EYの事例

陸海空のサプライチェーンのアジリティ強化に成功したメーカーの秘訣とは?

輸送コストが増大する中、EYの支援の下で数百万米ドルの削減を達成した多国籍メーカーの事例をご紹介します。




EY Japanの視点

昨今の物流業界をとりまく外部環境の変化によって、企業はサプライチェーンモデルの変革を迫られています。地政学的影響による輸配送ルートの寸断、運賃および燃油/為替サーチャージの市場変動、宅配/輸送需要の増加に伴う輸送キャパシティの逼迫(ひっぱく)、働き方改革関連法による労働時間規制といった外部要因は、企業が潜在的に抱えていた陸海空の物流業務における課題を顕在化させ、営業活動や生産活動において見過ごすことのできない影響を与えています。それらに対応したサプライチェーンモデルを再構築することによって、企業は間接コスト削減、リスク軽減、コンプライアンス順守等はもとより、企業価値の向上や競争優位性の発揮といった効果も期待されます。企業体質を強化するためには、企業グループ全体のサプライチェーンを横断的に捉えた上で、物流業務のオペレーションやガバナンスを最適化することが求められます。


EY Japanの窓口
高見 幸宏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズリーダー パートナー

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The better the question

より効率的な輸配送を実現するには、サプライチェ―ンをどう最適化すればよいか

物流を変革することで、ある大手メーカーはさまざまな課題を乗り越え、オペレーショナルエクセレンスを実現しました。

100を超える国・地域で製品を販売するグローバルメーカーともなると、円滑に機能するサプライチェーンを維持するには大がかりな調整が必要です。市場や事業が活況を呈している時であっても、それは容易ではありません。そうした中、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが発生しました。市場は急激に不安定になり、顧客の間で速やかな輸配送を求める動きが強まりました。しかし、輸配送ルートはしばしば寸断され、輸配送業者との契約上、料金が変動し、2021年から2022年にかけて物流コストは極端に跳ね上がりました。当時、多くの企業がこうした事態に直面し、予測不可能な市場変動への対応に追われました。

米国に本拠を構えるこの多国籍メーカーでは、2022年の年間物流コストが10億米ドル超にまで膨れ上がりました。同社は、パンデミックとそれに伴い一気に不安定になったグローバル市場をどうにか乗り切ることができましたが、従来の慣行に戻りたいとは思いませんでした。それよりも、サプライチェーンを抜本的に変革し、レジリエンス(回復力)の要として機能するサプライチェーンを確立したいと考えました。同社の経営陣は、デジタル技術と革新的アプローチを採用して物流戦略を再構築しオペレーショナルエクセレンスを実現することに強い意欲を示しました。

パンデミックに起因する世界的に不安定な環境が続く中、このメーカーは社内のオペレーションにおいて複数の課題に直面しました。

  • 調達戦略は、年に1度固定的に設定され、その後は年間を通じて状況の変化に応じた見直しは行われない
  • 分散型の組織運営であるため、各事業部門の横断的な可視性が欠如している
  • 陸・海・空の全輸送モードで広範な輸配送業者と契約し、管理が行き届いていない
  • 出荷やコスト、コンプライアンスに関する報告と説明責任が欠如している
  • 情報に基づく意思決定やオペレーションの効果的管理に不可欠な最新のデータアナリティクスとその結果報告が行われていない

物流の変革、オペレーティングモデルの最適化、コストの削減という一連の目標の下、このメーカーは、新しいリーダーシップを迎え入れ、Ernst & Young LLPのサプライチェーン分野のプロフェッショナルに包括的なサポートを仰ぎました。EYとの協働により、同社は、陸・海・空の輸送モード全体で物流コストを15%削減することに成功しました。

EYのSupply Chain LeaderであるBob Pittsは「EYのチームとクライアントは一丸となって、同社の物流とオペレーションの再構築に取り組み、不安定な市場や環境の変化に対する俊敏な対応力を強化しました」と述べています。さらに、続けて次のようにコメントしています。「クライアントと協働して同社の業務体制を改善し、効率的なオペレーションを実現しました。また、ビジネス意思決定者による情報に基づく判断やサプライチェーンのレジリエンス強化などを促進するために、新たなデジタルケイパビリティの構築を支援しました」

カラスコ国際空港の滑走路に駐機する飛行機とターミナル(上空写真)
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The better the answer

包括的な物流変革

物流の改善は企業を戦略的方向へと導きます。

厳しい市場環境の中で時代遅れの物流慣行を続けていたこのメーカーは、コストの削減と一元管理型組織への進化を目指し、2022年にEYとともに物流変革に乗り出しました。この変革プロジェクトは、3つのフェーズで構成され、迅速なコスト削減とそれに続く2023年の年間を通じた持続的で確実なコスト削減を実現に導くために戦略的にデザインされました。全体的な流れとしては、まず、迅速な対応を可能にするコントロールタワーを確立して信頼の構築を目指しました。こうしたコントロールタワーにより、業務の優先順位付けや、支出分析・可視性の向上による長期的戦略の策定が可能になります。次に、陸・海・空の全輸送モードで戦略的ベンダーとの交渉の支援、ならびに「Global Managed Transport Solution」の試験的な導入を行いました。そして、最終段階では、オペレーショナルエクセレンスの実現に不可欠な主要ケイパビリティの構築・実践を支援しました。結果として、このクライアントは、15カ月間で3億米ドル以上のコスト削減を達成しました。

第1フェーズでは、EYのチームによるベンチマーキングの結果、クライアントには物流面の効率性を向上させる余地がかなりあることが明らかになりました。このメーカーは、陸・海・空の全輸送モードで輸送業者と必要以上に高額な料金で契約を結んでいたのです。

これに関して、Pittsは「EYのチームは、コントロールタワーにおける輸送コストの迅速な節減方法をクライアントの物流チームと協議・特定し、輸送管理サービスを絞り込みました。この一連の作業では、アナリティクスツールを活用し、契約内容、輸送業者、物流関連支出全体の追跡調査を実施しました」と述べています。続けて次のようにもコメントしています。「この初期の取り組みにより、クライアントは、2022年下半期に5,000万米ドルのコスト削減に成功しました」

次に、EYのチームは、より戦略的な調達機会を評価し、1億2,000万米ドルのコスト削減余地を特定しました。そこで、第2フェーズでは、海と空の輸送モード、ならびに北米での陸上輸送(長距離トラック輸送)の状況を精査し、効率化とスリム化の機会を探りました。

  • 北米の長距離トラック輸送
    このメーカーは、数百社に及ぶ輸送業者を管理していました。これらの輸送業者との業務委託契約は、それぞれ独自に締結され、料金は事業部門間で標準化されていませんでした。しかも、「輸送業者は最適化されたルートを使用していない」、「トラックの積載量が最大化されていない」、「契約内容が不必要に複雑である」などといった状況でした。これを受け、EYのチームは、今回の物流変革の一環で、輸送業者数の絞り込み(約200社から100社台前半に)と、主要な輸送業者とのより戦略的な関係の構築を支援しました。
  • 海上輸送
    このメーカーはNVOCC(非船舶運送業者)を頻繁に利用し、その利用率は海上運送全体の90%を占めていました。そこで、EYは、NVOCCの数を3社に絞り込むよう提案し、大口取引によるコスト節減や、各地域および世界全体の量的な需要の効果的な活用を支援しました。また、船舶運送業者基盤のスリム化、ならびに全世界・地域レベルの製品フロー管理の効率化を図るために、船舶運航業者との関係をより戦略的かつ緊密なものへと進化させました。
  • 航空輸送
    航空貨物の輸送業者を、コスト、輸送能力、信頼度に基づいて優先付けする「プレミアム貨物認証プロセス」の状況を分析しました。そして、ガバナンスモデルを構築して、航空輸送関連の支出の削減を図りました。また、このガバナンスモデルの下、グローバル・各地域の全航空ルートで運送業者を絞り込み、コンプライアンス違反リスクを最小化しました。これにより、当初、11社の航空運送業者が名を連ねていたベンダーリストはグローバルな航空輸送業者3社のみとなりました。EYのチームは、こうした支援に加え、マルチモーダルシフト(複数の輸送モードを組み合わせた輸送形態)や費用対効果の高い選択肢についても提言しました。

すべての輸送モードで戦略的調達の最適化に取り組んだ結果、2022年から2023年にかけてその成果が顕著に表れました。事業部門全体で平均して、海上輸送では50%、航空輸送では14%、陸上輸送では13%のコスト削減を達成しました。2023年度の物流コストの削減幅は2億6,000万米ドル超を記録し、輸送業者や輸送ルート面の改善が功を奏したと言えます。こうした成果は、このメーカーに収益向上をもたらしたことは言うまでもありませんが、それだけではありません。輸送モードの改善は、CO2排出量の削減に寄与し、さらにはカーボンニュートラルの実現に向けた歩みを前進させる一助となりました。

コスト削減
2023年度の年間物流費削減額

本プロジェクトの最終段階である第3フェーズでは、コンプライアンスとオペレーションに焦点を当てました。これにより、クライアントは、継続的なコスト節減に不可欠なアナリティクス、ツール、ガバナンス、コンプライアンスなどの面でケイパビリティを強化することができました。

EYが提供した、海上・航空輸送のグローバル管理ソリューション「Global Managed Transport Solution」は、両輸送モードの利用に関するコンプライアンス率を、事業部門およびバッグオフィス機能全体で15%から85%へと押し上げました。また、同ソリューションにより、可視性の向上やケイパビリティの強化が促進され、その結果、経営幹部はより的確に意思決定を行うことができるようになり、時間対効果の高いオペレーションが実現しました。

EYのチームによる支援の下でオペレーションが改善された現在、このメーカーはデータを構造化してアジャイルなサプライチェーン全体にわたりアナリティクスをより効果的に活用できるようになりました。また、持続可能性の取り組みの促進や、市場相場の低下に合わせた物流関連支出の加速的削減なども可能になりました。

Hispanic manager with laptop computer doing inventory
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The better the world works

絶えず変化し続ける世界でサプライチェーンのレジリエンスとアジリティを担保する

数億米ドルの節減、ダッシュボードの活用、アナリティクス、より強固なコンプライアンス・・・これらはほんの始まりにすぎません。

EYのチームは、未来を見据え、この大手メーカーが将来に直面する可能性のあるいかなる障壁も乗り越えていけるよう支援しました。レジリエンスとアジリティを備えたサプライチェーン基盤の構築は、そうした試練を支える一助となります。また、この基盤は、タスクの自動化によるコスト効率の向上にも寄与します。こうしたEYのサービスには、予期せぬリスクや近い将来に生じ得る課題に対応するためのプレイブック(対応計画)の策定も含まれます。

物流関連の支出削減
物流変革後の支出削減率

Ernst & Young LLPのサプライチェーン&オペレーションズ部門のPrincipalであるSumit Duttaは「本プロジェクトの初期段階における短期的成果を目的とする戦術的戦略の実行から、最終段階におけるコンプライアンスの強化に至る一連の取り組みを通じて、このクライアントは、業務管理を効率化し、3億米ドル超のコスト節減を実現しました」と述べています。さらに、続けて次のようにコメントしています。「物流関連の支出は現在、2020年度比で約17%減となっています。この間に市場相場の低下が続いたことを受け、EYのチームは、この低下傾向を生かし、より少ない労力で、クライアントに最大限のコスト削減をもたらしました」

サプライチェーンの改善や最適化がどの程度進んでいるかにかかわらず、エンドツーエンドの可視性の確保やグローバルな調達能力の再構築、全輸送モードを包括的に考慮した戦略的ロードマップの策定はどれもグローバルメーカーにとって有益でしょう。パンデミックは収束しましたが、新たな混乱が生じる可能性は常にあります。企業がどのようにブランドプロミスを果たし、顧客満足を実現するか、その中心を成すのはサプライチェーンです。本記事でご紹介したグローバルメーカーが享受した価値はそれだけではありません。

EYのチームが構築した「Digital Logistics Hub」もその1つです。このプラットフォームには、価値流出、ガバナンス、コンプライアンスの状況を追跡するための20のダッシュボードと最適化されたアナリティクスシステムが実装されています。これにより、このメーカーは、すべての事業部門にわたり20を超える業務コストの削減機会を見いだしました。また、報告を一元化して説明責任とコンプライアンスを強化することができました。

新たなグローバル輸送管理ソリューションでは、その機能を活用することで、このメーカーは複数の輸送業者を効率よく管理できるようになっただけでなく、A地点からB地点までの輸送で適用される料金と利用されたルート(輸出入ともに)を追跡できるようになりました。さらに同社は、事業部ごとに分断された体制を見直し、ブッキングの窓口を一本化することで、輸送業者の選定とコンプライアンスを強化しました。これは、契約外の料金が請求されることのリスク回避につながります。

「戦略的調達に焦点を当て、50を超える費用項目で業務コストを削減し、可視性とコンプライアンスを強化したことで、このメーカーは現在、何万人もの社員と100を超える国・地域の顧客に対してより効率的なオペレーションを行っています」とErnst & Young LLPのサプライチェーン&オペレーションズ部門のPrincipalであるSumit Duttaは述べています。

サプライチェーンの効率化とアジリティ強化を実現したことで、このクライアントは、システムやサービスを効率的に届け、世界各国・地域の信頼できるビジネスパートナーに革新的なソリューションをより効果的に提供できるようになりました。さらにこのメーカーは、自社製品の提供はもとより、より安全でスマートかつ持続可能な世界を実現する企業へと進化しました。


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