Social insurance and labor update vol. 2 ― 雇用関係における賃金について

皆様は、「賃金とは?」と聞かれたらどう答えますか。
給与明細の支給項目に載せている数字全てと思われるでしょうか。
もしくは、基本給と手当のみと思われるでしょうか。

労働基準法では賃金の定義を、また厚生年金保険法、健康保険法では報酬の定義を、下記の通り定めています。

  • 労働基準法第11条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
  • 厚生年金保険法第3条、健康保険法第3条 賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。

「労働の対償」とは、必ずしも労働に直結する支払に限りません。労働者の生活を維持するために使用者が支払うもので、支払い条件が明確なものであれば、賃金や報酬と解するとされています。

この点に関してよく誤解されるのが、通勤交通費の労働保険、社会保険における賃金・報酬該当性です。
新型コロナウイルス感染症の流行を契機として在宅勤務が増えた昨今、毎月の通勤交通費として、定期代相当の定額を支給するのではなく、実際の出社日数に基づく往復運賃を支給する会社が増えています。その際に、通勤交通費は多くの場合において非課税で処理されることから、「経費精算として支払い、賃金台帳には記載をしない」という処理が少なからず見受けられました。

通勤交通費は、労働保険、社会保険においては賃金・報酬と見なされます。
雇用保険、健康保険(介護保険)、厚生年金保険それぞれの被保険者への毎月の給与や賞与の支払いに際しては該当する保険料を控除しているかと思いますが、その保険料額を決定する上で、どの支払を保険料計算に算入するかは、上記の賃金・報酬の定義や考えに基づいています。
よって、通勤交通費を含めずに保険料算定を行っている場合、正しい保険料に基づく給付を受けられないという意味で労働者の不利益につながり、また、労働基準監督署や年金事務所の調査を受けた際に指摘を受け、遡って保険料算定のやり直し、追加納付を指示される可能性がありますので留意が必要です。

賃金は、労働者にとって最も重要な労働条件の1つです。
またその周辺には、最低賃金、時間外労働等の割増賃金の計算基礎となる賃金、賃金払いの5原則、など人事労務管理において留意しなくてはいけない点が多々あります。
誤った認識や処理によって、労働者の生活に影響が出ないよう、正しい理解の元に人事労務管理を行っていただければと思います。

<割増賃金参考資料>

厚生労働省「しっかりマスター 労働基準法 ―割増賃金編―」、https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdf(2022年12月8日アクセス)

最後に、時間外労働の割増賃金に関し、来年(2023年)4月に施行される法改正について触れておきます。
2010年4月施行の改正労働基準法において定められた「月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率50%」は、中小企業に対する適用が猶予されていましたが、2023年4月1日より猶予が終了し、中小企業についても月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が50%に引き上げられます。
割増賃金の不適切な計算による未払い賃金も、当然ながら労働者が請求権を持つ賃金ですので、その計算や計算基礎となる賃金に関し正しい理解ができているか、今一度ご確認いただければと思います。

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