Social insurance and labor update vol. 3 ― 月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引き上げ(中小事業主)

2023年4月1日以降、中小事業主において、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の最低基準が、125%から150%に引き上げられます。これは、中小事業主に対する適用猶予が廃止されることによります(労働基準法138条の削除)。

概要については、厚生労働省のパンフレットをご覧ください。

本ニュースレターでは、この変更についていくつかのポイントを確認するとともに、会社で必要となってくる対応について述べたいと思います。
 

1.ポイント確認

① 「月60時間」の「月」はいつからいつまでか?

ここでの「月」は「1カ月」の意味であり、これは暦による1カ月を指します。つまり、起算日が月の初日であればその月の月末まで、月の途中(2日以降)から起算するときは翌月の同じ日の前日までの期間となります。

起算日については、就業規則などで定められていなければ、賃金計算期間の初日を起算日として取り扱う、と通達に記載されています。実務上は、この「1カ月」の起算日、月例賃金計算期間の起算日、三六協定の1カ月の延長期間の起算日のすべてをそろえておくのが管理上分かりやすいです。

② 月の起算日が15日の場合、2023年3月15日~4月14日の割増率はどうすればよいか?

2023年4月1日からの時間外労働時間を累計して60時間に達した時点より後に行われた時間外労働について、150%の割増率が適用されると整理すればよいと考えます。したがって、設問の例の場合、4月1日から14日までの間の時間外労働時間が60時間を超過するかどうかを見ることになります。翌月からは15日~翌月14日の各1カ月間を見ていくことになります。

③ フレックスタイム制の場合はどうなるのか?

清算期間が1カ月のフレックスタイム制の場合は、各月の総労働時間(休日労働時間を除きます)のうち月の法定労働時間の総枠を超える部分が時間外労働時間となります。あとは通常労働時間制の場合と同じく、60時間超の部分について150%が適用されます。

清算期間が2カ月または3カ月のフレックスタイム制の場合は、月単位での時間外判定と清算期間終了時での時間外判定がありますのでやや複雑となりますが、やはり、各月における時間外労働時間を算定し、60時間超の部分について150%が適用されます。

④ 休日労働との関係はどうなるのか?

労働基準法上、法定休日労働は時間外労働とは区別されていますので、法定休日労働時間は、この60時間のカウントには入れません。例えば、1カ月間に時間外労働が60時間、法定休日労働が5時間あった場合、時間外労働に対しては125%が適用され(月60時間以内)、法定休日労働に対しては135%(法定休日労働の割増率)が適用されます。
 

2. 対応(現状、時間外労働について一律125%の割増率を適用している場合)

① 時間外労働が60時間超となった場合に、150%の割増率で割増賃金を計算できる体制となっているかを確認しましょう。

② 就業規則における割増賃金の割増率の定めを変更しましょう。なお、この変更をしなくとも、150%の割増率は適用になります(労働基準法は就業規則に優先するため)。

③ 通常の三六協定での延長上限は月45時間・年360時間(限度時間)ですが、「特別条項」を協定することでさらなる臨時的延長が可能となっています。この特別条項にかかる三六協定の届出には、「限度時間を超えた労働に係る割増賃金率」を記載する必要がありますので、60時間超の割増率の記載を忘れずに行いましょう。

 

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