ニュースリリース
2018年10月17日  | Tokyo, JP

医療機器業界の長期的なグローバル成長は、テクノロジー企業の業界参入による競争およびデジタル分野のケイパビリティへの過小投資というリスクを内包

プレス窓口

  • 医療機器業界の2017年から2018年までの売上3,790億米ドルは、前年比4%の微増に留まり、R&D投資も前年からほぼ横ばい
  • 活発なベンチャー投資、MRI画像などを使わない診断法(non-imaging diagnostics)への関心の高まりにより、医療機器業界の2017年から2018年までの資金調達は合計約370億米ドルにまで拡大
  • テクノロジーおよび小売業界など業界外からの新規参入企業(以下、ディスラプター)10社のM&Aに関するケイパビリティは、医療機器業界全体を上回る速度で進化

EYは医療機器業界に関する年次レポート『Pulse of the industry』(2018年度版)を発表しました。本レポートでは、「医療機器業界の長期的なグローバル成長は、デジタル分野のケイパビリティへの過少投資、テクノロジー企業の業界参入、より良い健康アウトカム提供を求めるニーズの拡大といった要因のため、将来に陰りがみえている。」と警鐘を鳴らしています。

2017年の医療機器業界全体の売上は、ボルトオン買収(既存事業の補完的買収)およびポートフォリオ最適化戦略によって、過去最高の3,790億米ドルを記録しましたが、成長率をみるとわずか4%の上昇にすぎませんでした。医療機器業界は10年連続で一桁台の成長率に留まったことになり、2000年から2007年までの年平均成長率が15%だったことを考えると、その差は歴然としています。

本レポートは、医療機器業界がR&D投資額を減額させていることも考慮して、医療機器企業、特に業界の商業目的のリーダー企業は、あまりに短期的成長を追求するばかりに研究開発や長期成長のニーズを犠牲にしていることを指摘しています。2017年の医療機器企業のR&D投資額は159億米ドルですが、これに対して投資家には自社株買いや配当金を通じて164億米ドルを還元していました。

EY Global のライフサイエンスのセクター・リーダーPamela Spenceは、次のように述べています。

 「医療機器企業は、引き続き自社株買いやタックイン買収(小規模な事業を買収して自社部門と統合)など保守的な戦略を用いて、非常に重要な治療分野で規模を拡大して成長することを目指しています。しかし、ヘルスケアの力関係が、サービス提供者や医療費支払機関から、患者や消費者へシフトし続けている中、従来的なビジネスアプローチはもはや通用しなくなっています。医療機器企業はデータや顧客中心アプローチなどのケイパビリティに投資して顧客とより強い関係を築かなければ、テクノロジー企業や小売業などのディスラプターに地位を奪われるリスクがあります。デジタル化された将来において医療機器企業が成功するかどうかは、製品やテストの安全性や有効性だけではなく、こうした製品から知見を得てそれを活用して、連携にますます焦点を当てたヘルスケアの提供に役立てることができるか、といった能力によっても判断されるようになるでしょう。」

本レポートでは、テクノロジー企業が、ヘルスケアの新しいサービス提供に対して、ますます投資を行っていることも指摘しています。こうしたテクノロジー企業は、より満足のいくカスタマーエクスぺリエンス提供に必要とされる、データアナリティクス、顧客エンゲージメント、サービスの個別化において知識と経験を持っています。彼らが提供する新しいサービスの例として、豊富なデータを有するプラットフォームを活用して消費者やケア提供者とプロアクティブにデータを共有することで、薬の飲み合わせ・投与量などで健康への悪影響が出ないよう個人のケア管理を最適化する取組みなどがあります。さらに、テクノロジー企業および小売企業は、買収や提携を通じて医療機器業界に大きな創造的破壊を起こす力を持っています。10社のディスラプター(その一部はすでに医療用デバイス市場またはヘルスケア市場に参入しています)がディールを行うFirepower(財務体質の強さを基にしたM&Aの実行能力)は1兆9000億米ドルで、米国と欧州を合わせた医療機器業界全体のFirepower、9900億米ドルの2倍近くとなっています。 

EYライフサイエンスセクターのアドバイザリーパートナーJim Welchは次のように述べています。

「医療機器企業には、デジタルトランスフォーメーションを活用する独自のチャンスがあります。ますます多くの機器がインターネットにつながっている中で、医療機器企業は最初からアドバンテージを持っているからです。また、ヘルスケアのエコシステムの他のステークホルダーと強いコネクションを持ち、彼らの目的と足並みをそろえているので、新しいビジネスモデルを開発し、将来のバリューを生む有利な立場に立っているともいえます。しかしそうした医療機器企業に欠けているのが、パーソナライズ化されたヘルスケアサービスを開発するための社内のケイパビリティです。この状況を変えるためには、医療機器企業は引き続きその資本を有効に活用し、本業以外の資産売却を優先して行う必要があります。また、カスタマーエクスペリエンスの幅を広げるデジタル分野のコラボレーション、およびデータアナリティクスのケイパビリティにより多くの投資を行い、患者さんのニーズにより近づいて行かなくてはなりません。」

いくつかの医療機器企業は、すでに糖尿病や心臓疾患といった分野で、疾病管理を向上させるためのコネクテッドデバイスを創出するため、デジタルテクノロジーやサービスに対する投資を開始しています。しかし、この2つの治療分野以外では、デジタル関連のM&A活動は2017年から2018年の間影をひそめていました。米国では医療機器に市販前承認(PMA)が必要とされていますが、その傾向をみると、医療機器企業はデジタルの新しいケイパビリティをまだ十分には確立していないというイメージが強まります。米国食品医薬品局(FDA)の審査を通過したPMA 43件(2017年初から現在まで)のうち、わずか16件のみが何かしらのデジタル要素を取り入れていたヘルスケア機器でした。

医療機器企業はデジタル分野のケイパビリティを進化させるかわりに、戦略的に重要な治療分野での規模を拡大するために、2017年から2018年にかけ10億米ドルから100億米ドル規模のボルトオン買収を行うことに主眼を置いていました。医療機器企業はここ数年間、ビジネスモデルをトランスフォーメーションするためのM&A活動を行っていましたが、2018年6月30日までの一年間では100億米ドルを超えるいわゆるM&Aメガディールは行われませんでした。さらに、2016年から2017年と比較すると、M&A取引総額は56%減少して440億米ドル、取引総件数は42%減少して101件となりました。

本レポートでのその他主要な調査結果は以下の通りです。

  • 活発なベンチャー投資と画像を使わない診断への関心の高まりが資金調達を後押し: 医療機器企業による資金調達額は370億米ドルに達し、EYが2006年に調査結果の発表を始めて以来第3位の成績。公募・私募共に引き続き良好な環境のもと、イノベーションキャピタル調達額(売上高が5億米ドル以下の企業による調達資金)は、過去最高の220億米ドルを記録。その一例として、2017年から2018年にかけて、アーリーステージの医療機器企業はベンチャー投資家から33億米ドルを調達。業界の長期的な健全性にとって良い兆候である。
  • IPO熱の高まり: 2016年7月以降、欧米の医療機器企業はIPOにより910億米ドルを調達。これは、過去10年間の調達額合計を超えるもの。また、2017年から2018年において28件のIPOがあったが、それには医療機器業界で過去最高の52億米ドルを調達した、AI(人工知能)とビックデータを活用した画像診断を行う企業のIPOが含まれた。
  • 業界の時価総額は増加: 医療機器業界の時価総額上昇率は、すべての他の業界を凌いだ。そのけん引役となったのは、2017年7月1日から2018年6月30までの期間において92%の成長を実現した、大学などの非商業目的の機関。同期間に、画像を使わない診断を行う企業の評価額は82%増加。

※本プレスリリースは、2018年9月24日(現地時間)にEYが発表したプレスリリースを翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。
英語版プレスリリース:
Long-term global medtech growth under threat from tech competitors, underinvestment in digital capabilities


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本ニュースリリースは、EYのグローバル組織のメンバーファームであるアーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッド(EYGM)によって発行されています。EYGMは顧客サービスを提供していません。

Pulse of the industryレポートについて
「Pulse of the industry」第12版の主要な調査結果は、医療技術の商業化を主な事業目的とする米国または欧州に本社を置く企業に対してEYが行った分析を基にしています。本レポートでは、イスラエルのデータおよび分析は欧州市場に含めました。またグローバルデータは、米国・欧州の医療機器企業の情報をまとめたものです。EYは医療機器を、治療、医療診断、薬剤提供、そして分析/ライフサイエンスに関連する機器を取り扱う企業と定義しています。この定義には、ディストリビューターおよびCRO(開発業務受託機関)、CMO(製造受託機関)等のサービスプロバイダーは含まれません。

EYのグローバル・ライフサイエンス・セクターが提供するサービスについて
人口の高齢化や慢性疾患がますます身近になるにつれ、GDPに占めるヘルスケアの割合はさらに増えていくでしょう。科学の進歩、AI(人工知能)、患者の持つ力が医療提供にますます変化をもたらし、健康上の成果が重要な測定基準だとする、パーソナライズされた経験へと変わりつつあります。これは、従来のステークホルダーの間にパワーシフトを引き起こし、新規参入者(利益追求だけを目的としていない場合が多い)が、多くの業界の既存企業に混乱をもたらしています。 イノベーション、生産性、患者へのアクセスは依然として業界最大の課題となっています。こうしたトレンドは、R&Dや製品供給から、製品発売や患者中心のビジネスモデルに至る、ライフサイエンスのバリューチェーンのあらゆる段階で、資本戦略に大きな影響を与えています。
私たちのグローバル・ライフサイエンス・セクターは、セクターに特化した15,000人のプロフェッショナルによる世界規模のネットワークを結集し、トレンド予測や影響の特定、クライアントの競争力創造をサポートしています。私たちは、健康上の成果をベースにした新しい生態系の中で、医療機器企業の皆さまがビジネスを舵取りし、持続的成功を達成するようサポートいたします。
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