エグジット戦略は、いかなるプライベートエクイティ(PE)投資においても極めて重要です。投資家はその戦略に従い、投資を売却して利益を得ます。2025年、PEファンドは戦略的な買収企業と売り攻勢の再燃にけん引される形で、M&Aとセカンダリーセールスへの依存を強めています。その背景にあるのは、スピードと確実性を重視し、「確実な利益」を好む姿勢です。さらには、PEファンドが世界を揺るがす市場のボラティリティや関税問題に伴うコスト圧力に応じてバリュエーションの期待値を修正していることがあります。これらの上場ルートはIPOと比べ早くリターンをもたらし、実行リスクも低いのが一般的です。とはいえ、IPOは複雑さが増し、流動性確保に時間がかかるといったデメリットもあります。しかし、上場と知名度獲得の幅広い手段を提供することができ、長期的価値の最大化を目指す企業にとって、依然として戦略的選択肢であることに変わりはありません。
「Q2 2025 EY Private Equity Pulse Survey」によると、ゼネラルパートナー(GP)の3分の2が今後6カ月間で自社のエグジット活動は加速すると予想しています。年末に向かい、こうした見通しは現実化すると考えられます。PEファンドは、世界的な金融緩和と主要な株式指数の上昇、高成長セクターに有利な規制環境の追い風を受け、IPOをエグジットの有効なルートとして重視するようになっています。実際、2025年第1四半期から第3四半期までの間にPEの支援を受けたIPO上場の件数は2倍以上増え、調達額も68%増加しました。
この勢いは、主要な国・地域全体に広がっています。PEの支援を受けたエグジットは米国と欧州、インドで2021年以来の最高水準に達し、中華圏や日本でも顕著な増加を示しました。特に米国と北欧諸国ではPEの支援を受けたIPOが調達額全体の3分の2以上を、韓国でもほぼ半分を占めています。
PEの支援を受けたIPOは高利益を獲得
PEの支援を受けたIPO企業は世界的に見て新規公開後に堅調な勢いを見せ、複数の地域で短期および年初来で高い利益を上げています。例えば、中国本土は新規公開後のパフォーマンスが全ての期間で最も高く、工業やライフサイエンス、エネルギー、テクノロジーなど主要セクター全体で利益が高水準で推移しています。香港と米国、インドでもこうしたスポンサーの支援を受けたIPOが2桁のリターンを記録しています。香港では消費財セクターと工業セクターのリターンがプラスだったものの、金融セクターがほぼ公開価格で取引され、テクノロジーとライフサイエンスの両セクターが公開価格を割り込みました。新規公開後のパフォーマンスは、インドと日本がまちまちだったのに対して、米国はテクノロジーとライフサイエンス、先進製造業、金融の各セクターで好調です。欧州については、工業セクターとテクノロジーセクターが後れを取った一方、ヘルスケアと不動産、金融の各セクターではスポンサーの支援を受けたIPOが堅調です。
テクノロジーセクターでは、米国を中心にPEの支援を受けたIPOが対象期間を通じて、初期取引での強い勢いを維持しました。その要因はAIやクラウドインフラ、フィンテック、ヘルステクノロジーといった分野に対する投資意欲の高まりです。一方、工業セクターでは、中国本土を中心とするEVバッテリー・自動車部品メーカーと半導体企業の活況が追い風となり、スポンサーの支援を受けたIPOが年初来で最も高い利益を上げました。ヘルス・アンド・ライフサイエンスセクターも、欧州と米国、香港のヘルスケアサービス事業者と診断技術企業がけん引役となって、力強いパフォーマンスを示しています。
不動産・ホスピタリティ・建設セクターについては、PEの支援を受けたIPO企業がインドで著しく増え、新規公開後のリターンも高水準を維持し、欧州と中東ではセクターの基盤の厚みが増しています。エネルギーセクターではPEの支援によりIPOが再浮上しましたが、パフォーマンスはまちまちで、市場ボラティリティの高まりと、エネルギー転換の不透明感を受けて、初期利益は下降線をたどりました。消費財セクターのIPOは件数が減ったものの、リターンが極めて高水準だったのに対して、金融セクターのIPOでは、PEの選択が慎重になり、まずまずのパフォーマンスではあったものの、安定して推移しています。
PEの支援を受けたIPOの大半はテクノロジーと工業セクター
マクロ経済の不確実性が続く中、PEスポンサーはどの企業をいつ上場させるかについて依然として慎重です。その一方で、借入コストの低下とバリュエーションギャップの縮小が追い風となって、回復基調が続いています。
PEの支援を受けたエグジットの回復のけん引役は、ソフトウェアとSaaS(サービスとしてのソフトウェア)、アプリケーション、クラウドプラットフォームを中心とするテクノロジーセクターです。中でも米国は、今年の大型上場で他を圧倒しています。工業セクターも力強い勢いを見せており、特に部品供給や機械メーカーを中心に、PEの支援を受けた上場の大部分を占めているのは中国です。テクノロジーセクターについては、IPOの件数が過去3年間の同期の合計件数を上回ったとはいえ、2021年に記録したピークをはるかに下回る状態であることに変わりはありません。対照的に、工業セクターではPEの支援を受けたIPOが完全に回復し、件数、調達額ともに2021年の水準に戻っています。
2025年第1四半期から第3四半期にPEの支援を受けたIPOのトップ10では、大部分が上場時には黒字であり、スポンサーが収益を生み出す、成熟した企業しか上場させない姿勢をスポンサーが強めていることを示しています。パフォーマンスも好調で、9月下旬の時点では、このうち8社の株式が公開価格より高値で取引され、数社の株式が初期投資額を30倍をも上回る利益を生みました。こうした傾向は、エグジットのタイミングの慎重な見極めとレジリエントなビジネスモデル、上場後の知名度向上を重視するPEファンドの姿勢を表しています。
ビジネスへの影響
IPOに向けた準備にあたっては、業務・財務・ガバナンス面で万全の準備態勢を整える必要があります。IPOに向けた準備態勢が整った企業は、M&Aやセカンダリーバイアウト、重複上場など他のエグジットも問題なく行えるようになり、市場のタイミングや見通しがすぐに変化する市場で戦略的な柔軟性を得ることができます。効果的なエクイティストーリーや準備態勢の整備に伴うメリットと、ファンドがエグジットにアプローチするときに直面する課題を考えると、このような柔軟性は不可欠です。
IPOを成功させるには、魅力的なナラティブを作成して、PE投資家と公開市場のステークホルダーの共感を呼び、収益性向上のための道筋と強固なガバナンス体制、ESGへの対応を重視する姿勢を示さなければなりません。企業は具体的な価値の転換点を明確に示し、IPOで調達した資金でどのようにイノベーションとデレバレッジ(負債削減)、持続可能な成長を加速させるかを分かりやすく発信する必要があります。一方、PEファンドは新規公開以降を見据えた、包括的な上場後の戦略を策定しなければなりません。具体的にはロックアップ期間の戦略的な管理やエグジット計画の段階的な実施、取締役会の積極的な関与の維持に加え、IPO後も自らが引き続き関与して、価値創造を加速させる戦略的決定への影響力を維持することなどが含まれます。
IPO準備が整った企業にとっては、あらゆるエグジット戦略をとることが可能です。特に成長の転換点に合わせてタイミングを調整でき、魅力的なエクイティストーリーを持ち、市場の好機を捉えることができれば、他のエグジット手段よりも利益を得られる可能性があります。