人口減少時代の上下水道経営改革とは

人口減少時代に動き出した上下水道インフラ経営

上下水道事業の現状・課題と経営改革の在り方とは?#1


人口減少・老朽化・自然災害など大きな環境変化の中、上下水道事業には「これまでの在り方にとらわれない改革」が求められています。

自治体が最終責任を負いつつ、既存の枠にとらわれない広い関係者との連携により、推進力確保と幅広い知見を基にした改革が必須です。


要点

  • 日本の上下水道事業は、人口減少、老朽化による事故や自然災害の多発、担い手の減少などが深刻となっており、人材・技術・財務面の幅広い経営改革が喫緊の課題となっている。
  • 現在、解決策として期待されている経営改革は官民連携、広域・他分野連携、DX/GX、分散型システムなどで、自治体による取り組みが加速しており、政府も積極的に推進している。
  • これらの経営改革は、公営上下水道事業体における課題解決に向けた新たな挑戦であり、縦割りの打破、地域や民間のさまざまなステークホルダーとの連携、多様な専門家の協働、推進力確保、継続・改善の仕組みの導入などが欠かせない。

上下水道事業をとりまく経営課題

日本の上下水道事業は現在、厳しい経営環境に置かれています。

 

例えば、水道事業では、人口減少による収入減に加え、節水機器普及(1976年からの50年間でトイレ1回当たりの使用水量は13リットルから3.8リットルと70%減少)により、1人当たりの使用水量が減少しています。また、上下水道料金が逓増制(使用量が増えるほど単価が上がる料金体系)であるため、影響の大きな大口利用者が地下水へ移行することで水道を使わなくなっています。

 

埼玉県八潮市で2025年1月、下水道管路破損に起因すると考えられる道路陥没事故が発生し、2024年の能登半島地震では最大約14万戸で断水が発生するなど、上下水道施設の甚大な被害が発生したのは記憶に新しいところです。これらをきっかけに、改めて施設の老朽化対策や強靱化(きょうじんか)のための耐震化工事に加え、災害発生を見据えた維持管理性(メンテナビリティ)・冗長性(リダンダンシー)確保も政府の有識者会議では重要視されています。一方、老朽化が進む中、水道の管路更新率は年0.7%未満です。単純計算すると、全水道管路の更新に140年以上かかることとなります。

 

担い手の減少は、なによりも深刻な課題になりつつあります。自治体水道事業の職員は減少しており、約1200ある水道事業の約半数で自治体職員が10人以下となっています。さらに、人口1万人未満の水道事業では職員が3人しかいないなど、深刻な人材不足です。ベテラン職員の退職による技術継承の重要性が叫ばれて久しいですが、なかには「継承する技術がもうない」という自治体の声も聞かれます。

 

EY Japanと水の安全保障戦略機構事務局が公表したレポート「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?(2024年版)」1では、全国の水道事業の将来(2046年までの25年間)の水道料金を推計しました。その結果、2046年までに水道料金の値上げが必要と推計される事業体は全体の96%に及び、値上げ率は全体平均で48%と推計されています。また、家庭用水道料金の自治体間格差は2021年度の8倍から20.4倍に広がると推計されています。これらの財務面の改善も喫緊の課題です。

図 水道事業が直面する課題

※下水道事業も課題感は同様(出典)公益社団法人日本水道協会「水道統計」(2010~22年)等よりEY作成

求められる経営改革策

前述の経営課題に対して、自治体上下水道事業単体での経営改善、経営管理、耐震化や更新工事、資産管理(アセットマネジメント・ストックマネジメント)などの経営改革策が進んでおり、近年、さらに一歩踏み込んだ経営改革策の取り組みが進んでいます。

① 官民連携

民間への委託は以前から行われていましたが、1999年のPFI2法制定、2002年の水道法改正による第三者委託制度、2011年のPFI法改正による公共施設等運営権制度(いわゆるコンセッション)などの制定や、各種ガイドラインの公表などで、課題や対象施設・対象業務に応じた官民連携の選択肢が増えています。

大規模な包括委託やPFI/DBOなどは2000年代以降、事例が増えており、現在、例えば下水道では包括委託(332団体)など官民連携の導入が進んでいます3。施設の更新需要が増えていることもあり、DB方式やDBO方式4も増加しています。

また、2023年度にウォーターPPPの管理・更新一体マネジメント方式(レベル3.5) が政府から提唱され、下水道事業において交付金要件化されたことも背景に、全国で導入および導入検討が進んでいます。

② 他インフラ事業との連携

水道事業・下水道事業はその成り立ちから従来一体で運営されていないことも多いものの、地中埋設物である管路と処理場など構成は類似しており、面的なインフラ管理として一体での管理が効率化につながることが期待されます。

また、上下水道以外の公益インフラ事業や公共事業(道路・公園・河川・電力・ガスなど)との連携も期待はされるところですが、現時点では先行事例が少ない状況です。

ドイツでは、自治体が出資するインフラ経営企業(シュタットベルケ)が電力・ガス・水道・地域交通・公共施設などを一体管理しています。それにより、効率的なサービス提供とコスト削減が実現されています。

日本においても、国土交通省が2022年度頃より地域インフラ群再生戦略マネジメント(群マネ)に関して検討を重ねており、複数自治体・複数インフラを連携して運営するための方策を推進しており、2025年6月の国による上下水道政策の基本的なあり方検討会第1次とりまとめ5(以下「上下水道あり方検第1次とりまとめ」)でも上下水道一体に加え、道路や河川など他分野との連携の方向性を示しているところです。

③ 広域連携

市町村経営を原則としてきた水道事業、市町村経営(都道府県)を法律上定めている下水道事業は、基礎自治体1,741団体(2024年10月1日現在)をベースとするため、各上下水道事業体は他のインフラ(電力・ガス等)と比較して小規模事業体が多い特徴があります。そのため、自治体間の連携(広域連携)を行うことで、スケールメリットが創出されると期待されています。一方、水道で事業統合を行うと、料金が統一され、現状の値段が上がる自治体と下がる自治体が存在するため、調整に時間がかかったり調整できず実現しなかったりする例も多数ありました。そのため、従来は料金統一を伴わない組織の統合方法である「経営の一体化」、管理の一体化または施設の共同化などを中心に進んできました。

2018年の水道法改正により、都道府県が広域連携推進の責務を負うことが明記されました。都道府県ごとの広域化推進プラン策定などでその土台が構築されており、その後いくつかの都道府県(広島県、奈良県など)では、水道分野における経営の一体化が進んでいます。

また、2025年6月の上下水道あり方検第1次とりまとめでは、単一市町村による経営にとらわれない経営広域化の国主導による加速化が示されており、今後の動向が期待されるところです。

④ 脱炭素化など上下水道の新たな役割

上下水道事業は、水処理やポンプでの送水などエネルギーを多く消費します。上下水道事業による電力消費量は、年間約150億キロワット時で、日本全体の約1.5%を占めています。また、2021年の地球温暖化対策計画において、いわゆる「2050年カーボンニュートラル」に向けた自治体上下水道事業の温室効果ガス排出量削減目標が設定され、上下水道事業が果たす新たな役割として位置づけられました。

脱炭素化の具体的対策としては、事業用地を活用した太陽光発電や、水の発電ポテンシャル(流量・圧力差など)を利用した小水力発電、下水汚泥活用によるバイオマス発電といった創エネなどが進展しています。

その他、下水汚泥の肥料化促進による循環型社会実現への貢献など、上下水道事業が果たす役割がさらに拡大しており、対応が求められるところです。

⑤ デジタル・新技術活用

上下水道事業が抱える職員不足や技術継承などの課題を解決する手法の1つとして、デジタル技術活用が期待されています。上下水道インフラは、建設投資額や維持管理費用が大規模であるため、省力化や投資最適化による効果も大きくなると期待されており、スタートアップ企業を含む民間企業がAIやIoT、VR、ドローンなどさまざまな要素技術を活用し、多様な業務(維持管理、計画、建設更新、窓口・事務等)を対象とした技術開発・実証・実導入が急速に進んでいます。

政府は2022年の骨太方針以降、インフラDX促進策を本格化させています。2024年7月には、岸田首相の愛知県豊田市への訪問・発言をきっかけに、上下水道DX技術カタログの整備や標準実装に向けた政策が推進されています。施設台帳整備への補助金支援・交付金要件化なども併せて、今後のさらなる技術導入が期待されます。

⑥ 分散型水処理システム

前述の能登半島地震や八潮市での道路陥没事故も踏まえ、災害時の強靱性や人口減少への対応として、従来の集合型水処理システムと、各戸設置型や可搬式の分散型水処理システムを組み合わせることが重要です。集合型水処理システムと分散型水処理システムのベストミックスの重要性が、上下水道あり方検第1次とりまとめでも提言されています。

分散型水処理システムは、水源課題(水質・水量)、人口減少への柔軟性から集合型ではない各戸設置型や可搬式などの水処理システムが期待されており、複数の民間企業で開発が進んでいます。

上記の6つに加え、民間企業の上下水道事業におけるM&A等の動向や海外での上下水道インフラ開発の動向等も加え、今後シリーズでその最新動向を連載したいと思います。

図 上下水道事業における主な経営改革策


経営改革の難しさ・成功のポイント

上下水道は戦後より整備が本格化しており、当初はインフラ整備が人口増加・都市化においつかない状況であったため、「まず整備・普及」が重要であり、そのために「全国均一の課題、技術均一化・集合化・作業細分化」が第一に求められていました。現在は、上下水道インフラの普及がほぼ完了し、整備・普及から維持管理へ移ると同時に、人口減少等の経営環境が大きく変化することで、「課題の多様化・複雑化、対策の多様化・分散化・作業の統合化」が重要となりつつあります。今まで分担して解決していた技術・事務などさまざまな専門家が集まって力を合わせないと理解できない・解決できない状況となっています。

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政府も上下水道あり方検第1次とりまとめにおいて「これまでの在り方にとらわれない改革」と表現しているのは、まさにこのような状況を踏まえているのではないかと想像します。

これらを実現するためには、上下水道事業を担う自治体の責務として最終責任を負うために必要な経営基盤は必ず確保いただいた上で、枠にとらわれないさまざまな団体(官民・異業種・異分野など)との連携、技術・経営などの専門家の協働、海外知見を基にしたあるべき姿の検討、経営層からのトップダウンと実務層からのボトムアップなどが重要です。

また、上記の経営改革策はどれも痛みを伴う改革となり得るものです。一時的・部分的に、非効率となり得る場合もあるためです。そのため、幅広い関係者の間でビジョン・最終的な目的を共有することが最も重要です。従来多く見られた「個人頼みの改革」にならない仕組みの導入が欠かせません。

図 経営改革を進めるための成功のポイント





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サマリー 

課題解決に向け、幅広い関係者との連携・協働が必須になることは、各関係者がそれぞれ異なる考え方で動き得ることも意味します。そのため双方がウィンウィンとなる仕組みづくりや、お互いを理解した上での方針決定などが重要性を増します。



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