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EY Global IPO Trends Q3 2025

自信を持ってIPOに向けた準備を進めていくには

EYの最新のIPO市場レポート「EY Global IPO Trends Q3 2025」(PDF)をダウンロードする

関税問題や金利動向の不透明感、債務への懸念に伴う圧力が数カ月続いていましたが、2025年第3四半期に入ると世界各地の株式市場は急速な回復を見せました。


要点

  • 急回復をけん引しているのは米国である。米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げを受けて、IPO申請が急増し、上場後のリターンも高い水準を保っている。
  • 証券取引所は改革を加速させて競争力の強化と上場プロセスの合理化を進め、革新的な企業の誘致を図っている。
  • 世界的な金融緩和と株式市場の上昇が追い風となり、PEの支援を受けたIPO件数は前年同期比で2倍以上に増えた。

2025年第3四半期は、世界各地の株式市場が急速な回復を遂げ、米国やアジア、欧州では関税問題や金利動向の不透明感、債務への懸念に伴う圧力が数カ月続く状況から一転、主要な指数が最高値を更新しました。この急回復を支えているのは金融緩和と一部地域でのインフレの落ち着き、市場のボラティリティの低下です。これに加え、規制改革で上場プロセスの合理化が進み、これがスポンサーとIPO企業を上場によるエグジットへと再び向かわせる呼び水となっています。

投資家は地政学的リスクを、市場動向の恒常的な背景要因と見るようになってきました。とはいえ、金融政策と政治的意思決定、人工知能(AI)をはじめとしたテクノロジーによるディスラプション(創造的破壊)が、市場の見通しと資本フローを左右する大きな要因であることに変わりはありません。経済全体としては、さまざまな動きがあるものの、AIを積極的に活用する企業のバリュエーション(評価)には、引き続きプレミアムがついていることから、革新的な成長への期待が高まっています。

一方、経済データ、特にAI以外の分野における雇用創出の減少や設備投資のばらつきが示しているのは、基本となる成長力の低下です。セカンダリー市場のバリュエーションは高水準を維持していますが、このような実際のファンダメンタルズとの乖離が、プライマリー市場の再開のばらつきという事態を招いています。こうした状況を背景に、米国と中国、インドで活動が活発化し、またロンドンと欧州の一部の国・地域でも、価格設定に慎重な姿勢が強まってはいるものの、回復の兆しが見られるようになっています。最近の上場では「質への逃避」が顕著に見られ、多くの地域とほとんどのセクターで新規IPO企業は収益性が高く、新規公開後のパフォーマンスも堅調です。

回復が拡大してきたとはいえ、地域を問わず選択に慎重な投資家の姿勢が相変わらず目立ち、ファンダメンタルズと収益性向上のための道筋、ガバナンスを精査する目が厳しくなっています。非公開市場が非常に活発で、公開市場も回復を遂げる今、スポンサーには投資先企業の収益化を図る、実行可能な方法が複数あります。そのため、上場によるエグジットの魅力を見直すスポンサーが少なくありません。上場でエグジットする手段とM&Aなどでエグジットする手段の両方の選択肢が増えている背景にあるのは、新たな競争力学の出現です。それにより、IPO準備企業は戦略的アジリティと対応力、そして魅力的なエクイティストーリーを示すことを余儀なくされています。

IPOを成功させるには、財務面の準備を整え、マクロ経済・地政学・技術面の変化に対応しなければなりません。気候変動への適応とデジタルトランスフォーメーション、地政学的再編を特徴とする新たな経済への移行に伴い、IPOを目指す企業はマクロトレンドに沿ったエクイティストーリーを構築し、外部リスクを管理し、レジリエントで先見性のある戦略を明確に示す必要があります。

「EY Global IPO Trends Q3 2025」に示されたインサイトを詳しく紹介していきます。

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第1章

2025年第1四半期~第3四半期までの世界のIPO市場

世界のIPO市場が回復:インドが件数、米国が調達額、中国がリターンでトップに。

2025年第3四半期はIPO活動が世界全体で活発化し、前年同期比で件数が19%、調達額が89%も増加して、金融緩和と市場見通しの改善が追い風となり、投資意欲が着実に回復する兆しが見られました。その一方で、回復はごく一部の主要地域に集中しています。同四半期に実施された370件のうち、4分の3近くの上場先がインドと米国、中華圏です。この3つの国・地域は調達額でも全体(482億米ドル)の80%近くを占めており、いずれも前年同期比で堅調な伸びを見せています。注目すべきは、第3四半期に世界全体で実施されたIPOのトップ10のうち9件がこの3つの国・地域で行われたという点です。これは、これらの国・地域が市場回復のけん引役であることを示しています。

国・地域別で見ると、米国は同四半期、2021年第4四半期以降で最もIPOが活発化し、比較的低調だった第2四半期から一転、申請件数と新規発行株式数が急増しました。また、インドも極めて好調で、件数が146件、調達額が72億米ドルに上り、特に件数は過去最高を更新しています。

欧州と中東、アジア太平洋の一部の国・地域では回復の兆しが見られる反面、引き続き慎重な投資家の姿勢が目立ちます。

第1四半期~第3四半期にかけてIPOが広く回復し、主要指数を上回る

2025年の最初の9カ月間はIPOの件数が914件、調達額が1,101億米ドルでした。件数は穏やかな回復にとどまりましたが、調達額は前年同期比で40%を超える伸びを示しています。

同時期の世界のIPO活動状況を地域別で見ると、件数が最も多かったのはEMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)で、これにAsia-Pacific(アジア・パシフィック)とAmericas(北・中・南米)が続きます。国・証券取引所別では、米国が調達額と時価総額でトップに立ちました。リターンが高水準を維持し、株価収益率も高いことから、バリュエーションにプレミアムがつく傾向にあります。

株式市場で強気が優勢であることは、S&P 500指数の好パフォーマンスが裏付けています。米国のIPO市場では同時期、テクノロジーセクターが強さを維持しました。特に米国で上場し大きな注目を集めた企業のIPO後のパフォーマンスは群を抜いています。

一方、リターンで世界トップに浮上したのは中国本土と香港です。この2つの市場は同時期、IPOの件数、調達額ともに前年同期比で2桁の伸びを記録しました。その主な要因は先進製造業やモビリティ、半導体、電子機器など戦略的セクターの投資意欲の強さです。

韓国のIPOは、大型株の上場とテクノロジーセクターや工業セクターへの投資需要の急増がけん引役となり、件数、調達額ともに顕著な伸びを示しました。ASEANでは、ニッチなテクノロジー企業の上場によってマレーシアのIPO投資リターンが目立ちましたが、全体的に市場は低調でした。その一方で、同地域では、時期を選ぶ傾向の強まりとバリュエーション規律を反映して、全体的にIPOの件数が減ったものの、規模が大型化しています。第3四半期には、この傾向が顕著に見られました。

インドはバリュエーション倍率の急上昇が追い風となりIPOの件数でトップに立ちましたが、これは国内市場の活気を示しています。平均規模が拡大した背景にあるのは、フィンテックや製造、再生可能エネルギーなどのセクターに対する投資家の楽観的見方の強まりです。

中東では同時期、従来型のIPOとカーブアウト上場が勢いを維持し、世界金融危機以来の最高水準に達しました。

IPO後のパフォーマンスが上昇

2025年9月末時点で、調査対象であるIPO企業は全ての主要地域でリターンがプラスでした。中国本土でIPO件数が増加したのは主に利益率が大きかったためですが、国内需要の急増と政策支援が追い風となり、初日リターンが異例ともいえる高水準に達し、それが初日以降も続きました。ASEANのパフォーマンスも好調で、利益が徐々に上昇していきました。米国と韓国は、初値は堅調だったものの、成熟市場でのバリュエーション規律を反映して、その後、若干減速傾向になりました。欧州とオセアニアはマクロ経済の不確実性が増す中、パフォーマンスが低調で後れを取ったとはいえ、いずれも年初来で2桁の伸びを見せています。

依然として、IPOの初値の急騰は一般的ですが、その後も好調なパフォーマンスを維持しているということは、市場が再び厚みを増し、投資家の信頼を取り戻し、今後の上場をより強力に支える環境が整ってきたことを示唆しています。

収益性は一部地域・セクターで改善し、緩やかに上昇

現時点で、本年度における世界平均のIPOの収益性はほとんど上昇していませんが、一部の国・地域では改善が顕著です。この背景には、質と透明性が極めて重要となる不安定な市場環境においては特に、財務状態が健全で、ガバナンスの効いた企業が投資家に好まれる傾向が強まっていることがあります。収益性の上昇が最も明らかなのはASEANと香港、オセアニア、米国です。セクター別で見ると、工業と消費財、エネルギー、ガバメント・パブリックセクター、プロフェッショナルサービスの寄与が大きく、利益率が最も大きかったのは金融と石油・ガス、パブリックセクターです。銀行・保険セクターのIPOは安定したキャッシュ・フローと、手堅い利回りを求める投資家需要の再燃の恩恵を受け、エネルギーセクターのIPOは重要資源確保の動きが世界的に広がる中、多額の資金流入を呼び込みました。



「EY Global IPO Trends Q3 2025」全文では、さらに深い分析とインサイトを紹介しています。PDFをダウンロードする


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第2章

規制環境の変化

証券取引所は、国際競争で勝ち抜くために改革を加速させています。

世界各地で証券取引所が規制改革を加速させ、長期的な資本形成における役割の強化を図っています。その多くが上場要件の合理化や開示制度の最新化、手続き上の障壁の緩和に取り組んできました。これは、革新的な企業の誘致と、市場を圧倒している米国に対抗し、信頼できる上場先として地域市場の地位を築くことを目的とした戦略的な動きです。規制改革は、世界の証券市場間の競争で勝ち抜くための手段となりつつあります。

こうした改革は、進化する経済上の優先課題や各セクターの優先課題と強く結びついています。米国は引き続き証券市場を利用して技術的優位性を維持し、中国は先進製造業・電気自動車(EV)のサプライチェーンに注力し、インドはITとデジタルインフラ、フィンテックを重視しています。また、欧州は工業とライフサイエンスに重点的に投資をし、中東は政府系資産投資やエネルギー、テクノロジーの各セクターへの多角化を加速させています。IPOの発行は、グリーンエネルギーやAI/テクノロジー、防衛技術、ヘルスケア、インフラなどの分野に沿った案件が増加しており、証券取引所はこれらセクターの成長を支えるため、それに合わせた規制フレームワークの変更を進めています。新興市場も地域の資本のハブになることを目指し取り組んでいます。IPO環境で注目を集めているのはインドと中東、ASEANです。特にインドの証券取引所はすでに、市場の厚みとダイナミズムが増していることを背景に、IPO件数で世界トップに立っています。

世界全体で上場ルールが柔軟化

近年、多くの証券取引所が革新的な高成長企業を誘致するために上場要件を緩和しています。香港ではテクノロジー企業向けのチャネル「TECH(Technology Enterprises Channel)」とバイオテクノロジー企業向けのフレームワークにより、非公開申請や適格性の拡大が可能になり、2025年上半期の資金調達額が前年同期比で7倍以上に跳ね上がりました。このような変化は、背景にある米国証券市場との競争、テクノロジーや金融、ライフサイエンスなど主要セクターにおけるIPO件数の回復への取り組みを示しています。投資家保護を目的とした制限措置の緩和はボラティリティリスクを高める恐れがありますが、新ルールでは、柔軟性と監視を両立させ、市場アクセスと投資家保護バランスを取っています。証券取引所は海外のIPO企業を誘致し、地域をまたいだ資本フローを促進するためのフレームワークづくりを進めており、国境を超えたつながりも強化されています。

従来型IPO以外の選択肢

世界各地の証券取引所がルールの拡大を進め、企業の上場ルートの多様化を図っています。特別買収目的会社(SPAC)は2021年に起きたブームが去った後も、制限措置の強化で構造を大きく変化させながら、引き続き重要な役割を担っています。2024年の米国証券取引委員会(SEC)改革でSPAC上場とDe-SPAC上場に対する監視が強化され、従来型のIPOの基準に近づいています。SPACは2025年の上場全体の一定の割合を占め、IPO市場で投資家が選択に慎重になる中、選択肢の1つとなっていますが、依然としてパフォーマンスリスク訴訟リスク、セクターリスクには注意が必要です。

規制当局は上場の手続きの迅速化と制限緩和を図っており、ダイレクトリスティングの柔軟性が増しています。それと並行し、IPO環境を根本的に変えつつあるのがデジタルファイナンスです。ブロックチェーンベースのモデル統合や、オルタナティブ資産へのアクセスの拡大などの提案が進んでいます。

これは、「市場の存在価値を維持し、テクノロジーやエネルギー転換など優先セクターに資金を振り向け、不安定な環境でIPO企業に選択肢を提供する」という戦略的目標の幅が広がりを反映しています。しかし、急激なイノベーションがボラティリティや投資成果のばらつきを招いた過去の教訓から、アクセスのしやすさと投資家保護のための制限措置を両立させる必要性も重視されています。

市場アクセスと投資家保護の両立

証券取引所が上場制度の合理化とIPO企業誘致の強化を進める一方で、規制当局も市場の完全性を守るための措置の厳格化を進めています。難しい両立を実現させる取り組みの背景にあるのは、過去の過度な投機から得た教訓と、グローバル化が進む市場で投資家の信頼を維持することの重要性の高まりです。

米国と中国、韓国の当局は監視を強化して、市場操作の防止策を導入し、ガバナンスを強め、持続可能な基盤に基づく上場の徹底を図っています。オーストラリアや香港、日本ではコスト削減と時間短縮を目的としたものであるのに対して、欧州とマレーシアでは上場後の底堅いパフォーマンスを支えるため、透明性の向上を進めています。

こうした取り組みは、資金調達の迅速化と柔軟化を図りながら、投資家保護を組み込んでボラティリティを低下させ信頼を回復するという、2つの課題を並行して進めるデュアル・トラック・アプローチです。IPO企業にとっては多くの場合、コンプライアンス要件の強化を意味する一方で、上場後のパフォーマンスの安定化と、長期的な市場環境の健全化の確保にもつながります。


Bearded old craftsman in pottery workshop
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第3章

プライベートエクイティ(PE)の支援を受けたIPO

IPOの世界的な回復でPEによるエグジットが再び増加しています。

エグジット戦略は、いかなるプライベートエクイティ(PE)投資においても極めて重要です。投資家はその戦略に従い、投資を売却して利益を得ます。2025年、PEファンドは戦略的な買収企業と売り攻勢の再燃にけん引される形で、M&Aとセカンダリーセールスへの依存を強めています。その背景にあるのは、スピードと確実性を重視し、「確実な利益」を好む姿勢です。さらには、PEファンドが世界を揺るがす市場のボラティリティや関税問題に伴うコスト圧力に応じてバリュエーションの期待値を修正していることがあります。これらの上場ルートはIPOと比べ早くリターンをもたらし、実行リスクも低いのが一般的です。とはいえ、IPOは複雑さが増し、流動性確保に時間がかかるといったデメリットもあります。しかし、上場と知名度獲得の幅広い手段を提供することができ、長期的価値の最大化を目指す企業にとって、依然として戦略的選択肢であることに変わりはありません。

「Q2 2025 EY Private Equity Pulse Survey」によると、ゼネラルパートナー(GP)の3分の2が今後6カ月間で自社のエグジット活動は加速すると予想しています。年末に向かい、こうした見通しは現実化すると考えられます。PEファンドは、世界的な金融緩和と主要な株式指数の上昇、高成長セクターに有利な規制環境の追い風を受け、IPOをエグジットの有効なルートとして重視するようになっています。実際、2025年第1四半期から第3四半期までの間にPEの支援を受けたIPO上場の件数は2倍以上増え、調達額も68%増加しました。

この勢いは、主要な国・地域全体に広がっています。PEの支援を受けたエグジットは米国と欧州、インドで2021年以来の最高水準に達し、中華圏や日本でも顕著な増加を示しました。特に米国と北欧諸国ではPEの支援を受けたIPOが調達額全体の3分の2以上を、韓国でもほぼ半分を占めています。

PEの支援を受けたIPOは高利益を獲得

PEの支援を受けたIPO企業は世界的に見て新規公開後に堅調な勢いを見せ、複数の地域で短期および年初来で高い利益を上げています。例えば、中国本土は新規公開後のパフォーマンスが全ての期間で最も高く、工業やライフサイエンス、エネルギー、テクノロジーなど主要セクター全体で利益が高水準で推移しています。香港と米国、インドでもこうしたスポンサーの支援を受けたIPOが2桁のリターンを記録しています。香港では消費財セクターと工業セクターのリターンがプラスだったものの、金融セクターがほぼ公開価格で取引され、テクノロジーとライフサイエンスの両セクターが公開価格を割り込みました。新規公開後のパフォーマンスは、インドと日本がまちまちだったのに対して、米国はテクノロジーとライフサイエンス、先進製造業、金融の各セクターで好調です。欧州については、工業セクターとテクノロジーセクターが後れを取った一方、ヘルスケアと不動産、金融の各セクターではスポンサーの支援を受けたIPOが堅調です。

テクノロジーセクターでは、米国を中心にPEの支援を受けたIPOが対象期間を通じて、初期取引での強い勢いを維持しました。その要因はAIやクラウドインフラ、フィンテック、ヘルステクノロジーといった分野に対する投資意欲の高まりです。一方、工業セクターでは、中国本土を中心とするEVバッテリー・自動車部品メーカーと半導体企業の活況が追い風となり、スポンサーの支援を受けたIPOが年初来で最も高い利益を上げました。ヘルス・アンド・ライフサイエンスセクターも、欧州と米国、香港のヘルスケアサービス事業者と診断技術企業がけん引役となって、力強いパフォーマンスを示しています。

不動産・ホスピタリティ・建設セクターについては、PEの支援を受けたIPO企業がインドで著しく増え、新規公開後のリターンも高水準を維持し、欧州と中東ではセクターの基盤の厚みが増しています。エネルギーセクターではPEの支援によりIPOが再浮上しましたが、パフォーマンスはまちまちで、市場ボラティリティの高まりと、エネルギー転換の不透明感を受けて、初期利益は下降線をたどりました。消費財セクターのIPOは件数が減ったものの、リターンが極めて高水準だったのに対して、金融セクターのIPOでは、PEの選択が慎重になり、まずまずのパフォーマンスではあったものの、安定して推移しています。

PEの支援を受けたIPOの大半はテクノロジーと工業セクター

マクロ経済の不確実性が続く中、PEスポンサーはどの企業をいつ上場させるかについて依然として慎重です。その一方で、借入コストの低下とバリュエーションギャップの縮小が追い風となって、回復基調が続いています。

PEの支援を受けたエグジットの回復のけん引役は、ソフトウェアとSaaS(サービスとしてのソフトウェア)、アプリケーション、クラウドプラットフォームを中心とするテクノロジーセクターです。中でも米国は、今年の大型上場で他を圧倒しています。工業セクターも力強い勢いを見せており、特に部品供給や機械メーカーを中心に、PEの支援を受けた上場の大部分を占めているのは中国です。テクノロジーセクターについては、IPOの件数が過去3年間の同期の合計件数を上回ったとはいえ、2021年に記録したピークをはるかに下回る状態であることに変わりはありません。対照的に、工業セクターではPEの支援を受けたIPOが完全に回復し、件数、調達額ともに2021年の水準に戻っています。

2025年第1四半期から第3四半期にPEの支援を受けたIPOのトップ10では、大部分が上場時には黒字であり、スポンサーが収益を生み出す、成熟した企業しか上場させない姿勢をスポンサーが強めていることを示しています。パフォーマンスも好調で、9月下旬の時点では、このうち8社の株式が公開価格より高値で取引され、数社の株式が初期投資額を30倍をも上回る利益を生みました。こうした傾向は、エグジットのタイミングの慎重な見極めとレジリエントなビジネスモデル、上場後の知名度向上を重視するPEファンドの姿勢を表しています。

ビジネスへの影響

IPOに向けた準備にあたっては、業務・財務・ガバナンス面で万全の準備態勢を整える必要があります。IPOに向けた準備態勢が整った企業は、M&Aやセカンダリーバイアウト、重複上場など他のエグジットも問題なく行えるようになり、市場のタイミングや見通しがすぐに変化する市場で戦略的な柔軟性を得ることができます。効果的なエクイティストーリーや準備態勢の整備に伴うメリットと、ファンドがエグジットにアプローチするときに直面する課題を考えると、このような柔軟性は不可欠です。

IPOを成功させるには、魅力的なナラティブを作成して、PE投資家と公開市場のステークホルダーの共感を呼び、収益性向上のための道筋と強固なガバナンス体制、ESGへの対応を重視する姿勢を示さなければなりません。企業は具体的な価値の転換点を明確に示し、IPOで調達した資金でどのようにイノベーションとデレバレッジ(負債削減)、持続可能な成長を加速させるかを分かりやすく発信する必要があります。一方、PEファンドは新規公開以降を見据えた、包括的な上場後の戦略を策定しなければなりません。具体的にはロックアップ期間の戦略的な管理やエグジット計画の段階的な実施、取締役会の積極的な関与の維持に加え、IPO後も自らが引き続き関与して、価値創造を加速させる戦略的決定への影響力を維持することなどが含まれます。

IPO準備が整った企業にとっては、あらゆるエグジット戦略をとることが可能です。特に成長の転換点に合わせてタイミングを調整でき、魅力的なエクイティストーリーを持ち、市場の好機を捉えることができれば、他のエグジット手段よりも利益を得られる可能性があります。


Sound designer counting down for singer in vocal booth to start performance for recording session, producing new music in control room. Skilled audio engineer operating panel board.
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第4章

世界のIPO市場の見通し

世界情勢の複雑な状況下においても、柔軟で前向きな見通しがIPOの機運を高めています。

2025年第4四半期から2026年初旬にかけての世界のIPO市場の見通しは、いくつかの好材料が追い風となり、第1四半期から第3四半期までと比べ楽観できます。

主要な国・地域全体で、程度の差はあるものの金融政策は緩和されています。米国の関税引き上げによるインフレが生じる前に、成長の鈍化とインフレの緩和が重なったことを受け、米国やユーロ圏、英国、中国、主要新興国・地域では中央銀行が金利を引き下げたり、金融政策のさらなる調整に備えたりしてきました。短期金利は下がり、全体的に金融緩和基調がおおむね続いています。さらに、好調な企業収益と株式市場の力強いパフォーマンスが引き続き投資家の信頼を下支えしています。今後も依然として状況に応じて調整が行われることになりますが、緩和への移行が市場見通しの改善に一役買っています。

上場後のパフォーマンスが投資家の意欲をさらに高めていますが、特に人気を集めているのは、拡張性のあるビジネスモデルと成長に関する確かなナラティブを掲げるIPO企業です。地域別で見ると、米国と中国本土、香港、インド、中東が他地域より速いスピードで回復しています。

しかし、大きな逆風が解消されたわけではありません。インフレが長引き、マクロ経済の見通しも依然として不透明であり、これが投資家の信頼を低下させています。相反する経済データと政治的駆け引きを受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)が9月中旬に「リスクマネジメント」のための利下げに踏み切りました。これは、景気減速の兆候が強まり、経済見通しが極めて不透明なことを示しています。米国における特異な動向と、財政の持続可能性への懸念により、長期金利には上昇圧力がかかり、米国政府機関の閉鎖など政治的不安定とFRBの独立性に対する懸念でリスクプレミアムが上昇しています。また、債券利回りの上昇で割引率が引き上げられて、IPOのバリュエーションの魅力が薄れ、IPO企業はナラティブだけでなく、収益性向上の明確な道筋も示すことを求められています。

一方、プライベートキャピタルの急激な台頭は資金調達環境を根本的に変え、豊富な資金と柔軟性をもたらしました。今では、多くの企業は、長い期間未上場のまま、上場に伴う複雑な問題を回避しながら、戦略策定の主導権を維持することを選択しています。IPOはもはや、規模拡大を図るための「お決まりのコース」ではありません。プライベートキャピタルはイノベーションのパラレルエンジンとなっており、IPOに向けた準備は戦略的に、かつ期待の変化に合わせて行わなければなりません。


成長重視

2025年9月の「EY Global IPO Pulse Survey」から、投資家は価値より成長に重点を置いたナラティブを重視することが分かりました。テクノロジーと金融、ヘルス・アンド・ライフサイエンスの各セクターが、評価の上位に浮上しています。特に需要が大きいのは、ビジネスモデルが革新的、かつ拡張性を備えていることで知られるAIとフィンテック、防衛技術、ヘルステクノロジーなどの分野です。

一方、規制当局もIPOの進め方の根本的な見直しを進めています。新たな選択肢により公開市場へのアクセスが拡充した一方、情報開示やガバナンス、説明責任に対する監視の目が厳しくなっています。その結果、IPOに向けた準備では、魅力的な潜在成長力以上に、IPO企業は透明性と財務規律、確かな実行力を実証しなければなりません。

こうした動向に合致するのは利益を伴う成長へのシフトです。投資家は依然としてイノベーションと拡張性を重視していますが、今では堅調なキャッシュ・フローを維持し、規律あるガバナンス体制を備え、収益性向上のための道筋を明確に示す企業を好むようになってきました。つまり、成長は相変わらずナラティブの中心的要素であるものの、それには強固な財務体力と確かな実行力の裏打ちが必要だということです。

 

セクターを問わずパイプラインが強化

ほぼ全てのセクターでIPOパイプラインが拡大しています。特に勢いがあるのは、不動産・ホスピタリティ・建設、工業、消費財、エネルギーセクターです。その一方で、件数が最も多いのはテクノロジー・メディア&エンターテインメント・テレコム(TMT)で、世界全体のIPO準備企業の4分の1以上を占めています。また、その大半の所在国・地域は米国と中国本土です。強いパイプラインを形成する工業は、TMTに次いで2番目に件数が多く、その所在国・地域で最も多いのは中国とインドです。一方、ヘルスケア・アンド・ライフサイエンスは米国と中国、イスラエルで人気を集め、また消費財と金融、不動産・ホスピタリティ・建設も2桁の成長を見せています。


短期的には明確、長期的には不透明な見通し

投資家は現在、長期的な見通しより、短期的な地政学的・規制環境の動向を明確に把握できるという、異例の状況に置かれています。同時に、予測されるインフレ率目標や米国の中央銀行の独立性、世界的な政策協調など長期的なマクロ基盤はもはや信頼できないとの認識が高まっています。コストが圧迫され、プロセスの自動化が進み、新たな競争上の堀が出現する中、AIディスラプションがセクターを問わず変革を加速させています。こうした状況全てが構造的な不確実性を招き、安定した政策体制をベースとした従来型モデルではもはや十分に対応できず、長期的な予測をさらに難しくしています。米国債利回り曲線の最近の動きは、こうした変化を裏付けています。30年債と10年債、10年債と2年債の利回りの差はいずれも急激に広がり、長期を前提とした有効性に投資家が不安感を抱いていることが浮き彫りとなりました。

こうした状況を背景に、投資家は即時の明確性と、戦略的に重要な要素を重視しています。9月の「EY IPO Pulse Survey」によると、回答者の80%が、地政学的リスクがIPO市場に及ぼす影響を認識しているものの、最大の検討課題に挙げているのは、企業がAIとデジタルトランスフォーメーションにどのように対応しているかです。こうした将来を見据える姿勢が、インフレや金利、企業の収益を巡る懸念に勝っており、投資家が構造的な不確実性に直面し、レジリエンスとイノベーションを求めている様子がうかがえます。

ビジネスへの影響

指数の急上昇は世間の注目を集め、投資家の見通しも過去の四半期より前向きになっていますが、IPOを有利に進めるには、強力なナラティブと検証可能な財務資料を作成して準備を十分に整える必要があるでしょう。IPOが活況を呈するようになれば、プルスロー効果が生まれ、中小企業に対する信頼が高まる可能性があります。

 

2025年第4四半期から2026年初旬にかけての時期は、直線的な回復ではなく、段階的な再開の期間と捉えた方がよいと思われます。スポンサーは、世界的な金融緩和に伴う流動性改善の時期に合わせて上場を行い、慎重な価格設定戦略を採用すべきです。同時に、監査可能な財務情報と透明な資産配分、確かなガバナンスフレームワークに裏打ちされた、上場前の品質も重視しなければなりません。投資家の見通しは、成長セクターに対し徐々に好意的になってきていますが、高く評価されるのは依然として投機的な内容のナラティブより、レジリエンスと明確な事業運営体制です。代わりのエグジットルートを戦略的に展開して市場参入のデリスキングを図りながら、デュアルトラック型の準備態勢を維持し、上場に関わる柔軟性と選択肢を維持する必要があります。

株式公開の手引き

株式公開の手引きは、IPO前、IPO期間中、そしてIPO後において、企業が戦略的に検討すべき事項を取り扱っています。

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サマリー

2025年第3四半期は、関税問題や金利変動に伴う課題を伴う状況から、大きな上昇基調に転じました。この回復の大きな要因は金融緩和とインフレ率の低下、株式公開を容易にする規制改革です。地政学的リスクが市場の動きに常に影響を与える要因と見なされるようになった一方、AIを活用している企業には高いバリュエーションがつけられています。セカンダリー市場のバリュエーションは高水準を維持していますが、経済データは成長の減速を示唆していることから、投資家は選択に慎重な姿勢を強めています。IPOを成功させるには、幅広い経済トレンドに合わせて戦略の適応が求められます。

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