EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本記事では、公表されたレポートの概要をご紹介します。
要点
金融庁は、2020年6月、「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」報告書を公表し、2022年6月、「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する基本的な内容の暫定決定」において、主に第1の柱の標準モデルの考え方について、新規制の暫定的な結論及び基本的な方向性を提示しました。そして、2023年6月、「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する基準の最終化に向けた検討状況」(以下、「検討状況」)を公表し、基準の最終化に向けた主な課題を整理しました(下図参照)。
「検討状況」の公表以降、国際資本基準(ICS)に関する議論を踏まえつつ、フィールドテストの結果分析や保険会社などとの対話を通じて新規制に関する各論点を検討し、2024年5月に「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する残論点の方向性」(基準案)を公表するに至りました。
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第1の柱 |
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第2の柱 |
保険会社の内部管理の高度化、第1の柱では捉えきれないリスクの把握・分析、当局が会社に提出を求めるデータ |
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第3の柱 |
市場関係者向け開示(定量・定性)、消費者向け開示、開示方法・時期 |
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生命保険リスク、損害保険リスクについて、一定の要件及び当局審査の下、各社の実績データによる会社固有のストレス係数・リスク係数を適用可能とされています。
金利リスクにおいて、一定の要件及び当局審査の下、計測方法は標準モデルと同一とされていますが、金利リスク計測時に内部管理で用いる割引率を適用する手法(内部割引率手法)を適用可能とされています。
株式リスクの算出にて、株価水準の状況に対応するための株式リスクに係る対称調整メカニズムは導入しないとされています。
海外子会社の統合方法は、保険監督者国際機構(IAIS) による米国合算手法の比較可能性評価の結果(2024年第4四半期に判明予定)に応じて、方向性を決定するとされています。
PCR(改善計画の提出・その実行の命令を行う第一区分の監督介入開始点)をESR=100%とし、保険金等の支払能力の充実に資する各種措置に係る命令である第二区分の開始点をESR=70%とされています。
PCRに抵触した場合、現行制度と同様、原則1年以内に100%以上に回復すべき旨が規定されています。また、第二区分の開始点に抵触した場合は、原則6カ月以内に70%以上に回復すべき旨が規定されています。
MCR(期限を付した業務の全部また一部停止命令である第三区分の開始点)の水準は、ESR=35%とされています。また、第三区分の開始点に抵触した場合は、原則3カ月以内に35%以上に回復すべき旨が規定されています。
新規制導入時は、自然災害リスクのみが内部モデルの対象とされています。ただし、将来的には、優先度に応じて段階的にスコープの拡大を検討するとされています。
内部モデルの適用は、一定の基準に基づく当局の審査及び承認後のモニタリングが前提とされています。
内部の検証態勢について、検証機能の役割、資格要件、独立性及び適格性要件等を設定するとされています。
外部専門家による検証について、経済価値バランスシートへの合理的保証業務を導入するとされています。
以下の論点の具体的内容について引き続き検討するとされています。
①所要資本・適格資本、②バランスシート、③感応度分析、④変動要因分析等の定量情報、及び、計算前提や手法に係る事項等の定性情報について法定開示とし、定量情報については、当局が一定の様式を定めるとされています。
第1の柱に関する制度の枠組みの方向性を以下のようにまとめました。
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ESRの内部検証及び外部専門家による検証の枠組みの方向性を以下のようにまとめました。
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内部の検証態勢の方向性 |
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外部専門家による検証の方向性 |
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標準モデルや第1の柱の内部モデルの方向性のうち、バランスシート項目の評価や外部検証に関連すると考えられる項目を以下のようにまとめました。
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「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する残論点の方向性」(基準案)では、以下のようなタイムラインが案として示されています。
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2025年に公布が予定される経済価値ベースのソルベンシー規制の導入に際して、今後、保険会社は保険会社内部の検証態勢の構築・外部専門家による検証への対応が求められます。残課題を理解し、ESRガバナンスの態勢整備を進めていくことが重要となるでしょう。
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