EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
「生物多様性の損失」とは、森林伐採、環境汚染、気候変動などによって、生物の種や生態系、遺伝的多様性が急速に減少することを指し、企業および金融セクターの双方にとって深刻なリスクとなっています。森林による二酸化炭素の吸収、作物の受粉など、生態系が果たす重要な機能は経済的な意思決定において過小評価されがちです1。EUでは、企業の72%が生態系に依存しており、銀行融資の75%がそうした企業に対して行われています2。生態系の悪化は経済的な影響を及ぼし、その影響を受ける産業に属する企業は、安定性や収益性の低下が懸念され、その結果、金融業界にとっては投資リスクの上昇へとつながります。
この問題に対処する上で難しいのは、生物多様性リスクを定量化することの複雑さです。温室効果ガス排出量のような確立された指標が存在する気候変動とは異なり、生物多様性については、標準化された指標はいまだ開発途上にあります。また、生物多様性リスクを理解し、対処するための行動に優先順位をつける世界自然保護基金(WWF)の生物多様性リスクフィルター(BRF:Biodiversity Risk Filter)3や、自然の価値を評価するGIST Impact Biodiversity Solutions4などの新たなツールも登場しています。さらに、金融向け生物多様性会計パートナーシップ(PBAF:Partnership for Biodiversity Accounting Financials)は、投資が生物多様性に与える影響とその定量化を行うための枠組みの提供を目指しています5。
生物多様性の危機に呼応して、規制のフレームワークも進化しています。生物多様性条約(CBD)6、EUの2030年生物多様性戦略7をはじめとする取り組みでは、サステナブルファイナンスを重視し、金融機関に対して、リスク管理に生物多様性リスクを組み込むよう求めています。自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は、自然との依存関係、影響、リスク、機会に関する開示推奨事項を提示しています8。さらに、生物多様性は企業サステナビリティ報告指令(CSRD)やEUタクソノミーにも含まれており、マテリアリティに基づいて準備すべき開示項目となっています。これは、投資家の意識の高まりや、投資が生物多様性に及ぼす影響に対して透明性を求めるステークホルダーの要望に応えるものであり、環境に関する説明責任への重要な転換を示しています。
意思決定に生物多様性を組み込むには、抜本的な変革と能力構築が求められます。エコロジーと財務の両面でのリターンが期待されることから、一部の先進的な企業では戦略に生物多様性への配慮を取り入れ始めています。欧州投資銀行(EIB)は現在、自然資本の保全を目的とした金融商品を提供しており、生物多様性への影響を評価するための訓練を受けた人材を活用しています。同様に、オランダ中央銀行は、生物多様性をリスク管理のプロセスに組み込むためのガイドラインを提供しています9。
エコロジーと経済の両面でレジリエンスを確保するには、生物多様性をリスク管理のプロセスに組み込むことが重要だと私たちは考えています。クライアントの皆さまには、生物多様性への配慮が包括的なESG戦略の策定に寄与し、新たな機会の創出とレピュテーションリスクの低減にもつながる可能性について、ご一考いただければと思います。持続可能な未来を実現するには、イノベーション(革新)、コラボレーション(連携)、そしてアダプテーション(適応)が不可欠です。
生物多様性の損失は、財務的な影響をもたらし、経済的安定性を脅かすリスクとして深刻化しています。