EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士
加藤 圭介、平川 浩光、大竹 勇輝、久保 慎悟、浦田 千賀子、桑澤 明
この2025年3月期決算においては、改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」及び実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」が原則適用になります。また、改正実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」は2024年3月期決算に引き続き適用となります。
本稿では、これらの論点のうち、適用対象となる企業が多いと思われるものについて、基本的な取扱いを中心に、2025年3月期決算での留意事項をQ&A方式で解説します。また、令和7年度税制改正大綱に示されている税制改正や「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正による会計及び開示上の論点についても解説します。
なお、「2024年3月期 決算上の留意事項」において掲載した事項のうち、本稿においても有用と考えられる等により再掲している項目については、【再掲】又は【再掲・一部更新】を付しています。
なお、本稿の本文において、会計基準等の略称は以下を用いています。
正式名称 |
本文中の略称 |
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「税効果会計に係る会計基準」 |
税効果会計基準 |
企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」 |
棚卸資産会計基準 |
企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」 |
企業会計基準24号 |
改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」 |
法人税等会計基準 |
企業会計基準第28号「税効果会計に係る会計基準」の一部改正 |
企業会計基準28号 |
企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」 |
減損適用指針 |
企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」 |
回収可能性適用指針 |
企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」 |
税効果適用指針 |
実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」 |
実務対応報告18号 |
改正実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する取扱い」 |
改正実務対応報告44号 |
実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」 |
実務対応報告46号 |
移管指針第7号「持分法会計に関する実務指針」 |
持分法実務指針 |
監査・保証実務委員会実務指針第81号「減価償却に関する当面の監査上の取扱い」 |
監査・保証実務委員会実務指針81号 |
監査基準報告書560実務指針第1号「後発事象に関する監査上の取扱い」 |
後発事象取扱い |
企業内容等の開示に関する内閣府令 |
開示府令 |
法人税等会計基準等の改正について、その概要と適用時期を教えてください。
2022年10月28日に、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)から(図表1)記載の会計基準等の改正が公表され、また、同日に日本公認会計士協会(以下「JICPA」という。)から同表記載の実務指針等の改正が公表されています。なお、実務指針等は、公表後にASBJへ移管されたため、名称は移管後のものとなります。
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ASBJより、2018年2月に企業会計基準28号等を公表し、JICPAにおける税効果会計に関する実務指針のASBJへの移管を完了しましたが、その審議の過程で、次の2つの論点について、企業会計基準28号等の公表後に改めて検討を行うこととしていました。
① 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)
② グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果
ASBJでは、移管の完了後、まず上記①について審議を開始しましたが、2020年度の税制改正においてグループ通算制度が創設されたことに伴い、グループ通算制度を適用する場合の取扱いについての検討を優先していました。その後、2021年8月に実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」を公表した後に、審議が再開され、公表に至ったものです。
主な改正点は以下の2点です。詳細な内容はそれぞれのQ&Aをご確認ください。
① 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税) (Q2参照)
② グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果(Q3参照)
適用時期については、(図表2)のとおり、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用となっています。
原則適用 |
2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から |
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早期適用 |
2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から |
今回の改正によって、税金費用の計上区分がどのように変わるのか、教えてください。
当事業年度の所得等に対する税金費用について、改正前の会計処理では以下のとおりとなっていました。
当事業年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等(以下「法人税等」という。)については、法令に従い算定した額を損益に計上する(改正前法人税等会計基準第5項)
上記改正前の会計処理によれば、課税所得の発生原因となった取引がどのようなものであろうと、課税所得に対して発生した法人税等は全て損益計算書において損益として計上されることになります。
ここで、その他の包括利益に計上された取引又は事象(以下「取引等」という。)が課税所得計算上の益金又は損金に算入され、法人税等が課せられるケースがあります。この場合には、対象となる取引等についてはその他の包括利益に計上されることになりますが、一方で、当該取引等に対して課せられる法人税等は損益に計上されることとなります。
このような場合には、「税引前当期純利益」と「税金費用」の対応関係が図られないことになり、この点が問題視されていました。
この点について、以下の設例を用いて説明します。
設例:前提条件
① A社(3月決算)は、取得原価が10,000の「その他有価証券」を保有しており、X1年3月期の期末において、その他有価証券の時価は、12,000であった。
② X1年4月1日にA社はグループ通算制度に加入することが決定しており、X1年3月期の期末において、当該「その他有価証券」に対して、税務上、時価評価が行われる。このため、「その他有価証券評価差額金」2,000は、X1年3月期において課税所得に含まれ課税される。
③ A社は、当該「その他有価証券評価差額金」を除いても課税所得が4,000生じており、また、税引前当期純利益も4,000である。
④ X1年3月期の期末における法定実効税率は30%であった。
⑤ その他の将来減算一時差異及び将来加算一時差異は存在しない。
改正前の会計処理
(※)法人税、住民税及び事業税の算定
(その他有価証券の時価評価に係る課税所得2,000+それ以外の課税所得4,000)×税率30%=1,800
仕訳
改正後の会計処理の概要は以下のとおりです。
① 当事業年度の所得に対する法人税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、「損益」、「株主資本」及び「その他の包括利益」(又は「評価・換算差額等」)に区分して計上する(法人税等会計基準第5項、第5-2項)
② 株主資本又はその他の包括利益に計上した金額に、課税の対象となる企業の対象期間における法定実効税率を乗じて算定する(法人税等会計基準第5-4項)
まず1点目の発生源泉となる取引等に応じて3つの区分に分けて計上することとした理由は、この考え方を採用した場合、税引前当期純利益と所得に対する法人税等の間の税負担の対応関係が図られる点、また、税効果額については、税効果適用指針において、この考え方と同様に取り扱っている点、加えて、国際的な会計基準においても、この考え方と同様に処理されている点を踏まえたものです。
また、2点目の法定実効税率を乗じて算定するとした理由は、複雑な計算を伴う場合の実務への配慮です。なお、課税所得が生じていないことなどから法令に従い算定した額がゼロとなる場合に、株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができるとされています(法人税等会計基準第5-4項ただし書き)。
改正後の会計処理について、上記(1)の設例と同様の前提である場合には以下のとおりとなります。
改正法人税等会計基準の会計処理
仕訳
株主資本等又はその他の包括利益に計上される取引等の例示は(図表3)のとおりです。
なお、その他の包括利益の欄の1番下の「退職給付会計における未認識項目」に関して、以下の点にご留意ください。
連結財務諸表においては、「退職給付会計における未認識項目」については、その他の包括利益を通してその他の包括利益累計額に計上されることになります。ここで、税務上は年金制度であれば掛金拠出額が損金算入されます。一方、会計上は、退職給付引当金は損益を通して計上された部分と、その他の包括利益を通して計上された未認識項目部分とで構成されているため、掛金拠出額に係る当期税金費用も、損益とその他の包括利益とで区分する必要があります。しかし、損益及びその他の包括利益と税金費用との対応関係が一概に決定できず、区分して算定することは困難であると考えられます。したがって、損益とその他の包括利益に区分して算定することが困難な場合に該当するため、損益に計上することが認められています(法人税等会計基準第5-3項(2)、第29-6項、第29-7項)。
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今回の改正によって、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の会計処理がどのように変わるのか、教えてください。
内国法人が有する譲渡損益調整資産を他の完全支配関係がある内国法人に譲渡した場合には、グループ法人税制が適用され、課税所得計算上、譲渡時点において売却損益を計上せず、繰り延べられることとされています。
当該繰り延べられた売却損益については、譲受法人において、当該資産の譲渡等の事由が生じたとき(完全支配関係がある他の法人に対する譲渡も含まれる。)に、譲渡法人の課税所得計算上、売却損益を益金の額又は損金の額に算入することとされています(法人税法第61条の11)。
子会社株式等を連結会社間で売却し、グループ法人税制が適用され、税務上売却損益が繰り延べられる場合について、改正前の税効果の取扱いは以下のようになっていました。
① 個別財務諸表上の取扱い
連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし、課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における当該売却損益に係る一時差異について、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する(改正前税効果適用指針第17項)。
② 連結財務諸表上の取扱い(改正前税効果適用指針第39項)
(ⅰ) 売却元企業の個別財務諸表において子会社株式等の売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正しない。
(ⅱ) 連結会社間における子会社株式等の売却の意思決定等に伴い、既に子会社等に対する投資に関連する連結財務諸表固有の一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上している場合は、当該繰延税金資産又は繰延税金負債のうち、当該売却により解消される一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を売却時に取り崩す。
(ⅲ) 当該子会社株式等の売却に伴い、追加的に又は新たに生じる一時差異については、子会社等に対する投資に係る一時差異として、税効果適用指針第22項又は第23項に従って処理する。
上記の会計処理によれば、グループ法人税制が適用される連結会社間の子会社株式等の売却について、内部取引であることから連結財務諸表上は売却損益が消去され、税務上も売却損益が繰り延べられるため課税されていないにもかかわらず、連結損益計算書上、税金費用(法人税等調整額)が計上される結果となります。このため、改正前の取扱いは、連結決算手続上、消去される取引に対して税金費用を計上するものであり、税引前当期純利益と税金費用が必ずしも適切に対応していないとの声が聞かれていました。
この点について、以下の設例を用いて説明します。
設例:前提条件
① P社は、S1社及びS2社の株式の100%を保有し子会社としている。なお、3社はいずれも3月決算の内国法人である。なお、P社連結グループは、グループ通算制度は適用していない。
② X1年3月末時点のS2社株式の税務上の簿価及び個別財務諸表上の簿価は、2,000である。また、S2社に対する投資の連結財務諸表上の簿価は2,500である。
③ P社はS1社に対して、S2社株式を時価3,500で売却する意思決定をX1年3月末に行った。なお、P社は連結財務諸表上、従前、配当による課税関係が生じないこと及び売却する意思がなかったことから、X1年3月末以前においては、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対して繰延税金負債を計上していなかった。
④ X1年4月にS2社株式の売却に係る取引が実行された。なお、S1社はS2社株式を売却する意思はない。
⑤ 法定実効税率は30%とする。
⑥ X2年3月期において、P社連結上、税金等調整前当期純利益が10,000生じており、当該利益に対応する法人税、住民税及び事業税が3,000生じている。また、上記前提条件に関連するものを除いて、将来減算一時差異及び将来加算一時差異は存在しない。
※ 以降の図中にある用語はそれぞれ以下の意味で使用している。
税務簿価:S2社株式の税務上の帳簿価額
会計簿価:S2社株式の個別財務諸表上の帳簿価額
連結簿価:S2社に対する投資の連結貸借対照表上の価額
譲渡取引後の連結損益計算書
※ 法人税等調整額の算定
① 税務上繰り延べられた売却損益に係る将来加算一時差異に対する繰延税金負債の計上
⇒税務上繰り延べられた売却益1,500×税率30%=450
② X1年3月期の売却の意思決定時に計上されたS2社への投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異に対する繰延税金負債の取崩し
⇒連結財務諸表固有の将来加算一時差異500×税率30%=150
①-②=300
改正後の税効果の取扱いは以下のようになっています。
① 個別財務諸表上の取扱い
改正前と同様1に、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表における当該売却損益に係る一時差異について、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する(税効果適用指針第17項)。
② 連結財務諸表上の取扱い(税効果適用指針第22項(1)①、第23項(2)②、第39項、持分法実務指針第27項、第29項、第30項)
(ⅰ) 子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩す。
(ⅱ) 購入側の企業による当該子会社株式等の再売却等、法人税法第61条の11に規定されている、課税所得計算上、繰り延べられた損益を計上することとなる事由についての意思決定がなされた時点において、当該取崩額を戻し入れる。
(ⅲ) 子会社等に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異について、予測可能な将来の期間に子会社株式等の売却(売却損益を繰り延べる場合)を行う意思決定又は実施計画が存在しても、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しない。
1 今回の改正において、個別財務諸表上の会計処理は、以下の理由から見直されていない。
上記(2)の設例の前提条件に基づき、改正後の税効果の取扱いがどのようになるか、以下に示します。
譲渡取引後の連結損益計算書
グローバル・ミニマム課税制度の概要を教えてください。
経済協力開発機構(OECD)は、かねてより、近年のグローバルなビジネスモデルの構造変化により生じた多国籍企業の活動実態と各国の税制や国際課税ルールとの間のずれを利用することで、多国籍企業がその課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行っている問題(BEPS)への対処に取り組んでいましたが、2021年になり、OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」における国際的合意のうち、グローバル・ミニマム課税(第2の柱)における所得合算ルール(Income Inclusion Rule、IIR)が、我が国において導入されることとなりました。
グローバル・ミニマム課税における所得合算ルールとは、国際的に最低限の実効税率(15%)を定めた上で、それを下回る国(=軽課税国)における最低税率での課税を確保するべく、親会社所在地国が、親会社に対して、子会社の最低税率に至るまで課税(トップアップ課税)するルールです((図表4)参照)。
令和5年度税制改正において、グローバル・ミニマム課税に対応する法人税が創設され、それに係る規定(以下「グローバル・ミニマム課税制度」という。)を含めた改正法人税法が2023年3月28日に成立しています。当該改正法人税法では、基本的に、年間総収入金額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業を対象として、一定の適用除外を除く所得について最低税率15%の課税が確保されるように制度化をすることとされています。
図表4 グローバル・ミニマム課税における所得合算ルールの概要
出典:内閣府第21回税制調査会「財務省説明資料〔国際課税〕」、www.cao.go.jp/zei-cho/content/4zen21kai1.pdf (2024年2月14日アクセス)
実務対応報告46号について、概要を教えてください。
グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計について2023年3月に実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」(以下「2023年実務対応報告44号」という。)が公表された後、法人税等(当期税金)の会計処理及び開示に関する取扱いについてもASBJにおいて検討が行われ、2024年3月22日に実務対応報告46号が公表されています。
実務対応報告46号の概要は以下のとおりです。
グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等については、対象会計年度となる連結会計年度及び事業年度において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積り、損益に計上することとされています。
また、財務諸表の作成時点において一部の情報の入手が困難な場合の見積りに関して、次の考え方が結論の背景において示されています。
連結貸借対照表及び個別貸借対照表において、グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税等のうち、貸借対照表日の翌日から起算して1年を超えて支払の期限が到来するものは、固定負債の区分に長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示することとされています。
連結損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、対応関係の観点から、税金等調整前当期純利益の次に、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)を示す科目に表示することとされています。また、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等が重要な場合は、当該金額を注記することとされています。この際、重要であるか否かは企業のキャッシュ・フローの金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解するために有用であるかどうかを踏まえて判断することになると考えられるとされています。
また、個別損益計算書においては、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、連結損益計算書における表示区分との整合性の観点と親会社等の所得(利益)に対する税には直接的には該当しないものであるという観点から、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を次のいずれかの方法により表示することとされています。
ただし、個別損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の金額の重要性が乏しい場合には、上記の定めにかかわらず、法人税、地方法人税、住民税及び事業税(所得割)に含めて表示することができるとされています(この場合は当該金額の注記を要しない。)。
実務対応報告46号の定めは、グローバル・ミニマム課税制度の適用時期に合わせて、2024年4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされています。
ASBJは、補足文書「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等に関する見積りについて」(以下「グローバル・ミニマム課税制度補足文書」という。)を実務対応報告46号と同時に公表しています。その背景として、ASBJは、特に適用初年度におけるグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の見積りについて、その困難さから具体的な指針を求める意見が聞かれたとされています。検討の結果、企業の状況により入手可能な情報とそれに基づく見積りは異なると考えられるため、見積りに関する具体的な指針を示さず、適用初年度において情報の入手が困難な場合に考えられる見積りの一例をグローバル・ミニマム課税制度補足文書として示されています。
なお、グローバル・ミニマム課税制度補足文書は、実務対応報告46号の定めを適用する場合において、実務に資するための情報を提供することを目的として公表するものとされており、企業会計基準、企業会計基準適用指針及び実務対応報告(以下「企業会計基準等」という。)を追加又は変更するものではなく、企業会計基準等の適用にあたって参考となる文書であるとされています。
グローバル・ミニマム課税制度補足文書に示されている適用初年度における見積りの一例は次のとおりです。
また、これらの見積りの例のそれぞれのイメージは(図表5)及び(図表6)のとおりとなります。
図表5 ケース①のイメージ
図表6 ケース②のイメージ
(図表5)及び(図表6)では、主に在外子会社S社が支店を有しており、当該支店が在外子会社S社の本店と異なる国に所在している例を示しています。こうした例以外にも、例えば、X国に所在する在外子会社S社が、Y国に所在する在外孫会社を支配しており(親会社P社が在外孫会社を間接保有している。)、親会社P社の連結財務諸表作成にあたって、在外子会社S社が在外孫会社をサブ連結した上で、当該在外子会社S社の連結財務諸表を親会社P社に提出している場合が考えられます。このような場合、親会社P社は、従来の親会社P社の連結財務諸表作成にあたって入手している在外子会社S社のサブ連結に関する情報のみしか入手できず、Y国に所在する在外孫会社のその他の詳細な情報を入手できない場合が考えられます。この場合には、グローバル・ミニマム課税制度補足文書の見積りの一例の内容も参考として、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を見積ることが考えられます。
なお、上記は見積りの一例であり、グローバル・ミニマム課税制度の適用初年度における当該制度に係る法人税等の合理的な見積りの方法は、上記の方法に限られるものではない点に留意が必要であるとされています。
また、財務諸表作成時点において必要な情報(例えば、個別計算所得等の金額及び調整後対象租税額並びに給与適用除外額及び有形資産適用除外額の算定において必要な情報等)を入手している場合にまで、当該見積りの一例の方法を用いることは想定していないと考えられることには留意が必要です。
適用初年度の翌年度以降においても、グローバル・ミニマム課税制度の特徴を踏まえると、対象範囲の判定や個別計算所得等の金額等の算定にあたって必要な情報を適時かつ適切に入手することが困難な場合があると考えられ、このような場合には、適用初年度の翌年度以降においても、上記②の例を参考とすることが考えられるとされています。
在外子会社においてUTPR及びQDMTTが課せられる場合の留意点について教えてください。
我が国以外の一部の国では、すでにIIRのみならず、UTPRやQDMTTの取扱いが法制化されていることから、在外子会社において、UTPRやQDMTTが課税されている場合があります。
国際会計基準審議会(IASB)は、2023年5月23日に、「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(IAS第12号の修正)」(以下「修正IAS12号」という。)を公表しています。修正IAS12号では、第2の柱モデルルール(グローバル・ミニマム課税)の適用から生じる繰延税金資産及び繰延税金負債を認識してはならないとされているものの、当該ルールから生じる当期税金費用について、区分して開示することを求めており、その認識自体を除外する定めとはなっていません。
ここで、実務対応報告18号は、連結財務諸表の作成において在外子会社等の「会計処理」に関する当面の取扱いを定めることを目的としていることから、連結財務諸表の表示及び開示については、特段、実務対応報告18号の取扱いは適用されません。このため、実務対応報告18号の当面の取扱いを適用してIFRS会計基準に準拠して作成された在外子会社の財務諸表を用いて連結する場合、IFRS会計基準に従って認識された在外子会社のUTPR及びQDMTTの表示及び開示については、我が国における会計基準等に従うこととなります。
この点、実務対応報告46号においては、連結財務諸表における税金等調整前当期純利益とグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等との対応を図る観点から、連結財務諸表上、当該制度に係る法人税等について法人税等を示す科目で表示することとされています。在外子会社において課されるUTPRやQDMTTは、グループの国別の利益に対して最低15%の法人税を負担させることを目的とするグローバル・ミニマム課税のルールのうちの1つであり、連結財務諸表上、税金等調整前当期純利益に関連する税金であると考えられます。したがって、実務対応報告46号において示されている考え方を参考とすれば、在外子会社で課されるUTPRやQDMTTについて、連結財務諸表上、法人税等を示す科目に表示することが考えられます。
実務対応報告18号における原則的な取扱いを適用している場合(在外子会社に日本基準を適用している場合)、在外子会社で課されるUTPR及びQDMTTについて、グローバル・ミニマム課税制度補足文書に従った見積りが認められるか明らかにされていません。
ここで、実務対応報告46号では、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等について、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出するという企業会計基準24号における会計上の見積りの原則に従って行うことを示しています(実務対応報告46号BC10項)。一方、グローバル・ミニマム課税制度補足文書は、こうした会計上の見積りの取扱いの原則の中で、適用初年度において従来の財務諸表の作成にあたって入手している以上の情報を入手できない場合に考えられる見積りの一例を示しています。
この点、UTPRやQDMTTについても、グローバル・ミニマム課税のルールのうちの1つであり、その見積りにあたって困難である状況はグローバル・ミニマム課税制度補足文書で示している状況と変わらないと考えられ、あくまで会計上の見積りの原則の中で認められると考えられる見積りの一例を示すグローバル・ミニマム課税制度補足文書の記載を参考とすることも認められると考えられます。
なお、在外子会社で課されるUTPRやQDMTTの連結財務諸表における表示方法については、実務対応報告18号における当面の取扱いを適用している場合と同様に、法人税等を示す科目に表示することが考えられます。
グローバル・ミニマム課税制度の導入による税効果会計への影響を教えてください。
繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づいて将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算することとされています(税効果適用指針44項)。
このため、グローバル・ミニマム課税制度を含む改正法人税法が成立した2023年3月28日以後、グローバル・ミニマム課税制度の適用(2024年4月1日以後開始する事業年度から適用)が見込まれる3月決算企業は、年度末決算においてグローバル・ミニマム課税制度を前提として、本来は、当該制度が税効果会計へ与える影響を検討する必要があります。
税効果会計は利益に関連する金額を課税標準とする税金を対象として認識するものですが、グローバル・ミニマム課税制度に基づいた基準税率(15%)までの上乗せ税額(以下「上乗せ税額」という。)は、親会社等がその所在地国の税務当局に支払うものであるため、課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業と納税義務が生じる企業とが相違することとなり、税効果会計を適用すべきかが明らかではないと考えられます。また、仮に税効果会計を適用するとした場合、グローバル・ミニマム課税制度に基づく税効果会計の会計処理に関して、以下の点が明らかではないと考えられます。
① グローバル・ミニマム課税制度の適用によって、企業が、既存の税法の下で認識した繰延税金資産又は繰延税金負債を見直す必要があるかどうか
② 上乗せ税額を加味すると、税効果会計に使用する税率がどのような影響を受けるか
③ グローバル・ミニマム課税制度に基づき、追加的な一時差異を認識すべきかどうか
これらに加えて、実務上の負担も想定されます。
以上より、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む。)において、改正法人税法の適用を前提とした税効果会計を適用することは困難と考えられます。このため、当面の間、必要と考えられる取扱いを示すために、ASBJより2023年実務対応報告44号が公表されました。
2023年実務対応報告44号では、グローバル・ミニマム課税制度の適用を前提とした税効果会計を適用することは困難であることから、当面の間、改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算における税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針にかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととされています。
また、(2)に記載のとおり、グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計については、現行の枠組みにおいて適用すべきか否かが明らかではないと考えられることを踏まえて、企業間の比較可能性等の観点から、グローバル・ミニマム課税制度を前提として税効果会計を適用するといった原則的な取扱いの適用を認めず、当該特例的な取扱いを一律に適用するとされています。
なお、当該特例的な取扱いは、グローバル・ミニマム課税制度の具体的な内容やグローバル・ミニマム課税制度の適用を前提として税効果会計を適用すべきかどうかが今後明らかになるまでの当面の取扱いであるため、特例的な取扱いを適用する期間は、ASBJが本実務対応報告の適用を終了するまでの間とされています。
2024年3月22日に、ASBJから、改正実務対応報告44号が公表されています。改正実務対応報告44号では、令和5年度税制改正で導入された所得合算ルール(IIR)のみならず、今後の税制改正により法制化される予定の軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)等の取扱いも含めて、国際的な動向等に変化が生じない限り、税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととする取扱いを継続することとされています。
令和7年度税制改正の大綱において、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置の一環として、防衛特別法人税(仮称)が創設されることが予定されていますが、当期の税効果会計にどのように影響を与えるのでしょうか。
2024年12月27日に閣議決定された令和7年度税制改正の大綱において、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置の一環として、防衛特別法人税(仮称)が創設される予定とされています。
防衛特別法人税の額は、法人税額から500万円を控除した額を課税標準とし、当該金額に4%の税率を乗じて計算した金額とするとされています。また、防衛特別法人税は、2026年4月1日以後開始する事業年度から課されるとされています。
税効果会計の適用にあたっては、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づき繰延税金資産及び繰延税金負債の額を算定することとされています(税効果適用指針第44項)。ここで、防衛特別法人税に係る規定を含む「所得税法等の一部を改正する法律」(以下「改正税法」という。)が、2025年3月31日までに成立した場合、税効果会計の適用にあたって、改正税法の影響を反映する必要があります。
この点、改正税法が2025年3月31日までに成立した場合に税効果会計の適用にあたっての防衛特別法人税の取扱いを明らかにすることが実務に資すると考えられるため、ASBJより、2025年2月20日に補足文書「2025年3月期決算における令和7年度税制改正において創設される予定の防衛特別法人税の税効果会計の取扱いについて」(以下「防衛特別法人税補足文書」という。)が公表されています。防衛特別法人税補足文書では、改正税法が成立した場合には、税効果会計の適用における2026年4月1日以後に開始する事業年度(2027年3月期以降)に解消が見込まれる一時差異等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる法定実効税率は、次の算式により算定することが税効果会計の趣旨に適うこととなると考えられるとされています(防衛特別法人税補足文書第12項、第13項)。
このため、東京都の住民税率及び外形標準課税適用法人を前提とした場合、具体的な法定実効税率は次のとおりになると考えられます。
なお、防衛特別法人税の課税標準の計算において法人税額から基礎控除額として500万円を控除することが予定されていますが、上述の算式においては考慮していないとされています。(防衛特別法人税補足文書第13項(注))。これは、上場企業においては、通常、基礎控除額は法人税額に重要な影響を与えるものではなく、法定実効税率の算式において考慮しなくても重要な影響はないことを意図した記載であると思われます。一方、実務上は、基礎控除額の500万円を加味して厳密に法定実効税率を算定することも否定されないと思われます。例えば、将来にわたり基礎控除額を上回る法人税額が生じないと合理的に見込まれる場合、法定実効税率の算定において防衛特別法人税率を考慮しないことも考えられます。
繰延税金資産又は繰延税金負債の金額は、回収又は支払が行われると見込まれる期の税率に基づいて計算されることになりますので(税効果会計基準 第二 二 2)、将来の各期間で適用される税率が異なる場合には、将来減算一時差異及び将来加算一時差異のスケジューリングに基づき、繰延税金資産及び繰延税金負債の額を算定することになります。東京都の住民税率及び外形標準課税適用法人を前提とした場合、具体的には、次の税率を用いて計算することになります。
この点、例えば、回収可能性適用指針における企業分類が(分類1)の場合、具体的なスケジューリングを行わなくとも繰延税金資産が回収可能と判断されていると考えられます。しかしながら、上記のとおり、防衛特別法人税の創設を前提とした場合には、一時差異等の解消スケジュールが異なることにより、適用すべき法定実効税率が異なることになるため、適切にスケジューリングを行った上で、繰延税金資産及び繰延税金負債の金額を算定することが適当と考えられます。
また、スケジューリング不能な一時差異については、回収が見込まれる期を厳密に見積ることができないため、2027年3月期以降に回収等が行われると見込まれる一時差異等に適用される税率を用いることが適当と考えられます。
繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法の改正に伴い税率が変更されたこと等により繰延税金資産及び繰延税金負債の額が修正された場合、(図表7)のとおり、修正差額を当該税率が変更された年度において会計処理することとなります(税効果適用指針第51項から第53項)。
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また、税率の変更により、繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額(繰延税金資産及び繰延税金負債について、税制改正前の税率により算定した金額との差額)の注記が求められます(財務諸表等規則第8条の12第1項第3号、連結財務諸表規則第15条の5第1項第3号、税効果会計基準 第四 3)。
なお、未実現損益の消去に係る一時差異に関する繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率については、繰延法が採用されており、未実現損益が発生した売却元の連結会社に適用された税率によっています。売却元の連結会社に適用されている税率が変更されても、売却元の連結会社において売却年度に未実現損益(資産に係る売却損益)に対して課税されているため、当該税率の変更に伴う繰延税金負債又は繰延税金資産の額の見直しは行わない点に留意が必要です(税効果適用指針第137項、第138項(2))。
近年の各国政府による関税の賦課に関する様々な動きに関して、生じ得る会計上の論点について教えてください。
近年の各国政府による関税の賦課に関する様々な動きは、会計処理や開示に重要な影響を及ぼす可能性があります。このような政府の介入に関する地政学的な状況は、非常に流動的であり、最新の動向を常に把握することが重要と考えられます。以下では、会計上、考えられる影響について主要なものを例示します。
固定資産の減損や繰延税金資産の回収可能性等の会計上の見積りにおいては、不確実な将来キャッシュ・フローについて一定の仮定をおいて見積っている場合があると考えられます。この点、決算日における将来キャッシュ・フローの見積りに関して、各国政府の立法機関等において関税の賦課に係る法律等が成立している場合には、当該関税の賦課による影響そのものを織り込む必要があると考えられます。なお、決算日において関税の賦課に係る法律等が成立しておらず、決算日後において当該法律等が成立した場合には、当該関税の賦課による影響そのものを織り込むことはできないと考えられます(後記「(4)後発事象への影響」参照)。
また、関税の賦課が発生している又は発生する可能性が高い等を理由にして、生産拠点の変更や商流の変更を決定している又は予定している場合には、その影響を将来キャッシュ・フローの見積りに反映することが考えられます。ただし、固定資産の減損や繰延税金資産の回収可能性に係る将来キャッシュ・フローは、適切な権限を有する機関(取締役会等)の承認を得た業績予測(中長期計画等)の前提となった数値を基礎とすることとされていますので(減損適用指針第36項、回収可能性適用指針第32項)、当該機関の承認を得た業績予測等に織り込まれていることが前提となる点に留意してください。
関税の賦課が発生している又は発生する可能性が高い等を理由にして、商製品の販売価格を引き下げる可能性があると考えられます。この結果、期末における正味売却価額(売価から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除したもの)が取得原価よりも下落する場合には、原則として、取得原価と正味売却価額との差額を当期の費用として処理する必要がある点に留意してください(棚卸資産会計基準第7項)。
関税の賦課が発生している又は発生する可能性が高い等を理由にして、決算日までに、生産拠点の変更について意思決定が行われる場合があると考えられます。決算日までに生産拠点の変更を意思決定している場合には、既存の生産拠点に係る有形固定資産について、固定資産の減損におけるグルーピングの変更の要否や減損の兆候の有無を検討する必要があります(減損適用指針第8項、第72項、第13項、第82項)。なお、関税の賦課が発生している又は発生する可能性が高い等の状況は、経営環境の著しい悪化に該当する可能性があり、当該関税の賦課が生じている又は発生する可能性が高い法域における資産又は資産グループの減損の兆候に該当する可能性がある点にも留意が必要です(減損適用指針第14項、第88項)。
また、生産拠点の変更が既存設備の早期除売却を生じさせるのであれば、その意思決定により、既存設備の耐用年数の短縮を行う必要があります(監査・保証実務委員会実務指針81号第14項)。当該既存設備が事業用の固定資産である場合には、耐用年数の短縮により、その後の期間において増加することになる減価償却費は、営業費用として計上される点にも留意してください(企業会計基準24号第55項、第56項)。
決算日後における関税の賦課に係る法律等の成立は、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす場合には、後発事象に該当すると考えられます(後発事象取扱い2(4))。しかしながら、当該法律等の成立は、「決算日後に発生した会計事象ではあるが、その実質的な原因が決算日現在において既に存在しており、決算日現在の状況に関連する会計上の判断ないし見積りをする上で、追加的ないしより客観的な証拠を提供するもの」(後発事象取扱い3(1))、すなわち修正後発事象には該当せず、会計処理の前提となる事実の変更に過ぎないと考えられます。このため、当該法律等の成立については、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税法の取扱い(税効果会計基準 第四4、同注解(注7)前段、税効果適用指針第44項参照)を準用することが妥当であると考えられることから、決算日において立法機関等で成立している法律等を基準に会計処理を行うことになります。また、決算日後監査報告書日までに関税の賦課に係る法律等が成立し、翌事業年度以降の財務諸表に重要な影響を及ぼす場合には、開示後発事象として取り扱うことになるものと考えられます(後発事象取扱い3(2))。
2025年3月期の有価証券報告書におけるサステナビリティ情報等の開示の検討にあたり留意すべき点や参考にすべき情報を教えてください。
2023年1月に公布・施行された改正後の「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「開示府令」という。)等に基づく有価証券報告書のサステナビリティ情報等の開示は、2023年3月期から行われています。2025年3月期では3年目の開示として、開示府令で要求される内容を明瞭に記載することに加え、各企業の取組みの進展も踏まえ、より一層充実した内容の開示を積極的に行うことが期待されます。
開示の検討にあたっては開示府令等で求められる開示内容を再度ご確認いただくとともに(2023年3月期 決算上の留意事項 参照)、金融庁から2024年3月29日に公表された「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等(サステナビリティ開示等の課題対応にあたって参考となる開示例集を含む)及び有価証券報告書レビューの実施について(令和6年度)」における「令和5年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等」の内容をご確認ください。サステナビリティに関する開示及びコーポレート・ガバナンスの状況等の開示が2024年3月期の有価証券報告書のレビュー対象とされたことも踏まえ、前期の審査結果を踏まえた課題として挙げられた以下の項目について、特に留意が必要です。
また、より充実した開示を積極的に行うためには、当法人で取りまとめた2024年3月期 有価証券報告書サステナビリティ情報の開示分析(開示項目別)が参考になると考えられます。加えて、2025年2月3日に金融庁から公表された「記述情報の開示の好事例集2024(第4弾)」が参考になると考えられます。この好事例集では、有価証券報告書の記載項目である「サステナビリティに関する考え方及び取組等」、「コーポレート・ガバナンスの概要」、「監査の状況」、「株式の保有状況」に関し、今後の開示の参考となる好事例が掲載されているとともに、「投資家、アナリスト、有識者が期待する主な開示のポイント」が開示項目別に記載されており、財務諸表利用者の期待を踏まえた開示を検討する際に有用になるものと考えられます。また、「好事例として採り上げた企業の主な取組み」も紹介されており、開示面のみならず、企業のサステナビリティを高める取組み自体を検討する際にも参考になるものと考えられます。詳細は金融庁HPで公表された資料をご参照ください。
2025年3月期の有価証券報告書からこれまでの「経営上の重要な契約」が「重要な契約」に変わりますが、適用時期、改正の経緯及び具体的な開示内容について教えてください。
2024年4月1日に施行され、2025年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用されます。ただし、施行日前に締結された契約については、2026年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から記載が求められることになりますが、それまでは記載を省略することができるとする経過措置が設けられています。
2022年6月に公表された「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告」において、個別分野における「重要な契約」について、開示すべき契約の類型や求められる開示内容を具体的に明らかにすることで、適切な開示を促すことが考えられるとの提言がなされたことを受け、開示府令が2023年12月22日に改正され、有価証券報告書における記載事項の改正が行われました。
有価証券報告書における「経営上の重要な契約」の名称が「重要な契約」に変更されました。また、従前の記載事項である「連結会社において事業の全部若しくは主要な部分の賃貸借又は経営の委任、他人と事業上の損益全部を共通にする契約、技術援助契約その他の重要な契約を締結している場合には、その概要」に加え、新たに以下の開示が求められることになりました。
有価証券報告書の提出会社(提出会社が持株会社の場合には、その子会社を含む。)が、提出会社の株主との間で、以下のガバナンスに影響を及ぼし得る合意を含む契約(重要性の乏しいものを除く。)を締結している場合、当該契約の概要や合意の目的及びガバナンスへの影響等の開示を求めることとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(33)f本文)。
ⅰ 役員候補者指名権の合意
ⅱ 議決権行使内容を拘束する合意
ⅲ 事前承諾事項等に関する合意
有価証券報告書の提出会社が、提出会社の株主(大量保有報告書を提出した株主その他の重要な株主)との間で、以下の株主保有株式の処分等に関する合意を含む契約(重要性の乏しいものを除く。)を締結している場合、当該契約の概要や合意の目的等の開示を求めることとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(33)g本文)。
ⅰ 保有株式の譲渡等の禁止・制限の合意
ⅱ 保有株式の買増しの禁止に関する合意
ⅲ 株式の保有比率の維持の合意
ⅳ 契約解消時の保有株式の売渡請求の合意
有価証券報告書等の提出会社が、財務上の特約その他当該提出会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす可能性のある特約が付されたローン契約の締結又は社債の発行をしている場合であって、その残高が連結純資産額の10%以上である場合(同種の契約・社債はその負債の額を合算する。)、当該契約又は社債の概要及び財務上の特約の内容の開示を求めることとされています(開示府令第二号様式(記載上の注意)(33)h本文)。
ここで、開示の対象となる「財務上の特約」とは、当該提出会社の財務指標があらかじめ定めた基準を維持することができないことを条件として当該提出会社が期限の利益を喪失する旨の特約のことをいうとされており、開示の対象となる「財務上の特約」が付された金銭消費貸借契約や社債について、純資産額に占める割合が10%以上のものを対象とすることとされています((「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(以下「パブリックコメントに対する金融庁の考え方」という。)No.58、No.72)。なお、このときの金銭消費貸借契約や社債は、同種の特約が付された金銭消費貸借契約や社債を合算した残高となります。また、「重要な影響を及ぼす可能性のある特約」とは、基準となる指標や抵触の際の効果、特約に定める事由が発生する蓋然性等を踏まえ、財政状態等に重要な影響を及ぼす可能性があるものを指すとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.64、No.65)。
重要な契約についての法令上の開示の要請は、当事者間の合意による秘密保持義務に優先することから、個別の契約において秘密保持条項が設けられていたとしても、法令の定めに基づき当該契約の内容を開示することは、秘密保持義務違反には当たらないと考えられるとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.21、No.22)。
記載すべき事項の全部又は一部を同一開示書類の他の箇所(例えば、財務諸表の注記等)に記載した場合には、その旨を記載することによって、当該他の箇所において記載した事項の記載を省略することができることとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.23)。
ただし、有価証券報告書等の記載内容を補完する詳細な情報については、任意開示書類等を参照することも可能である一方、法令上有価証券報告書に記載すべき事項について、これを有価証券報告書に記載することなく任意開示書類を参照することは認められないとされています。
企業と株主との間で締結された提出会社のガバナンス等に関する合意や株主保有株式の処分等に関する合意を含む契約のうち、「重要性が乏しいもの」については開示の対象から除かれることとされています(パブリックコメントに対する金融庁の考え方No.13)。一定の合意を含む契約が「重要性の乏しいもの」に該当するか否かは、当該合意が提出会社等のガバナンスや支配権、市場等に与える影響を踏まえ、個別事案ごとに実態に即して判断すべきであるとされているものの、合意の相手方以外の株主が特定かつ少数で、かつ全株主が合意の内容を把握しているなど、少数株主保護の必要性が乏しいものや、事前承諾権を定めた合意のうち、契約が通常の事業過程で締結されたものであり、かつ、事前承諾の対象となる行為が一部に限定されているものなど、ガバナンスに対する影響が限定的であるものについては、「重要性の乏しいもの」に該当するものと考えられるとされています。
当該開示府令の改正により、有価証券報告書のほか、有価証券届出書及び臨時報告書についても改正が行われました。有価証券届出書については、前記(2)(3)に記載した有価証券報告書と同様の内容の開示が求められます。また、臨時報告書については、以下の場合に提出が必要となります。
2025年3月期の有価証券報告書における政策保有株式に関する開示の改正点及び留意点を教えてください。
政策保有株式に関する開示の改正については2025年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用されます。
有価証券報告書の「株式の保有状況」の開示のうち、いわゆる政策保有目的から純投資目的に保有目的を変更した株式の開示状況について、金融庁が行う有価証券報告書レビューにおいて、実質的に政策保有株式を継続保有していることと差異がない状態になっているとの課題が認識されました。これを受けて、開示府令等の改正が、2025年1月31日に公布・施行され、2025年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されることになりました。
最近5事業年度以内に政策保有目的から純投資目的に保有目的を変更した株式(当事業年度末において保有しているものに限る。)について、以下の開示が求められます。
ⅰ 銘柄
ⅱ 株式数
ⅲ 貸借対照表計上額
ⅳ 保有目的の変更年度
ⅴ 保有目的の変更の理由及び変更後の保有又は売却に関する方針
上記のうち、ⅳ及びⅴが改正により追加された項目となります。
「純投資目的」とは、専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とすることをいう旨が明示されました。また、例えば、当該株式の発行者等が提出会社の株式を保有する関係にあること、当該株式の売却に関して発行者の応諾を要すること等により、発行者との関係において提出会社による売却を妨げる事情が存在する株式は、「純投資目的」で保有しているものとはいえないことに留意することが示されています。
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