アセットライト経営を加速させる 不動産アドバイザリーの解決力

アセットライト経営を加速させる
不動産アドバイザリーの解決力


保有資産の有効性・必然性を根本から見直し、資本効率の改善に向けて最適化を図る「アセットライト経営」。市場からの要請が厳しさを増す今だからこそ求められるその戦略は、会計・税務を含む広範な専門性と不動産アドバイザリーによるトランザクションの知見が融合することで最大限の効力を発揮します。

立案・実行の最前線に立つEYストラテジー・アンド・コンサルティングのプロフェッショナルに実情を聞きました。




インタビュイー

七谷 文啓
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジー・アンド・トランザクション バリュエーション、モデリング&エコノミクス アソシエートパートナー

平井 清司
EY Japan 不動産・ホスピタリティ・建設セクター・ストラテジー・アンド・トランザクションリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 アソシエートパートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです。



市場からの求めに応じて加速する「アセットライト」

──「アセットライト経営」に関心を寄せる企業が増えていると聞きました。どのような背景があるのでしょうか。

平井 清司(以下、平井):
まず、アセットライトとは、文字どおり資産(Asset)の保有による負担を抑え、財務状況を軽く(Light)することを言います。必要性がなくなった資産があれば売却したり、必要だとしても資産を持たずに賃借など別の方法に切り替えたり、もしくは施設や設備の運営の外部委託といったことも選択肢としてあります。そうした手段を講じることにより、資産の保有にかかる費用を抑え、また新たな資産を購入する費用を抑えて固定費などの負担を減らし、財務の改善を果たします。

七谷 文啓(以下、七谷):
それがなぜ今必要かというと、企業によってはコロナ禍での業績低迷に伴う財務リスク低減に対する施策の一環として、といった事情もありますが、今は資本市場からの要請に対応する側面が大きいのが実情です。総資産利益率(ROA)や自己資本利益率(ROE)、投資収益率(ROI)、投下資本利益率(ROIC)といった財務指標が以前に増して注目されるようになり、俗に「もの言う株主」などと呼ばれるアクティビストからの要求も厳しくなり、企業としてもそれらに対する責任ある対応をより求められるようになりました。

平井:
2023年3月末に東京証券取引所がプライム市場およびスタンダード市場の全上場会社に向けて「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を公表し、PBR(株価純資産倍率)の改善等を要請したことも背景としてあります。これら企業にとって中長期的な企業価値向上を実現するためには、単に損益計算書上の売上や利益水準を意識するだけでなく、バランスシートをベースとする資本コストや資本収益性を意識した経営を実践し、保有する資産が収益獲得に寄与しているか、成長分野への投資となっているかといった観点から点検が必要とされています。そのため、特に不動産を多く抱える企業から、不採算事業の整理や業務効率の改善などと並び、有効活用策を含めた保有不動産の効率性に関する戦略、すなわちアセットライト戦略が注目されています。

七谷:
われわれのチームはそうしたニーズに応え、不動産アドバイザリーとしての知見から企業のアセットライト戦略に役立つサービスを提供しているのですが、ここ1年ほどの間にもお客さまからのご相談が目立って増えてきたのを感じます。海外の投資ファンドによる日本企業の買収合戦さながらの状況が報じられたり、不動産に依存するような経営が問題視されたりする事例が話題になっていますので、危機感の高まりもあるのでしょう。

「見える化」と分析から始まる保有資産の最適化

──アセットライト戦略の効果や手法について、もう少し詳しくお聞かせください。

平井:
アセットライト戦略の目的は企業価値を向上させることにありますので、保有する資産が収益獲得に寄与しているか、成長分野への投資となっているかといった視点が必要となりますが、リスクやリターンが大きく異なる事業を抱えている場合には、セグメント別に資本コストや資本収益性を分析することが有効となり、不動産の在り方もその事業によって異なります。

その上で、対象となる不動産が今後も当該事業に資する活用が見込まれるか、当該不動産の保有コストやリスクにはどのようなものがあるか、といったスクリーニングから始める必要があります。つまり、不動産情報の「見える化」です。それをすることによって、初めてすべての保有不動産の役割や有用性が見えてきます。加えて情報を一元管理することで、コスト面での異常値やコンプライアンス上の問題点も浮き彫りとなり、単なる有効活用といった側面以上の効果も期待されます。

七谷:
例えば、アセットヘビーだと言われる業界の一つとして物流業界があります。物流会社は、全国に営業所や物流拠点などがあり、それら一つひとつの資産は必要に応じて拡充してきたもので、一見して無駄はないように思えます。しかし、商品需要など流通・物流を取り巻く情勢は目まぐるしく変わり、かつては必要だった拠点がもはや役割を終えていないとも限りません。その場所は本当にこの事業に適しているのか、その土地に不動産を保有する価値はあるのか、または賃料を払い続ける価値はまだあるのか。そんな目で精査すると、見えなかったものが見えてくるはずです。

その結果、不要と判断されたアセットに対しては、売却する、他社に貸す、賃貸契約を解約し撤退するなどの対策を講じます。事業にとって必要だと判断された場合でも、自社所有という選択肢のみでなく、いったん不動産会社やリース会社などの外部投資家に売却して、改めて売却先とリース契約を結んで使用を継続する手もあります。これを「セールアンドリースバック取引」と呼びます。こうした判断や対策を最適化することも、われわれのようなアドバイザーの役割です。

──そうした一連の流れにおいて、効果を高めるのに重要なポイントは何でしょう。

平井:
要・不要の選別はやはり最も難しいところでしょう。長年の運用により、企業の中で聖域化している資産というのはあるものです。その会社に根づいた独自のルールや不文律、固定観念もあるでしょう。ですが、あえてそれを特別視せず、どの資産も横並びに整理することで実情が見えてきます。その意味で、全体像を客観的に見渡すことができる外部の目が必要ではないかと思います。

七谷:
そうですね。その資産を最も有効に生かすにはどうすべきかが問題です。われわれはアドバイザーとしての客観的な立場から、定量的な分析をもって解決策をご提示します。ですが、必ずしも売却や処分がベストな解とは限りません。例えば、分析の結果、本社の社屋を手放すのが財務的に得策だとしても、そのことで社員のロイヤルティなりエンゲージメントなりが損なわれるとしたら、アセットライトは逆効果かもしれません。そうした文化的背景へのコミットも含めて、顧客に寄り添う姿勢がわれわれには求められています。

不動産アドバイザリーを核とするワンストップの解決力

──物流企業の他に、アセットライトが効果的と思われる業界はありますか。

七谷:
アセットライトの対象となる資産は自動車、航空機、製造設備、社屋などいろいろありますが、財務へのインパクトの大きさからすると不動産が主たるターゲットとなるでしょう。それを考えると、物流会社をはじめ、郊外型飲食店、物販チェーン店、不動産業、工場を有する製造業などが、効果の期待できる業種として挙げられます。ホテルや旅館もそうですね。運営会社が土地や建物まで持つ必要性については検討する余地がありそうです。

──そのような顧客に対して、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの不動産アドバイザリーが提供できる価値について教えてください。

平井:
われわれのチームには、不動産評価や有効活用、不動産トランザクション、市街地再開発といった不動産分野のプロフェッショナルだけでなく、経営管理指標の導入支援、株式価値評価、財務モデリング等のコーポレートファイナンスに精通したメンバー、会計・税務のプロフェッショナル等も在籍しており、幅広く重層的な目線でアセットライト戦略を組み立てられることが可能です。また、世界各地のEYメンバーファームにはCRE(コーポレートリアルエステート)戦略を専門とするチームもあり、特にクロスボーダーでビジネスを展開する企業においては、そちら海外チームからのアドバイスや経験を生かすことができることも、EYが提供できる価値と言えます。

七谷:
アセットライト戦略の実行において、会計・税務の領域までワンストップで通貫できる強みは大きいと思います。例えば、資産を売却してキャッシュインやBSを圧縮できたのはいいものの、リースや賃貸の費用がかさんでPLを圧迫したのでは元も子もありません。そこは会計・税務の専門的見地に基づくシミュレーションを経て、資本効率の改善やバランスシートの健全化に確信を得た上で実行しなければなりません。

平井:
また、アセットライト戦略の検討結果として、一部の不動産を売却するとの判断に至った場合においても、われわれのチームでは国内外のネットワークを生かして売却先の候補を選定し、売却手続きのクロージングに至るまで、一気通貫でご支援することができます。

七谷:
不動産のトランザクション業務は不動産仲介会社や証券会社、信託銀行の範疇でもあります。ただ、そこでは逆に会計・税務の面が手薄になる。両方の専門性を兼ね備えることの価値にかけて、EYの存在意義は大きいとわれわれは自負しています。

──先ほどのお話では売却が前提ではないということですが、コンサルティングを進める上で大事にしている視点は何でしょう。

七谷:
これはアセットライト戦略や不動産アドバイザリーのサービスを活用する上での留意点でもありますが、「売却以外の選択肢もソリューションとしてある」ことを起点にして検討をスタートしなければなりません。われわれ自身もまた、そのことを肝に銘じ、お客さまにとって何がメリットなのかを見極める目を常に持つよう自戒しています。自己利益の実現だけでなく、他者利益の実現をも追求することが、アドバイザリー業務の本質ですから。

寺社にも適用できるアセットライト戦略の拡張性

──不動産市場を取り巻く最近の動向はアセットライト戦略に影響を及ぼしますか?

平井:
はい、特に不要となった資産の売却タイミングや不動産の有効活用の検討に重要な影響を及ぼします。現在は、不動産マーケットの市況は総じて好調で、都市部を中心に地価の上昇傾向が見られますが、今後の金利の動向等によってはその趨勢に変化が生じる可能性があります。また、土地利用の在り方も時代ととともに変わってきています。昨今の円安基調により海外での製造拠点を見直し国内で工場用地を求める動きが強くなっており、またEコマースの発展により交通アクセスの良い立地を中心に物流施設として根強いニーズがあります。最近では、物流施設の供給過剰感も指摘されるようになりつつありますが、一方でデータセンターとしてのニーズが強くなっています。保有不動産の地域分析や個別分析を行い、不動産市場から見た土地のポテンシャルを点検することは、アセットライト戦略を検討する上で重要なファクターと言えます。

七谷:
特にデータセンターは大きな電力を必要として、国のエネルギー基本計画にも影響を与えるほどですから、高圧線や変電所の場所とも密接に関わってくるわけです。また、アクセスの良い場所であることも重要なポイントです。

逆に郊外の場合、オフィス街や商業地区の必然性が問われる事例が増えています。本当にこの場所である必要があるのか。今の不動産の価値を生かせているのか。不動産というものの有効性は時とともに変わることを忘れてはいけません。

──これからの展望として、注目されている業界があれば教えてください。

七谷:
神社仏閣のアセットライト戦略に着目しています。実は宗教法人のお客さまから、所有されている不動産の有効活用ができないか、というご相談をいただく機会が増えています。高齢化や過疎化の影響もあるのでしょう。檀家(だんか)からの収入が減る一方、建造物などの維持にかかる修繕費や人件費が上がり、収支の管理に苦慮されており、境内の敷地や遊休地を有効活用されたいといった背景があります。

平井:
観光名所にもなる有名な寺社であれば、インバウンドの拡大で拝観料収入にも期待が持てるかもしれませんが、それはひと握りの寺社のみです。建物や構築物といった資産は時の経過とともに確実に劣化していきますので、その劣化を少しでも食い止めるための修繕コストを賄うため、収益獲得方法について支援していきたいと考えております。

七谷:
そうですね。どのような業種であれ、お客さまのご希望に添うアセットライト戦略をワンストップで構築することが、このチームの使命です。EYのネットワークを生かし、定量的・定性的なアドバイザリーサービスを提供していきたいと思います。


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サマリー

保有資産の最適化を図るアセットライト戦略の要諦は、客観的なデータに基づくアセット情報の可視化と、資産の要・不要に関する的確な選別にあります。そこに会計・税務や不動産トランザクションなどの専門的知見が加わることにより、資本効率の改善、財務の健全化というゴールへの確かな道筋が見えてきます。




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