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EY Global IPO Trends Q2 2025

不確実性をIPOの機会に変えるには

EYの最新のIPO市場レポート「EY Global IPO Trends Q2 2025」(PDF)をダウンロードする

世界のIPO市場では、2025年上半期は2024年上半期とIPO件数が同程度だったものの、中華圏市場が回復し、北・中・南米が堅調であったことから調達額が増加しました。


要点

  • 世界のIPO市場では、2025年上半期に539件のIPOが614億米ドルを調達し、調達額は前年同期比で17%増加した。
  • 地政学的動向および各国の戦略的優先事項によって各セクターのIPOの機運が高まっているが、あらゆる指標でトップに立っているのは工業セクターである。
  • クロスボーダー上場の件数は2025年上半期に過去最高を記録し、米国における上場の62%が外国企業によるものであった。

2025年上半期の国・地域別IPO調達額の割合は、中華圏が大幅に拡大して3分の1を占めた一方、欧州は低下し、わずか10%にとどまりました。この変化は香港のIPO件数増加にけん引されたものであり、政策の不確実性と市場のボラティリティが高まる中で、グローバルな資本の流れと投資家心理の根深い変化を反映しています。

2025年上半期に、クロスボーダーIPOは過去20年で最多を記録し、世界全体の取引件数の14%を占めました。地理的に明確な傾向が現れており、中華圏とシンガポールがIPOを実施する企業の主要な拠点、米国は上場先として選ばれています。

全体的として、今後の見通しは慎重で、かつ前向きです。世界的にIPO活動の活発化を回復するには、協調的な貿易体制、金融緩和政策、インフレの抑制、地政学的緊張の緩和に懸かっています。

「EY Global IPO Trends Q2 2025」のインサイトについて詳しく紹介していきます。

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第1章

2025年上半期の世界のIPO市場

世界全体のIPO調達額の約60%を米国と中華圏が占め、IPO件数についても、米国、中華圏、インドで同程度の割合を占めています。

2025年上半期は、世界全体のIPO件数が539件と、前年同期から横ばいであったのに対して、調達額は大幅に増加して614億米ドルに上りました。一方、第2四半期は調達額が315億米ドル、IPO件数はわずか241件で2020年以降最低の水準となりました。地域別で見ると、アジア太平洋地域が堅調な伸びでリードし、中東は拡大し、北・中・南米は安定を維持しました。その一方で、減少したのが欧州とインドです。

米国、インド、中華圏の3市場では、2025年上半期のIPO件数がそれぞれ100件を超えています。中でも最も多かったのは109件の米国で、2021年以降、上半期として最多を更新しました。しかし、件数が増えたものの、調達額は減少しています。株価収益率(PER)は前年同様の27倍前後です。

一方、インドはIPO件数が前年同期比で30%減少しましたが、調達額は堅調を維持しています。インド市場では国内外の要因を受けて、株式のボラティリティが高まり、2025年は出足が低調でした。PERが米国と同程度で高いものの、健全なIPOパイプラインと経済指標の改善、政府支援、個人投資家の増加がプラス要因となり回復の兆しが見えています。

インドがIPO件数を30%減らした一方、中華圏は30%強増加し、大型案件と旺盛な投資家需要を背景に、調達額が3倍に急増しました。

中国政府は市場の混乱を回避し、戦略的セクターを優先させるため、引き続きIPOの流れを慎重に規制し、承認のタイミングを調整しています。このような慎重な措置にもかかわらず、中華圏のIPO活動は活発です。特に香港は、昨年上半期の資本流出から一転し、2025年上半期にはIPO調達額が2024年比7倍で世界トップに立ち、目覚ましい回復を見せました。

2025年上半期、韓国においてはIPO件数が38件に上っています。これは2021年に記録した40件に迫り、上半期として過去22年間で2番目に多い数字です。ASEANで唯一IPO件数と調達額が共に増加したのはマレーシアです。IPO件数は27件に上り、過去20年で最多を記録し、投資家の信頼感の高さが浮き彫りとなっています。一方、日本はIPO件数が27件と若干減少したものの、調達額が37億米ドルに上り、上半期として過去11年で最高額に達しています。この大きな要因はJX金属の大型上場です。

欧州では4月初旬の市場混乱以降、多くの主要市場にブレーキがかかり、IPOは件数、調達額共に減少しました。例外は、Asker HealthcareのメガIPOの恩恵を受けたスウェーデンです。欧州全体では前年同期比15%減の50件、調達額も58%減の59億米ドルにとどまりました。これには、欧州の投資家がますます慎重になり、主な判断基準として収益性とレジリエンスの重視を強めている背景があります。

中東では、サウジアラビアやイスラエルなどで活動が活発化する傾向にあり、IPO件数が増加しました。中でもサウジアラビアは、今年に入り25件と過去最多を更新しています。

2025年上半期の地域別のIPO活動状況


「EY Global IPO Trends Q2 2025」全文では、さらに深い分析とインサイトを紹介しています。PDFをダウンロードする


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第2章

セクター別IPO件数の推移

世界全体のIPO件数に占める小売とモビリティセクターの割合が過去最多となりました。

地政学的動向および各国の戦略的優先事項は、各セクターのIPO環境に大きな影響を与えており、より的を絞った分野でのIPO機会が生まれています。

IPO件数、調達額、増加率でトップに立っているのは工業セクターであり、そのけん引役はモビリティのサブセクターと、インド、中華圏、韓国での堅調なIPO活動です。

地政学的緊張やサプライチェーンリスクの高まりにより、生産拠点の国内回帰とフレンドショアリングが加速し、国内製造や先進テクノロジーへの投資が促進しています。また、政府のインフラ整備計画や防衛予算増額も工業イノベーションのさらなる追い風となっています。2025年上半期は、世界全体の工業セクターにおけるIPO件数の約3分の1をインドが占めています。件数が多い反面、リターンが低水準である背景には、市場の厚みと投資家の慎重な姿勢があります。中華圏は、国内の旺盛な需要とサプライチェーン再編を背景に、EV用バッテリーと自動車部品のサプライヤーが大型上場したことが後押しとなり、世界全体に占める調達額の割合が60%に拡大しました。

テクノロジーセクターはIPO件数が若干減少したものの、調達額が前年同期比で19%増加しました。ソフトウェア企業の上場先は米国と日本が圧倒的に多く、特に米国のIPO件数は2024年上半期から倍以上の伸びを見せています。これは、投資家の間でデジタルプラットフォームとSaaS(サービスとしてのソフトウェア)モデルへの関心が続いていることの表れです。一方、ハードウェア企業の上場は、電子機器と半導体の製造に強い中華圏への集中が続いています。

消費財セクターは、主に小売サブセクターの活動が堅調だったことにより、2025年の世界全体におけるIPO件数でトップ3に入りました。主要な市場として浮上したのは香港です。香港の消費財セクターのIPOは投資家の多大な注目を集め、平均で1,700倍の応募倍率を記録し、個人投資家の選好するセクターのトップとなりました。拡大の勢いは香港から、中国本土、マレーシア、韓国にも広がり、IPO件数、調達額ともに増えています。インドは、IPO件数でトップの座を維持したものの、これまでと比べ成長率は鈍化しています。

不動産・ホスピタリティ・建設セクターも、堅調なインフラ投資により、力強い伸びを示しています。中国本土は上半期のIPO件数が前年同期の0件から7件に増加、調達額も17億米ドルに上り、目覚ましい回復を遂げています。米国では、連邦政府のインフラ投資、政策支援、資金調達環境の改善などを市場の活性化に生かしています。一方、インドはIPO件数でトップだったものの、規制当局の監視強化と借り入れコストの上昇を受け、第2四半期に入り勢いが鈍化しました。

ヘルス・ライフサイエンスセクターは前年同期に比べ、IPO件数が同水準でしたが、平均取引規模の縮小により調達額が約25%減少しています。地域によって傾向は大きく分かれ、中華圏と韓国が増加を維持した一方、米国では大型IPOが減少しました。

ボラティリティが高まる中、明暗が分かれたのがエネルギーセクターです。同セクターは不安定な地政学的状況、サプライチェーンの混乱、エネルギー転換の進行により、2025年上半期は価格変動が続きました。このような厳しい状況にあるにもかかわらず、米国は唯一IPO件数と取引規模が共に拡大した市場として存在感を高めています。オセアニアも、平均取引規模が緩やかに拡大し、明るい見通しを示していますが、IPO活動は主要IPO市場と比べると限定的です。

保険セクターではIPOへの関心が再び高まっています。特に米国ではこの傾向が顕著に見られ、不確実性の高まりが低リスク商品の需要を促進しており、ボラティリティが高まる中で安定性を求める投資家にとって魅力的な領域となっています。

セクター別のIPO件数:2025年上半期のトップ3市場

丸印はIPO調達額(単位:10億米ドル)




出所:EYによる分析、Dealogic。


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第3章

市場変動の中におけるIPO

市場のボラティリティが高まり、長く未公開企業のままでいることを選択し、戦略を見直す企業が増えています。

2025年上半期は、比較的安定していた2024年上半期に比べ、世界各地の主要IPO市場全体において予期せぬボラティリティの高まりが見られました。安定した状況下で強気ムードが高まった昨年から一転し、2025年上半期になると、市場は地政学的動向、マクロ経済の変化、2024年選挙イヤーの影響を強く受けました。

ウォール街の「恐怖指数」として知られ、今後30日間の変動率を予測するVIX指数(CBOE Volatility Index)は、こうした劇的な変動を反映しています。VIX指数は2025年上半期に、14.8から、52.3へと37.6ポイントも上昇しました。これは、2024年上半期の7.4ポイント上昇の5倍以上に当たり、IPO準備企業が直面している市場環境の厳しさを如実に表しています。

市場のボラティリティの高まりは、期待されていた世界のIPO市場の回復をさらに妨げました。上半期に上場を計画していた企業の多くが、その計画を先送りするか、取り下げています。「EY Private Equity Exit Readiness Study 2025」からも、企業の78%が通常の5年保有期間を超えて資産を保有しており、投資家に流動性の還元を求める圧力が高まっていることが分かります。こうした環境を受けて、貿易関税、不安定な地政学的状況、不均一な経済回復による影響が顕著な欧州を中心に「長く未公開企業のままでいる」傾向が強まっています。

このような変化の明確な指標の1つが、IPO時における欧州企業の設立年数の上昇です。上場する欧州企業の設立年数の中央値は、2025年上半期が29年で、2021年の13年から大幅に上昇しています。この背景にあるのは、プライベート市場における企業のライフサイクルの長期化です。それにより一般投資家がより安定した事業にアクセスできる反面、未上場時には初期の成長が完了している企業が多く、上場によるメリットが限定的になってしまう可能性があります。

プライベート市場とパブリック市場の境界がますます曖昧になる中、企業はマクロ経済、地政学、規制、バリュエーション(評価)の環境の変化を受けて、資金調達ルートをうまく使い分け、戦略の見直しを進めています。資本力のある企業では、市場の混乱に乗じて戦略的な企業買収に着手するところも増えています。

2025年5月期の「EY Global CEO Outlook Survey」の結果から、CEOがIPOよりディールや提携を重視しており、M&Aへの意欲が高まっていることが明らかになりました。バリュエーションの一時的な乱れは、高品質な資産を割安で取得する機会を生み出しています。また、上半期を通じたディール件数の増加は、M&A環境が今後、好調に推移していくことを示唆しています。

こうした機運を後押ししているのが、CEOのインオーガニック成長戦略志向です。マクロ経済環境のボラティリティが高まる中で、拡張性と競争優位性のより迅速な確保を好む傾向は、上場企業にも広がっています。例えばロンドンでは、2025年上半期にテイク・プライベート(上場企業の非公開化)活動の件数がIPOを上回る状況が続き、上場廃止が2桁だったのに対し、IPOは1桁でした。企業は積極的にプライベートキャピタル戦略とパブリックキャピタル戦略を使い分け、多くの企業がプライベートエクイティ(PE)スポンサーの支援を受けています。

依然としてIPOのパイプラインは充実していますが、上場に向けた道筋は複雑さを増し、マクロ要因にますます大きく左右されるようになっています。貿易問題に起因するボラティリティの高まり、インフレ圧力、金融緩和の遅れが、投資家の姿勢の慎重化や審査の厳格化の一因となっています。市場の「質への逃避(flight to quality)」により、IPOの機会は最も信頼性が高く、万全の準備を整えた企業に限られる傾向にあります。

ボラティリティ指数の市場別推移

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第4章

クロスボーダー上場

クロスボーダー上場はピークを迎えようとしているのでしょうか。

2025年上半期はクロスボーダーIPO件数が過去最多に達し、世界全体のディール件数に占める割合も10年前はわずか6%だったのが14%に拡大しています。中華圏とシンガポールが主な資金源として浮上していますが、米国が上場先として最も選ばれる存在となっています。中華圏とシンガポールを合わせるとアジア太平洋地域の2025年上半期の世界全体のクロスボーダー上場に占める割合は、74%に達しています。中華圏の企業の約30%、シンガポール企業の93%強が上場先に米国を選択しています。

それに伴い、米国は世界で最も魅力的なクロスボーダー上場先となりました。2025年上半期に米国での上場を選択したクロスボーダーIPOの割合は世界全体で93%に上り、2016年の30%から大幅に拡大しています。そのため、今では米国で上場する企業の62%が外国企業となり、その中で最も多いのが中華圏とシンガポールの企業です。

米国市場の魅力は膨大な資金プールと幅広い投資家基盤、流動性の高さにあります。特に外国企業側は、収益力のある成長志向型企業に関心のある投資家へのアクセスを重視しています。また、米国はテクノロジーセクターやライフサイエンスセクター、金融セクターなど、特に人口知能(AI)やデジタルプラットフォームを活用する企業にとって魅力的な上場先です。

テクノロジーセクターはクロスボーダーIPO件数で首位を維持していますが、米国で上場した中国企業の間で注目すべき変化が生じています。小売を中心とした消費財セクターが、徐々にテクノロジーセクターを追い抜き、主要なドライバーとなりつつあります。

この背景には、中国企業による戦略の微調整があります。中国企業は意識的に小規模なディールと、政治的圧力がかからないセクターを選ぶことで、監査コンプライアンス圧力にうまく対処しながら、グローバル資本へのアクセスを確保しようとしています。

クロスボーダー上場においては、調達額も大幅に減少しています。クロスボーダーIPO調達額の平均は、2020年から2021年の3億4,000万米ドル~4億米ドルをピークに、最近では2,000万米ドル~4,000万米ドルに減少しています。小規模なクロスボーダーIPOは上場後も引き続きパフォーマンスが好調ですが、過去5年間のデータでは、中規模および大規模のクロスボーダー上場は、国内上場に比べパフォーマンスが低いことが明らかになりました。クロスボーダー上場と国内上場間のパフォーマンス格差は2025年に縮小したものの、今年に入りパフォーマンスが国内上場を上回るのは小規模なクロスボーダーIPOだけであり、よりアジャイルで、的を絞ったクロスボーダー上場への戦略的な転換が求められていることを裏付けています。

このように極めて好調なクロスボーダー上場を維持するためには、山積する課題を解決する必要があります。米中間の緊張関係をはじめ地政学的な分断の進行によって、多国籍企業や投資家は政治的に慎重な対応が求められる国・地域から資金を移して「デリスキング(リスク回避)」することを余儀なくされています。そのため、中国の大型IPOは米国市場よりも香港市場を選択することが予想されます。実際、SHEINは先ごろ、香港市場への上場を目指す決定をしました。

 

規制当局の圧力も、さまざまな方向から強まってきています。米国証券取引委員会(SEC)が2025年6月に公表した「Concept Release on Foreign Private Issuers (FPI)」の適格基準は、期待される情報開示とコンプライアンスの水準がさらに厳しくなっていることを示唆する内容です。国・地域の要件の厳格化から、取引・上場基準の強化までの幅広い改革案が実行されれば、外国民間企業(FPI)の適格基準を満たすことができない企業が出てくる可能性があります。特にケイマン諸島など海外で設立され、主に中国で事業を展開する企業に対して影響が大きいと考えられます。一方、中国政府も海外上場に対する取り締まりを強化しています。中国証券監督管理委員会(CSRC)は、機密データを取り扱う企業、小規模な低浮動株・超小型株企業などを対象に審査期間を延長しました。

 

マクロ経済の変化が、こうした状況をさらに複雑にしています。米ドル安と金利緩和を受けて、投資家はアジアや欧州のIPO機会を模索しています。一方、世界各地の証券取引所は規制の合理化、高度な取引インフラ、投資家プールの充実を通じて外国企業を呼び込み、競争力を高めています。

 

地政学的緊張、規制当局の圧力、構造的な不透明性、企業の慎重な姿勢、魅力的な代替市場、通貨動向、金融緩和などの要因が相まって、クロスボーダー上場の傾向に変化をもたらしています。大型ディールへの逆風が強まる一方で、中・小規模のIPOは依然として活発です。現在の傾向が今後も続くかどうかは、規制当局の緊張や地政学的緊張がどの程度続くか、そして香港、欧州、アジア市場がこれまで世界を席巻してきた米国市場にどの程度取って代われるかに懸かっています。


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第5章

世界のIPO市場の見通し

世界情勢の複雑な状況下においても、柔軟で前向きな見通しがIPOの機運を高めています。

2025年下半期に入り、世界の資本市場は、今年上半期に広がった政治・地政学的ショックを吸収しつつあります。かつてはボラティリティを高める主要因であった貿易関税、地域紛争、マクロ経済政策の不確実性が徐々に資産評価に織り込まれるようになっています。株式市場が勢いを取り戻し、VIX指数などボラティリティ指標は落ち着き、香港など膨大な資金プールを持つ地域に資本が流れています。

 

6月に機関投資家を対象に実施した「EY Global IPO Pulse Survey」の結果によると、2025年中盤において、世界のIPO市場の見通しは、慎重かつ前向きです。米国とインドでは回復が見られ、欧州でも回復兆候があります。また、香港や中国本土を中心とする一部アジア太平洋地域および中東では活発な状態が続いています。

 

より前向きなシナリオにおいては、世界のIPO市場は、協調的な貿易の枠組み、金融緩和政策、インフレ抑制、地政学的緊張の緩和の実現によって、2025年下半期または2026年初旬にも回復する可能性があるとされています。こうした動きが、一般的に投資家の信頼回復を促す条件である、ビジネス活動と経済成長を安定させ、株価評価を上げ、資本市場の勢いを増し、市場のボラティリティを低下させる一助となり得るためです。

 

各セクターでIPOの機運を生むには、より明確な規制・政策シグナル、強固なマクロ経済基盤、そのセクター特有の強力な起爆剤も不可欠です。幅広い構造改革やイノベーションは重要な役割を果たしていますが、地政学的安定と明確な金融政策なくして、持続的な回復を実現することはできません。

 

興味深いことに、投資家はもはや、収益力やEBITDA成長率など従来の財務指標だけを重視しているわけではありません。こうした基本的な指標が極めて重要であることに変わりはありませんが、直近の「EY Global IPO Pulse Survey」の結果から、投資の判断基準が変化していることが分かりました。今後6カ月間の投資家の関心に影響を与える要素トップ5のうち3つは非財務的な要素であり、「研究とイノベーション」、「ブランド力と市場ポジショニング」、「企業戦略の質とその実行力」となっています。

 

こうした変化は、長期的価値の創造において無形資産や戦略的ビジョンの担う役割が大きくなっているという認識の高まりを如実に示しています。投資家は企業に対して、イノベーションで差別化を図り、レジリエントで信頼できるブランドを構築し、明確に定められた成長戦略を実行する能力をより重視するようになっています。これらは、将来の業績の指標だけでなく、急速に変化する市場環境における対応力を示すバロメーターでもあると位置付けられています。

 

実際、投資家心理は成長を重視したエクイティストーリーを選好しており、かすかでありながら注目すべき動きが、米国や中東、中華圏で顕在化しています。政策支援を受けているセクターを中心に、市場ではイノベーションと拡張性への新たな関心が高まっています。このような恩恵を主に受けるセクターとして浮上したのはテクノロジー、ヘルス・ライフサイエンス、金融です。これらのセクターは、デジタルトランスフォーメーション、ヘルスケアイノベーション、フィンテックによるディスラプションといった長期的な構造的テーマに合致しているため、機関投資家と個人投資家との双方から注目を集めています。

 

欧州では、米トランプ政権による一律関税の発表をきっかけとした市場の混乱を受け、4月初旬以降、上場活動が他の地域に後れを取っています。9月~10月の2カ月間が正念場となることが考えられます。この期間に大きな注目を集める上場が複数予定されており、市場関係者は投資家の関心の拡大や、2026年に向けたより確かな回復の可能性を測る試金石になるとみています。

 

 

しかし、高金利または金利緩和のばらつき、インフレの定着、地政学的緊張が継続し、投資家心理が落ち込んだ場合、見通しが悪化する恐れがあります。

 

さらに、主要な政策ショックや、貿易紛争の再燃など地政学的緊張の高まりが、リスク回避や金利引き下げの遅延を引き起こせば、状況は悪化し、限られたIPO機会が損なわれたり、先送りされたりしかねません。それを受けて、安全資産への逃避が進み、結果的に西側諸国を中心にIPO活動が失速することになるでしょう。このシナリオで、ボラティリティの高まりと投資家の監視の厳格化にうまく対応しつつ上場を進められるのは、最もレジリエントで戦略的に優位な立場を確立した企業だけです。

 

このように不確実な時代にあっても、セクターレベルで見ると、IPO機会は存在します。生産拠点のリショアリング、ニアショアリング、「フレンドショアリング」戦略をとる傾向が世界的に加速しており、一部セクターではIPOパイプラインの強化が図られています。この動きが特に顕著なセクターは建設、エンジニアリング、先進的または持続可能な製造業セクターであり、企業は国内生産へのシフトやサプライチェーンの強化に多額の投資を行っています。モビリティセクターでは、中国を中心としたサプライチェーンの再編や自動車部品の需要増加により、上場の機運が高まっています。

 

エネルギーセクターでは、従来型エネルギー、クリーンエネルギーを問わずIPO活動が進行しています。Okloなどの中堅原子力イノベーション企業や、Venture Globalなどの大型液化天然ガス(LNG)の事例は、レジリエントなインフラ資産への転換を示唆しています。この動きを加速させているのは、AIの普及に伴う電力需要の増加、クリーンエネルギーへの転換、地域紛争など地政学的リスクの高まりです。防衛費増額への世界的な政治動向の活発化で、防衛イノベーションに資金が投入され、航空宇宙・防衛分野のIPOパイプラインの強化に伴い、防衛技術関連企業への関心が特に高まっています。各国が国家安全保障と技術的優位性の確保を優先する中、投資家の大きな関心を集める可能性が高いのはサイバーセキュリティ、先進材料、自律型システムなどの最先端ソリューションを提供する企業です。

 

各国政府や投資家が戦略的資源の確保を図る中、鉱業および素材関連企業、特に金、リチウム、レアアース、防衛品やクリーンエネルギーの生産に欠かせない重要鉱物を取り扱う企業の人気が高まっています。

 

デジタル資産株も注目を集めており、Circle Internet Financialなどステーブルコインのパイオニア企業が、株式公開の準備を進めています。これは、ステーブルコインの普及が進み、暗号資産およびフィンテック分野でIPO市場が再び開かれつつあることを示しています。また、ライフサイエンスセクターでも、中国のIPO活動が活発化しています。中国で投資家の関心が再び高まっている要因は、細胞・遺伝子治療や診断、バイオテックプラットフォームの各分野での画期的な発明や開発が挙げられます。多角化が進む中においても、テクノロジーがIPOパイプラインの基盤であることに変わりはなく、クラウドインフラとSaaS、AIハードウェアは引き続き多額の資金を集めています。

 

半導体・電子機器メーカー、特にAIや産業オートメーションを支える企業は依然として有力なIPO候補企業です。こうした動向は、投資家がボラティリティを考慮し、短期投機的な資産よりも、長期的成長や技術の進歩、構造的な支出といったテーマに合致した企業に注目し、資本市場の選別が進んでいることを反映しています。

 

世界の株式市場は7月に史上最高値を更新しました。投資家が米国政府の新たな関税への対応を迫られたものの、相場急落は長くは続かず、一時的なボラティリティの高まりにとどまりました。世界経済は依然として、インフレ抑制圧力の高まりに直面していますが、EYの2025年中期世界経済見通しによると、ビジネス活動は不均一ながらも穏やかなペースを維持する見込みです。地域による経済成長差は広がっており、先進国・地域で疲弊が見られる一方、新興国市場では回復力に違いが見られます。

 

全体的に経済状況が冷え込む国・地域が多い中でも、国の優先事項やイノベーションに沿った活動を展開する企業や、現実に即したバリュエーションを行い、柔軟なタイミングで、信頼できるエクイティストーリーを提示できる企業は、この複雑な環境にうまく対応できる可能性が高いと考えられます。


株式公開の手引き

株式公開の手引きは、IPO前、IPO期間中、そしてIPO後において、企業が戦略的に検討すべき事項を取り扱っています。

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サマリー

2025年上半期は、中華圏が好調で世界全体のIPO調達額の3分の1を占めた一方、欧州の割合は10%未満にまで低下しました。クロスボーダーIPO活動は過去最高水準に達し、米国が上場先として世界で最も多く選ばれています。今後については、経済の安定と地政学的要因によって左右されますが、引き続き慎重かつ前向きな見通しが示されています。

 

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