2025 年3月期オーストラリア国民経済計算:成長のきっかけを必要とする経済

関連トピック

要点

  • 1~3月期の国内総生産(GDP)は予想を下回る0.2%増となり、通年では辛うじて1.3%増となった。
  • 家計消費と投資は小幅な増加、政府投資支出は減少。一時的な天候不良が観光業に打撃を与え、石炭と液化天然ガス(LNG)の輸出も減少し、留学生の流入も例年を下回った。
  • 最も懸念されるのは、ビジネスセクタ-と家計に広がっている漠然とした不調感である。

チーフエコノミストより

今回の国民経済計算には明るい材料は一切ありませんでした。経済は活力を欠き、地政学的な混乱や関税引き上げという新たな要因により、好ましくない状況で第2四半期に突入しました。

1~3月期のGDP成長率は0.2%増、1人当たりGDPは0.2%減となり、経済が事実上停滞状態にあることが示されました。過去4四半期において、オーストラリア経済はわずか1.3%のGDP成長率を辛うじて維持してきました。一部は一時的な天候不良による輸出の混乱、観光業や地域消費の打撃が原因ですが、より懸念されるのはビジネスセクタ-と家計に広がっている漠然とした不調感です。生産性成長率は四半期を通じて横ばい、通年では減少しており、パンデミック直後に悪化した問題の解消に進展があったという証拠はみられません。

さらに、パンデミック期間中に経済を支える役割を果たしたコモディティへの高い需要は、今後も続くとは限りません。金価格の異例の急騰を除けば、一時的な好況は所得の持続的な伸びを支える役割を果たさなくなっています。これまで成長の源泉となっていた留学生の流入は、最近まで成長の源泉でしたが、1~3月期には留学生数の減少が成長を押し下げる要因となりました。

現在の政策設定が、経済の潜在能力や新たな課題への対応能力を向上させるための措置を講じていないことは、深刻な懸念材料です。

名目ベースで見た家計消費は、2月に事前に予告されていた金利引き下げと政府の家計支援の増加により可処分所得が2.4%増加したにもかかわらず、四半期でわずか1.0%増にとどまりました。家計は増加した収入の多くを貯蓄に回し、家計貯蓄率はほぼ3年ぶりの高水準である5.2%に達しました。オーストラリアの社会給付は1~3月期に非常に大きな6.0%の増加を示し、通年では10.8%増加しました。この結果は、政府支援が家計を支える上で大きな役割を果たしたことを示しています。

インフレの脅威が緩和され、トランプ政権の初期の政策が世界経済に与える影響が経済データに完全に反映されていない状況下において、経済はさらなる金融緩和を必要としています。もしオーストラリア準備銀行(RBA)が1~3月期の景気の軟化とインフレ率の低下を把握できていれば、金利引き下げサイクルは2月よりも早く開始されていた可能性が高いでしょう。

国民経済計算は、財政支援の必要性を強調するだけでなく、経済の長期的な構造的問題も示しています。企業投資は、1~3月期までの1年間でわずか0.8%の増加にとどまり、過去10年間、GDPの11%から15%の間で停滞したままとなっています。これは、税制や規制の枠組みがイノベーションを阻害し、おそらく外国人のオーストラリアへの投資意欲も低下させていることを示しています。生産性委員会が「ダイナミックで回復力のある経済の創造」を通じた生産性成長の促進に関する現在の取り組み(その他の柱を通じた取り組みも含む)は、アルバニージー政権によって積極的に取り入れられるべきです。  

2025年1~3月期の国民経済計算を10枚のチャートで見る(英語版のみ)

消費者の慎重な態度により家計消費の回復は予想より鈍化

2025年までの家計消費の回復は、消費者が依然として価格に過敏に反応する状況が続いているため、RBAが予想したよりも穏やかなものとなっています。1~3月期の家計消費の成長率は、0.4%とやや鈍化しました。12月のセール期間における強い伸び(+0.7%)を受けたもので、年間ベースでは、家計消費は10~12月期と同水準の0.7%増となりました。

家計は可処分所得に占める貯蓄の割合を継続的に増加させており、これは経済の不確実性が高まっていることを反映している可能性があります。家計貯蓄率は1~3月期に3.9%から5.2%に急上昇し、3四半期連続で増加しました。貯蓄率は、パンデミック前の10年間の平均である6%超に近づいています。

支出は食料品や家賃などの生活必需品に集中しており、異例の暑さや政府の補助金削減により、世帯は電気代により多くの支出を余儀なくされました。必需品への支出は1~3月期に0.4%増加し、年間ベースでは1.1%に上昇しました。裁量的支出は当四半期に0.3%増加しましたが、10~12月期の0.7%増からは減速しました。しかし、車両やスポーツ・音楽イベントへの支出は増加しました。通年では裁量的支出はわずか0.3%の増加にとどまりました。

失業率が低水準を維持しRBAがさらに金融緩和を拡大すると予想されるため、2025年は家計消費の回復が続くと見込まれています。しかし、高水準の経済的不確実性は下振れリスクをもたらし、消費の回復がパンデミック前の長期平均成長率2.6%に到達するのにはさらに時間がかかる可能性があります。

建設コストの緩和を受けて回復する住宅投資

1~3月の住宅投資は、四半期を通じて建設コストの圧力が緩和されたことで2.6%増加しました。通年では住宅投資が5.6%増加し、2021年7~9月期以来の最高成長率を記録しました。

住宅供給にはやや前向きな兆しが見られ、新築住宅の着工件数は四半期で2.3%増加し、通年では6.3%増加しました。これは2023年4~6月期以来の最高成長率です。改築・増築も堅調な成長を示し、四半期で2.9%、通年で4.7%増加しました。所有権移転コストは四半期で1.3%減少しました。不動産市場の低迷に伴い、年間成長率にさらに落ち込み、2.4%となりました。

2025年4月までの3カ月間、住宅着工許可件数は前年同期と比べ16.4%増加しているため、今後1年間の住宅投資を支える要因となるでしょう。

生産性は依然として低迷、労働コストはわずか上昇

生産性の成長は依然として低迷しており、1~3月期もこの傾向が続きました。労働生産性(1時間当たりのGDPで測定)は四半期を通じて横ばいとなり、通年では1.0%低下しました。年間ベースで生産性の成長が3四半期連続でマイナス圏にとどまったことになります。

労働市場は依然として緊迫した状態が続いており、経済全体の賃金総額または従業員の報酬(COE)は、1~3月期に1.5%増加しました。これは主に民間部門にけん引されたものです。年間ベースで6.5%増加し、2024年末の6.0%を上回り、2024年1~3月期以来の最高成長率となりました。これに対し、より狭い範囲の賃金価格指数(Wage Price Index)は、3月までの1年間で3.4%上昇しました。

名目単位労働コスト(労働コストのより広範な指標)は当四半期に0.9%増加し、年間ベースでは12月の4.7%から5.1%(実質ベースでは2.6%)に上昇しました。これは、一貫して生産性の成長が弱いことを示しています。生産性成長の継続的な改善(少なくともパンデミック前の長期平均である1.2%まで)は、単位労働コストを相殺し、インフレの上昇リスクを排除するために不可欠です。  

企業の利益は当四半期に1.1%増加しましたが、年間ベースでは横ばいでした。製造業、建設業、情報メディア・通信業などの非鉱業部門が、売上高の増加とコストの低下により利益の伸びを後押ししました。一方、鉱業部門では石炭とLNGの価格低下により利益が減少したものの、鉄鉱石の価格は堅調に推移しました。

貿易条件は輸出価格の上昇によりやや改善

オーストラリアの貿易条件(輸出価格と輸入価格の比率)は、2024年12月の1.6%上昇に続き、当四半期に0.1%上昇しました。鉄鉱石と金価格の上昇により輸出価格が2.7%上昇したためですが、オーストラリア・ドルの弱含みにより輸入価格が2.6%上昇したことで一部相殺されました。

国内経済の価格圧力を示す国民経済計算の指標は、1~3月期に0.7%上昇しました。価格上昇は、労働コストの継続的な上昇に加え、医療、教育、家賃、燃料などの価格の上昇も影響しています。年間ベースでは国内価格は3.2%に緩和され、2023年3月以降続く下落傾向が続いています。

オーストラリア・ドルの価値が下がり輸入価格が上昇したため、国際物価は1~3月期に2.6%上昇しました。年間ベースでは国際物価は3.8%上昇し、2023年6月以来初めての増加となりました。

1~3月期の消費者物価指数(CPI)のヘッドラインインフレ率と基調的インフレ率は、2021年以来初めてRBAの2~3%の目標レンジ内に収まりました。RBAは、短期的にインフレ率が目標レンジの中間付近で推移すると予想しています。グローバルな地政学的動向と関税の影響により不確実性が高まり、関税がGDP成長にマイナスの影響を及ぼすため、RBAはこれらがデフレの要因となっていると見ています。

企業投資は、今後の貿易摩擦の懸念を背景に弱含み

民間部門の投資は成長に0.1ポイント寄与し、1~3月期に0.7%増加しました。通年では民間投資は2.3%増加しました。

1~3月期の企業投資は0.1%の 穏やかな増加となりました。鉱業、製造業、電力プロジェクトにけん引された非住宅建設の1.3%増が、機械・設備投資の1.7%減により一部相殺されたためです。通年では企業投資は0.8%増加しました。

非鉱業部門の投資は四半期で0.5%減少しました。また、GDPに占める割合は2010年以降、パンデミック前の20年間の平均を下回ったままです。鉱業投資は当四半期に2.4%増加しました。

オーストラリア統計局が先週発表した2025/26年度の資本支出計画の2回目推計値は1,559億豪ドルで、2024/25年度と同水準の0.7%増にとどまり、今後の企業投資の伸びが限定的であることを示唆しています。これは4月から5月にかけて報告されたデータに基づくもので、現在の不透明な事業環境下で、企業投資の意向が弱まっている可能性を示しています。ただし、この指標は名目値に基づくため、建設コストの低下に左右される可能性があります。

公共需要の低迷が成長を抑制、今後の回復が見込まれる

1~3月期において、公共需要は0.4%減少しました。これは政府投資の減少と政府消費の伸び悩みによるものです。これにより、当四半期のGDP成長率が0.1ポイントが押し下げられ、2023年末以来初めての成長へのマイナス要因となりました。

政府消費は当四半期を通じてほぼ変わらず、成長へ貢献しませんでした。電気料金のリベートの削減により、国と州・特別地域政府の両方で支出が低迷した一方、国防支出は1.3%増加しました。年間ベースでは、公共支出の成長率は10~12月期の5%から3.4%に鈍化しました。

公共投資は2%減少し、1~3月期のGDPを0.1ポイント押し下げましたが、前年同期比では5.1%増加しました。すべてのレベルの政府の公的企業および州・地方自治体は、エネルギー、通信、鉄道、道路などのプロジェクトが完了または延期されたため、支出が減少しました。

GDP比で見た公共需要は、2023年12月以来初めて27.9%程度に緩和されましたが、依然として過去最高に近い水準を維持しています。連邦政府と一部の州の予算案から、支出計画が依然として高い水準にあることがうかがえるため、公共需要は堅調に推移すると見込まれます。高齢者介護や在宅介護、障害支援、医療、保育サービスなどの政府サービス、および政府の生活支援の増加に対する需要は高い水準にあります。2023/24年度に社会福祉支出が15.5%増加し、過去最高の1,670億豪ドルを超えたことからも明らかで、パンデミック期を上回る水準です。  

在庫は成長に貢献、海外留学生の減少と天候の不良により輸出が弱含んだことで相殺

純貿易は、1~3月期の成長率を0.1ポイント押し下げました。輸出が0.8%減少したことが要因ですが、輸入が0.4%減少したため一部相殺されました。

サービス輸出は、10~12月期の大幅な増加を受け、1~3月期は3.0%減少しました。オーストラリアへの海外留学生数の伸び悩みと、留学生の支出の減少によるものです。商品輸出は、天候不良による生産量と港湾出荷量の減少により、石炭とLNGの輸出が減少したため、0.3%減少しました。1~3月期に米国への非貨幣金輸出が急増したことで、この減少は一部相殺されました。

一方、サービス輸入は1~3月期に0.8%減少しました。多くのオーストラリア人が安い休暇を選ぶようになったため、輸送と旅行の両分野で減少したことによります。商品輸入は、資本財の減少が要因で、0.3%減少しました。

在庫は成長に0.1ポイント寄与しました。これは主に、輸出需要の低下と悪天候が港湾出荷量を減少させたことによる、鉱業在庫の増加が原因です。

サマリー 

1~3月期の経済成長率は0.2%で、年間ベースでは1.3%の成長を記録しました。オーストラリアの経済成長は、家計消費と投資がわずかに増加したものの、政府の投資支出が減少したため、低迷しました。



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