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AIエージェントの導入で税務部門はどう生まれ変わるか

関連トピック

AIエージェントは作業精度と効率を高める新たな糸口となり、税務機能の自律性を飛躍的に向上させます。


要点

  • AIエージェントの導入により、人は煩雑なタスクから解放され、戦略的な業務に集中できる。
  • 税務チームは、AIエージェントの高い適応能力を活用し、日々変化する規制やデータ関連の課題に効率的に対応できる。
  • AIエージェントの可能性を最大限に引き出しつつ、法令遵守も徹底するためには、人間による厳格な監視と強固なデータインフラが不可欠である。


EY Japanの視点

日本企業におけるAI活用は、税務業務の効率化にとどまらず、組織の競争力や人材戦略に直結する重要な経営課題へと進化しています

AI活用は、日本企業の税務業務を超えて、組織の競争力と人材戦略を左右する経営の中核課題となりつつあります。EY Japanが主催した「Tax AI Lab」では、法人税申告や税務ガバナンスを中心に、AIエージェント導入による実務へのインパクトと、活用しないことによるリスクが議論されました。参加企業は、AIを単なる自動化ツールではなく、税務組織の再定義や人材育成の起点として捉えており、情報セキュリティや税務知識の不足といった障壁も論点となりました。今後は、AI活用の目的を明確にし、信頼性あるデータ基盤と人材育成を両輪とした戦略的な取り組みが求められます。EYは、「より良い社会の構築」と「より良い解決」の提供を通じて、日本企業の税務機能の変革を支援していきます。


EY Japanの窓口
上田 理恵子
EY Japan サステナビリティ・タックスリーダー/タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーションリーダー EY税理士法人 パートナー
佐久間 洋平
EY 税理士法人 タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーション アシスタントマネージャー

近年、税務部門における人工知能(AI)の台頭は目覚ましく、テクノロジーの活用は税務責任者が取り組むべき優先課題として位置付けられています。税務の運用モデルに人間中心のAIを組み込む努力が取り組まれている中、税務部門がテクノロジーによってイノベーション・ハブへと進化する未来も、もはや夢ではありません。

最新のEYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査によると、87%の税務責任者が「生成AIは税務部門の効率性と生産性を向上させる」と回答しており、テクノロジーへの期待の高さがうかがえます。AIの先駆者であるNVIDIA CEO、Jensen Huang氏は、先般、AIと人間の労働力に関する社会的反応を受けて、次のように述べています。「AIの進化を不安視する人々が本当に危惧すべきなのは、AIによる失業ではなく、AIを使いこなせる人材に仕事を奪われることではないでしょうか」1。このような背景から、税務機能にAIを取り入れている企業が、そうでない企業に対して圧倒的な競争優位性を持つという認識が広まりつつあるのも、自然な流れと言えるでしょう。

AIエージェントの登場は、税務機能のテクノロジーによる革新を劇的に加速させるでしょう。AIエージェントは、多段階の複雑な税務プロセスを自動化し、意思決定を支援し、データの異常に対処し、失敗から学習するよう設計されています。十分なトレーニングと適切な枠組みが施された自己管理型のAIエージェントチームが連携することで、人間による常時監視を必要とせず、短時間で税務タスクを完了できるようになります。これにより、業務品質の向上と従業員の生産性向上が同時に実現する時代が、すぐそこまで来ているのです。

例えば、税務チームはAIエージェントを活用し、消費税等の間接税の対象に応じて商品を自動分類することが可能です。EY Americas Tax Technology and Transformation LeaderであるDaren Campbellは、EYが支援した大手飲料メーカーの事例を紹介しています。そこでは、4,000万件以上の取引を商品タイプ別に分類する必要がありました。

Campbellによれば、各商品の分類とその後の税務処理は、原材料の種類や製品ラインごとの配合比率など、複雑な変数に依存していたため、非常に難易度が高かったといいます。EYが提供したソリューションは、自律型AI分類エージェントを設計し、税務プロセスに組み込むというものでした。「このエージェントは、わずか10日間で4,000万件の取引を高精度で分類することに成功しました。現在では、クライアントの在庫に新しい製品ラインが追加されるたびに、AIエージェントが自動で売上税・使用税別に商品を振り分けてくれるため、税務チームはより重要な業務に集中できるようになっています」と、Campbellは述べています。

AIエージェントは、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)や機械学習などのルールベース型ソリューションとは異なり、税務データを文脈化し、目標を設定し、行動計画を立案・実行することが可能です。単にデータに反応するのではなく、先を見越して意思決定を行い、従来のAIでは見落とされがちな外れ値や異常値にも対応します。つまり、AIエージェントは従来型のAIシステムに比べてはるかに高い柔軟性を持ち、人の介在を減らしながら税務チームの生産性を大幅に向上させるのです。

さらに、税務責任者がすぐに導入できる比較的簡易なAIエージェントとして、試算表の自動再フォーマットがあります。これまで、この作業は税務チームにとって大きな負担でした。ERPシステムやルールベース型AIによる自動化が整備されていても、報告に耐えうる品質にデータを整える作業には多くの時間と労力が費やされていました。一方、AIエージェントは、ERP、総勘定元帳、給与計算などのバックエンドシステムを自律的に照会し、項目を抽出・分類し、資産を追跡し、最終的には人間によるレビュー用の報告書ドラフトを作成するまでに進化しています。

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第1章

エージェントのチームワークがもたらす変革の力

AIエージェントチームは、試算表やコンプライアンスなどのエンド・ツー・エンドの税務プロセスを自動化し、AIオーケストレーションを活用することで、作業の正確性と効率性を高め、税務チームの生産性を向上させます。

AIエージェントは単体でも税務プロセスの自動化と高速化を実現できますが、チームとして連携し、人間が監視するAI搭載のオーケストレーション・レイヤーによって統括されることで、より革新的な力を最大限に発揮します。

エージェントチームの特徴は、人間のチームにおける業務分担と同様に、各エージェントが協力して作業を進める点にあります。各エージェントは、税務プロセスのエンド・ツー・エンドの自動化を目的に、それぞれの領域に特化したスキルや機能を備えています。こうしたシステムには、活動の連携性や正確性、コンプライアンスの遵守を担保する「マネージャー役」のAIエージェントが組み込まれることもあります。試算表のユースケースでは、以下のようなタスクを担うエージェント群によってチームが構成されます:

  • 税務・財務システムからのデータ抽出
  • 項目の正確な分類
  • 再フォーマットされたデータの税務申告ソフトへのアップロード
  • 新しい勘定科目の識別と分類の正確性確認
  • 試算表の前年度分との比較による異常値の検出
  • 出力内容のレビューによる正確性とコンプライアンスの確認

Campbellは次のように述べています。「AIエージェントの最終形態は、マイクロエージェントを一式構築し、それらが連携してプロセス全体を自動化することです。これにより、税務担当者は数十ものシステムから解放され、エージェントの管理に専念できるようになります」。現時点では、このテクノロジーはまだ発展途上ですが、AIの他分野と同様に、その能力は急速に進化し続けています。

AIエージェントのアプローチは、多数のプロセスを自動化・高速化する点で革新的です。これにより、貴重な時間とリソースを節約し、税務担当者はイノベーションに注力できるようになります。

例えば、人間参加型(ヒューマン・イン・ザ・ループ)のエージェントチームは、コンプライアンスの確認や税務評価の目的でも活用することができます。EYでは、自然言語処理と機械学習を用いて税制改正を追跡するシステムを構築しており、AIエージェントによってこの機能をさらに自動化・拡張する方法を継続的に探究しています。高度なAIエージェントは、新たな規制の検知にとどまらず、その規制が企業の税務ポジションに与える影響を評価し、関連するステークホルダーに注意喚起を行います。さらに、会議の日程調整、ステークホルダー向けの推奨事項を含む分析ドラフトの作成までを担い、これに基づいた議論や改善策の検討を可能にします。ただし、AIエージェントも万能ではないため、こうした重要なワークフローの過程では人間による監督が不可欠です。

Campbellは次のように述べています。「一部の税務チームは、すでに機械学習を活用して規制変更を自動検出していますが、その後の作業の多くは依然として反復的な手作業に依存しています。AIエージェントのアプローチは、多数のプロセスを自動化・高速化することで、貴重な時間とリソースを節約し、税務担当者がイノベーションや付加価値の高い業務に注力できる点で革新的なのです」

EY Americas Tax AI LeaderのDarren Beardsleyによると、このテクノロジーにより納税通知書の処理が自律的に行われるようになり、人間の税務担当者はAIの提案を検証・検討することに専念できるようになるといいます。

AIエージェントシステムは、世界各国・地域から送付される納税通知書を人間の監督下で受領・解釈・分類することが可能です。主な機能は以下のとおりです:

  • 納税通知書の種類を特定(税務調査、提出遅延、納付督促など)
  • 主要データの抽出(日付、金額、期限など)
  • 通知書を社内の納税義務や過去の提出履歴にひも付け

さらに、現地の規制用語や書式を理解し、法域固有の論理を適用するようAIエージェントを訓練することで、通知書を適切なチームやシステムに振り分けることが可能となり、ワークフローの高速化につながります。

Beardsleyは、リアルタイムに近い税務処理が求められる欧州や南米では、AIエージェントによる税務プロセスの高速化が特に重要になると指摘しています。

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第2章

税務におけるAIエージェント成功の鍵はエージェント間の明瞭なコミュニケーション

AIエージェント間のコミュニケーションを明確にし、税務プロフェッショナルが理解しやすい形式でデータ共有、税務調査支援、迅速な意思決定を実現することで、税務業務へのAI導入は一層促進されます。

税務部門におけるAIエージェントチームの展開を成功に導くには、透明性が高く、人間の税務担当者が容易に理解できるエージェント間の効果的なコミュニケーションが不可欠です。テクノロジーを税務業務にシームレスに組み込むためには、エージェント同士の自由なやり取りを確保するだけでなく、担当者がエージェントの活動を追跡・把握し、迅速かつ容易に検証できる環境の整備が求められます。

アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)のようなコンピューター中心のアプローチは、エージェントにとっては迅速かつ効率的なコミュニケーション手段ですが、税務担当者にとっては柔軟性に欠け、即座に活用できるものではありません。一方、Eメールやチャットなど、人間中心のチャネルを通じたエージェント間のコミュニケーションは、時間がかかり一見分かりづらいものの、税務担当者がレビューしやすいという利点があります。

Ernst & Young LLPの税務・テクノロジー担当プリンシパルであるChris Aikenによれば、彼のチームではこのアプローチを模索し続けており、Microsoft Teams上でCopilotを活用し、EYのAI税務エージェントとクライアントの税務部門のエージェントが通信できる環境の構築に取り組んでいるとのことです。EYのAIエージェントは、税務調査の過程で税務ポジションを裏付けるために必要なデータを依頼する機能も備えています。

Aikenは、エージェント間通信のもう一つの有望なユースケースとして、南米や欧州で高まるリアルタイム税務報告へのニーズを挙げています。同氏は、将来的には納税者と税務当局が、複雑なAPIではなく、標準的なAIエージェントを用いて税務データの依頼・提供を行う時代が到来すると予測しています。「APIコールの問題は、柔軟性に著しく欠ける点です。少しでも曖昧な部分があると、まったく機能しません。一方で、AIエージェントは不測の事態や不完全・不整合な税務データに対しても、非常に的確に対応できます」と、Aikenは述べています。

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第3章

税務部門でAIエージェントが直面する本質的な障壁の打破

AIエージェントを税務業務に導入する際に真に考慮すべき課題は、技術的な障壁ではなく、データのサイロ化、規制の複雑性、倫理的リスクの克服、そして戦略的かつ人間中心の思考の構築にあります。

EYのAikenとCampbellは、AIエージェントの開発やエージェント間通信に関する技術的課題は、比較的容易に克服可能であると述べています。しかし、社内に存在するデータのサイロ化、規制遵守、倫理的懸念、そしてテクノロジーへの信頼構築と統合能力に対する不安など、導入を阻む本質的な障壁は依然として残っています。

社内のデータサイロは、AIのパフォーマンスを制限しています。AIエージェントは、事業部門全体にわたる膨大な構造化・非構造化データにアクセスし、分析することで真価を発揮します。しかし、税務関連のデータは、独自のフォーマットで保存され、アクセス性にばらつきがある上、異なるERPシステム、スプレッドシート、ローカルデータベースなどに分散していることが多くあります。データアーキテクチャの統一と部門間の連携がなければ、AIエージェントに必要な情報を提供することは困難です。

Campbellは次のように言います。「今、私たちはAIエージェントという名の巨大なV12エンジンを手にしています。このAIエンジンは驚異的な高性能を誇り、すぐにでも使える状態なのですが、税務部門の『給油』が足りていないために、『ガス欠』に陥っています。私たちは、AIエージェントがその潜在能力を最大限に発揮できるように、データパイプを開放する必要があります」

の上級管理職は、自社の整備が追い付いていないことを認識しており、データ基盤の強化がAI導入の加速の鍵になると考えています。
の上級管理職が、インフラ整備の遅れがAI導入の重大な妨げとなっていることを認識しています。

法令遵守の面でも、複雑な課題が存在します。税務部門は、各国の税制改正に対応し、申告義務や開示要件を満たす必要があります。AIエージェントは、こうした変更の監視や解釈に役立ちますが、企業はAIが生成した知見が現地の法的枠組みに準拠しているかを確認しなければなりません。コンプライアンスチームは、AIエージェントの成果物が税務当局の求める可監査性基準を満たしているかを検証し、導入に向けてさらなる精査と制御層の追加が求められます。

意思決定におけるAIの倫理的影響も見過ごせません。高度な自律性を持つAIエージェントには、偏ったリスク評価や透明性に欠ける税務ポジションなど、意図しない結果を防ぐためのセーフガードが必要です。監視とガバナンスの明確な枠組みがなければ、組織はレピュテーションリスクや規制当局からの制裁に直面する可能性があります。税務評価やコンプライアンス活動においてAIに高い主体性を持たせる前に、倫理ガイドラインと説明責任の仕組みの確立が不可欠です。

また、AIエージェントに対する信頼の構築も同様に重要です。税務プロフェッショナルやステークホルダーは、AIが生成する成果物だけでなく、その意思決定プロセスに対する説明能力にも信頼を寄せる必要があります。現行のAIシステムの多くは「ブラックボックス化」しており、担当者以外には提案の根拠が不透明です。この課題を解決するために、組織は説明可能性を重視し、AIの効率性と人間による監督を組み合わせた人間参加型アプローチを採用すべきです。

今、私たちはAIエージェントという名の巨大なV12エンジンを手にしています。このAIエンジンは驚異的な高性能を誇り、すぐにでも使える状態なのですが、税務部門の「給油」が足りていないために、「ガス欠」に陥っています。

新たなテクノロジーの導入には、技術的インフラだけでなく、組織文化の変革と心構えが不可欠です。税務部門は、コンプライアンス偏重から脱却し、戦略的思考とデータ分析に基づく助言を行うアドバイザーへと進化する必要があります。そのためには、人材のスキルアップ、役割の再定義、IT・法務・財務との部門横断的な連携が求められます。AIエージェントの成功は、それを単なるツールとしてではなく、税務戦略に組み込まれた変革の原動力として受け入れられるかどうかに懸かっています。

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第4章

人を中心に据えたAIエージェント:税務チームの脅威ではなく、有能な協力者

AIエージェントは、複雑な作業を自動化することで税務チームの生産性を向上させますが、その真価は、人間の知見に従い、倫理的な監督のもとで運用され、戦略的かつ高付加価値な業務に集中できる環境を支えることにあります。

AIエージェントが税務業務の再構築を進める中で、テクノロジーの導入に成功するかどうかは、人間の知見・監督・目的とAIとの連携がどれだけ機能するかに懸かっています。このテクノロジーは、複雑な税務作業の自動化、変化への対応、さらには意思決定まで可能にする能力を持っていますが、最大の利点は、税務のプロフェッショナルがより戦略的で価値の高い業務に集中できる環境を整えることにあります。人間の専門知識と倫理的ガバナンスを基盤に、AIエージェントを税務業務の中心に据えることで、組織は生産性と正確性を両立させる新たな時代を切り開くことができます。

AIエージェントは、人間に取って代わる存在ではなく、人間の税務プロフェッショナルの判断力、創造性、文脈理解を補完する有能な協力者として位置付けるべきです。先進的な企業は、説明可能性、説明責任、透明性をAI戦略に組み込み、すでにこの協働関係を築き始めています。こうした税務部門は、信頼性、可監査性、人間による意思決定を重視し、AIによって業務の健全性が損なわれることなく、むしろ向上するよう努めています。

最終的に、税務におけるAIエージェントは、人を中心に据えて設計されるテクノロジーとなるでしょう。この分野をリードする企業は、AIは人間を排除する脅威ではなく、人間の能力を拡張する手段と捉えています。税務プロフェッショナルの能力を強化し、連携を促進し、人間中心のシステムを設計することで、税務責任者は、優秀で効率的であると同時に、逆境に強く、倫理的に行動し、将来の不確実性に備えた対応力を持つチームを構築することができます。

サマリー

AIエージェントは、その高度な能力を活用して複雑なプロセスを自動化し、作業の精度を向上させることで、生産性を高め、税務部門の再構築を極めて短い期間で実現しています。従来の自動化とは異なり、AIエージェントは新しい情報に柔軟に対応し、人間のチームと協働することが可能です。例えば、物品サービス税(GST)に基づく商品分類や試算表の自動再フォーマットといった作業に優れているほか、チームで連携することにより、税務プロセス全体のエンド・ツー・エンドの自動化を実現します。とはいえ、データのサイロ化、コンプライアンス、信頼の醸成など、依然として重要な課題が残されています。成功の鍵は、人間中心のアプローチにあります。倫理的な監督とプロフェッショナルによる判断を組み合わせたAI活用により、組織は戦略的な優位性を獲得し、税務部門を将来の不確実性に備えて強化することが可能となるでしょう。


  

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