経済価値ベースのソルベンシー規制~ESRアップデート~

経済価値ベースのソルベンシー規制~ESRアップデート~


金融庁は、経済価値ベースのソルベンシー規制等の導入に向けて、2024年10月および2025年1月に、新規制に関する法令等の新規又は改正案を公表しました。2026年3月末の適用に向けて多くの議論がまとまり、法令等の整備が進んでいます。本記事では、公表された主要な内容をご紹介します。


要点

  • 2026年3月末基準の初回報告に向けて法令等の整備が進んでおり、保険会社は対応を求められている。
  • 2024年10月の公表では、所要の新規法令案および改正が行われた。この中では、初回報告の延長措置(事業年度経過後7カ月 以内)の規定が設けられ、また、保険監督指針においてソルベンシー・マージン比率の適切性を確保するための態勢整備などの項目が新設された。
  •  2025年1月の公表では控除合算手法の導入および取扱いが明確化された。

「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する保険業法施行規則の一部改正(案)」等(2024年10月31日、金融庁)およびIAISにおけるICSの採択等に伴う「経済価値ベースのソルベンシー規制(第1の柱)に関する告示案」等(2025年1月31日、金融庁)の公表

これまでの経緯

2020年6月、「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」報告書が公表されました。続いて2022年6月には、第1の柱の標準モデルの考え方について、新規制の暫定的な結論と基本的な方向性を示す「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する基本的な内容の暫定決定」が公表されました。2023年6月には、基準の最終化に向けた課題を整理した「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する基準の最終化に向けた検討状況」が公表され、その後、2024年5月に、国際資本基準(ICS)に関する議論を踏まえ、フィールドテストの結果分析や保険会社等との対話を通じて新規制に関する各論点の方向性を整理した「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する残論点の方向性(以下、「基準案」)」が公表されました。

そして2024年10月に、これまでの⽅向性に従い、新規制に関する法令等について、所要の新規制定または改正を行うため、「保険業法施⾏規則の⼀部を改正する内閣府令(案)」等が公表されました。

2025年1月には、保険監督者国際機構(IAIS)においてICSが採択され、ICSと米国合算手法(米国AM)の比較可能性評価に関する結論が示され、告示案等にこれらの変更を反映するため、「経済価値ベースのソルベンシー規制(第1の柱)に関する告示案」等が公表されました。


2. 改正案等の概要

2024年10月「保険業法施⾏規則の⼀部を改正する内閣府令(案)」等

2024年5月公表の「基準案」において示された各論点の方向性から大きな変更はみられませんが、主な特徴は以下の通りです。

  • 初回報告の延長措置(事業年度経過後7カ月 以内)の規定が設けられました。
  • 第3の柱に関して、「基準案」には含まれていなかった開示に関する別紙様式(第一号から第八号)が具体的に示されました。
  • 保険監督指針においてソルベンシー・マージン比率の適切性を確保するための態勢整備などの項目が新設されました。
  • 新規制の導入に合わせて、価格変動準備⾦の積⽴基準、積⽴限度ならびに危険準備⾦ Ⅱのリスク係数等および危険準備⾦の取崩基準について、環境変化等を踏まえた⾒直し改正も行われることになりました。
  • さらに、現行の法定開示項目において重要性の低下した項目等の改廃も行われました。
     

2025年1月「経済価値ベースのソルベンシー規制(第1の柱)に関する告示案」等

2024年10月公表の「保険業法施⾏規則の⼀部を改正する内閣府令(案)」等からの主な更新点は以下の通りです。

  • 海外子会社に係る統合手法の取扱い について、IAISによるICSの議論を受け、以下の手法が盛り込まれることになりました。
  • IAISによる米国AMの比較可能性評価の結果を踏まえ、連結ESRの算出にあたって、EUソルベンシーⅡ で導入されている控除合算手法と整合的な手法を用いることができ、その対象法域は、IAISにおける米国AMの比較可能性評価の内容と整合的に米国のみとされることになりました。
  • 控除合算手法の適用に関して次の要件が定められました。①当該手法を適用して算出する連結ESR(当該手法適用ESR)とは別途、当該手法を適用しないで算出した連結ESR(原則法ESR)の報告・開示を義務付けること、②原則法ESRに対する当該手法適用ESRの上限を設定すること(原則法ESR+15%)、③双方のESRを内部検証・外部検証の対象とすること、④当該手法の適用は届出事項とすること。
  • また、非保険事業の所要資本の計算方法及び再保険に係る格付の取扱いについての改正も行われました。

※「控除合算手法」とは、一定の海外子会社を連結の範囲から除いて親会社等の所要資本及び適格資本を算出し、当該海外子会社については、現地規制に基づく所要資本及び適格資本に所定の調整(係数を乗じる等)を行った上で、親会社等の所要資本及び適格資本と合算することで連結 ESR を算出する手法。


3. 新規制導入に向けたタイムライン案

新規制の導入に向けたタイムライン案は以下の通りです。

新規制導入に向けたタイムライン案

出典 :「経済価値ベースのソルベンシー規制の概要 2025年1月31日 保険課 保険モニタリング室」より (2025年2月20日アクセス)
www.fsa.go.jp/news/r6/hoken/20250131-2/00.pdf


サマリー

2026年3月末の経済価値ベースのソルベンシー規制等の適用に向けて、保険会社は自社の態勢整備を進めることに加え、明確になった取扱いへの対応が求められます。初回報告に向けて、本規制に関する算出方針の検討、ガバナンスの態勢整備などを進めていくことが重要となるでしょう。


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