保険業界のDX・AI活用はどこへ向かうのか――日米比較で見る保険市場の変革動向

保険業界のDX・AI活用はどこへ向かうのか――日米比較で見る保険市場の変革動向


急速な高齢化やデジタル化の進展、規制強化等、保険業界を取り巻く環境は大きく変化しています。本記事では、日本と米国の視点からマクロトレンドと変革ニーズを分析し、日米双方向の戦略的動きを整理し、今後の投資と組織改革の方向性を示します。


要点

  • 日本の保険業界は、高齢化・DX・AI活用・規制強化を背景に変革と成長機会が拡大している。
  • 日米の保険市場は、DXと事業変革、グローバル連携を通じた競争力強化が加速している。
  • 日米市場での成長には、テクノロジー活用と人材戦略を軸に、投資・提携・市場参入を進めることが重要である。


日本と米国の保険市場は、人口動態、医療費、デジタル化、規制強化といった共通課題への対応を通じて、戦略的な事業モデル転換とグローバル連携を加速させています。本レポートでは、日米の動向を踏まえ、注力すべき投資領域と組織変革の方向性を整理します。マクロトレンド分析と保険会社の変革ニーズに加え、EY Japan保険セクター パートナーの久永 勝義とEY Americas Insurance Sector LeaderであるJeff Gillが、日米双方の戦略的な動きを両市場の各視点から掘り下げます。

1. マクロトレンド分析

日本では、人口減少と高齢化が国内保険市場の構造的な成長制約となっています。高齢化率は2024年時点で29.3%に達し、2040年には34.8%、2070年には38.7%まで上昇すると見込まれています。一方、個人保険の保有契約高は2023年度末の790.8兆円から2024年度末には779.0兆円へ減少しており、高齢化の進展と従来型保障市場の縮小が同時に進んでいることが分かります。米国では医療費の高騰が保険料、引受、給付管理、医療ネットワーク戦略に直接影響しており、2023年の国民医療費は4.9兆米ドル、1人当たり14,570米ドルに達しました。こうした環境変化に対応するため、日米両市場では、AI活用、レガシーシステム刷新、資本効率改善、再保険活用を組み合わせた変革が重要になっています。

客観データで見る市場環境

指標数値保険会社への示唆
日本の高齢化率2024年29.3%、2040年34.8%、2070年38.7%介護・認知症・健康寿命延伸型商品へのシフトが必要
個人保険の保有契約高2023年度末790.8兆円、2024年度末779.0兆円(前年比98.5%)従来型の死亡保障ニーズが縮小し、保障内容の質的転換が進展
米国国民医療費2023年4.9兆米ドル、1人当たり14,570米ドル医療費管理、プライシング、予防・ウェルネス連携、データ活用の高度化が不可欠

図1 高齢化の進展と国内保険市場の構造変化

図1 高齢化の進展と国内保険市場の構造変化
出所:内閣府(令和7年版高齢社会白書)、生命保険協会「生命保険の動向(2025年版)」を基にEY作成

日本市場における主要なマクロトレンド、戦略的示唆およびビジネスインパクトは、以下の通りです。

マクロトレンド客観データ戦略的示唆・ビジネスインパクト
高齢化と長寿リスク65歳以上人口比率は2024年29.3%から2040年34.8%へ上昇見込み長期介護・認知症保障の需要増加、死亡保障中心モデルからの転換、リスクモデルの再構築
デジタル化と制度改革顧客接点のオンライン化、マイナンバー制度活用、AI・クラウド投資が拡大顧客体験の向上、業務効率化、サイバーセキュリティ強化、AI活用によるリスクモデルの高度化
資本効率と再保険取引経済価値ベース規制への対応、金利・市場変動による資本負荷の変化ESR*対応を目的とした海外再保険活用、資本効率改善、グローバルなリスク移転の高度化

*ESR (Economic Solvency Ratio):経済価値ベース・ソルベンシー比率


2. 保険会社の変革ニーズ

DX*およびAX**は、保険会社にとって最優先の変革テーマです。特に日本市場では、人口減少により新規契約獲得余地が制約される一方で、高齢化に伴って医療・介護・ウェルネス関連の保障ニーズが高まっています。米国では医療費高騰が保険料水準や支払管理を押し上げており、データ活用、予防、給付管理、医療ネットワーク最適化の重要性が増しています。あわせて、人材戦略では単なる採用にとどまらず、デジタル・AI人材とクロスボーダー人材の流動性を確保することが重要です。

*DX (Digital Transformation):デジタルトランスフォーメーション
** AX(AI Transformation):AIトランスフォーメーション


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変革ニーズを裏付ける外部環境

外部環境客観データ変革ニーズへの接続
日本:人口減少・高齢化総人口は2024年1億2,380万人、2070年8,700万人見込み国内市場の量的拡大に依存しない、商品・チャネル・海外成長戦略が必要
日本:保障市場の構造変化個人保険の保有契約高は2024年度末779.0兆円、前年比98.5%に減少死亡保障中心から、介護・医療・ウェルネス、資産形成、非保険サービスへの転換が必要
米国:医療費高騰国民医療費は2023年4.9兆米ドルから2024年約5.3兆米ドルへ増加。1人当たり医療費も14,570米ドルから15,474米ドルへ上昇保険料水準、給付管理、医療ネットワーク、予防・ウェルネス連携を一体的に見直す必要

図2 米国医療費高騰と保険会社への影響

図2 米国医療費高騰と保険会社への影響
出所:CMS National Health Expenditure Data、Peterson-KFF Health System Trackerを基にEY作成

保険会社が直面する主な変革ニーズと対応領域は、以下の通りです。

変革ニーズ主な対応領域根拠・期待効果
商品戦略の再設計健康・介護・ウェルネス重視型、カスタマイズ型保険へのシフト高齢化と医療費上昇に対応し、保障ニーズと収益機会を再定義
DX・AXAI・クラウド活用、顧客体験の向上、レガシーシステム刷新コスト競争力、処理スピード、データドリブンな引受・支払管理を強化
グローバル展開海外市場進出、M&A戦略、資産運用ビジネスの強化国内市場の成長制約を補完し、収益源とリスクを分散
人材再構築バイリンガル人材、デジタル・AI専門人材、クロスボーダーでの流動性日米連携、PMI、規制対応、テクノロジー導入を担う実行力を確保

3. 日米クロスボーダーの動向

ここでは、まずEY Japanの久永より、日本の保険会社の動向についてお話しします。

日本市場では、人口減少と高齢化の進展により、保険料収入の伸びが鈍化しつつあります。国内競争も一段と激しくなる中、多くの保険会社は成長機会を海外、とりわけ北米市場に求める動きを強めています。

北米は、世界最大級の保険市場であり、収益性、事業規模、商品・ビジネスモデルの多様性の面で非常に魅力的な市場です。そのため、日本の保険会社は北米での事業拡大やM&Aを加速させており、生命保険・損害保険会社に加えて、資産運用会社やヘルスケア関連企業への投資も増えています。

こうした動きの背景には、単なる規模拡大にとどまらず、事業ポートフォリオを多角化し、長期的に安定した収益基盤を構築したいという狙いがあります。特に、保険に資産運用やヘルスケアを組み合わせた統合モデルは、相対的に低金利環境が続く中で、収益の安定化に寄与しています。

テクノロジーの観点でも重要な動きがあります。米国で先行しているデジタル保険モデル、データ活用、クラウドやAIを活用した商品設計・リスク管理の仕組みを取り込み、日本本社のDX・AX戦略に反映させようとする取り組みが進んでいます。

一方で、課題も明確です。米国では州ごとに異なる保険規制が存在するため、現地の制度や監督環境を正しく理解し、対応できる専門知識と人材が不可欠です。また、M&A後のPMI*では、文化や組織の違いによる摩擦をいかに抑えるかが重要であり、クロスボーダーで活躍できる人材の育成が、これまで以上に求められています。

*PMI:Post Merger Integration (統合プロセス)

EY Japan 保険コンサルティング  パートナー  久永 勝義
EY Japan 保険コンサルティング  パートナー
久永 勝義

次に、EY AmericasのJeff Gillより、米国から見た日本市場についてお話しします。

米国の保険会社は、日本市場を「成熟している一方で、高付加価値領域の潜在力が大きい市場」と捉えています。そのため、デジタル化や規制対応を強化する目的で、日本のパートナーとの協業を模索する動きが目立っています。

特に、日本の保険業界にはレガシーシステムや複雑な販売チャネル構造といった課題が残っており、米国企業からは変革余地の大きい市場と見られています。こうした背景から、DX・AX領域を中心に、投資や支援の動きが加速しています。

具体的には、顧客体験の向上を目的として、クラウド基盤、AI、データ分析を活用したソリューションの提供が進んでいます。保険契約管理や請求処理の自動化は、特に注目度が高い領域です。

規制対応の面でも協業ニーズは強まっています。日本の金融庁によるESR規制や販売チャネルへの監督強化を踏まえ、ガバナンス、コンプライアンス、リスク管理に関する米国の知見を日本市場に提供する動きが広がっています。

商品面では、健康・ウェルネス関連商品やサステナブル保険の共同開発を通じて、日本市場での差別化を図るパートナーシップも増えています。

一方で、課題もあります。日本特有の代理店網や顧客習慣への適応は容易ではなく、市場参入に当たっては現地理解が不可欠です。また、外資系企業が日本市場で信頼を獲得するためには、現地パートナーとの協業が重要な成功要因となります。

EY Americas Insurance Sector Leader  Jeff Gill
EY Americas Insurance Sector Leader
Jeff Gill

4. 投資優先領域と推奨アクション

日米クロスボーダーで進む双方の動きを踏まえると、保険会社が今後の競争力を維持・強化するためには、以下の領域に優先的に投資し、具体的なアクションにつなげることが重要です。

  • テクノロジー投資
    AI、クラウド、データガバナンスを中核に据え、両市場における業務効率化と顧客体験の高度化を推進する。

  • 人材への投資と流動性確保
    バイリンガル人材やデジタル専門人材の育成に加え、クロスボーダーでの配置と人材流動性を高める。

  • コスト競争力の強化
    グローバル案件の獲得を見据え、競争入札に耐え得る価格戦略と迅速な意思決定プロセスを構築する。

  • 組織連携の深化
    グローバルネットワークを最大限に活用し、国境を越えた案件創出と実行力の強化につなげる。

  • サステナビリティの強化
    気候リスク開示やサステナブル商品の開発を通じて、社会課題の解決と中長期的な企業価値向上を両立させる。

これらの取り組みを通じた日米間の連携強化は、日系保険会社のみならず、日本市場で事業を展開する米系保険会社にとっても、持続的な成長を実現する上で大きな価値をもたらします。EYは、日米両国の知見を結集し、クライアントの皆様の事業変革と成長を力強く支援していきます。

一列目左から: EY Japan 保険コンサルティング パートナー 久永 勝義 EY Americas Insurance Solutions Leader Laura C Ford EY Americas Financial Services Office Principal John Vale EY Americas Insurance Sector Leader Jeff Gill 二列目左から: EY Americas Actuarial Leader Chad R. Runchey EY Global Client Service Partner Walter Poetscher EY Asia East / Japan 金融サービス・リーダー 山野 浩 EY Americas Financial Services Partner Nancy Conturso EY Japan 金融サービス・コンサルティングリーダー 田中 玲
一列目左から:
EY Japan 保険コンサルティング リーダー パートナー 久永 勝義
EY Americas Insurance Solutions Leader Laura C Ford
EY Americas Financial Services Principal John Vale
EY Americas Insurance Sector Leader Jeff Gill
二列目左から:
EY Americas Financial Services Principal Chad R. Runchey
EY Global Client Service Partner  Walter Poetscher
EY Asia East / Japan 金融サービス リーダー 山野 浩
EY Americas Financial Services Principal  Nancy Conturso
EY Japan 金融サービス コンサルティングリーダー 田中 玲



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サマリー 

日系保険会社および日本で展開する米系保険会社が注力すべき投資領域とアクションの方向性を導くために、本レポートでは、日本と米国の保険市場に共通するマクロトレンドと変革ニーズを分析し、日米双方向の戦略的な動きを整理しています。


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