EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2024年11月5日にEU加盟国が「デジタル時代のVAT」(ViDA)パッケージについて全会一致で合意しました。本稿では、そのパッケージの詳細を取り上げます。ViDAパッケージは、EUのVAT規制を近代化および改善して、デジタル経済との整合性を高め、脱税を防止することを目的としています(背景については、2024年11月18日付EY Japan税務ニュース「EU、デジタル時代のVAT(ViDA)提案に関して最終的に合意」をご参照ください)。
ViDAの新しい規制は、それぞれの実施スケジュールで導入を目指す次の3つの柱を軸としています。
2030年7月1日実施予定
電子インボイス
電子インボイスは、請求書発行のデフォルトシステムとなり、DRR(下記参照)の対象となる全ての取引に必須となります。EU加盟国は、その他の国内取引については、紙またはその他の形式のインボイスを引き続き受け取ることが可能です。しかし、多くのEU加盟国は、国内の電子インボイスおよびデジタル報告のルールをすでに導入、または導入の過程にあります。
電子インボイスは、構造化された電子形式(EU基準に準拠)で発行する必要があり、請求対象の事象から10日以内に提出する必要があります。集計インボイスは、特定の条件を満たす場合に認められます。
デジタル報告要件(DRR)
現在のEC Sales List申告に代わる新しいデジタル報告システムが導入されます。課税事業者は、次の取引に関する電子インボイスデータを提出する必要があります。
データは、電子インボイスの発行時点、または発行されるべきであった時点で、取引ごとに提出する必要があります。セルフビリングおよび資産・役務の取得については、5日間の延長が適用される場合があります。
一定の条件のもとで、EU加盟国は、課税事業者が商品の域内取得、またはリバースチャージメカニズムの対象となる商品やサービスの取得に関するデータを提出しないことを認めることができます。
さらに、EU加盟国は一定の条件のもとに、国内取引に対してもDRRを導入することが認められています。2024年1月1日までに国内の電子インボイスおよび電子報告に関する規則をすでに実施しているEU加盟国は、2035年1月1日までにこれらの規則をDRRと一致させなければなりません。
2028年7月1日実施予定
企業対消費者間取引(B2C)の斡旋サービスのための新しい課税地規則
電子インターフェースまたはプラットフォームを通じて、課税事業者が企業ではない顧客(すなわち、B2C)に提供する斡旋サービスの課税地は、その基礎となる取引が行われる場所となります。
2028年7月1日実施予定(任意)および2030年1月1日実施予定(必須)
短期宿泊施設のレンタルおよび旅客輸送サービスのみなし供給者
プラットフォーム・フィクションと称されるみなし供給者制度は、電子インターフェースまたはプラットフォーム(斡旋業者)を使用して課税事業者が提供する、宿泊施設の短期レンタル(継続し、かつ同一者につき最大30泊)および道路(EU内)を使用する旅客輸送サービスの供給に適用されます。
役務を提供する者(基礎となる供給者)が次の2要件を満たさない場合、斡旋業者が当該役務を受け、提供したものとみなされます。
a. 斡旋業者に対して、役務が行われるEU加盟国のVAT識別番号、または役務のVAT報告に使用するOSS識別番号を提供する
b. 斡旋業者に対して、役務に課せられるべきVATを顧客に請求することを表明する
基礎となる供給者から斡旋業者へのみなし供給は、VATが免除されます。サービスが提供されるEU加盟国でVAT免除が適用される場合を除き、斡旋業者から顧客へのその後のみなし供給は、原則としてVATの課税対象となります。この制度は、斡旋業者の仕入税額控除には影響を与えません。
みなし供給者制度は、旅行催行者マージン課税スキーム(TOMS)に基づく供給には適用されません。
さらに、EU加盟国には、小規模事業者の特例措置のもとで行われる供給を、この制度から除外する選択が認められています。
2027年1月1日実施予定
遠距離販売とされるガス、電気、冷暖房のB2C供給
B2Cのガス、電気、冷暖房の供給は、EUの遠隔販売として扱われ、その結果、特定の条件のもとでOSS制度を通じて報告される場合があります。
2028年7月1日実施予定
OSS制度の拡張
OSS制度の範囲は、以下のB2Cによる資産の供給が加わり、さらに拡大されます。
自己資産移送のための新しいOSS制度
自己資産の(EU加盟国間での)移送について、新しいOSS制度が導入されます。
この制度を適用する課税事業者は、月次VAT申告書で自己資産の移送を報告する必要があります。これらの移送は、EC Sales List申告に記載する必要はありません。
仕向地であるEU加盟国における資産の域内取得はVATが免除され、VATの登録義務は生じません。この特別な制度のもとでは、仕入税額控除を全額受けられる自己資産の移送のみが報告対象となります。
課税事業者が他の課税事業者の資産を(EU加盟国間で)移送する場合、遅くとも資産の輸送または発送時に、その旨を後者に通知する必要があります。
コールオフストックの簡素化規定の廃止
自己資産の移送に関する新しいOSS制度が導入されることで、コールオフストックの簡素化は段階的に廃止され、2029年6月30日に適用されなくなります。これは、コールオフストック特例規定に基づく資産の最後の輸送・発送期限が2028年6月30日になる可能性を示しています。
国内リバースチャージメカニズムの義務化
VATを課税するEU加盟国において、VATの観点より設立または識別されていない課税事業者が、そのEU加盟国においてすでにVATの課税対象として識別されている者に供給する資産または役務について、リバースチャージメカニズムが義務化されます。
EU加盟国は、自国の条件に従って、資産または役務を取得する者に対してVATの納税義務を課し、そのEU加盟国におけるVAT登録を義務付けることができます。
ViDAによる変更は、VATの状況に広範な影響を及ぼし、EUで事業を展開するほぼ全ての企業が影響を受ける可能性があります。企業は、新しいルールの導入に先立って、組織に対するViDAの影響を評価し、システムとプロセスに必要な変更を加える必要があります。
EY税理士法人
岡田 力 パートナー
古市 泰之 ディレクター
※所属・役職は記事公開当時のものです
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