EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
(注)この記事は、DIAMONDハーバードビジネスレビュー2025年6月号の内容を許可を得た上で掲載しています
世界を俯瞰した時、多くのリスク事象が顕在化している。価値観や信条の違いからくる国家間の摩擦、日本を含む各国の社会インフラや各種規制にかかる政策の実効性、デジタル技術の発展による生活環境や企業活動のバリューチェーンの変容など、あらゆる組織体を取り巻く環境はさまざまなリスクイベントにより断続的に変化し続けている。EYのリスク・コンサルティングを率いる小山裕介氏は、複雑化するリスクドライバーのうち、地政学リスク、ESG、デジタル技術の3つについて、以下のように捉えている。
1つ目の地政学リスクについては、「ポピュリズム、ナショナリズムの文脈で振り子のように揺れ動いています。2025年は米国で新たな政権が発足したこともあり、毎日のように同政権の動きが報道されていますが、一喜一憂に反応して、近視眼的に組織戦略を変える話ではないと思われます。むしろ、各業界のリーディングカンパニーは、すでに数年後の国家間の関係性に伴う市場動向や自社事業への示唆を考察した投資戦略を検討、もしくは適応するための事業再編や構造改革のアイデアを練っているのではないでしょうか」と話す。
ESGの文脈においては、「グローバルで環境や資源保護の潮流が止まるわけではなく、一時的、または局地的にスローダウンしているということでしょう。逆に、いままでの進め方がやや拙速に見受けられる局面もありました。社会環境の保護に賛同しつつも顧客に選択肢を極端に狭めなかった企業は、むしろESGテーマを成長ドライバーや競争優位の源泉としてうまく活用していることは明らかです」と小山氏は語る。
3つ目のデジタル技術の発展という観点では、「生成AI技術はあっという間に黎明期を終えて、向こう3~5年でまったく違う景色になると推察されます。わが国においては地殻変動的に少子高齢化傾向が起きている中、個々の生活環境、時間の使い方、仕事の仕方が変化し、もっと言うと世代間で物事に対する価値観や行動のギャップがいやが応でも著しく広がるのではないでしょうか。それらを背景とした新たな社会課題が副次作用で生まれ、解決するためのソリューションが創出されていくとともに、人的資本に対する戦略アプローチを起因とする企業間の競争環境も変化していくでしょう」と考察している。
経営環境が断続的に変化する中で、企業はどのようにしてリスクに向き合うべきなのか。
「企業組織が本来持つべきリスクマネジメント機能として、経営戦略、経営基盤、双方が接合する領域、これら3つの観点が肝要」と小山氏は言う。経営戦略のカギとなる外部環境変化については、リスク要因とはなりえるが、リスク事象として一企業によってコントロールされるものではない。一方で、経営基盤の観点では法令遵守に加えて、企業の行動指針やバリューに基づくルールによって統制されるものであり、これらはコントロールされるべきものということだ。
「コンプライアンスやルールなどの『静的』なリスクへの統制は当然として、外部環境変化を予兆的に捉える『動的』な機能への進化の機運が高まっています。リスクの加速度を吟味して舵取りに反映することがパフォーマンスのクオリティを左右するでしょう」と小山氏は続ける。
他方、企業におけるリスクマネジメントの実態についても指摘する。
「わが国の社会環境に伴う習慣を一因として、リスクが顕在化した後の事後対応のケースが多くあります。大半の企業でリスク対応は経営レベルから現場レベルまで暗黙知的に行われていますが、形式知的に仕組み化したとたんに学術的、教科書のような話でリアリティから離れてしまうケースが散見されます」。それはなぜか。「企業・組織の存在意義、目指すゴール、経営計画などとひもづけたそれぞれの組織レイヤーにとっての手触り感のある仕組みではなく、通常業務とは別ものとして捉えた活動になっているからではないでしょうか」
優れたリスクマネジメント機能は、一企業が外向けに開示する情報やデータだけでは読み解けないことが多い。しかしながら、結果として企業戦略のクオリティや実現性と表裏一体となっていることは確かなようである。優れたリーダーたちは、緻密に先を読み、打ち手を備えている。いざとなった時に、先頭に立って組織を守り、あるべきポジションに導く。逆に言うとリーダーのリスクに対するセンスが劣っている組織は、目標を達成しがたいと考えられる。
「リーダーシップのクオリティを形成する一つの要素として、多種多様なリスクに対する感性、耐性が挙げられます。リスクマネジメントに関するコンサルティングサービスを提供するプロフェッショナル組織として、より良い社会の構築のために、レジリエンスを具備したリーダーを多く支援できればと考えています」と小山氏は語る。
我々の生活を取り巻くリスク環境が日進月歩で変化している昨今、未来志向でリスクドライバーをどう捉えていくべきか。また、経営者はリスクマネジメント機能をどう進化させていけばよいのか。
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EYのリスクコンサルティングは、さまざまなリスク・テーマへの取り組みに際し、リスクを不確実性として捉え、個々の企業の経営方針や価値創出モデルに沿って、戦略的な仕組みの構築・強化からリスクが顕在化した際の対応までサポートします。
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