グリーンインフラに資金を呼び込む――国土交通省のファイナンスガイドラインが示す新たな戦略とは

グリーンインフラに資金を呼び込む――国土交通省のファイナンスガイドラインが示す新たな戦略とは


気候変動や自然災害、生物多様性の損失が深刻化する中、「グリーンインフラ(GI)」への期待が高まっています。一方で、収益構造が見えにくく、資金調達の難しさが課題となっています。本記事では、国土交通省のGIに関するファイナンスガイドラインをもとに、官民連携による新たな資金調達の可能性を解説します。


要点

  • GIの普及における「資金調達」の課題に対し、国土交通省が初のGIに関するファイナンスガイドラインを策定。GIの価値の可視化と共通認識の形成が、投資を呼び込む前提となる。
  • ガイドラインは、事業価値の整理から資金スキーム選定までのプロセスを体系化。自治体・企業・金融機関が連携しやすい実務的な枠組みを提示している。
  • 国際イベントや制度整備を契機に、グリーンインフラは「公共施策」から「産業」へと移行しつつある。官民の連携深化が、社会実装と市場拡大の鍵を握る。




国土交通省 総合政策局 環境政策課 課長補佐 柴田 優作 氏
国土交通省 総合政策局 環境政策課 課長補佐 柴田 優作 氏
国土交通省 総合政策局 環境政策課 専門官 馬場 俊貴 氏
国土交通省 総合政策局 環境政策課 専門官 馬場 俊貴 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター ディレクター 長谷川 啓一
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター ディレクター 長谷川 啓一

なぜ今、グリーンインフラに資金調達の強化が求められるのか

長谷川:2026年3月に「グリーンインフラに関するファイナンスガイドライン(中間とりまとめ)」が公表されました。まず、本ガイドライン策定の背景について教えてください。

柴田氏:近年、気候変動に伴う自然災害の激甚化・頻発化や、生物多様性の損失といった課題が深刻化しています。こうした中、自然の多機能性を活用する「グリーンインフラ(Green Infrastructure、以下GI)」は、都市のレジリエンス強化や持続可能な国土・都市・地域づくりに不可欠な取り組みとして位置付けられています。

国土交通省では、「グリーンインフラ推進戦略2030」を策定し、2030年度に向けて「グリーンインフラの活用が当たり前となる社会」の実現を目指しています。その中で、「資金調達の円滑化」は重要な柱の一つです。GIの活用を促進するための資金調達手法の検討やモデル化を進めています。

一方で、GIが持つ経済的価値が金融機関や投資家に十分に訴求しきれていないことや、資金調達の成功事例も限定的にとどまっているといった課題も認識しています。

こうした状況を踏まえ、投資を加速するためには自治体や民間事業者、金融機関が共通認識のもとで検討・議論できる枠組みが必要だと考え、本ガイドラインを取りまとめました。


ガイドラインの意義――グリーンインフラが当たり前の社会へ

長谷川:国土交通省では、これまで「グリーンインフラ推進戦略2023」に基づき、政策・技術・事業の各面から取り組みを進めてきました。その中で、なぜ特に「資金調達」の強化が必要だと認識されたのでしょうか。

馬場氏:国土交通省全体として、PPP(Public Private Partnership)やPFI(Private Finance Initiative)などを通じて、民間資金や民間の知見を活用しながら、公共施設の建設や維持管理、運営等をより効果的に進めていく流れがあります。

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GIについても、普及促進や本格的な実装に向けた視点の一つとして、「資金調達」の円滑化が掲げられています。「グリーンインフラの事業・投資のすゝめ」(2024年9月)などを通じて、GIが生み出す多様な経済効果や資金調達の仕組みを示してきました。

一方で、GI事業は直接的な収益を生みにくい側面があります。そのため、経済的価値だけでなく、社会的価値も含めて可視化し、多様な資金調達手法を活用していくことが重要だと考えています。

GIを具体的に事業化し、プロジェクトを実施する段階では、資金を呼び込むための具体的な手法やプロセスが十分に整理されていないという課題も存在しています。こうした課題に対応するため、実務的な観点から資金調達の手法を体系化する必要があると判断しました。

長谷川:今回のガイドライン公表に対する反響はいかがでしょうか。

馬場氏:GIにおいては、資金調達の事例はまだ少なく、資金を円滑に呼び込むプロセスにおいても実務面の課題がありました。その中で、資金調達に特化したガイドラインを初めて取りまとめたことは、ひとつの前進として評価いただいています。

また、環境省の検討会においてグリーンファイナンスの観点から本ガイドラインの策定に向けた動きが紹介されるなど、引き続き、関係省庁間でも連携しながら取り組みを進めています。

長谷川:本ガイドラインは、評価手法の検討やGI効果の可視化が検討途上にある状況を踏まえ、「中間とりまとめ」として整理されています。最終的な完成形を見据えた際の役割について教えてください。

柴田氏:GIの評価手法は、現時点では発展途上にあるのが実情です。GIは多機能かつ多様な効果を有する一方で、それらの価値を十分に可視化できていないことが大きな課題です。

しかし、GIの実装を進めるためには、現時点でも資金調達の仕組みを整備していく必要があります。

そのため本ガイドラインでは、GI事業の類型化や、多様な資金調達スキームの選定方法、関係者間での対話の進め方などを、具体的な事例とともに整理しました。

今後は、本ガイドラインを自治体や企業へ周知し、実践を推進しながら、評価手法や市場環境の変化も踏まえ、より実践的な内容へと発展させていく考えです。

馬場氏:「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」のオンラインセミナーなどを通じて、本ガイドラインの内容を広く発信していく予定です。5月に開催したセミナーでは、環境省や実際に資金調達に取り組んでいる企業にも登壇いただき、具体的な事例を交えながら理解を深めていただく機会とできたと考えています。

また、地域においては地方銀行の役割が重要です。自治体と地域金融機関が連携し、資金調達を進めていけるような環境づくりを後押ししていきます。


グリーンインフラの価値を可視化し、資金調達につなげる

長谷川:本ガイドラインで、特に重視したポイントについて教えてください。

馬場氏:GI事業の価値を整理・可視化し、それを資金調達につなげるプロセスを体系的に示した点です。

GIは企業にとっての利益向上といった内部経済価値に加え、地域価値の向上といった外部経済価値にも寄与します。そのため、誰がどの価値を受益するのかを整理し、受益構造やリスク分担を可視化することが重要です。本ガイドラインでは、事業類型の整理やロジックモデルの作成を通じて、適切な資金調達スキームを検討できるようにしています。

また、初めて資金調達を検討する自治体や事業者でも理解しやすいよう、各章に概要や具体的な事例を盛り込み、GIの資金調達検討のハードルを下げることを目指しました。

長谷川:本ガイドラインは、地方自治体、民間事業者、金融機関といった多様な関係者を対象としています。それぞれにどのような役割を期待していますか。

柴田氏:自治体には、地域課題の解決やGIの実装計画を検討する際、官民連携を進めるためのツールとして活用いただきたいと考えています。

民間事業者には、自社事業との関係やリスク低減効果を踏まえ、GIを事業戦略に取り入れるきっかけとして活用いただくことを期待しています。

金融機関に対しては、GIへの投融資判断や地域貢献にかかる投融資戦略の検討時にも参考にしていただきたいと考えています。

また、「グリーンインフラ推進戦略2030」では、GIに関する融資や金融商品の開発を資金調達に関連するKPIに設定しています。本ガイドラインを通じて関係者間の連携を促進し、KPI達成にもつなげていきたいと考えています。

長谷川:金融機関との連携は、今後の重要なテーマとなりそうですね。

馬場氏:GI分野における金融機関との連携は、現時点ではまだ十分とは言えません。今後は、自治体が地域ビジョンを描き、その中で地方銀行がどのような役割を果たせるか、対話の場を創出していくことが重要です。

現在、地方創生関連の新たなガイドライン検討も進めており、今回の資金調達ガイドラインとあわせて活用することで、自治体と地域金融機関の連携がより具体化していくことを期待しています。

柴田氏:「GIが当たり前の社会」を実現するには、金融機関に加え、建設、不動産、都市開発、造園など、多様な産業分野のプレーヤーが連携することが不可欠です。横断的な取り組みを通じて、社会全体での理解醸成と各業界の連携を加速していく必要があります。


官民連携を前提とした資金設計へ――ブレンデッド・ファイナンスの可能性

長谷川:GIは社会的価値が高い一方で、投資判断が難しい分野でもあります。事業性と公益性のバランスをどのように整理し、資金調達につなげていくべきでしょうか。

柴田氏:GIは、事業性に直接つながる収益の向上やリスク低減といった経済的価値だけでなく、防災・減災や生物多様性保全といった社会的価値も生み出します。

そのため、多様な受益者が存在し、それぞれがどの価値を受けるかを整理した上で、費用やリスクの分担を設計していく必要があります。

従来は、企業の自己資金や公的予算による対応が中心でしたが、今後は事業性と公益性の両面を踏まえ、行政資金と民間資金を組み合わせた官民連携の「ブレンデッド・ファイナンス」の活用が重要だと考えています。GI事業がもたらす価値に沿って、資金調達の選択肢を拡大していくことが可能です。

長谷川:そうですね。社会的インパクトの観点からも、価値の可視化と適切な資金配分は重要なテーマです。官民連携によるスキーム設計が今後の鍵になると感じています。


評価手法の進展が広げる、新たな投資機会

長谷川:今後、評価手法や制度整備が進むことで、GIへの投資環境はどのように変化していくでしょうか。

馬場氏:資金提供者の理解が得られやすくなり、資金調達の検討も円滑になると考えています。

また、成果指標を重視するソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)などの新たな手法の活用も進む可能性があります。評価の枠組みが整備されることで、こうした手法の適用範囲が拡大することも期待しています。

さらに、脱炭素分野における「カーボンクレジット」に加え、生物多様性に着目した「ネイチャークレジット」など、新たな市場メカニズムの検討も進んでいます。

こうした制度整備が進むことで、GIの多面的価値を資金調達へ結び付ける機会はさらに広がっていくと期待しています。

長谷川:最後に、地方公共団体や民間事業者へのメッセージをお願いします。

柴田氏:本ガイドラインを通じて、地方自治体、民間事業者、金融機関が連携し、GI事業に関する対話が活発化することを期待しています。

2027年には横浜で「GREEN×EXPO 2027」が開催されます。また、2026年7月には熊本で「グローバルネイチャーポジティブサミット2026」も開催予定です。こうした国際的な機会を通じて、GIに対する社会的理解を深め、官民連携による資金調達や適切なリスク分担の在り方を広げていきたいと考えています。

長谷川:本ガイドラインが、GIを「特別な取り組み」ではなく、「当たり前の選択肢」とするための重要な一歩となることを期待しています。

向かって左より
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国土交通省 総合政策局 環境政策課 専門官 馬場 俊貴 氏
国土交通省 総合政策局 環境政策課 課長補佐 柴田 優作 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラセクター ディレクター 長谷川 啓一



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サマリー 

グリーンインフラの普及には、その価値を可視化し、資金の流入を促す仕組みが不可欠です。本ガイドラインは、自治体・民間企業・金融機関が共通の枠組みで議論するための実務的な土台を提示しています。「GIが当たり前の社会」の実現に向けて、資金調達の在り方そのものが大きな転換期を迎えています。


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