2022/23年度ニュージーランド政府予算案概要:非凡な時代の平凡な予算

2022/23年度ニュージーランド政府予算案概要:非凡な時代の平凡な予算


2022/23年度ニュージーランド政府予算案の概要が2022年5月19日に発表されました。


要点

  • 政権2年目の予算案は無難なものとなることが多く、本年度の予算案もそのパターン通りだった。例年と異なるのは、非常に厳しい財政状況という非常事態の中で発表されたことである。
  • 今回の予算案は多くの発表が一面的で、短期的な調整のように感じられた。経済を成長させ、より多くの価値、イノベーション、生産性を推進するためのより広い、あるいは挑戦的なアプローチをとることなく、使わなければならないものに予算を割り当てただけである。


選挙を控えた3年目に、より大きく大胆な公約を打ち出すために、政権2年目の予算案は無難なものに落ち着くことが多いことは、歴史が証明しています。


ニュージーランドの本年度の予算案もそのパターン通りでしたが、例年と異なるのは、非常事態の中で発表されたことです。ロバートソン財務相は、ここ数年経験したことのないような、非常に厳しい財政状況と向き合っています。債務残高(対GDP比)は過去30年で最も高く、100年に1度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによるサプライチェーンの問題、インフレの再燃、金利の上昇、そして一部の経済評論家は景気後退についてまで語っているほどです。


財務相は本年度の予算案を、自信を持って発表しましたが、ニュージーランドを他国と比較すると、その理由は明らかです。経済的な観点から見ると、経済協力開発機構(OECD)のほとんどの国よりもはるかにうまく新型コロナウイルス感染症という難局を乗り切っています。ニュージーランドのインフレ率は6.9%ですが、米国や英国はもっと高くなっています。


本年度の予算案では、労働プログラムに多くの支出が割り当てられました。以下、主要な発表と、それらがどのような意味を持つかを簡単に解説していきます。


良い点

ヘルス関連が今回の予算案の勝ち組となり、111億ニュージーランドドル(以下「NZドル」)が割り当てられました。その中には、多くの病院のアップグレートを行うための医療関連資本投資への13億NZドルが含まれます。また、記録的な年間予算の増額も発表され、1年目に18億NZドル、2年目に13億NZドルが計上される予定です。

本予算案は、政府が生活費の問題にきちんと向き合っていることを示すもので、歓迎できます。7万NZドル未満の所得者に3カ月で350NZドルを支給する生活費給付金や、公共交通機関補助金の延長は、雇用主が賃金上昇の問題に対応できるよう政府が支援したいと考えていることを示しています。生活費給付金の支給額は週当たり27NZドルにとどまるため、これが経済全体にどのような影響を及ぼすかは分かりませんが、雇用者が生活費上昇の影響をあまり感じず、雇用主にとっては離職率が低下するという結果になるはずです。この支出にはいくつかの注意点があるため、さらに詳しく説明します。

断熱・暖房改修に7,300万NZドル、プライマリーケア専門家の育成に7,600万NZドルなど、多くの資金提供による労働プログラムが発表されていますが、これらのプログラムを推進するために賃金に対して資金が投資され、それが広い経済分野に行き渡ることにより、企業にとっても波及効果があるはずです。

特筆すべきは、食料品業界に対する規制で、長年にわたり競争を阻害する要因となってきたスーパーマーケットによる土地条項の使用を直ちに禁止したことです。これは、生活費高騰の危機に対処し、競争を促進する方法の1つと見なすべきでしょう。


注意すべき点

例年、累進課税制度における年収別課税率の見直しが発表されないため、中所得者層への打撃が徐々に大きくなっています。最低賃金でフルタイム労働をしている人の年間所得は約4万4,000NZドルで、これは30%の課税率が該当する課税所得枠の下限(4万8,001NZドル)をわずか4,000NZドル下回っているだけです。最近までこの課税率は2番目に高い税率で、本来は富裕層に適用されるためのものでした。賃金インフレが進むにつれ、政府は中低所得者からの税収をもとに、発表した多くのプロジェクトの資金源とすることができるでしょう。EYは、政府が課税最低額の引き上げに強く反対していることを評価していますが、年を追うごとに、引き上げの必要性は強まっています。

排出削減計画(Emissions Reduction Plan:ERP)は素晴らしいものでしたが、サスティナビリティに関してもっと多くのことができたはずです。私たちは以前発表したこの記事で、気候変動対策の必要性を真に満たすための項目を強調しました。予算案には歓迎できる発表もありましたが、この項目を見直すと、多くのことが欠けていることがわかります。例えば、交通費補助は、公共交通網の整備に費やすのとは別物です。

不確定なのは、政府のERPが排出量取引制度(ETS)価格にどのような影響を与えるかであり、これは価格が上昇することを見越してクレジットを蓄えている企業にとって重要です。この点に関するEYの見解については、こちらをご覧ください。

また、政府は生活費高騰の危機を先送りにしていないか注意しなければなりません。生活費給付金は3カ月しか支給されませんし、公共交通機関の補助金も2カ月で切れます。全てが同時に打ち切られた場合、生活費の高騰を招き、インフレが進む可能性があります。予算案発表時のスピーチによると、インフレ率は頂点に達しています。しかし、サプライチェーンの問題は現在も続いており、また、政府主導で人為的にコストを削減していることから、楽観的な判断であったと考えられます。新型コロナウイルス感染症関連の基金は同日正式に閉鎖され、約30億NZドルがまだ使用されていません。ロバートソン財務相は、この資金を今後数カ月間のインフレ抑制に役立てるつもりなのでしょうか?



サマリー

昨年度の分析で述べたように、本年度の予算の半分以上は厳密にはすでに割り当てられており、財務相が自由にできる資金は少なくなっていました。支出を削減しなければならない時期には、それはおそらく良いことだったのでしょう。

しかし、多くの発表が一面的で、短期的な調整のように感じられました。経済を成長させ、より多くの価値、イノベーション、生産性を推進するためのより広い、あるいは挑戦的なアプローチをとることなく、お金を使わなければならないものにお金を使っただけです。

今回の発表により、政府は来年度の予算案で大きな考えやアイデアを出すための準備が整ったと言えるでしょう。


この記事について