EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
幅広い事業領域で海外展開を進め、グループ全体で成長し続ける旭化成株式会社(以下、旭化成)は、「ヘルスケア」「住宅」「マテリアル」という3つの領域を手掛ける世界的にもユニークな企業グループです。さらなる飛躍を目指し、経営戦略を支える重要な基盤となるグローバル税務ガバナンスの構築を進めています。
The better the question
旭化成では、事業の多角化やグローバル展開に伴い、税務対応の複雑化や税務コストの増加が課題となっていました。また、国際的な課税ルールの厳格化という流れの中で、グローバル税務ガバナンスの確立が不可欠な状況でした。
話者:
旭化成株式会社 経理・財務部 税務室長 リードエキスパート 米国公認会計士 三嶌 晴志氏
旭化成株式会社 経理・財務部 税務室 税務戦略グループ長 リードエキスパート 税理士 髙久 直毅氏
旭化成株式会社 経理・財務部 税務室 税務戦略グループ 課長 エキスパート 税理士有資格者 佐藤 和磨氏
旭化成株式会社 経理・財務部 税務室 税務戦略グループ 課長 税理士 剣持 みゆき氏
旭化成株式会社 経理・財務部 税務室 税務戦略グループ 課長 米国公認会計士 鈴木 章峻氏
EY APAC & Japan 製造業・モビリティ・タックスリーダー/製造業・化学セクター・タックスリーダー EY税理士法人 パートナー 尾形 康行
EY税理士法人 タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーション パートナー 山口 君弥
尾形:旭化成は、2027年までの中期経営計画の基本方針として、「投資成果創出による利益成長」「構造転換や生産性向上による資本効率改善」「Diversity × Specialtyの進化」を掲げています。その実現を目指す上で、税務部門にはどのような課題がありましたか。
三嶌氏:当社は、ヘルスケア、住宅、マテリアルと事業領域が幅広く、企業ごとに事業特性や税務リスクの性質が大きく異なります。また近年、積極的な海外展開を進める中で、グループに加わった各社の税務対応にばらつきが生じ、グループ全体として適切かつスピーディーな意思決定を行うのが難しい状況になっていました。そこで、各社で異なる税務対応を統一するとともに、一貫した判断基準を定める必要が生じていました。
尾形:旭化成の海外展開は、M&Aを通じて海外企業をグループに迎え入れることが多く、傘下の子会社・孫会社も含めてグループに加わるため、構造が複雑になりやすいのが特徴です。子会社・孫会社のそれぞれが独立性を持って事業を運営している場合もあります。海外M&Aでこうした課題が生じることは珍しくありませんが、旭化成の場合は事業や地域の広がりが大きく、税務対応の統一や意思決定の面で、特に難易度が高いケースだと感じました。
三嶌氏:中期経営計画で掲げている目標の一つに、ROE(自己資本利益率)9.0%があります。ROEは企業が株主から預かった資本を用いてどれだけの利益を生み出したのかを表す指標であり、税務コストの最適化は、当期純利益の改善を通じてROEの向上にも寄与します。つまり、グローバル税務ガバナンスの確立は、税務リスクの低減や経営判断の迅速化にとどまらず、資本効率の向上にも直結する重要な課題だったのです。
本記事についてご興味を持たれた場合、またはご質問があります場合は、お気軽にお問い合わせください。
尾形:経営者の目線から見れば、売上や営業利益に加えて、税金を払った結果どれくらいの利益が残るのかも重要です。税務コストを適切にコントロールし、当期純利益の改善につなげられれば、税務部門は大きな価値を生み出すことになりますね。
髙久氏:経営陣が税務部門に対し、そういった期待を寄せていると感じることは少なくありません。「ROEの向上に税務の観点から貢献できないか」と、相談を受けたこともあります。グローバル税務ガバナンスの確立に向けた予算を取得する際も、税務リスクの低減や経営判断の迅速化を図りながら、当期純利益の改善、ひいては資本効率の向上にも貢献するというゴールに向けたプランニングをしました。
三嶌氏:社内の課題だけでなく、外部環境の変化も大きかったと思います。グローバル・ミニマム課税(BEPS 2.0 Pillar 2)をはじめ、国際課税ルールが高度化する中で、各国の税務当局の見方も変わってきています。単に申告や納税の結果が適正かどうかだけでなく、どのようなプロセスで判断し、どのような体制で管理をしているかまで問われるようになってきました。税務調査においても、税務ガバナンスそのものが確認される場面が増えており、それがグローバル税務ガバナンスの確立を喫緊の課題として認識する一つの契機になったと思います。
The better the answer
ルール策定、役割・体制の明確化、運用への落とし込みを段階的に進めるGTG(Global Tax Governance)プロジェクト。既に導入していたONESOURCE DataFlow(*1)を活用しながら、実効性のあるグローバル税務ガバナンスと、将来的な税務プランニングにつながる基盤を構築しつつあります。
山口:グローバル税務ガバナンスの確立に向けた取り組みとして、GTGプロジェクトを推進されています。プロジェクトの全体像を教えてください。
髙久氏:「共通ルールの策定」「体制・役割の明確化」「運用・定着」の3つを軸に、取り組みを進めています。まずグループ共通のGTGルールを整備し、各社の役割分担を明確化する。その上で、実務に落とし込みやすい運用を設計し、グローバルで持続可能な税務運営モデルの構築を段階的に目指しています。
山口:取り組みを進める中で、重要だったポイントは何でしょうか。
髙久氏:当社は事業領域が幅広く、海外子会社・孫会社も多いため、「どのような情報を、どのような方法で集めるのか」が大きなポイントでした。その情報収集の手段として、既に導入していたONESOURCE DataFlowを活用することにしました。
三嶌氏:ONESOURCE DataFlowは、2019年にJ-CFC(タックスヘイブン対策税制、外国子会社合算税制)に対応するツールとして導入したものです。当初は自社で導入・運用するつもりでしたが、実際に着手してみると、税制改正によって収集する情報項目が年々変化するため、必要な変更点を把握し、メンテナンスし続けるのは難しいと感じました。そこで、ONESOURCE DataFlowの活用支援を行っているEYにサポートをお願いし、活用してきました。
そのため、グローバル税務ガバナンスの構築についてもONESOURCE DataFlowをベースに対応するのが効率的だと考え、引き続きお力添えをいただくことにしたのです。
髙久氏:北米を中心に買収した企業グループの統合を進める中で、現地での税務申告や情報収集の支援をEYに担当してもらっていました。ツールを使った情報収集や現地申告のサポートを通じて、EYの皆さんには当社の現状をよく理解していただいていたので、安心して支援をお願いできる点も大きかったです。
山口:ありがとうございます。では、プロジェクトの現在地を教えてください。
三嶌氏:ONESOURCE DataFlowをGTGルールにのっとって実装することで、グローバル税務ガバナンスを実務として運用するためのデジタルインフラをつくることができました。ONESOURCE DataFlowは、グループ全体の税務情報の透明性を高め、必要な情報にいつでもアクセスできるハブの役割を果たしています。
GTGルールは当社で作成し、ONESOURCE DataFlowを活用した収集方法については、EYの皆さんに助言をいただきながらつくり上げました。今後は、集約した情報をもとに、税務リスクの把握や税務コストの最適化、事業判断に資する税務プランニングへどのようにつなげていくかという段階に来ています。GTGプロジェクトのゴールは「プランニング」なので、一定の成果は上げられたと言っていいと思います。
髙久氏:取り組み開始時に、両社で話し合ってプロジェクトのゴールを明確に決めたのが良かったと思います。「グローバル税務ガバナンス」という言葉は抽象的で、唯一の正解があるわけではありません。だからこそ、当社にとって何をゴールとし、何を優先するのかを、数カ月かけて議論しました。そのおかげで、共通のロードマップを思い描きながら、納得感を持って進めることができたと思います。
山口:旭化成の税務部門には、税務を守りの機能にとどめず、テクノロジーや情報活用を通じて経営に資する価値を生み出そうという姿勢が以前からあったように感じます。
髙久氏:そうですね。個人的にも、情報を可視化することで経営に貢献できる取り組みにつなげられないだろうかと10年ほど前から考えていました。このプロジェクトはその意味でも好機でしたし、税務だけでなく、もっと広い形での情報活用につながる可能性があると考えています。
山口:国際的な税務環境が複雑化する状況下で、コンプライアンス対応に追われている企業は少なくありません。その中で旭化成は、グローバル税務ガバナンスの構築をリスク低減のためだけの取り組みにとどめず、情報の可視化や税務プランニング、経営判断への活用につなげようとしています。税務部門の役割を守りの機能から経営価値を生み出す機能へ広げる取り組みとして、非常に意義が大きいと感じています。
The better the world works
GTGプロジェクトの進展により、正確な情報取得や実務負荷の軽減など、現場の働き方にも変化が生まれ始めています。旭化成の税務部門は、グローバル税務ガバナンスの構築を起点に、税務プランニングや経営判断への貢献をさらに高める存在へと進化し続けています。
尾形:ここまでの取り組みの成果を感じることはありますか。
鈴木氏:以前よりも、必要な情報を迅速かつ正確に取得できるようになりました。これまではExcelなどのファイルを使ってメールでやり取りをしていたため、時間がかかる上に情報の正確性を担保するのも大変でした。例えば従業員数を確認したいとき、あるソースでは500人、別のソースでは495人と、数字が一致しないことがありました。たった5人の違いであっても、情報として活用できません。必要なときに、必要な情報をすぐに取得できるメリットは大きいです。
剣持氏:以前は同じような内容のメールを、手作業で100社以上に送信していました。返信が来ているかを逐一確認し、Excelに転記して進捗管理をしていたのです。メール対応だけで一日が終わることもありました。現在は、これらの業務の多くが自動化されたことで、業務負荷は10分の1程度になりました。管理にかかる工数が大きく減り、プランニングの検討や、より難度の高い税務課題への対応、情報分析などに時間を使うことができるようになったことで、現場の働き方も大きく変わったと感じています。英語や中国語など、多言語に対応している点も助かっています。
山口:旭化成のような大企業では、「誰に何を聞けばいいのか」を確認するだけでも、多くの時間がかかることがあります。ONESOURCE DataFlow上で担当者情報を一覧化できれば、必要な確認先を把握しやすくなります。特に海外拠点は人も組織の変更も多いため、定期的に棚卸しし、一括管理できる仕組みがあることもメリットだと思います。
佐藤氏:定型的な作業にかかる時間が圧縮され、より専門性の高い業務に集中できるようになったことは、自分自身の成長にもつながっていると感じます。業務の質が高まっただけでなく、新たな税制や各国の動向をキャッチアップする時間も確保できるようになりました。以前は単純作業に時間を取られる中で、「このままで専門性を高めていけるのだろうか」と不安を感じることもありました。現在は、税務の専門家として本来向き合うべき業務に時間を使えている実感があり、日々の仕事に対する充実感も大きくなっています。
尾形:国際税務の領域では、専門人材への需要が高まる一方で、十分な人材を確保することが難しくなっています。そうした中で、担当者が定型作業に追われ続ける環境では、優秀な人材の確保や定着は難しくなっていくでしょう。専門性を発揮できる業務に時間を振り向けられるようにすることは、人材育成の観点からも、組織力の強化という観点からも大きな意味があると思います。
三嶌氏:EYの皆さんには長年伴走していただいており、税務に限らず、さまざまな面でポジティブな効果が生まれていると感じています。グローバルな税制動向や、グローバル・ミニマム課税のように難易度の高い税制についても、専門的な知見をもとに支援していただけるのは非常に心強いです。必要に応じて各分野の専門家と連携しながら助言をいただけるため、私たちにとっても学びの機会になっています。
髙久氏:海外税務に関する知識は、常にアップデートし続ける必要があります。その点、EYは各国の現地チームと連携しながら、地域ごとの実務対応や他社事例、税務当局の動向、最新の税制調査の結果などをタイムリーに共有してくれます。一企業だけでは把握しきれない情報も多く、非常に参考になります。
山口:ありがとうございます。旭化成のように、大規模かつグローバルに事業を展開する企業の取り組みをご支援することは、私たちにとっても非常に意義のある挑戦です。
長期にわたって幅広い支援を続けられている背景には、旭化成とEYの間に築かれてきた信頼関係があると感じています。どれほど優れたテクノロジーやシステムであっても、それを活用するのは人です。現場の課題を共有し、率直に議論できる関係性があるからこそ、システムは実効性を持ち、価値創出につながっていくのだと思います。
三嶌氏:グローバル税務ガバナンスは、仕組みをつくって終わりではありません。現場からのフィードバックを受けながら改善を重ね、継続的に進化させていくべきものだと考えています。
今後は、ガバナンスをアップデートしながら、新たな価値を生み出す取り組みにも着手していきたいですね。例えば、海外展開に伴って生じている非効率の解消はその一つです。同じ国に複数の事業部が別々に進出し、それぞれ法人を設立している場合、法人の数だけ管理コストや税務対応の負荷が発生します。こうした状況を可視化し、必要に応じて子会社の統廃合などを検討することで、税務コストの最適化やグループ全体の効率化につなげることができます。
このような取り組みを積み重ねていくことで、税務部門を、リスク管理を担う部門にとどまらず、経営により深く貢献できる組織へと進化させていきたいと考えています。税務部門がグループの成長を支える戦略パートナーとしてのプレゼンスを高めていくためにも、EYの皆さんには引き続きお力添えをいただけると心強いです。
尾形:税務部門が、グループの成長を支える戦略パートナーへと進化していくことは、グローバルに事業を展開する多くの企業にとっても、示唆に富んだ取り組みだと思います。「Building a better working world」をパーパス(存在意義)に掲げる私たちにとって、その挑戦に伴走できることは意義深いことです。引き続き、次のステージに向けた取り組みをご支援できればと思います。
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