プライベートエクイティの最前線と動向 ~ESGやSDGsとも連携するプライベートエクイティ・ファンドの機会とリスク

プライベートエクイティの最前線と動向 ~ESGやSDGsとも連携するプライベートエクイティ・ファンドの機会とリスク


プライベートエクイティ(PE)の世界が注目されており、PEファンドという言葉を聞く機会が増えています。これは勢い、インパクト、影響力が活発になっている投資の業態です。


要点

  • 日本におけるPE業界の投資活動は過去・現在・将来の点からとても活発で、投資リターンの機会は世界から見ても魅力的である。
  • ESG・サステナビリティの価値観に沿った投資機会の創出と「良い会社」が「良いリターンを出すProfitableな事業」につながるステークホルダーとしての責任を果たす重要性が増しており、社会的責任として高まると考えられる。

EY Japanは「現在の多様なリスクに対するオルタナティブ投資の役割とその未来」と題したイベントを開催し、さまざまなリスクに対するオルタナティブ投資の役割とその未来について論議しました。

その最前線で活発に投資しているCLSAキャピタルパートナーズジャパン株式会社 代表取締役社長の清塚 徳 氏と、パートナーズ・グループ・ジャパン株式会社 プライベート・エクイティ部門 日本チーム責任者を務める越智 多津哉 氏に、ゼネラルパートナー(以下、GP)としての立場から、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション シニアアドバイザーの田村 晃一がお話を伺いしました。PEファンドとして実際に運用するGPの観点からのお話に加え、資金を提供するLP、いわゆるリミテッドパートナーからの観点についてEYパルテノンのエグゼクティブアドバイザーであるデビッド・ニコルズからも話をしてもらいました。

前編では、ESGやSDGsとも連携する、現時点でのプライベートエクイティ・ファンドが捉えている投資機会とそれに伴うリスクについて語ってもらいます。


オルタナティブ投資対談【前編】

田村 晃一(以下、田村): 日本における現在まで25年以上になるプライベートエクイティ・ファンド業界(“PE業界”)による投資活動の経験はどのようなもので、今後のPE業界の投資活動はどのように進化していくか。その過程でどのようなビジネス機会とリスクに直面すると考えていますか。

清塚 徳氏(以下、清塚氏): 現状を一言で言うと、かつてここまでPEファンドが活況を呈したことがなく、ようやく日本の社会やビジネスの中にわれわれの機能や存在が定着したと思っています。正式な統計は発表されていませんが、2022年のPE投資の総数が200件くらいになったようです。23年かけててここまで来たわけですが、大きく5つのカテゴリーがある中で、今回はすべてが活況を呈する状況を迎えました。ハゲタカ議論を乗り越えてここから定着し、今後も順調に成長していくというのが私の見立てです。

田村: PE業界の投資機会の5つの矢(カテゴリー)である、カーブアウト、非上場化、事業承継、再生、ファンドツーファンドのどれもが活況であるとの事、大きなモメンタムを感じますね。越智さんに伺います。世界のPEファンドは、日本のマーケットをどう見ているのでしょうか。

越智 多津哉氏(以下、越智氏): 清塚さんがおっしゃったように20年ほどかけて日本のPE業界も成長を遂げてきていて、私の記憶が定かであれば、2021年の案件数が130件ほど。それに対して今年は200件ほどというところなので、足元でもますます活況を呈している状況と認識しています。ですが一歩ステップバックして、経済規模に対するPE市場の大きさを考えてみると、実は米国だとだいたい4%程度。欧州でも2%から3%程度普及している中で、実は日本でまだ1%程度にも到達していない。足元の数字だと多分0.5%程度ですので、経済規模に対してのPE市場はまだまだ伸び代があると、グローバルな観点から間違いなく見られているかなと思います。

去年から米国での利上げもありましたし、景気減速懸念がだいぶ高まっていく中でも、PEにとって非常に大事な要素の一つであるファイナンシング、LBOファイナンシングというものが多少減速してきているという状況は海外で発生しています。日本にも影響はありますが、欧米に見られるような壊滅的な影響ではなく、相対的に見ても案件はまだまだやりやすい環境にあります。マクロ、そしてファイナンシングの環境から見ても、まだまだやれる余地はだいぶあるというのが足元の状況だと認識しています。

田村: 相対的に見ると投資リターンが日本より高いように見える日本以外の世界から見た、日本のPE投資業界のビジネスに対する魅力や期待、そしてリスクという点ではどのようなものがあるとお考えでしょうか。

清塚氏: われわれは投資家30社くらいにご支援いただいており、その4分の3が海外です。十数年前とは比べ物にならないぐらい日本に対する期待が大きい。いろいろ理由はありますが、一番は日本のPEファンド、特にミッドキャップ、スモールキャップが、欧米で期待されるリターンを上回り続けてきている、あるいは今後も出せるのではないかとみられているためです。日本のPEファンドはまだ未成熟で、従ってマーケット環境が非効率であるものの、そこにある意味でテイクアドバンテージしていくようなチャンスがあり、そこを上手にやっているGPはリターンを上げている。しかも単にワンタイムじゃなくてサステナブルな形でリターンを上げている。ここに海外の投資家が非常に注目していると思います。

イベント「現在の多様なリスクに対するオルタナティブ投資の役割とその未来」

田村: GPとして投資活動に忙しくされている投資家の皆さまからは日本のPE業界のビジネスが本当に大きな期待と魅力があるということ、そして相応のリスクが伴うということもよくわかりました。では次に機関投資家であるLPからはどのように見えているのでしょうか。

デビッド・ニコルズ(以下、ニコルズ): 投資戦略が矢であるとすると、LPの役割は弓と言えるかもしれません。株式市場から得られるリターンを超えるリターンを求める期待は一段と高まるでしょう。需要と供給の関係を考えてみると、より多くの新しい資金を需要、限られたPE業界を供給と考えると、それに振り向けられた新しい金融投資機会のプライスが上がっていきます。この場合のプライスは資金の集まるGPが受け取るリターンということになり、このPEのGPのリターンの上昇は、結果として投資家の受け取るリターンが減少するということにもつながります(GPが運営するPEファンドに投資するコストのプライス上昇に伴い、LP投資家がネットで受け取るリターンが減る現象)。

田村: ここからは、ESGとサステナビリティの話題に移っていきたいと思います。パートナーズ・グループの本拠地であるスイスのPEファンドとして、これをどう捉え、どのようなことをリスクや機会と見ていますか。

越智氏: われわれはスイスが拠点ということで欧州のファームでもありますので、ESGやそれに対するセンシティビティは相当に高いと思っています。われわれは必ずしもリスクとは捉えておらず、むしろ投資先の企業をどのようにバリューアップしていくか、その観点で見ているということが多いです。

海外の投資委員会や経営陣と話していく中で、日本の一般的な企業のESGの取り組み具合と欧米での取り組み具合の比較の話によくなるのですが、やはりガバナンスのところで多少後れを取っているというコメントがある一方、それはアップサイドなのではないかというコメントがよく出てきます。ESGの観点で投資を絞るということはまったく考えておらず、基本的には投資をした企業をESGの観点でどうバリューアップさせ、どちらかと言うとアップサイドを狙っていくような発想で見ることが多いです。投資先を限定するというよりかは、投資先の機能をバリューアップという観点で見ていることが多いと認識しています。

田村: 事業体がESGやSDGs、いわば良きコーポレーションになるための努力をするとき、ビジネスとして何が良くなるのかとか、事業価値を上げるのにどれだけ貢献しているのかというのは、非常に重要な要素になってきます。ステークホルダーとして、株主として入るPEの方々は、どのようにそれを機会として捉え、事業のポートフォリオの価値を上げていくというところにつなげていくのでしょうか。

越智氏: とても根源的な質問と思っております。社会に与える影響、サステナブルな成長を企業体もしっかり考えていかないといけないという時代に入ったことは間違いありません。世間も株式市場も含め、エクイティを出す側からの要望としてそういう要求が高まってきているのも間違いないと思います。

サステナブルな事業体に変わらないとエクイティのファンディングが受けづらくなってしまう世界にこれから移っていくのではないでしょうか。こういう傾向は欧米を中心にだいぶ強まってきていますが、日本ではまだそこまでセンシティビティが高くないのかもしれません。欧米ではESGフレンドリーな、環境に配慮した事業体に変わらないとリスクマネーを受け入れられなくなってきていると思います。

清塚氏: 事業ポートフォリオの皆さまにはまず小さな足元のところから改革をお願いしています。結果的に職場環境が良くなって採用が改善するとか、リテンションが上がるとか社員のやる気や生産性が上がっていくことに気づいてもらえると、これは単なるきれいごとではなく、自分たちのパフォーマンスに直結することを感じていただき、そこから先がスムーズになります。もう一つ非常に勇気づけられるのは、若い社員たちのESGに対する意識が高いので、会社がそういう活動をしていると、エンゲージメントがずいぶん上がります。いろんな意味で前向きな形になってきている印象がありますね。

田村: ESGやサステナビリティにポジティブな場合は、利益もリターンをポジティブであり、そういった世界を目指してステークホルダーが全員一致して進んでいく必要があると捉えるべきであると理解しました。日本は世界のスタンダードに対してどのくらい後れを取っているのか。キャッチアップすることが日本にとって是なのか。そのあたりも含めて、今どういう状況でどういうところに向かって行くべきなのでしょうか。

清塚氏: 国ごと地域ごとにESGに対する考え方が違うというのが私の印象です。一番進んでいてシリアスに受け止めているのが、スイスを含む欧州ですね。LPからの要請としても、必ずデューデリジェンスの中の重要項目としてESGがあります。日本は、ようやくそういったことが重要なのだという認識が出てきて、徐々にそれが広まりつつある状況です。ですから、PE協会としてももっと積極的にリーダーシップを取らなくてはなりません。そこで重要なのは決して何かのコピーではなく、日本に根付いた現実的なものをやりたいということです。

田村: GPの立場からのESGやサステナビリティにおける本質の捉え方のお話を伺ってきました。LPである機関投資家の立場からはどのような期待とリスクがあると見ているのでしょうか。

関連リリース

EY調査、企業と投資家の間でサステナビリティの取り組みに対して温度差

EYは、企業と投資家の意識を調査したレポート「EY Global Corporate Reporting and Institutional Investor Survey」を発表したことをお知らせします。企業と世界に広がる投資家の多くの間に、サステナビリティ活動に対する意識の相違がある、多くの企業・組織で資本調達が滞る恐れ、および脱炭素化の進展が妨げられる可能性があることが本調査で判明しました。

    ニコルズ: ESGに関してLPの捉え方には4つあります。一番目は、すべてのLPはまず、ESGの開示要件を順守したいと考えています。業界と規制当局は、明確な開示要綱を設定する方向に向かっており、効果的であるとかベストプラクティスであるというよりも、重要なのは白黒はっきりした明確な方法で、LPがESG投資を実行できるということです。

     

    二番目は、実際に運用・適用するには複雑になってしまうポイントです。すべてのLPが投資の優先順位を見直している状況で、純粋により優れたリターンを求める案件と、純粋により良い環境、社会、ガバナンスのための投資のバランスという悩ましい課題です。その点でPE業界のGPは、透明性のあるコミュニケーションにより、ファイナンシャルリターンとESG課題の取り組みとのトレードオフについてLPの認識を高めることができます。

     

    三番目のポイントですが、LPはESGとサステナビリティに貢献しながら、より優れたファイナンシャルリターンを得る投資を目指しています。これは皆の目標でもあると思いますが、その両方のプライオリティをカバーする画期的なイノベーション関連の投資があるかもしれません。四番目は一番複雑なポイントで、どのように外部から見られているかというパーセプションの問題です。ESGにポジティブな案件であったとしても、世の中的にはマイナスの印象の案件もあり、LPはしっかり明快に投資案件のESGインパクトについての留意や考え方、見方を説明できなければなりません。



    プロフィール


    清塚 徳 氏 CLSAキャピタルパートナーズジャパン株式会社 代表取締役社長

    清塚 徳 氏

    CLSAキャピタルパートナーズジャパン株式会社 代表取締役社長

    CLSAキャピタルパートナーズジャパンで投資活動全般を指揮するとともに、投資先の取締役に就任し投資先を支援。同社に入社する以前は、カーライル・グループのディレクターとして、主に消費財・ヘルスケア・化学業界などのMBO投資を担当。それ以前は、三菱UFJ銀行に16年間勤務し、日本や東南アジア諸国にてM&Aアドバイザリー業務や、シンジケートローンアレンジ業務に約10年間従事。



    越智 多津哉 氏 パートナーズ・グループ・ジャパン株式会社 プライベート・エクイティ部門 日本チーム責任者

    越智 多津哉 氏

    パートナーズ・グループ・ジャパン株式会社 プライベート・エクイティ部門 日本チーム責任者

    スイス系運用大手パートナーズグループの日本におけるプライベートエクイティ投資責任者。2022年の入社以前は、10年超にわたり米系大手プライベートエクイティ・ファンドのKKRおよび欧州系大手プライベートエクイティ・ファンドのCVCにて、日本における多数の投資案件の新規開拓・投資実行・バリューアップなどに従事。それ以前は米系大手投資銀行のCitiおよびLazardにてM&A・資金調達アドバイザリー業務に従事。



    デビッド・ニコルズ EYパルテノン エグゼクティブアドバイザー

    デビッド・ニコルズ

    EYパルテノン エグゼクティブアドバイザー

    米国および日本において資産運用業界を含む金融業界で30年にわたる豊富な経験があり、多くの会社のCEO、CAOおよびCOOを歴任。世界的な大手カストディバンクの共同代表を務めた経験がある。金融商品開発や資産運用ビジネスにおけるマーケット戦略に精通。また、日系大手資産運用会社のバックオフィス・ミドルオフィス業務構築を指導。



    田村 晃一 EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション シニアアドバイザー

    田村 晃一

    EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション シニアアドバイザー

    投資銀行事業本部・アジア太平洋地域統括、およびストラテジー・アンド・トランザクション事業のシニアアドバイザー。2021年12月までシニアパートナーとして日本マーケッツ統括。2008年から2018年の10年以上にわたり世界最大手コンサルティングファームでさまざまなグローバルリーダーシップの役割を担う。1992年よりコンサルティング・PE投資会社などにおいてM&A、投資銀行、PE投資業務などに従事。プロボノプロジェクトおよびさまざまなリーダーシップ育成プログラムを推進。


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      サマリー

      EY発行の「2022年版グローバルオルタナティブ投資サーベイ(PDF)」でもプライベートエクイティが果たす役割が注目され、日本の社会やビジネスの中でもその存在が定着してきています。成長が続く見込みのPEファンドについて、ESGとサステナビリティの観点からどう取り組むべきかなど、異なるプレーヤーの多角的な視点から理解していくことが重要です。


      この記事について