電気料金補助制度が終了したことを受けて0.3%減少し、これが連邦政府支出の増加による押し上げ効果を一部相殺しました。年間ベースでは、公共消費の成長率は前期の4.2%から今期には4.0%へとやや鈍化しました。GDPに占める政府消費の割合は、過去最高の22.6%に達しました。

政府投資は3.9%減少し、GDP成長を0.2ポイント押し下げました。この減少は、国および州・特別地域政府の双方における投資活動の低調が背景にあり、防衛分野への投資の縮小や、交通・医療インフラプロジェクトの完了が影響しています。年間では、0.8%減少となりましたが、パンデミック前の過去10年間の平均と比べると、依然として高水準を維持しています。

GDP比で見ると、公共需要は27.9%とやや低下しましたが、パンデミック前の過去10年間平均(22.8%)を大きく上回る水準を維持しています。州予算に関するEYの記事でも強調されているように、最近の連邦および州予算は、インフラ投資の力強い成長と、需要の高まりに対応した政府サービスの継続的な拡大を示しています。これにより、公共需要は今後も過去最高水準で推移する見込みです。

純輸出は成長にわずかに寄与

純輸出は成長を0.1ポイント引き上げる形でわずかに寄与しました。これは輸出が1.7%増加した一方で、輸入も1.4%増加し、輸出の伸びが一部相殺されたことによるものです。

商品輸出は1.4%増加しました。これは、鉄鉱石の生産が天候の影響から回復したことや、穀物輸出の持続的な伸びが続いたことが背景にあります。サービス輸出は3.3%増加し、前期の緩やかな伸びから勢いを増しました。これは、短期休暇目的での訪豪者数の増加を反映したものであり、教育目的の渡航は前期と同水準でした。

サービス輸入も3%増加しました。これは、欧州への旅行者が増え、アジアへの渡航も依然として活発だったことが背景にあります。商品輸入は0.8%増加し、特に電気自動車を中心とした自動車需要の高まりにより、消費財の輸入が主導しました。

また、在庫はGDP成長率を0.1ポイント押し下げる要因となりました。


サマリー 

オーストラリア経済は今期に成長の勢いを取り戻し、年間ベースで1.8%の増加となりました。今年はイースター連休と祝日のアンザックデーが近かったこともあり、家計消費が増加しました。一方で、企業投資は依然として低調でしたが、純輸出は増加しました。



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