EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
新型コロナウイルス感染症の大流行から回復したものの、電化や再生可能エネルギーへの移行が大きくは進んでいない中で、原油価格は容赦なく上昇しました。ロシアを除いた供給能力が需要を満たせるかどうかについての懸念が高まったことも一因といえるでしょう。需要はパンデミック前の水準に向かって上昇を続けており、OPEC(石油輸出国機構)による最新の需要予測では2022年の平均を日量1億30万バレルとし、2019年の水準を10万バレル上回っています。経済の先行きには疑問符が付き始めており、その予想が現実のものとなるかは不透明です。
供給面の問題はより一層大きくなっています。ロシアの原油生産量は4月に日量90万バレル減少した後は安定していましたが、欧州諸国による正式な経済制裁が年末に開始される予定であり市場の対応能力が試される中で、制裁分をどのように置き換えるのかは不透明な状況です。5月のOPEC生産量はわずかながら減少(日量17万6,000バレル)して日量2,850万バレルとなり、加盟各国の余剰生産能力も限られたものとなっています。
欧州のガス市場は、表向きは技術的な問題とされるノルドストリーム・パイプラインの供給制限に⼤きく反応しました。ヘンリーハブ市場はメキシコ湾岸の液化プラントの再稼働遅延により急落し、北⽶の需給関係において輸出市場がいかに重要であるかが浮き彫りになっています。⽯油製品市況は昨年末からクラック・スプレッドが3倍に拡⼤するなど、⽯油関連市場で最も変動が激しい市場であることが証明されました。
当四半期のテーマは「モメンタムと不確実性の出合い」です。第1四半期に始まった原油・天然ガス・LNG(液化天然ガス)・⽯油製品の価格上昇傾向は第2四半期に⼊っても継続しましたが、第3四半期に⼊り、世界経済の健全性とそれが原油・ガス需要にどのような影響を及ぼすかについての懸念が⾼まっています。
インフレと中央銀⾏のインフレ対策が原油・ガス市場に影響を与えることは避けられません。パンデミックによる財政・⾦融の膨張とサプライチェーンの中断があらゆる物価に強い上昇圧⼒をかけており、⾦利上昇と量的緩和の終了が経済成⻑に影響を与えることは間違いありません。GDPの成⻑率に対する悲観的な(株式相場には反映された)⾒⽅が市場のセンチメントに⼊り込んでおり、ブレントとWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の価格が50⽇移動平均線と200⽇移動平均線を下回るなど、原油価格は第2四半期末には後退し始めました。
供給⾯も同様に不透明です。ロシア産の⽯油に対する制裁強化とその対抗策としてのガス供給制限が、すでに不安定な市場にさらなる不確実性をもたらしています。6⽉上旬、EUは12⽉上旬から始まるロシア産の⽯油への制裁を承認し、原油輸⼊の約3分の2(現在⽇量約280万バレル)と全ての⽯油精製品輸⼊(⽇量約120万バレル)が対象とされました。この決定が市場に与える影響は、結果を待つしかありません。
1.経済シナリオを支配するインフレ懸念
消費者物価の上昇は米国と欧州で40年ぶりの高水準にあります。中央銀行のインフレ対策は迅速かつ決定的になる可能性が高いですが、景気後退による影響が現状の供給サイドの問題をどの程度相殺できるは不透明です。
2.欧州に迫り来るガス不足
当四半期末には、ロシアが技術的な問題との理由からノルドストリーム・パイプラインを通じた天然ガスの供給を停⽌しました。今冬における供給不⾜が現実味を帯び、電⼒部⾨や産業界に与える影響は予断を許さない状況です。
3.過去最高水準の2倍に達した精製スプレッド
ウクライナを巡る情勢が現在のように深刻化する前までは、ロシアからの輸出が世界の石油精製品取引のほぼ1割を占めていました。その多くを失ったことで市場は混乱し、6月の平均クラック・スプレッドは60米ドル/バレル近くに達しました。
4.原油市場のカギを握る消費者の反応
原油は代替品が少ないことから、価格弾力性が非常に低いコモディティです。当四半期では供給量に大きな動きは見込めず、コストがかかろうとも買い続けるという消費者の購買意欲が試されており、それが市場の動きを決定づけることになるでしょう。
新型コロナウイルス感染症の流行からの回復により需要の拡大が続く中、中央銀行のインフレ対策が原油・ガス市場に影響を与えることは避けられません。加えてロシアへの経済制裁とロシアによるガス供給制限は、市場にさらなる不確実性をもたらすことが予想されます。今後も情勢を引き続き注視していく必要があるでしょう。
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