州・特別地域の経済をチャートから読み解く ― 各州の住宅市場に注目

州・特別地域の経済をチャートから読み解く ― 各州の住宅市場に注目


3月期のオーストラリアの州・特別地域別経済に関するチャート:2024年4月


要点

  • オーストラリアの住宅市場は最近の金融引き締め局面において通常とは真逆の動きを見せている。また、住宅のアフォーダビリティは記録的な低水準にある。
  • パンデミック後の移民の急増によって、オーストラリアの住宅市場はさらに過熱している。
  • 住宅価格と家賃の伸びは州や特別地域によって異なり、人口増加、供給量、アフォーダビリティの違いが影響している。
  • 供給が伸び悩み、住宅需要が高まっているため、来年も価格と家賃に引き続き圧力がかかるだろう。

オーストラリア準備銀行がインフレ目標を達成する方法の1つとして、資産価格とウェルスチャネルを利用する方法があります。金利が上昇すると、借入コストが上昇し、住宅や株式などの資産に対する需要が減少するため、これらの資産価格の下落につながります。人々は経済的な豊かさを実感しづらくなり、最終的に消費や投資を減らすことになります。

通常、金融政策が引き締められると資産価格は下落します。しかし、オーストラリアの住宅市場は、2022年5月に始まった今回の引き締め局面では真逆の動きを見せています。住宅価格と家賃の伸びには州や特別地域によって差がありますが、人口増加、供給量、アフォーダビリティの違いが影響しています。

既存市場では、このところ住宅需要が供給を上回るという状況が続いており、住宅価格と家賃に上昇圧力をかける不均衡が生じています。コアロジック社のデータによると、全国の住宅価格は24年3月までの1年間で約9%上昇しています。

オーストラリアの住宅市場の勢いは、パンデミック後に起きた海外からの移民の急増によって加速していると考えられます。22年2月に国境が再開されて以来、約86万人が新たにオーストラリアに入国しています。

供給面では、政府の景気刺激策により、パンデミック期間中に建築許可が急増しました。しかし、サプライチェーンの問題や労働力不足により、完成が遅れ、建設会社は固定価格契約により苦境に立たされることになったため、大幅な工期の遅れが生じました。

最近では、金利引き上げが住宅融資にマイナス面の影響を及ぼし、住宅建設承認件数は2012年以来最低水準となっています。建設費の高騰と建設期間の長期化は、新築住宅に対する買い手心理にも影響を及ぼしています。

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住宅価格ではパースがリード

各州・特別地域の住宅価格の動きは異なります。パースでは、過去1年間で住宅価格が19.8%上昇し、他の州・特別地域と比較してこの数値は際立っています。西オーストラリア州はオーストラリアで最も人口増加率が高く、9月までの1年間で3.3%(全国では2.5%)でしたが、住宅価格は比較的低水準でした。鉱業ブーム後の建築不足と産業能力の低下が供給に悪影響を及ぼしています。

2位はブリスベンで15.9%の上昇、3位はアデレードで13.3%の上昇でした。これらの都市は、シドニーやメルボルンに比べて人口は増加しており、物価が安いという好条件に恵まれています。

一方、シドニーとメルボルンの住宅価格は、例年であればオーストラリアで最も価格上昇率が高いものの、過去1年ではそれぞれ9.6%、3.2%上昇でした。オーストラリア全土で、不動産物件総数は依然として過去最低に近く、パンデミック期を除けば2010年初頭以来の低水準です。


オーストラリア全土において厳しい状況にある借り手


パンデミック以降、人口の急増と平均世帯人数の減少が強い需要を生み出しているため、賃貸契約者も経済的なプレッシャーに直面しています¹。賃貸住宅数の伸びは近年鈍化しており、特にアパート建設が顕著です²。このため、全国の賃貸空室率は過去最低の約1%で、長期平均の約2.2%を下回っています³。消費者物価指数(CPI)で測定される家賃インフレ率は急上昇し、23年12月期には年率で7%以上上昇しました。


パースとアデレードの賃貸空室率は州都の中で最も低く、それぞれ0.4%と0.5%です。3位はブリスベンで、空室率は0.9%となっています。キャンベラの空室率は1.5%と最も高く、長期平均の1.2%を上回っています。


逼迫した賃貸市場を反映して、CPIでみるパースの賃料は12月期に最も速いペースで上昇し、2009年以来の伸び率となる前年同期比約9%増となりました。次いでシドニーが8.5%増、ブリスベンが8.4%増です。一方、ホバートの賃料は0.4%下落しました。CPIで測定される広範な賃料の先行指標である募集賃料が緩和傾向にあることは明るい兆しです。


今後の展開

全国的に、再び住宅市場が安定するのは、まだ先のことになりそうです。人口が堅調に増加しているにもかかわらず、建築承認件数は10年来の低水準にあり、建設業者は現在の工事パイプラインに影響を与える供給制約に対処し続けている状況です。海外からの純移民数は減少が予想されますが、依然として過去最高に近い水準にあります。9月期の入国者数は14万5,000人で、四半期ベースでは過去2番目に多くなっています。



サマリー

オーストラリアの住宅市場は、最近の金融引き締め局面において通常とは真逆の動きを見せています。全国の住宅価格は24年3月までの1年間で約9%上昇しました。供給の伸び悩みと住宅需要の高まりにより、特にパース、ブリスベン、アデレードでは、来年も価格と家賃に圧力がかかり続けるでしょう。住宅のアフォーダビリティはすでに記録的な低水準にあるため、この流れを変えるにはオーストラリア準備銀行による大幅な利下げが必要になると考えられます。


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