州・特別地域の経済をチャートから読み解く ― 業種と州を横断した広範な成長
12月期のオーストラリアの州・特別地域別経済に関するチャート:2023年11月
要点
- 23年度のオーストラリア経済は堅調な成長を遂げ、北部準州を除く各州・特別地域でほぼ均等に成長した。
- オーストラリア経済が最も急成長したのは首都特別地域(ACT)であり、逆に最も低成長だったのはタスマニア州である。
- 接客業と運輸業は23年度に観光業が回復したことにより、全州の経済を支え、医療・社会福祉業と農業も成長に大きく貢献した。クイーンズランド州と北部準州を除く全州・特別地域は、FY24の成長率がFY23よりさらに低迷する可能性が高い。
23年度のオーストラリア経済は、オーストラリア準備銀行(RBA)による金融引き締めの影響を受け、前年度より低迷したものの、全産業が全州において堅調な成長を遂げました。
23年度の全国経済成長率は3.0%で、22年度の4.3%(全国州総生産〈GSP〉の数値)に比べ緩やかな成長となりました。成長率は低迷したものの、GSPが5.3%減少した北部準州を除けば、各州でほぼ均等な成長となりました。
6月までの1年間で、オーストラリア経済が最も急成長したのはACTで4.3%、最も低迷したのはタスマニアで1.1%でした。全州で観光業が回復し、接客業と運輸業が力強い伸びを示しました。特にニュー・サウス・ウェールズ州、ビクトリア州、クイーンズランド州、タスマニア州では、医療・社会福祉部門の従事者がパンデミックによる業務滞留の解消に努めたことが、クイーンズランド州では人口増加や高齢者・障害者介護の増加が、成長の主な要因となっています。農業はまた、クイーンズランド州(6月までの1年間で8.9%増)、西オーストラリア州(7.3%増)、南オーストラリア州(7.0%増)が州の成長を支えましたが、逆にタスマニア州(6.7%減)では農業が成長を妨げる要因となりました。
州・特別地域の経済をチャートから読み解く(英語版のみ)
ニュー・サウス・ウェールズ州の23年度の経済は3.7%増となり、長期平均成長率2.4%を大きく上回り、ニュー・サウス・ウェールズ財務省の23年度予測に沿ったものとなりました。ニュー・サウス・ウェールズ州は、さまざまな産業で幅広い成長を遂げました。接客業と運輸・物流業は、国内外からの観光客が回復し、成長に最も貢献しました。一方、賃貸借・不動産サービス業は、年間を通じて売上高が減少し、住宅価格も下落したため、唯一成長が低迷しました。今後、ニュー・サウス・ウェールズ州財務省は、本年度の成長率は1.25%に落ち込み、27年度には2.25%に回復すると予想しています。
ビクトリア州の23年度の経済成長率は2.6%増で、長期平均成長率と一致しましたが、ビクトリア州財務省が予想した2.8%よりは若干低いものでした。パンデミックからの回復に伴い、ここでも接客業と運輸・物流産業が大きく貢献しました。建設業は、住宅建設よりも公共部門のプロジェクトがけん引し、全国レベルよりも増加しました。ビクトリア州財務省は、本年度の成長率はさらに低迷し1.5%になると予測していますが、26年度には長期平均を上回る2.8%まで伸びると予測しています。
クイーンズランド州は23年度のGSPが2.3%増となり、長期平均の2.4%を若干下回りましたが、クイーンズランド財務省が今年初めに予想した2.0%増よりは好調でした。農業生産は天候に恵まれたため記録的な水準まで増加し、成長率に0.3%ポイント寄与しました。これにより観光業と並んで、運輸・物流業の活動が促進されました。鉱業は成長を押し下げた主な要因でしたが、これは石炭の生産量が少なかったためであり、価格、ひいては鉱業の収益は引き続き好調であったため、同州の営業黒字は記録的なものとなりました。クイーンズランド州財務省は、将来見積もりで2.8%から3.0%の成長を見込んでいます。
西オーストラリア州の経済成長率は3.5%増で、ここ数年の堅調な成長を継続しています。しかし、この結果は西オーストラリア州財務省の予測4.3%より下振れし、長期成長率3.7%(鉱業ブーム時の記録的高成長を含む)をわずかに下回りました。1つの産業を除く全ての産業が拡大を続けました。小売業は、生活費の圧迫と住宅ローン返済の増加により家計の消費支出が減少したため、0.8%の減少となりました。鉱業は、主に鉄鉱石の生産が好調でしたが、リチウムも好調でした。西オーストラリア州財務省は、FY27までに成長率は1.5%まで低迷すると予想しています。
南オーストラリア州経済は、長期平均成長率1.3%を大幅に上回る3.8%の広範な成長を達成し、南オーストラリア州財務省の予測3.5%をも上回りました。全産業が成長し、特に銅を中心とする鉱業と農業が大きく貢献しました。南オーストラリア州財務省は、今年のGSP成長率は1.0%に低迷しますが、その後は回復し、26年度には2.0%に達すると予想しています。
タスマニア州の23年度の経済成長率は1.1%で、長期平均成長率1.7%を下回り、タスマニア財務省の予想1.5%を下回りました。好調な国内の観光客と海外からの観光客の一部回復が運輸・物流業の成長率を押し上げ、6月までの1年間で26%上昇しました。農業は、2年間好調でしたが、成長を妨げる主な要因となりました。タスマニア州財務省は、成長率はここから回復し、26年度には2.5%に達すると予想しています。
北部準州は、GSPが5.3%減少した唯一の州でした。これは5.1%の減少を見込んでいた北部準州財務省の予想通りの結果です。完全に鉱業活動によるもので、17%の落ち込みとなりました。石油・ガス採掘は、主要施設でのさまざまな障害により生産量が減少しました。北部準州財務省は、今年のGSPは2.7%増加し、その後はさらに回復すると予想しています。
ACTは、これとは対照的に前年度の2.8%から23年度には4.3%となり、全州・特別州の中で最も大きな伸びを記録しました。これは長期平均の3.5%、ACT財務省の予測3.8%を大幅に上回るものでした。その要因は主に公共部門の成長によるものです。ACT財務省は、本年度の成長率は2.3%まで落ち込むと予想していますが、その後再び回復し、27年度には3.5%に達すると予測しています。
国民経済は、生活費の圧迫と住宅ローン返済の増加が引き続き経済活動の重荷となるため、さらなる成長の落ち込みに見舞われる可能性が高くなっています。クイーンズランド州と北部準州を除く全ての州と特別地域では、FY24の成長率がFY23に比べて低迷すると予想されます。インフレの緩和には予想以上に時間がかかっており、インフレ上昇リスクは続いています。RBAのビジネス・リエゾン・プログラムによると、企業は今後1年にわたって賃金の伸びが弱まると予想しており、RBAはインフレ目標達成のためにこの成長を期待しています。労働市場の逼迫(ひっぱく)は依然として厳しいものですが、状況は和らいでおり、さらに緩和が進むと予想されます。
9月期の国民経済計算(12月6日発表)、経済・財政見通し(MYEFO、12月中旬発表)、各州の年度予算中間報告によって、年末までに景気低迷の詳細が明らかになるでしょう。
各州の予算状況と、財政の持続可能性が経済にとって重要である理由については、最近発表されたこちらのレポートもご参照ください。(英語版のみ:why fiscal sustainability is important for the economy)
サマリー
オーストラリア経済は23年度に3.0%の堅調な成長を遂げ、これは北部準州を除く各州・特別地域にほぼ均等に見受けられました。しかし、クイーンズランド州と北部準州を除く全ての州と特別地域では、特にインフレの上振れリスクが続くため、24年度は成長が低迷する可能性が高いでしょう。
You are visiting EY jp (ja)
jp
ja