EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
問うべき3つの質問
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の広がりに端を発し、そのワクチン・治療薬の供給不足から、今まで構築されてきた医薬サプライチェーンの複雑さや特殊性が浮き彫りになってきました。「安定供給」が最大かつ共通の目的として構築してきたシステムは、実際は各企業単位での縦割りで作られたぜい弱な仕組みであったと認識するに至りました。さらに言えば、今回の事象は、将来に向けて、国家レベルでの戦略立案、医薬品業界との共通理解、協働、企業間でより関係を緊密にしたエコシステム化の推進が有効であるとの気付きを与えてくれたのかもしれません。
持続可能なサプライチェーンの構築に向けて、日本でもすでに一歩先へとコマを進めようと取り組みを開始した製薬企業があります。本レポートでも言及しているように、今後はあらゆる関係機関や当局、企業間の対話がより重要となるでしょう。
2020年に全世界で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が出現して以来、グローバルサプライチェーンは今でも目に見える影響を受けています。他の業界と同様に、医薬品業界でもサプライチェーンのオペレーションにおいて最近発⽣した数々の出来事の影響に耐えなければなりませんでした。製薬企業はパンデミックの間、政府や規制当局と緊密に協⼒して公衆衛⽣における戦いの最前線に⽴ち、新型コロナウイルス感染症に対するワクチンと抗ウイルス薬の開発と提供に努めてきました。
一方で、政府や規制当局の関係者は、パンデミック時に、通常では認められないレベルの規制緩和の必要性を認識し、製薬企業との緊密な協力を受け入れており、今後でもこのような関係を続けていくでしょう。この危機の中で業界が成し遂げた成果や、良好な関係構築によってもたされる潜在的な長期ベネフィットを認める一方で、新型コロナウイルス感染症はサプライチェーンにとって深刻な課題であったと認識する必要もあるでしょう。EYの最新の調査Pharma supply chains of the future(PDF、英語版のみ)では、医薬品業界のサプライチェーンがパンデミックにどのように対処してきたか、今後業界がサプライチェーンの回復力向上に向けてどのような対策を講じていけばよいのかを掘り下げて考察しています。
こうした質問に対する答えを探るに当たり、EYでは独⾃の調査と分析を実施し、Pharmaceutical Manufacturing Forum(PMF) のメンバー企業における製造およびサプライチェーンオペレーションのグローバル責任者17名と議論してきました。この17名にはグローバル製薬企業のテクニカルオペレーションや、供給部門のリーダーも含まれます。こうした議論と分析の最終的な⽬標は、医薬品のサプライチェーンにおける将来の姿を理解することでした。
この数⼗年間で、私たちは医薬品のサプライチェーンがグローバル化してきた様⼦を⽬にしてきました。そして今、サプライチェーンにおけるローカライゼーションに加え、国や地域の⾃⽴がより重要視されるようになるという、今までとは逆傾向の始まりを⽬撃しているのかもしれません。この傾向は今後10年間続くとみられています。
この来るべき変化は、国家戦略策定において医薬品事業の重要性が増していることを反映しています。パンデミックの間、各国政府は医療⽤品および医薬品の供給を確保するために介⼊する意志を⽰しました。2020年始めごろから、世界の3つの主要な政治・経済の中⼼国・貿易圏である⽶国、EU、中国ではいずれも、地域または国レベルでの医薬品サプライチェーンの確保を⽬的として、幅広い措置を実施してきました。公衆衛⽣上の⽬標の達成に⼗分な量の医薬品を確保する重要性が世界規模で⾼まっているため、政策⽴案者による介⼊は今後も継続すると予想されます。実際、各国政府は近い将来、業界のサプライチェーンへの介⼊拡⼤を図る可能性が⾼いとみられます。
すでに製薬企業自身も、サプライチェーンの回復力を高めるため、いくつかの取り組みを模索しています。例えば、多くの企業がマルチソーシングを導入し、現地のCDMO(医薬品受託開発製造機関)を活用しています。これらの取り組みは回復力の向上につながり、導入も比較的容易です。また、より大きな効果が得られるアプローチが他にあるとはいえ、実際に成果が実現するまでに、より長期にわたる投資とコミットメントが必要となるでしょう。現時点で業界とその関係者は、求める結果を得るためにはどのような施策、またはどの施策を組み合わせることが適しているのかを評価する必要があります。
サプライチェーンの回復⼒を⾼めるために、医薬品業界とその関係者には、さまざまな選択肢があります。そのうち、検討すべき選択肢は以下の通りです。
これらの対策にはそれぞれに応じたコストと利益が伴います。企業が選択肢を検討するに当たって明らかなのは、業界全体で単⼀のアプローチが採⽤されることはないということです。とはいえ、企業ごとに異なるサプライチェーン戦略を採用するものの、広範には一般的な傾向があることは予想できます。
これらの中で最も重要な傾向は、完全にグローバル化された供給モデルから、グローバル、地域、ローカルの各拠点を戦略的に配置するハイブリッドモデルへの転換でしょう。このようなハイブリッドモデルの⽬的は、複数のサプライヤーによる余裕のある供給機能の構築、CDMOとの協働、⾃社拠点の展開、保有在庫の増加を通じて、供給の回復⼒を⾼めることです。
こうした対策とその他の回復⼒向上策が導⼊される可能性が⾼いことから、将来のサプライチェーンでは、少なくとも新たな、実用的技術が導⼊されるまでは、運⽤コストが増⼤するとみられます。さらに複雑化するサプライチェーンを⽀えるために、⻑期的には⾃動化や⼈⼯知能(AI)、エンドツーエンドのサプライチェーンシステム・プロセスの統合のようなデジタル機能の⾼度化が必要となるでしょう。
製薬企業と政府・当局関係者との協働・協⼒関係の強化は、未来に向けて回復⼒のある、持続可能なサプライチェーンの構築、さらには患者および医療エコシステムに関わるすべての人々が求める健康アウトカムの実現への鍵といえるでしょう。
重要な点として強調したいのは、ここから前進するに当たり、単⼀あるいは容易な道筋は存在しないということです。医薬品業界とその関係者には、サプライチェーンの回復⼒を⾼めるための選択肢がたくさんあります。どのように進めるかについての戦略的意思決定を⾏うには、製薬企業と政治家双⽅が学ぶ機会となる対話が必要です。従って、すべての当事者が、国家レベルおよび国家を超えたレベルで、より深く効果的な対話に取り組むことが不可⽋なのです。
業界は医療エコシステムパートナーの意図を理解する必要があります。つまり、政府が主に必須医薬品の供給確保に注⼒しているのか、それとももっと広い範囲の製品の計画を検討しようとしているのかを理解しなければなりません。政府は製薬企業との協働を通じて、今後の議論でのパラメーターと優先順位を設定することができます。政府は、医薬品サプライチェーンに特有の複雑さや専⾨知識があることを認識する必要があります。また、各国政府は、医薬品業界の将来の事業運営を⽀えるために、持続可能な保険償還モデルの導⼊に向けた取り組みが必要であることを認識するべきといえます。
最終的には、協働・協⼒関係の強化が、将来の回復力のある、持続可能なサプライチェーンの構築を成功させる鍵となるでしょう。製薬企業と政府・当局関係者との間にこのような相互的、構造的、継続的な関係性は過去に存在しませんでした。しかし、すべての当事者が今参画すれば、エコシステム内すべてのパートナーの利益になる、将来の医薬品サプライチェーン実現への戦略的アプローチの基盤を形成することができます。
将来に向けた計画を⽴てる際に重要な5つの問いかけは次の通りです。
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製薬企業とその関係者には、サプライチェーンの運営を⾒直し、向上させる機会があります。EYは、業界や政策⽴案者、エコシステムにおけるその他のパートナーが、将来のサプライチェーンのレジリエンス向上を目指して対話を深められるよう後押しします。