EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
長谷川:2021年の世界自然遺産登録は、西表島にとって大きな契機だったのではないでしょうか。登録によって、どのような変化がありましたか。
前泊 氏(以下敬称略):世界自然遺産登録は、竹富町の宝である西表島の自然が国際的に認められた重要な節目です。登録前後で、行政機関や民間事業者との連携が大きく進展しました。また、同じ自然遺産を構成する奄美大島・徳之島との交流も一層深まっています。
例えば、民間企業による世界自然遺産推進共同企業体は当初31社ほどでしたが、現在では58社規模へと増加しています。また教育分野でも、西表島と奄美群島の子どもたちによる交流事業が進んでおり、世界自然遺産5周年の記念事業として、奄美群島の子どもたちが西表島を訪問する予定です。
こうした連携の広がりは、世界自然遺産登録がもたらした大きな変化であり、関係者への感謝とともに、この流れを今後もつないでいきたいと考えています。
長谷川:一方で、観光客の増加に伴い、オーバーツーリズムや環境負荷といった課題も顕在化しています。訪問税制度や入域規制の取り組みについて、手応えはいかがでしょうか。
前泊:観光は竹富町にとってリーディング産業であり、引き続き推進していく必要があります。ただし、9つの島ごとに状況は異なり、オーバーツーリズムの傾向が強い島とそうでない島が混在しています。こうした違いを踏まえ、島ごとの特性を踏まえた均衡ある発展を図ることが重要です。
持続可能な発展に向けては観光振興基本計画を策定し、環境への配慮を前提とした施策を進めています。訪問税制度や一部入域規制にも取り組んできましたが、現時点ではまだ十分とは言えず、さらなる制度強化が求められます。
また、人口約4,300人の小規模自治体であることから、人材・資金・物資といったリソース不足も現実的な課題です。西表島の自然を未来へつなぐためには、地域だけでなく社会全体で意識を共有しながら取り組むことが不可欠だと考えています。
長谷川:今回の協定でも重要なテーマとなっている「ネイチャーポジティブ」について伺います。自然環境の保護と地域経済活動をどのように両立させていくのでしょうか。どのような地域デザインを描いていますか。
前泊:住民アンケートでは、竹富町に住み続ける条件として52%の方が「自然環境の保全」を挙げ、町おこしの関心分野でも68.6%の方が自然環境を選択しています。これは、地域における自然環境保全に対する意識の高さを示しています。
一方で、観光客の来訪については7割以上がプラスと評価するものの、マイナスと感じる方も一定数存在します。つまり、自然環境の観光利用は経済的な恩恵をもたらす反面、負の側面も同時に認識されているのです。
さらに、観光産業とそれ以外の産業との間に、分断とも言える構造が生まれつつあります。このような状況を踏まえると、ネイチャーポジティブの実現には、自然保全と経済的価値の双方を、地域のすべての人が実感できる仕組みを構築することが必要だと考えています。
長谷川:地元の方々の中には、自然を活用して収益化することへの葛藤や違和感もあるのではないでしょうか。
前泊:重要なのはバランスです。自然や歴史文化へ敬意を持って観光に取り組んでいるかどうかは、住民の皆さんがシビアに見ています。
コロナ禍で移動が制限され観光客が減った際、多くの住民が自然環境の回復を実感しました。その経験を通じて、「この自然は守るべき資産である」という意識は一層強まっています。特に高齢層では、「経済優先による自己の利益のために、自然が損なわれるのでは」という懸念が強く、行政としては慎重にバランスを取りながら、分断を生まない運営が求められています。
長谷川:やはり、鍵となるのは地域との信頼関係ですね。
前泊:その通りです。特に小規模なコミュニティでは信頼関係が不可欠です。行政としても、現場に足を運び、住民が何を求めているのか、何が起きているのかを、直接見て聞くことを大切にしています。住民の声に寄り添いながら、丁寧に合意形成を進めています。
池尻:観光収入が増加する一方で、域外への資金流出も課題となっています。地域内で経済を循環させる取り組みについてはいかがでしょうか。
前泊:まさに今、取り組むべき重要なテーマです。地域で生まれた価値を地域内で循環させる仕組みの構築は、私の公約の1つでもあります。
これまで商工会や観光協会などが個別に取り組んできましたが、今後は横断的な連携が不可欠です。観光と第一次産業の連携も含め、現状を数値で把握しながら、戦略的に展開したいと考えています。すでに関係団体との議論も進んでおり、具体的な仕組みとして形にしていく段階に入っています。
より詳しい情報をご希望の方はご連絡ください。
池尻:竹富町には、域外からの若者の移住も増えており、若者のエネルギーを強く感じます。このような人材をどのように生かしていきたいと考えていますか。
前泊:意欲のある人は多い一方で、「どう関わればよいのか分からない」という方も少なくありません。そのため、情報や意識を共有し、連携の仕組みを整え、意欲ある人材が力を発揮できる環境づくりが必要です。同じ方向に進めるように、ポジティブな言葉と行動で示していきたいですね。最南端のこの小さな町から発信し、これまで地域を支えてきた高齢者の皆さんを尊重するためにも、持続可能な地域づくりに取り組んでいきたいと考えています。
長谷川:今回のプロジェクトでは、地域マネジメント組織の設計と住民参加の仕組みづくりが重要なテーマです。この取り組みを通じて、地域の機運をどのように高めていくのか、町としての期待をお聞かせください。
前泊:地域マネジメントについては「一般財団法人西表財団」にその役割を期待しています。地域マネジメント組織が担う役割は極めて重要だと考えています。「消費型の観光」から、「価値を理解し、保全や貢献につながる観光」へと転換していくためのハブとして機能する必要があります。その実現においてもっとも重要なのは、住民との継続的なコミュニケーションです。地域内での理解と納得感を丁寧に醸成し、方向性を共有していく必要があります。同じ方向に進んでいくための中核的存在となることを期待しています。
同時に、竹富町は小規模自治体であるため、外部から不足するリソースを獲得する役割も求められます。
長谷川:外部との接続としてDAO(自律分散型組織)という新しい仕組みを活用し、島外、さらには世界に向けてもファンコミュニティを広げていく構想があります。一方で、外部との関係性が強まるほど、地域との分断リスクが高まる懸念があります。このバランスは、どのように設計すべきでしょうか。
前泊:重要なポイントは「敬意」と「ビジョンの共有」です。町民はもちろんのこと、来訪者や外部の関係者も含め、すべての関係者が「責任ある観光」という共通の価値観を持つことが前提となります。外部との関係が深まっても、この軸は変えてはいけません。その上で、ファンコミュニティも含めて「同じビジョンを共有する仲間」、すなわち「地域の自然や文化を守る主体の一員」としてつながることが大事です。その設計と運用においても、地域マネジメント組織が中核的役割を担うと考えています。
長谷川:私たちも伴走支援させていただきます。プロジェクトの立ち上げにあたり、EYの専門チームに期待する役割についてお聞かせください。
前泊:これまで入域制限や訪問税の検討など、一定の施策には取り組んできましたが、「地域全体として、これからどのようなモデルを構築するか」という設計力にはまだ課題があります。
EYには、国内外の先進事例に基づく豊富な知見や、戦略的な企画立案力、地域の取り組みを対外的に発信し、共感を広げていくための発信力にも期待しています。
長谷川:この分野において、日本国内で確立された成功モデルはまだ存在していません。海外では規制型の成功例はありますが、人々が暮らしながら高いレベルで自然保全と経済活動を両立している事例は極めて限られています。だからこそ、西表島で実現できれば、世界に対して大きな示唆を持つ価値になると考えています。
長谷川:今回のプロジェクトを通じて、地域経営の手法や組織設計など、多くの知見が蓄積されていくと考えられます。これらを竹富町としてどのように発信し、社会に貢献していきたいと考えていますか。
前泊:「責任ある観光」が実装され、自然資本を基盤とした持続可能な地域経済モデルが確立できれば、それ自体が大きな社会的意義を持ちます。西表島という一地域の取り組みにとどまらず、同様の課題を抱える国内外の地域にとっても参考となるモデルになり得ると考えています。
その結果として、価値観に共感する多様な人材が国内外から集まる地域に発展していくことも期待しています。
その実現のためには「人」が大事です。優秀な人材をいかに確保し、育成し、地域に定着させるか。現時点では将来像が明確に見えているわけではありませんが、プロジェクトを通じて得られる成果や知見を蓄積し、それを共有することで、モデルとして成熟させていきたいと考えています。その過程において、発信のあり方や人材戦略についても、関係者の皆さまと共に検討を深めていきたいと考えています。
長谷川:地域とともにモデルを構築し、その価値を世界へ発信していく。そのプロセス自体が、新たな地域経営のあり方を示すとともに、持続可能な社会の実現に向けた重要な示唆になると考えています。
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世界自然遺産という価値を守りながら、地域経済をどう発展させるのか――西表島の挑戦は、日本のみならず世界にとっても重要なテーマです。その実現の鍵を握るのは「人」と「連携」。自然資本を軸に、地域内外の連携を通じた持続可能な地域モデルの構築に向け、竹富町とEYの取り組みが始まりました。