EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYパルテノンは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
要点
コロナ禍、消費行動の変化・多様化、地政学リスクの高まり、脱炭素社会に向けたルール化の進展などにより、マクロ環境の変化がかつてなく速く、大きくなっています。
2023年10月期のCEO Outlook Pulseの調査においても、変動の激しい地政学的リスクへの対応として、97%の日本企業CEOは「特定の市場でのビジネスからの撤退」「投資先の別の国への移転」「サプライチェーンの再構築」などの事業戦略の見直しを検討していると回答しています。加えて、東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」への要請、多くのアクティビストによる非中核/業績不振事業の売却の要求(EY Global Corporate Divestment Study)など市場からの圧力も高まっています。
企業は、自社ポートフォリオに関するレビューの高度化、非中核/業績不振事業の戦略オプションに関する再評価が求められている中、どのようにすれば迅速かつ合理的に推進できるのでしょうか。
中長期的な自社戦略、及び株主価値に適合した方向に進むためには、対象事業の将来方針について、複数の「戦略オプション」の合理的な比較検討を通じて、善管注意義務を果たしながら最適な方針を選び取り、実行することが重要です。
この戦略オプションについて、「Fix-Sell-Close」の3つの視点から現実的、かつ最適な対応策を特定(方針検討フェーズ)したのち、コーポレート部門と事業部門の横断的なチームによる取り組みを進める(実行フェーズ)流れが有効なアプローチです。
方針検討フェーズにおいては、「各シナリオにおける取り組みのポイント」「現実的な費用と効果、及び発生時期」「ビジネスケース、及びその前提条件」「主な想定リスクと軽減策」「最適な戦略方向性、及び実行フェーズにおける具体的な進め方(詳細スケジュールなど)」といった情報を整理していきます。
Fix(再建)シナリオ:業績改善に向けて必要なオペレーション改善やターンアラウンド施策の特定、実現可能性の検証、財務影響の定量化
Sell(売却)シナリオ:対象事業の買い手候補、買い手に対する価値訴求のストーリー、売却価格の概算予測などを踏まえた、売却の実現可能性や財務影響の検証
Close(撤退)シナリオ:撤退に伴うリスクと対処方法、財務影響の検討、ステークホルダー対応方針の初期案、左記を踏まえた初期的撤退計画の策定
実行フェーズにおいては、方針検討フェーズにおいて予測できなかった事象が発生することも少なくないため、進捗管理のモニタリング体制を整備して進めていく必要があります。
対象事業の将来戦略、事業計画、財務見通し、それらの実現可能性などについて、事業環境、自社の競争力、業績改善に向けた施策の詳細などを踏まえて検討します。財務見通しは、損益計算書のみならず、貸借対照表やキャッシュフローも併せて作成することで、損益影響に加えて、投下資本に対する収益性や資金影響も確認することが肝要です。
財務見通し作成の際には、コスト削減など自助努力を中心とした実現確度の高い施策の効果を反映した見通しと、拡販戦略や追加投資を伴う相対的に難易度の高い施策の効果を上乗せした見通しの2段階で作成するなどして、複数シナリオによる検証を行うことも有効です。
「再建」に向けた計画は、対象事業の事業部自身が作成することが一般的です。そのため、「事業継続に向けた心理的なバイアスが影響した楽観的な見通しになる」「当該事業部内の閉じた取り組みになる(社内のポテンシャルを十分に生かせない)」「貸借対照表やキャッシュフロー見通しを作りきれない」といった課題が散見されます。そのため、財務系部署などのコーポレート部門(及び外部専門家)は、作成段階からの積極的な関与によって、知見面でのサポートに加え、客観的な視点での実現可能性の検証を支援することで検討の深さやスピードを向上させることが可能です。
売却の実現可能性などについては、売り手(自社)の視点のみならず、買い手の視点も踏まえて検討します。
まず、対象事業の毀損(きそん)状況、自社の財務ポジションや資金ニーズを踏まえて売却の方針やタイムラインを初期的に検討します。対象事業のデータ整理状況を踏まえ、売却プロセスにおけるデューデリジェンスを受け入れられるかどうかの確認も必要です。
買い手については、買い手候補名の具体化のみならず、それぞれの買い手候補において想定される投資目的、対象事業の競争力や希少性、買い手に訴求できるエクイティ・ストーリーも検討していきます。
対象事業は対象外事業と同一の法人で運営されていることも少なくありません。そのようなケースにおいては、事業分離(カーブアウト)に関する検討が必要です。具体的には、事業分離の可否、間接部門の有無、他事業への影響、事業分離の所要期間/コスト/実現に向けた課題などを整理して、初期的なロードマップを作成することが理想です。
そして、上記を踏まえて対象事業の企業価値や一連の財務影響を検討していきます。その際には、対象事業の価値という観点のみならず、売却実現までの想定損益やキャッシュフロー、事業分離に伴うコストなども考慮する必要があります。
撤退に伴う主な財務影響として、以下のような項目が挙げられます。これらは、産業、商流、国・地域などによって大きく異なるため、実例も勘案した丁寧な検討が求められます。
また、撤退に際しては多様なステークホルダーとのコミュニケーションが重要です。従業員、仕入れ先/得意先、取引金融機関に加え、国・地方政府、税務当局や規制当局、メディアなどへの配慮が必要なケースも散見されます。このようなステークホルダーとの対応に問題が発生した場合、撤退プロセスの遅延のみならず、想定外の撤退費用の発生や、撤退そのものを断念せざるを得ない事態が生じることもあります。
したがい、コーポレート部門と事業部門の密なコミュニケーションのみならず、現地の規制や実例に通暁した専門家の活用が、精度の高い財務影響の試算やステークホルダーへの遺漏のない対応の成否を左右します。
Fix-Sell-Closeのシナリオ検討は自社での推進も可能ですが、検討・実行の現場で起こりがちな事象を念頭に置くことが重要です。
中途半端な状態が長引くと、損益やキャッシュに対するマイナス影響に加え、営業活動が曖昧なスタンスで進んだり、「長期契約を受注してしまったために、撤退できなくなった」という状況に陥ったりするケースも見受けられます。そのため、本社、特にコーポレート部門がイニシアチブを取り、明確なスケジュールの下に進めていく必要があります。
このような困難を乗り越えるために、多くの企業が日本/現地における税務・法務・労務などのアドバイザーや、全体を統括するプロジェクトマネジメントの専門家を活用しています。
各種検討のはじめの一歩として、対象事業の特定や現状把握を中心とした対応が考えられます。事業ポートフォリオの見直し、収益力強化、資本効率の改善などの実現に向けて、有益な検討材料を得られるため、この第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
マクロ環境の変化が速く、大きくなった近年において、グローバルな事業・拠点の再編は喫緊の課題です。一方で、検討・実行には多様で複雑な論点が立ちふさがります。
EYは、専門知見やグローバルネットワークを生かし、Fix-Sell-Closeの戦略オプションについて迅速かつ合理的な意思決定や推進を支援します。
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