世界で導入が進む電子インボイスにとってViDAが持つ意味とは

世界で導入が進む電子インボイスにとってViDAが持つ意味とは


欧州委員会が2022年に公開した「デジタル時代のVAT(ViDA)」に対する提案は、グローバル企業とその税務部門に大変革をもたらすものです。


3つの問いかけ

  • EUの企業およびEU域内で商取引をする企業は、ViDAがもたらす根本的な変化への準備ができているのか。
  • 電子インボイスの要であるデータ品質。高いデータ品質を保証する関連データ取得プロセスを、企業はどのように構築できるのか。
  • ViDAは社内的にどのような機会やメリットをもたらすのか。また税務部門はそれらをどう活用できるのか。


EY Japanの視点

日系企業にとってViDAへの対応は、次の3つの観点からハードルが高いと考えられる。

1つ目は、日本親会社にとってご当地の付加価値税は、そのご当地の子会社に任せるという風潮がある。欧州子会社にとってVATのデジタル対応は、グループ全社としての(税務ポリシーを持った)税務対応という考えであるところ、親会社と子会社との間に温度差が生じてしまう。

2つ目は、日系企業では税務部門がシステム導入等のプロジェクトに関与できていない(声もかけられない)状況となっている。急に税務部門がViDA対応を求められてもノウハウが無いため、税務部門だけにその対応を求めるのは非常に酷である。

3つ目は、各部門とのプロジェクト連携である。ViDA対応は社内連携が前提となっているため、大企業ほど対応に苦労することが考えられる。

パッチワークな税務対応ではViDA対応による本当の恩恵を望めないことから、外部アドバイザーを交えた全社一丸の対応が必要と考えられる。


EY Japanの窓口
岡田 力
EY税理士法人 インダイレクトタックス部 パートナー
古市 泰之
EY税理士法人 インダイレクトタックス シニアマネージャー

2025年4月14日に施行された欧州連合(EU)の新しい規則は、デジタル報告要件を標準化することで、付加価値税(VAT)コンプライアンスをリアルタイムの電子インボイス環境へと近づけ、税務・財務部門の運営方法を根本的に変革するものです。

EUの「デジタル時代のVAT(ViDA)」イニシアチブは、5年間かけて段階的に導入されるもので、EUのVAT制度における数十年間で最も重要な改革の1つです。このイニシアチブは、VATプロセスの近代化、不正行為の削減、国境を越えた取引の効率化を目的としています。

ViDAは、EU全域でのVATの管理方法に根本的な変革をもたらします。これは、VATに関する不正行為、非効率な徴税、管理上の複雑さといった長年の問題に対するEUの対応です。今回初めて、全ての加盟国において企業は統一された電子インボイス発行と当局へのほぼリアルタイムの取引データ報告を導入することが求められ、これにより、より透明性が高くデジタルファーストの税制が実現されることになります。

ViDAによるVAT関連の一連の包括的措置は、930億ユーロにもなるEUのVATギャップの削減を目指すとともに、企業のためにVAT制度の一層の効率化を図るものであり、電子インボイスとデジタル報告、EU域内での取引における単一VAT登録の導入、プラットフォーム経済、という3本の柱を軸とします。特に鍵となる提案の1つに、EU域内で国境を超えて事業展開する企業を対象とした、電子インボイスに基づくリアルタイムのデジタル報告への移行があります。

ViDAは「欧州全体にとって、まぎれもなくゲームチェンジャー」であると、フランスのErnst & Young Société d'AvocatsのInternational Tax PartnerであるGwenaëlle Bernierは言います。

ViDAは、組織内の根本的な変化を促すものです。税務部門が重要な役割を果たすことになるのはもちろんですが、部門の枠を超えた影響も大きく、またそれによって生まれる機会も相当大きなものです。ViDAは大きな可能性を秘めた強力な手段であり、税務部門がこれをプロセスやデータ、品質の問題の改善に活用しない手はありません。「電子インボイスは、財務、オペレーション、調達、IT、税務など、企業の多くの部門に関わってくる全社的なプロセスです。電子インボイスは税務プロセスである前に、ビジネスプロセスであるため、企業の大部分が影響を受けるのです」と、Ernst & Young LLPのTransform and Operate PartnerであるChiu Ming Manは説明します。

こうしたデジタルインボイスへの移行は、イタリアとフランスによって進められてきており、イタリアでは2019年から運用が開始され、フランスでは2026年に導入する予定です。ViDAの採用により、今後は全てのEU加盟国で標準になる見込みです。つまり、EUで事業展開する企業は全て、デジタルインボイスへの移行を迫られることを意味します。

電子インボイス制度とリアルタイムのVATデータが税務当局にもたらすメリットは明白です。VATギャップの解消、意図しないエラーの防止、リスク管理機能の強化、不正スキームの早期検出に役立ちます。ほぼリアルタイムのやり取りができるということは、経済動向や予測を、今までよりも迅速かつ詳細に分析できるようになる可能性も秘めています。企業は高い導入費用を負担することになりますが、時間の経過とともに、電子インボイスは企業の支出を削減し、税務関連プロセスのデジタル化の普及を一層進めるとみられます。

ViDAにおける電子インボイスの主な変更点

最も注目すべき変更点の1つは、EU全域で電子インボイスの導入が義務化されることです。加盟国は、断片化された各国の制度に代えて、標準化された電子インボイスの枠組みを導入します。企業は、欧州規格EN 16931に準拠した機械可読形式で構造化された電子インボイスを発行する必要があります。これにより、電子インボイスはEU域内の国境を越えたB2B取引におけるデフォルトのフォーマットとなり、紙や非構造化PDFに取って代わることになります。
 

さらに、加盟国は、企業が電子インボイスを発行するための事前の承認を求めなくなり、プロセスが簡素化されます。EU全体で統一されたフォーマットにより相互運用性が確保され、企業が各国の異なる基準に対応する必要性が減少します。電子インボイスは新しいデジタル報告要件(DRR)と直接ひも付けられ、税務当局はほぼリアルタイムで取引データを受け取ることが可能になります。
 

現在の域内越境販売額申告書(ECセールスリスト)は、ほぼリアルタイムのデジタル報告に置き換えられます。企業は、取引データを10日以内に税務当局に提出する必要があります。これにより、税務当局が取引データに迅速にアクセスできるようになり、VATの徴収効率が向上し、不正行為の防止に役立ちます。
 

現在とは異なり、企業は電子インボイスを発行するために税務当局の承認を必要としません。これにより、導入が容易になり、事務的な負担が軽減され、全ての加盟国において電子インボイスが利用しやすくなります。

ViDAによって全世界的な組織の変革がどう促されるか

データの管理と使用に関して、多くの企業では、税務とそれ以外の業務とをうまく融合させる取り組みが必要ですが、ViDAと電子インボイスが求める要件は、そうした取り組みを活性化させるものとなるでしょう。

大規模な組織では、ViDAや普及の広がる電子インボイスをただのソリューションとしてではなく、一歩引いた視点で戦略を検討する機会として捉えています。テクノロジーというのは、それが単一プロバイダーであろうが複数の地域プラットフォームであろうが、そうした戦略の重要な構成要素の1つです。何かの変更があるたびにベンダー選定コストがかかり、個別のソリューションの迅速な導入にはかえって時間も労力もかかるため、企業には戦略が欠かせません。

ViDAに取り組むには社内の連携が不可欠で、税務部門は初期段階から重要な役割を果たす必要があります。各部門の責任(どの部門が責任を持ち、どこに説明責任があり、どこに相談し報告するのか)を明確に定めたマトリクスと、その土台となるガバナンスモデルを確立しなければなりません。抜けや見落としが一切ないようにすることが重要です。「電子インボイスに関しては、税務の範ちゅうではないことも多いのですが、その議論には税務部門も参加していかなければなりません。そうしないと、導入にあたって問題が生じます」と、EY Global Indirect Tax Deputy LeaderのMaria Hevia Alvarezは言います。

税務のリーダーは、「ViDAの中でビジネスに影響を与える重要な要件はどれなのか」と検討する必要があります。税務部門は、少なくともこうした議論を促し、第一声を上げるようにしなければなりません。なぜなら、その国の拠点全体にわたって、こうした新しい、しかも変化していく要件を社内に周知する責任は、最終的には税務部門にあるからです。

電子インボイスに関しては税務の範ちゅうではないことも多いのですが、その議論には、税務部門も参加していかなければなりません。

データ品質が極めて重要

「企業は必要以上の支出をしているかもしれません。プロセスやデータに目を向けるチャンスです。もっと大きな戦略に時間を使うべきです。たとえその戦略が、今後2〜3年だけのためであったとしてもです」と、Ernst & Young LLPのUK&I Indirect Tax PartnerのBen Woodfieldは説きます。

データ品質は、電子インボイスにおいて最も重要な要素です。企業は、高いデータ品質を保証する関連データ取得プロセスと管理手段を構築する必要があります。データは電子インボイス提出ソリューション用のシステムだけでなく、従来のVAT還付申請プロセスをはじめとする下流の提出システムなど、後続の間接税の各種プロセスでも使われることになります。Woodfieldは「データ品質は、企業がつまずいてしまう部分です。データは、テクノロジーソリューションの選定と同じくらい重要です」と述べています。

加えて企業は、VATに関する自社ERPシステムの現在の機能と能力についても把握しておくことも必要です。将来的に、データの品質レベルを確保するため、機能を増強する必要が出てくるかもしれません。

ViDAが生み出すグローバルな機会

コンプライアンスや書面作成以外にも、税務部門と企業には明らかなチャンスの到来です。「企業は自問すべきです。ViDAは、現在行っていることを強化し、将来に備えるための機会となるのでしょうか?」とManは言います。

ViDAによって、税務・財務部門は詳細なトランザクションデータにリアルタイムでアクセスできるようになります。これを利用して重要業績評価指標(KPI)作成やデータ分析を行い、ビジネスに生かせます。例えば、どのクライアントが期限内に支払っているか、最も売れている製品デザインはどのタイプかなどを判断するのに役立ちます。繰り返しますが、データ品質は極めて重要です。企業がデータを外部に、特に税務当局に送信する場合、品質の高いデータが求められるからです。これまで、財務部門の多くは集計データを使用してきました。

企業は自問すべきです。ViDAは、将来に備えるために、現在行っていることを強化する機会となるのでしょうか?

キャッシュ管理の面でのメリットもあります。キャッシュがいつ、どこから支払われるのかを素早く判断できるため、その数値に基づいて事業展開を計画できます。つまるところ、ViDAがもたらす最大の機会は、真のデジタル化です。

「事業や商取引の面では大きなチャレンジです。かなりの投資が必要になってきます。しかし、視点を変えて潜在的なプラス面を考えると、税務チームが長年直面してきたプロセスやデータ、品質の問題の改善につながる、唯一最大の機会だと思います」。こう語るのは、Ernst & Young LLPのUK&I Indirect Tax PartnerのLiam Larkeです。「組織内での間接税報告の管理方法を一から見直す機会です」

企業は、特定のテクノロジーへの投資を対象としたビジネスケースのバックボーンとして、あるいは上流の財務プロセスやレガシーERPの問題を改善するといったことのために、ViDAを活用すべきです。各種プロセスやデータ、テクノロジーがどのように関わり合っているかを考慮しながら、包括的アプローチで取り組みます。

税務リーダーにとってViDAは、組織の重い腰を上げさせ、組織には抜本的な変化が必要なこと、プロセスの各段階に税務要件を盛り込む必要があることを自覚させる好機です。「ERPのアップグレードや導入など、現在多くのクライアントが取り組んでいる他の財務変革イニシアチブとうまく連携できれば、税務報告の面では、今後10~20年間の備えは十分と言えるでしょう」とLarkeは付け加えます。

組織内での間接税報告の管理方法を一から見直す機会です。

電子インボイスに関する規制の導入状況は、その成熟度も複雑度も国によって大きく異なります。よって、グローバルな電子インボイスプラットフォームを1つ整備し、大規模に管理することが一層重要になっています。「間接税はデータドリブンであるため、テクノロジーなしで業務をすることは不可能です」とManは言い添えます。

 

企業には、電子インボイス対応に向けて、テクノロジーソリューション以外にも準備できることがさらに多くあります。戦略を策定し、技術要件を理解し、データ品質と組織内の各種プロセスへの影響を検討することが、最終的にはコンプライアンスにつながります。 


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    サマリー

    欧州委員会のViDAに関する提案は、組織とその間接税部門に根本的な変化を促すでしょう。企業は計画を立てる必要があります。旗振り役は税務部門です。本記事では、ViDAによる潜在的な影響、世界で進む電子インボイス化の動き、進化する税務機能、そしてViDAがもたらす課題と機会について分析しています。


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