EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
近年、データセンター(DC)業界は急速な変化を遂げており、その中心にはハイパースケーラーとGPUサーバーの需要拡大があります。特に、人工知能(AI)の進展に伴い、GPUの利用が急増しています。これにより、データセンターの運用における重要な要素が変化しつつあります。
ハイパースケーラーは、大規模なクラウドサービスプロバイダーやインターネット企業が運営するデータセンターであり、膨大なデータ処理能力を持っています。
富士キメラ総研のデータによると、ハイパースケーラーの稼働ラック数は2028年に向けてCAGR +18.3%という非常に高い成長が見込まれています。
(図表1)
またハイパースケーラーは、AI関連のアプリケーションやサービスを提供するために、GPUサーバーの需要を爆発的に増加させています。GPUは、特に機械学習や深層学習の処理において、その並列処理能力が非常に高いため、AIのトレーニングや推論に最適です。このような背景から、GPUサーバーの市場は急速に拡大しています。
しかし、GPUの特性上、消費電力が爆増するという課題も浮上しています。AIの処理には大量の計算リソースが必要であり、それに伴い電力消費が急増します。IEAによると、世界のデータセンターによる消費電力量は、2024年の約4,150億kWhから2030年には約9,450億kWhに倍増すると予測されており、2030年時点で世界の電力消費の約3%を占める見込みです。この電力消費の急増により、データセンターの運用コストが増加し、環境への影響も懸念されています。特に、データセンターはエネルギー効率が求められるため、消費電力の増加は深刻な問題となります。
(図表2)
このような状況下で、Key Buying Factorが変化しています。従来のデータセンターでは、コストやスペースの最適化が主な購入要因でしたが、現在ではエネルギー効率や冷却技術が重要視されています。ハイパースケーラーは、運用コストを抑えるために、エネルギー効率の高い冷却設備や再生可能エネルギーの導入を進める必要があります。また、GPUサーバーの特性に合わせた冷却ソリューションが求められています。例えば、液体冷却や水冷ラックなど、従来の空冷方式では対応しきれない高発熱の問題に対処するための新しい技術が期待されています。
さらに、エネルギー供給のイノベーションも重要です。データセンターは、安定した電力供給が不可欠であり、特にハイパースケーラーはその規模から電力供給の信頼性が求められます。これにより、マイクログリッドや分散型エネルギーシステムの導入が進む可能性があります。再生可能エネルギーの利用を拡大し、電力供給の多様化を図ることで、環境負荷を軽減しつつ、安定した運用を実現することが求められています。
このように、ハイパースケーラーとGPUサーバーの急速な拡大は、データセンター業界におけるKey Buying Factorの変化を引き起こしています。消費電力の増加に伴い、冷却設備やエネルギー供給のイノベーションが期待されており、企業はこれらの要素を考慮した戦略的なアプローチを取る必要があります。
データセンター業界が直面する課題は、技術的な要因や市場の変化だけではありません。地政学的な要因も大きな影響を及ぼしています。特に、米中対立や国際的な貿易摩擦が進行する中で、データセンターの運営や投資に関する戦略が見直されつつあります。このような地政学的な課題は、企業がハイパースケーラーの需要を取り込むためのKey Buying Factorに新たな視点をもたらしています。
まず、米中対立の影響が挙げられます。米国と中国の間での技術競争が激化する中、特に半導体やAI技術に関する制限が強化されています。これにより、データセンターに必要なハードウェアやソフトウェアの供給が不安定になる可能性があります。特に、GPUサーバーの需要が急増する中で、これらの部品の供給が制約されると、ハイパースケーラーは新たな調達戦略を模索する必要があります。これに伴い、地元のサプライヤーとの連携や、国内製造の強化が求められることになります。
次に、サイバーセキュリティの脅威も地政学的な課題の一つです。国際的な緊張が高まる中で、サイバー攻撃のリスクが増加しています。特に、データセンターは大量の機密情報を扱うため、セキュリティ対策が一層重要になります。企業は、データセンターの選定において、セキュリティの強化を重視するようになり、これがKey Buying Factorに影響を与えています。具体的には、物理的なセキュリティやネットワークの防御策が強化されることになります。
これらの課題に対処するためには、日本のデータセンター業界が持つポジションがより優位に働く可能性があります。日本は、地理的に安定した位置にあり、先進的な技術力を有しています。また、法制度や規制が整備されているため、企業にとって信頼性の高い運営環境を提供しています。特に、アジア太平洋地域において、日本は重要なコネクティビティハブとしての役割を果たしています。これにより、国際的な企業が日本にデータセンターを設置することが増える可能性があります。
さらに、日本は再生可能エネルギーの導入を進めており、エネルギー効率の高いデータセンターの運営が期待されています。地政学的な課題に直面する中で、環境への配慮が求められる現代において、日本のデータセンターは持続可能な成長を実現するためのモデルケースとなる可能性を秘めています。これにより、ハイパースケーラーは日本のデータセンターを選択する際のKey Buying Factorとして、エネルギー効率や環境への配慮を重視するようになるでしょう。
このように、地政学的な課題はデータセンター業界に新たな複雑さをもたらしていますが、日本のポジションはこれらの課題に対処するための強力な基盤を提供しています。企業は、これらの要因を考慮しながら、ハイパースケーラーの需要を取り込むための戦略を再評価する必要があります。
このような環境下、日本企業は、データセンターの成長を最大限に活用するために、どのような戦略的アプローチを採るべきでしょうか?
日本企業は、データセンターの設計や運用においてエネルギー効率を最大化するための新しい技術や手法を導入する必要があります。最新の冷却技術や再生可能エネルギーの利用を拡大し、持続可能な運営を実現することで、ハイパースケーラーのニーズに応えることが求められます。さらに、将来的にはマイクロ炉(小型原子炉)等を活用することで、安定した電力供給を実現し、CO2削減にも寄与することが期待されます。
専門的な知識を持った人材の確保が重要です。企業は教育機関や業界団体と連携し、データセンター関連のカリキュラムを共同で開発し、インターンシップや実習プログラムを通じて実務経験を提供することで、将来的な人材確保のためのパイプラインを構築する必要があります。
地政学的な課題や供給不足の影響を受ける中で、企業はサプライチェーンの強化と多様化を図る必要があります。複数の供給元を確保し、国内製造を強化することで、特定のサプライヤーに依存しない体制を構築し、安定した運用を実現することが求められます。
サイバーセキュリティの脅威が増加する中で、データセンターのセキュリティ対策を強化することが不可欠です。物理的なセキュリティやネットワークの防御策を強化し、顧客の信頼を獲得するための取り組みが求められます。これにより、ハイパースケーラーの需要に応える体制を整えることができます。
【共同執筆者】
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター
原 晋一郎 アソシエートパートナー
田宮 康一 ディレクター
⽯⽑ 勇也 マネージャー
友部 勝文 マネージャー
李 政勲 シニアコンサルタント
※所属・役職は記事公開当時のものです。
データセンター業界は、ハイパースケーラーとGPUサーバーの需要拡大に伴い変化しています。日本は安定した地理的ポジションを生かし、エネルギー効率向上や人材育成、サプライチェーン強化を通じて持続可能な成長を実現する戦略が求められています。