2026/27年度オーストラリア連邦政府予算案概要

2026/27年度オーストラリア連邦政府予算案概要


2026/27年度オーストラリア連邦政府予算案概要

踏み込んだ予算である一方、より広範な改革には至っていません。


チーフエコノミストより

2026/27年度オーストラリア連邦政府予算案は、ここ数年の中でも一段と踏み込んだ内容となっています。支出の抑制と歳入の増加により財政赤字を縮小しており、さらにコモディティ価格の上昇や中東情勢を背景としたインフレによる税収増が、これを後押ししています。

主な変更点としては、キャピタルゲイン税や不動産関連の税控除に対する優遇措置の縮小が挙げられます。これにより生じた増収の大部分は、個人向けの新たな年間250豪ドルの税額控除に充てられています。

全国障がい保険計画(NDIS)の見直しは、4年間で370億豪ドルの支出削減を伴い、予算削減の主な要因となっています。新たな支出は主に医療および国家安全保障に充てられており、公立病院向けに180億豪ドル、防衛分野に68億豪ドル、薬品給付制度(PBS)の対象拡大に59億豪ドルが配分されています。さらに、国家免許制度の導入や給与税管理の統一など、比較的小規模ながら生産性向上を目的とした施策も盛り込まれています。これにより、規制負担は年間102億豪ドル削減される見込みです。

 

これらの施策は方向性としては妥当であり、賃金所得とその他の所得との税負担の公平性向上に向けたものとなっていますが、本格的な制度改革と呼べる水準には至っていません。加えて、今後数年間の生産性成長率の前提を引き下げた財務省の判断は、経済見通しにおける制約の大きさや不確実性の高さを示すものとなっています。

 

税収の増加と政策変更を背景に、政府は年央経済・財政中間見通し(MYEFO)と比較して、基礎的な現金赤字の見通しを引き下げています。当年度の赤字は283億豪ドルと見込まれており、これまでの368億豪ドルから縮小しています。今後、2026/27年度には赤字が315億豪ドルへとやや拡大し、その後2年間はおおむね同水準で推移する見込みです。なお、財政収支が均衡に戻るのは2034/35年度と予測されています。

 

一方で、特にオーストラリア海軍インフラに関連する「オフバランスシート」支出の増加により、2026/27年度の見かけ上の現金赤字は641億豪ドルと見込まれており、MYEFO時点の予測の627億豪ドルをやや上回っています。ただし、歳出全体の増加は当初の想定よりも抑制されています。

 

これらの財政運営は厳しい経済環境の下で進められています。今四半期のインフレ率は約5%に上昇する見込みである一方、足元の税収が堅調であるにもかかわらず、2026/27年度のGDP成長率見通しは2.25%から1.75%へと下方修正されています。

 

家計に対する生活費支援は一時的で規模も比較的限定的なものとなっており、主に燃油税(fuel excise)を3カ月間引き下げる26億豪ドルの措置と、250豪ドルの「Working Australians Tax Offset(WATO)」が中心となっています。なお、後者については年間約30億豪ドルの財政負担が見込まれるものの、実際に家計に反映されるのは2027/28年度の確定申告時となる見込みです。

 

エネルギー価格の高騰と供給制約に直面する中で、政府はオーストラリア準備銀行(RBA)の政策運営を複雑化させないよう、追加的な財政刺激を避ける慎重な姿勢を取っています。財務相は、WATOにとどまらない追加的な個人所得減税を検討する意向を示していますが、現時点では具体的な方針は示されていません。

 

本予算は、より広範な税制改革という点では十分とは言えません。所得や収入に対する税負担の大幅な軽減には至っておらず、投資の促進や生産性の向上につながる法人税改革も限定的です。また、税制をより成長志向の形へ再構築するために必要となる消費税の見直しについても、具体的な動きは見られません。

 

キャピタルゲイン税の見直しは、住宅格差の是正を目的としたものとされていますが、その影響はスタートアップ企業など他の分野にも広がっており、新興企業の税負担が増加する可能性があります。こうした想定外の影響を最小限に抑えるため、財務省は今後、対応策について協議を行う方針を示しています。

 

イノベーション支援策は規模としては限定的ですが、前向きに評価できる内容となっています。スタートアップ企業に対する還付型税額控除の利用拡大を含む研究開発(R&D)税制の強化や、2027年7月からのベンチャーキャピタル向けインセンティブの拡充により、一定の支援効果が期待されます。また、R&D税制の上限の引き上げも一歩前進と言えますが、上限を設けない制度とする方が、イノベーション促進に向けたより強いメッセージとなった可能性があります。

 

中小企業向けの施策としては、2万豪ドルの即時償却制度の恒常化に加え、2028年7月からスタートアップ企業に対する損失還付制度を導入することや、2026年7月以降、売上高10億豪ドル以下の企業を対象とした2年間の欠損金の繰戻し還付制度を恒久化することなどが盛り込まれています。

 

総じて、本予算は短期的な財政状況の改善につながり、より規律ある政策運営を反映した内容となっていますが、投資や生産性、さらには長期的な成長を大きく押し上げるために求められる水準の構造的改革には達していません。

オーストラリア連邦政府予算案(チャート10枚)を見る(英語版のみ)   


主な政策変更

予算への影響
(単位:10億豪ドル)

政策措置

+$37.8

将来世代に向けた全国障がい保険計画(NDIS)の持続性確保

-18.1

National Health Reform Agreement - 公立病院への資金提供および連邦政府による投資

+14.7

歳入措置 - 方針決定済みだがまだ公表されておらず、公表対象ではない

-6.8

2026年国家防衛戦略および統合投資プログラム

-6.4

税制改革 - Working Australians Tax Offset(WATO)による減税

-5.8

薬品給付制度(PBS)における新規追加および既存項目の見直し(対象拡大)

+4.5

税制改革 - 裁量信託に対する最低税率の導入

+3.6

税制改革 - 住宅取得の促進 - ネガティブギアリングおよびキャピタルゲイン税の見直し

-3.1

国民生活の負担軽減  - 燃油税および大型車両向け道路利用料金の一時的引き下げ

+2.9

民間医療制度の見直し

+2.7

賃金以外の経費に関する措置 - 1年間の延長

+2.7

医療・障がい・高齢者向けプログラムへの再投資

-2.3

税制改革 - 企業およびスタートアップ向け損失還付制度

-2.1

Services Australia - 追加リソース配分

+1.9

電気自動車優遇措置 - より持続可能なフリンジベネフィット税の適用

-1.9

生産性向上 - 移民の選定精度向上およびスキル認定の強化

 

現金収支は改善も、赤字は継続しオフバランスシート支出は増加

2025/26年度の基礎的な現金赤字は283億豪ドル(GDP比1%)と見込まれており、12月に発表されたMYEFOから85億豪ドルの改善となっています。なお、2024/25年度には100億豪ドルの赤字を計上しています。

基礎的な現金赤字は、2026/27年度には315億豪ドル(GDP比1%)に拡大する見込みです。ただし、MYEFOと比べると28億豪ドル改善しており、その主な要因は、予想を上回る経済・金融環境を背景とした税収の増加です。一方で、政策変更に伴う歳出の増加が、この改善の一部を相殺しています。

予算は今後の見通し期間を通じて赤字が続く見込みであり、2029/30年度には253億豪ドルの赤字が見込まれています。これは、コモディティ価格の下落が予想される一方で、歳出圧力が引き続き高い水準にあることを反映したものです。

見通し期間全体では、MYEFOと比較して財政赤字が449億豪ドル改善した計算となります。

また、見かけ上の現金収支には、「政策目的の金融資産投資」、いわゆる「オフバランスシート」支出が含まれており、学生ローン、州政府への貸付、政府系企業への出資などが対象となっています。こうした支出は今後数年間で過去最高水準まで増加する見込みですが、MYEFOからの見直しは限定的にとどまっています。

構造的な財政収支は、2025/26年度にGDP比マイナス1.6%へと悪化し、2033/34年度まで赤字が続く見込みです。その後は徐々に改善し、2035/36年度には黒字化、さらに2036/37年度にかけて一段と改善すると予測されています。中期的には、構造的財政収支はMYEFOと比べて改善しており、その主な要因としてNDIS改革による歳出削減が挙げられます。

債務は見通し期間を通じて増加が続く

2025/26年度には、総債務は9,820億豪ドル(GDP比33.1%)に達する見込みであり、MYEFOと比較して大きな変化はありません。ただし、その後も総債務は見通し期間を通じて増加を続け、2029/30年度には1.2兆豪ドル超(GDP比35.6%)と過去最高水準に達することが見込まれています。

継続的な財政赤字の影響を受け、純債務は見通し期間を通じて増加する見込みですが、MYEFOと比較するとやや低い水準に抑えられています。純債務は、2025/26年度の5,560億豪ドル(GDP比18.8%)から、2029/30年度には7,680億豪ドル(GDP比21.9%)へと増加すると見込まれています。

MYEFOと比較して、経済の不確実性を背景に各国で国債利回りが上昇しており、新規発行や借換えに伴う政府債務は、より高い金利で発行されることが見込まれます。こうした状況を踏まえ、10年国債の想定利回りはMYEFO時の4.4%から4.8%へと引き上げられています。

その結果、純利払い費は2026/27年度の約200億豪ドル(GDP比0.6%)から、2029/30年度には320億豪ドル(GDP比0.9%)へと増加する見込みです。
 

インフレの高止まりと中東情勢が経済成長見通しを下押し

オーストラリア経済の供給制約や中東での紛争を背景に、2025/26年度の消費者物価指数(CPI)は、MYEFOと比較して1.25ポイント引き上げられ、2026年6月期までの年率で5%と予測されています。これは、RBAの見通しである4.8%に近い水準となっています。

一方、2026/27年度のCPI見通しは、原油価格の下落や労働市場の緩和を背景に、MYEFOと比較して0.25ポイント引き下げられ、2.5%とされています。インフレ率が目標レンジ内に収束する時期は、2027年6月までに2.4%とするRBAの見通しとおおむね一致しています。

実質GDP成長率は、インフレ率の上昇や金利の高止まりが家計や企業活動を圧迫する中で、2025/26年度の2.25%から2026/27年度には1.75%へと鈍化する見込みです。これはMYEFOと比較して0.5ポイントの下方修正となります。その後は、個人消費の回復や実質所得の改善を背景に、2027/28年度には2.25%へと持ち直すと見込まれています。これまで成長を支えてきた政府最終需要は、今後は横ばいで推移する見通しです。

成長率は、2028/29年度に長期平均である2.5%へと回復する見込みです。これに関連して、財務省は長期的な生産性成長率の前提を1.2%に据え置いていますが、その水準に達するまでの期間は、2025/26年度予算時点の2年から5年へと後ろ倒しされています。なお、この前提は、RBAの想定する0.7%を上回る水準となっています。

これらの成長見通しはRBAの予測と比べてやや楽観的であり、同銀行が2027年6月までに成長率を1.3%と見込んでいるのに対し、財務省は1.75%を見込んでいます。

また、オーストラリアの労働市場の堅調さを背景に、失業率の見通しはMYEFOと大きく変わっていません。財務省は、失業率が2026/27年度に4.5%でピークに達した後、2029/30年度には2.25%まで緩やかに低下すると予測しています。これは、インフレ非加速的失業率(NAIRU)を4.25%とする財務省の推計と整合的な水準です。

賃金見通しは見通し期間を通じておおむね横ばいで推移していますが、賃金価格指数(WPI)については、2026/27年度にMYEFO比で0.25ポイント上方修正され、3.5%と見込まれています。一方で、財務省は2026/27年度の実質賃金が1%増加すると予測しており、これはMYEFOよりも0.5ポイント高い水準となっています。こうした動きは、短期的なインフレ上昇を背景に2025/26年度に実質所得が1.75%減少することを踏まえたものです。

人口増加率は今会計年度においてやや上方修正され、2025/26年度予算で見込まれていた1.3%から1.4%へと引き上げられています。これは、純海外移住者数が想定を上回り、約3万5千人増加したことが要因です。今後は純移住者数の伸びが落ち着くことで、人口増加率も2025/26年度予算と同様に1.2%へと鈍化する見通しです。


サマリー

2026/27年度予算案は、支出の抑制と歳入の増加により財政赤字を縮小するとともに、コモディティ価格の上昇や中東情勢に関連するインフレを背景とした税収増がこれを後押ししています。

これらの施策は方向性としては適切であり、賃金所得とその他の所得との税負担の公平性向上に向けたものとなっていますが、オーストラリアに必要とされる包括的な税制改革という点では十分とは言えません。

また、オーストラリア企業の国際競争力を高めるための十分な支援策は見られませんでした。


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