非地上系ネットワークNTN(Non-Terrestrial Network)の普及と高度自動化社会の到来および新事業創出の可能性

「コンポーザブル・アーキテクチャ時代に日本企業が目指すべきERP戦略とは?」セミナーレポート(2025年7月22日開催)


インフォコム主催セミナー「DX時代の『失敗しないERP導入戦略』とは?~未来を共創する経営基盤へ~」において、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社ソリューションセールスリーダーである梶浦英亮が基調講演を行いました。

企業経営を支えるERP──かつては統合型データベースを中心に、大規模な一体型の仕組みに集約する形式が主流でしたが、近年は複数のアプリケーションを組み合わせて利用する「コンポーザブルERP」へと移行しています。ERP活用のトレンドを検証し、日本企業がERPを戦略的資産として再設計するためのアプローチや、IT部門が担うべき役割について解説しました。


要点

  • 従来型ERPのままでは、デジタル変革(DX)の足かせに──技術進化とともに、業務要件に応じて柔軟な組み替えができる「コンポーザブルERP」へのシフトが加速。
  • ERPの価値を十分に引き出し、DXと接続するためには、マスターデータの整備や全社横断のデータ活用基盤の実装が不可欠。
  • IT部門に求められるのは、安定稼働とコスト削減中心の運用型から、継続的に価値を生み出す「プロダクトマネージャー型」への転換。

Section 1 日本企業におけるERP導入の現在地

SaaS/クラウド化が進み、ERPが変化し使いやすくなったことから、大企業だけでなく、業種を問わず中堅企業においてもERP導入が進んでいます。既存のERPはオンプレミス型が半数を占めますが、新規導入はSaaS/クラウド型ERPがけん引しています。ただし、既存システムをそのままクラウドに持ち込もうとすると、構造的な非効率や高コスト化を招きかねません。クラウドとオンプレミスにはそれぞれ一長一短があり、状況に応じた使い分けが重要です。

市場全体で見ると、ERP導入は「高コスト」、「業務変更が必要」、「現状のやり方で問題なし」といった理由から未導入の企業も残存しています。しかし、会計や管理業務システムをゼロから内製する企業はほとんどなく、ERP活用は今や必須条件です。

ERPの歴史を振り返ると、まず大手企業によるERP導入が進んだ初期から、大規模かつ結束性の高いシステム統合が主流となり、全社データを一元管理することが中心でした。長期にわたる開発工数と多額のコストを要し、業務に合わせてシステム機能をアドオン開発する技術的負担も大きくなりました。従来の密結合環境では、変更時の影響が広範囲に及び、改修・拡張時にかかる時間とコストが増大します。過度なカスタマイズがアップグレード作業の難易度を上げ、DXを阻むレガシーシステム問題の一因にもなっています。

こうした従来型ERP一辺倒の時代から、ERPコア機能を最小限にし、周辺機能をSaaSやAPI連携で緩やかに疎結合する「ポストモダン型ERP」が徐々に浸透しはじめました。近年では、業務要件に応じて複数のアプリケーションを組み合わせるベスト・オブ・ブリード型で、新技術と統合しやすい「コンポーザブルERP」への移行が徐々に進んでいます。(図1)

図1 ERPモデルの変遷

図1 ERPモデルの変遷
出所:EY作成

Section2 ERPとともに進化するEA

ERPの進化は、企業全体のシステム構造=エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)の変遷と表裏一体です。従来のEAは、全社統一の仕組みを中心に据えた「一枚岩型」(モノリシック)モデルでした。これにより標準化が進められた一方、変化への対応力には限界がありました。

ポストモダンERPの登場、コンポーザブルERP への進化の過程で、EAもまた分散・連携型へとシフトし、APIを軸に多様なシステムと接続し、機能またはサービス単位での改善や追加が可能になりました。新たなEAでは、業務・データ・アプリ・インフラの関係性を動的に捉え、変化に対応できる柔軟な設計が重視されます。API連携やiPaaSの活用により、ERPとSaaS/周辺アプリケーション等をリアルタイムで接続し、業務プロセスを横断して最適化することが可能です。(図2)

今後はコンポーザブルERPを中心としたEAが主流となり、変化を前提としたERP設計が求められるでしょう。機能単位で再構成が可能な「コンポーザブル・アーキテクチャ」の台頭は、EAが従来の“静的設計書”から、継続的に改善される“戦略設計図”として、果たす役割が進化・拡張していることを意味します。そして、ERPは単なる業務システムではなく、EA全体のデザインを具体化する中核となるプラットフォームでもあるのです。

図2 新エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)の特徴

図2 新エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)の特徴
出所:EY作成

Section3 ERPとDXがつながらない現実=データ統合の壁

今日、DX推進を掲げる企業が圧倒的です。また、日本企業におけるデータ活用の取り組みは、年々改善・強化されています。しかし、ERPと実際のデジタル変革がうまく結び付いていないケースは少なくありません。

本来、ERPは情報の断絶を解消し、部門横断でのデータ活用を可能にするものです。しかし、日本企業では依然として部門ごとの独自運用や属人化による「データの断片化」が大きな障壁となっています。これがERPとDXの接続を妨げ、経営のスピードと柔軟性を損なっている現実があります。

グループ企業や部門ごとに稼働する異種システムや、現場ごとの独自ルールの存在は、全社的なデータ活用を妨げます。ERPが導入・刷新されても、基盤となるマスターデータ管理が整備されておらず、複数の業務領域をまたがるデータ連携が不十分だと、正確なリアルタイム情報が経営層に届きません。全体像がつながらない限り、ERPや周辺システムは“部分最適のツール”に限定されてしまいます。

コンポーザブルERPでは、多様なサービスや機能を連携させる構造となるため、分散されたデータを一元的に管理することが不可欠です。データ分析やAI機能を最大限に生かすには、ERPを含む業務アプリケーション群から個々のデータを整形・統合する仕組みの構築が欠かせません。まさしく、ERPとDXをつなぐ鍵はデータ統合にあると言えます。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ソリューションセールスリーダー パートナー
梶浦 英亮

Section4 求む!「プロダクトマネージャー」型IT部門

従来のIT部門は、システムの安定稼働と効率性を維持する「守りの役割」が中心でした。しかし、コンポーザブルERP時代に必要なのは、各種システム=プロダクトと捉えて、リリースと改善を積み重ねるアジャイルな「プロダクトマネージャー」型の組織です。(図3)

ある大手製造業のIT部門は、もともとコストセンターとしての受け身体質が強く、ITインフラおよび一部の業務アプリケーションを中心に運用していました。業務改革の一環としてERP導入プロジェクトが発足した際、IT部門がイニシアチブを発揮し、機能検証や業務フロー標準化を推進しました。本社の経理・人事といったバックオフィス部門から、営業・生産部門等へと接点を広げ、ユーザーの声を積極的に収集するようになりました。時代とともにIT部門の事業貢献への要求が高まる中で、生成AI等の新技術を取り入れ、コスト削減一途ではなく利益創出に関わる業務にも関与し、システムプロダクト面からけん引する役割を担うまでにIT部門が転換したのです。

この事例が示すように、これからのIT部門には、ERP導入後もビジネス部門と協働しながら新しい機能を試し、自社に最善な用途を探索し、継続的に価値を提供する視点が必要です。ビジネス環境は常に変わることを前提に、ユーザーからフィードバックを得て意思決定につなげ、実装可能なテクノロジーを俯瞰(ふかん)し、新技術や外部サービスとの迅速な統合を図っていくことが欠かせません。

図3 従来型IT部門からプロダクトマネージャー型IT部門へ

図3 従来型IT部門からプロダクトマネージャー型IT部門へ
出所:EY作成

Section5 戦略基盤としてのERP再設計のアプローチ

EYでは、DXを実現するためのERP再設計のアプローチとして、社内文化形成、ツール整備、運用・ルール整備の観点から、5つのポイントを挙げています。(図4)

ERPは、もはやバックオフィスを支えるだけの仕組みではなく、企業変革の基盤そのものと捉えられます。ビジネス変化のスピードに応じて組み替えられるERPを戦略インフラとして再設計し、DXの推進力へと高めていくことが、これからの日本企業に求められます。そのためには、ERPを「コストのかかるシステム更新」としてではなく、「企業変革のための投資」として捉える視点も重要となるでしょう。

EYは、変化の激しい環境下で柔軟に対応できるアーキテクチャの実装、システム導入、そして組織づくりを今後も支援し続けてまいります。

図4  ERP再設計のアプローチ概要図

図4  ERP再設計のアプローチ概要図
出所:EY作成

サマリー 

企業が直面する課題は複雑化し、変化が常態化している市場環境において、業務特性に合わせたコンポーザブルなシステムを選択・再設計することが、今後さらに重要となるでしょう。EAとは、企業が変化に対応し続けられる構造を持つ“戦略設計図”です。そのEAを具体化し中核となる基盤がERPであり、企業変革のためのアセットでもあるのです。



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