EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
2025年10月21日(火)、保険業界の内部監査部門(エグゼクティブ)の皆様を対象とした第2回ラウンドテーブルを開催いたしました(第1回は2025年4月に開催)。第2回は、ザ・ペニンシュラ東京にて開催し、5~6名ずつ円卓にご着席いただく形式を採用して参加者同士がより近い距離で意見交換できる環境を整えました。
はじめに、EYストラテジー・アンド・コンサルティング(以下「EYSC」)の金融サービス部門で内部監査・内部統制領域の責任者を務めるパートナーの森内祐輔より、開催の背景と目的が説明されました。近年の規制動向、デジタル化、海外展開の加速など、内部監査を取り巻く環境変化が大きい中、参加者同士が率直に意見交換し、新たな示唆を持ち帰っていただきたいとのメッセージが伝えられました。
続いて、EYSC 金融サービス部門リーダー パートナーの田中 玲より開催のあいさつが行われ、本ラウンドテーブルが組織の枠を超えた学びと交流の場となり、内部監査の高度化を後押しする機会となることへの期待が示されました。
金融庁 総合政策局 検査監理官 山崎勝行氏から寄せられたビデオメッセージでは、金融機関における内部監査のさらなる高度化に対する期待として、金融庁公表のレポート等の内容・趣旨や保険業界全体において内部監査機能を一層発揮することの必要性、内部監査人の使命などが強く示されました。
今回のラウンドテーブルでは、事前にウェブアンケートを実施し、参加者の回答を基に議論の方向性を設定しました。アンケートでは、内部監査の高度化に向けた課題やAI活用の現状、今後注力すべきリスク領域など、各社の率直な意見が寄せられました。
当日は、これらの結果を共有し、参加者が自社の状況や課題を照らし合わせながらディスカッションを展開しました。金融庁の段階別評価の再定義や不正リスク対応、グローバル監査態勢、AI導入の実務課題など、実務に直結するテーマについて活発な議論が展開されました。
事前アンケートと当日の意見交換を組み合わせることで、単なる情報共有にとどまらず、参加者が自社に持ち帰り活用できる実践的な示唆が多数生まれた点が特徴です。
EYSC 金融サービス部門のシニアマネージャー 陸 濛濛 (りく もうもう)より、当局レポートとグローバル内部監査基準の観点から、内部監査高度化の要点整理と事例が紹介されました。
冒頭では、内部監査の重要性や高度化の必要性を踏まえ、金融庁が2019年以降に段階的に公表してきた各種指針を振り返り、その流れを整理しました。特に、直近の「金融機関の内部監査高度化に関する懇談会報告書(2025)」では、内部監査の成熟度を評価する段階別評価の再定義・明確化が行われており、今後、各社の内部監査高度化にどのような影響が及ぶのかについて言及されました。
さらに保険業界では、海外企業や事業の買収が活発に進む一方で、海外子会社における不祥事が散発的に発生している現状を踏まえ、グループ・グローバルな視点で監査態勢を強化する必要性が高まっています。こうした環境の変化に対応し、企業価値向上に寄与する内部監査を実現するためには、グループ全体を俯瞰(ふかん)した統一的かつ一貫性のあるグローバル監査態勢の構築が一層重要であるとの認識が示されました。
プレゼンテーションの後は、参加者の関心が高いテーマを中心に、活発な意見交換が行われました。
セッションの最後には、各テーブルの発表役が議論の内容を共有し、参加者全体で要点を確認しました。こうした自発的な役割分担と協働が、実践的な知見の創出へとつながりました。
テーマ2では、EY新日本監査法人 Forensics & Integrity Services 岡本 亮より不正リスク管理の最新動向が紹介されました。
近年、営業職員による不適切勧誘や保険金不正請求、さらには情報漏えいなどの事案が相次いでいることから、保険業界では未然防止に向けた実効性の高いリスク管理態勢の構築がこれまで以上に求められています。こうした状況に鑑み、保険業界における近年の不正事案と、それに対する規制当局からの期待が整理し提示されました。
続いて、「不正のトライアングル理論」(動機・機会・正当化)を用いながら、不正を“完全に防止する”ことは現実的に困難であり、むしろ“不正は一定の確率で発生する”ことを前提とした“対応策”が必要であることが説明されました。その上で、「不正タクソノミー」を活用して自社の不正リスクを財務諸表不正、資産流用、贈収賄、情報漏えいなどに類型化し、監査計画やリスク評価の精度を高める手法について紹介が行われました。さらに、発想を「不正を防ぐ」から「不正発生を前提に、どの段階でどのように検知し対応するか(対応策)を検討する必要がある」へ転換することの重要性に触れ、COSOフレームワークに基づいた包括的な管理態勢の構築が提案されました。また、AIやデータ分析を活用した高度な不正検知の実装における着眼点についても解説されました。
続けてEYSC パートナーの森内祐輔より、保険業界における不正リスク管理をさらに高度化するためのAI活用の最前線として、次の参考事例が紹介されました。
不正リスクをテーマにしたディスカッションでは、実務の最前線で生じている保険業界特有の課題から構造的な論点まで、幅広い議題について活発な意見交換が行われました。参加者からは「専属募集人の不正は完全には防ぎ切れない」「代理店の行動をAIで分析し、リスク兆候を検知している」といった現場の取り組みや工夫が紹介される一方で、実務の難しさも率直に共有されました。
また、第二線の管理機能が十分に果たされていないことで第三線への負荷が過度に集中してしまうという組織構造上の問題や、募集人報酬制度が不正の誘因となり得る点など、制度設計そのものがリスク要因となり得ることも議論されました。
こうした意見交換を通じ、内部通報制度の強化や教育・懲罰の見直し、フォレンジックや異常検知の活用といった既存施策に加え、予防的統制を再設計することが不可欠であるとの認識が共有されました。最終的には、「不正はゼロにできない」という前提に立ちながら、早期検知と継続的モニタリングを強化し、組織として対応力を高めていく姿勢が重要であることが確認されました。
EY Japan 金融事業統括 パートナー山野 浩より、本ラウンドテーブルで得られた知見が各社の内部監査高度化につながることへの期待とともに、今後も業界全体のガバナンス向上に向けた対話の場を継続して提供していく方針が示されました。
今回のラウンドテーブルでは、金融庁による段階別評価の再定義が契機となり、各社で第三線を統括するエグゼクティブが多数参加されたこともあり、議論はオペレーションレベルにとどまらず、より経営視点を踏まえた深い内容へと広がりました。特に、組織文化の醸成・再構築、海外拠点における統制とガバナンス、役職員の行動規範や倫理意識の浸透といった、現場の改善だけでは対応が難しい“構造的テーマ”に関しても多くの意見交換が行われました。これらは、グループ経営や企業文化といった広い視座からアプローチする必要がある領域であり、参加者の間でも課題感が共有されました。
企業価値向上に寄与する内部監査を実現するためには、グループ全体を俯瞰(ふかん)した統一的かつ一貫性のあるグローバル監査態勢の構築が一層重要であり、また、近年事案が相次いでいる不正リスクへの対応に関しては、不正を“完全に防止する”ことは現実的に困難で、 “不正は一定の確率で発生する”ことを前提とした“対応策”が必要であるとEYは考えています。
次回以降の開催に向けては、AI活用(特に内部監査プロセスへの組み込み)、カルチャー監査(組織文化の可視化と評価)、グループガバナンス(海外拠点を含むリスク・統制態勢の整備)といったテーマへの期待が多く寄せられました。
保険業界の内部監査高度化と不正リスク対応をテーマに、AI活用やガバナンス強化の課題を共有・議論した、エグゼクティブラウンドテーブルの開催レポートです。
企業価値向上に資する内部監査の戦略的高度化と不正リスク対応を巡る議論を通じて、内部監査が果たすべき役割を整理しています。