EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
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常盤 勇人
2024年第3四半期における世界のIPO 市場は、上場数310件、調達額249億米ドルとなり、対前年同期比で、上場数は13.6%減少(前年同四半期359件)、調達額は34.9%減少(前年同四半期383憶米ドル)になりました。上場数は前年同期比では減少したものの、第1四半期および第2四半期比では増加し、回復の兆しが見えています。通年(2024年1月~9月)では、上場数870件、調達額776億米ドルとなり、対前年比で、上場数11.5%減少(前年同期983件)、調達額23%減少(前年同期1,018億米ドル)の結果となりました。
この背景としては、世界的な経済データの弱体化、市場ボラティリティの上昇、米国大統領選挙、そして世界的な地政学的緊張という不確実性が高まっていることがあげられます。
世界的な金利緩和サイクルの開始を特徴とする複雑な経済的および地政学的状況を乗り越え、第3四半期のIPO活動は市場のボラティリティの高まりと対峙してきました。このような経済状況にもかかわらず、Americasエリア及びEMEIAエリアにおけるIPO市場は2024年当初3四半期で回復し、EMEIAエリアにおける調達額については前年同期比で45%増加し、2024年上半期の上場市場の低迷を緩和することに貢献しました。また、直近では、PEファンドが支援する大型IPOやVCが支援するユニコーン企業のIPOが増加してきています。2024年9月末までにIPOを果たした上位10位のうち6件がPEファンドおよびVCが支援した案件であり、2024年の全世界のIPO調達額の3分の1以上を占めています。特に、Americasエリアにおいては、これらのIPO案件が調達総額の52%を占めています。
セクター別のIPO件数では、2024年上半期から変化はなく、製造業セクターが上場数185件で最も多く、テクノロジーセクターが153件で2位となりました。一方、調達額についてはテクノロジーセクターが140億米ドルで首位となり、ヘルスケア・ライフサイエンスセクターが119億米ドルで2位となり、IPO件数で首位の製造業セクターは3番目に多い117億米ドルとなりました。
生成AIなどで大流行となっているAIスタートアップのIPOは現時点では上場数に大きな増加は見られませんが、IPOを検討しているAIスタートアップは依然として増加しており、AI主導のイノベーションに対する投資家の関心は継続しています。
第3四半期における南北アメリカ(Americas)エリアのIPO市場は、上場数57件、調達額8.5憶米ドルとなりました。対前年同期比では、上場数において第1四半期および第2四半期の増加傾向を維持し39%増加したものの、調達額では、第1四半期および第2四半期の増加傾向が止まり8.2%の減少となりました。
AmericasエリアのIPO市場はおおむね好調であり、2024年9月までの通年でIPO件数は146件となり、昨年の通年合計である150件に迫っています。また、調達総額は273億米ドルとなり、世界IPO件数の17%、調達額の35%を占めています。Americasエリアの中で米国市場は特に好調な実績を残し、Americasエリアで実施されたIPOのうち件数および調達額の大半が米国の証券取引所で行われたものによります。また、今後は米国におけるマーケット指数が史上最高値またはそれに近い水準にあることやFRBによる利下げ(9月会合での50ベーシスポイントの利下げを含む)が実現したことなどの複数要因から、IPO活動は引き続き増加すると予想されています。米大統領選の結果やその他の不確定要素を考慮すると、2024年内の IPO マーケットに慎重な見方が残っていましたが、2025年の IPO マーケットの拡大については楽観的な見方が広がっています。
第3四半期におけるアジア太平洋(Asia-Pacific)エリアのIPO市場は、上場数109件、調達額96億米ドルとなり、対前年同期比で、件数は44.9%減少(前年同四半期198件)、調達額は54.1%減少(前年同四半期208億米ドル)となり、第1四半期および第2四半期の減少傾向が継続しています。
Asia-Pacificエリアでは、金利上昇、地政学的緊張、経済・規制上の課題などの多くの課題に直面しており、2024年9月までの通年でも、上場数330件、調達額200億米ドルとなり、対前年同期間比で上場数42.6%減少(前年同期575件)、調達額66.6%減少(前年同期575億米ドル)となりました。中国本土および香港でのIPO市場は中国における景気減速などを理由に勢いは弱まり、IPO申請を自主的に取り下げる企業も増加しました。しかしながら、第3四半期に香港市場へ上場を果たしたMidea Group Co. Ltd.は2024年における全世界で2番目に大きいIPOを達成しました。日本および韓国市場では、2024年第2四半期からIPO件数および調達額ともに大きな変化はなく横ばいとなっているものの、やや減少傾向にあります。オセアニア市場においても、第2四半期からIPO件数については大きな変化がないものの、小型上場が目立ち調達額が減少しています。
第3四半期における欧州・中東・インド・アフリカ(EMEIA)エリアのIPO市場は、上場数144件、調達額69億米ドルとなり、対前年同期比で、上場数20.0%増加(前年同四半期120件)、調達額16.2%減少(前年同四半期82億米ドル)となりました。同エリアでは、3つの地域(東ヨーロッパ、ガザ、紅海)での地政学的緊迫が続く状況下でも、IPO件数においては引き続き増加傾向を維持しています。通年(2024年1月~9月)で見てみると、上場数394件、調達額302億米ドルとなり、対前年同期間比で上場数35.9%増加、調達額44.7%増加となりました。また、PEファンドによるIPOエグジットが増加しており、IPO件数においてはEMEIA全体の3%に過ぎませんが、調達額ではEMEIA全体の28%を占めており、PEファンドによる大型IPOが多く実施されました。
特に、欧州は第1四半期から第3四半期にかけて大型IPOが市場をけん引し、2024年9月末時点での全世界のIPO上位10位のうち5件が欧州証券市場にて実施されました。インドでは前年の通年IPO件数を第3四半期までの合計件数で上回り、260件(昨年通期242件)となりました。また、中東・北アフリカでは、IPO件数および調達額ともに減少しているものの、対前年同期比では増加する結果となりました。
2024年第1四半期から第3四半期にかけて、クロスボーダーIPOは77件実施され、前年の64件から20.0%増加し、2024年9月までの全世界のIPOの9%となりました。米国市場には、中国本土、香港、シンガポールなどを拠点とする企業がIPOを果たしていますが、調達額では減少する形となりました。Asia-Pacificの企業54社が国外市場へ上場していますが、中国本土の企業が38社でAsia-Pacificにおいてトップとなり、うち18社が香港から米国ナスダック取引所に上場しています。中国本土の企業については昨年、スイス証券取引所への上場が人気でしたが、今年は米中監査協定により上場廃止懸念が緩和されたこともあり、米国市場への上場を選択しています。なお、シンガポール企業、オーストラリア企業についてもクロスボーダーIPOがそれぞれ13件、3件ありました。
エリア |
IPO件数(前年同期) |
調達額※(前年同期) |
---|---|---|
南北アメリカ |
57(41) |
8.5(9.2) |
アジア太平洋 |
109(198) |
9.6(20.8) |
欧州・中東・インド・アフリカ(以下、EMEIA) |
144(120) |
6.9(8.2) |
全世界合計 |
310(359) |
24.9(38.3) |
※ 単位:10億米ドル
※ 第3四半期:7月~9月(出典:Dealogic、EY)
エリア |
IPO件数(前年同期) |
調達額※(前年同期) |
---|---|---|
南北アメリカ |
146(118) |
27.3(19.9) |
アジア太平洋 |
330(575) |
20.0(60.0) |
欧州・中東・インド・アフリカ(以下、EMEIA) |
394(290) |
30.2(20.9) |
全世界合計 |
870(983) |
77.6(100.8) |
※単位: 10億米ドル
※第3四半期: 7月~9月 (出典: Dealogic、EY)
セクター |
IPO件数(前年同期) |
調達額※(前年同期) |
---|---|---|
Industrials |
185(195) |
11.7(20.8) |
Technology |
153(206) |
14.0(29.3) |
Materials |
111(128) |
2.4(9.0) |
Health and life sciences |
96(107) |
11.9(8.4) |
Consumer products |
84(100) |
11.4(9.6) |
Consumer staples |
68(60) |
2.1(2.8) |
Energy |
47(54) |
2.9(12.5) |
Financials |
43(25) |
5.9(3.2) |
Retail |
30(33) |
4.4(1.7) |
Media and entertainment |
29(30) |
3.1(0.9) |
Real estate |
15(32) |
6.5(2.1) |
Telecommunications |
9(13) |
1.2(0.5) |
合計 |
870(983) |
77.6(100.8) |
※ 単位:10億米ドル(出典:Dealogic、EY)
順位 |
市場 |
IPO件数 |
割合 |
---|---|---|---|
1 |
インド(National and Bombay) |
258 |
30% |
2 |
米国(NASDAQ) |
93 |
11% |
3 |
日本(Prime, Growth, Standard, REIT, Pro Market) |
50 |
6% |
4 |
韓国 (KRX and KOSDAQ) |
46 |
5% |
5 |
香港 (Main Board and GEM) |
45 |
5% |
6 |
米国(NYSE) |
36 |
4% |
7 |
インドネシア (IDX) |
34 |
4% |
8 |
マレーシア (KLSE, ACE Market and LEAP Market) |
33 |
4% |
9 |
深セン (SZSE and Chinext) |
31 |
4% |
10 |
トルコ (Main and STAR) |
30 |
3% |
11 |
サウジアラビア(Tadawul and Nomu Parallel Market) |
25 |
3% |
12 |
上海 (SSE and STAR) |
24 |
3% |
その他 |
165 |
19% |
|
全世界合計 |
870 |
100% |
※(出典:Dealogic、EY)
順位 |
市場 |
調達額※ |
割合 |
---|---|---|---|
1 |
米国(NASDAQ) |
14,823 |
19% |
2 |
米国(NYSE) |
12,417 |
16% |
3 |
インド (National and Bombay) |
9,338 |
12% |
4 |
香港 (Main Board and GEM) |
6,537 |
8% |
5 |
上海 (SSE and STAR) |
3,736 |
5% |
6 |
オランダ、フランス、ベルギー、ポルトガル(Euronext and Alternext) |
3,335 |
4% |
7 |
スペイン(Bolsa de Madrid and Mercado Alternativo Bursatil) |
2,936 |
4% |
8 |
サウジアラビア(Tadawul and Nomu Parallel Market) |
2,824 |
4% |
9 |
深セン (SZSE and Chinext) |
2,603 |
3% |
10 |
スイス(SIX) |
2,561 |
3% |
11 |
韓国 (KRX and KOSDAQ) |
2,103 |
3% |
12 |
トルコ (Main and STAR) |
1,686 |
2% |
その他 |
12,655 |
16% |
|
全世界合計 |
77,551 |
100% |
※単位:100万米ドル(出典: Dealogic、EY)
セクター名 |
IPO件数(前年同期) |
---|---|
Health and life sciences |
35(23) |
Technology |
25(25) |
Industrials |
21(14) |
※(出典: Dealogic、EY)
セクター名 |
IPO件数(前年同期) |
---|---|
Technology |
80(138) |
Industrials |
70(130) |
Materials |
35(75) |
※(出典: Dealogic、EY)
セクター名 |
IPO件数(前年同期) |
---|---|
Industrials |
94(51) |
Materials |
60(40) |
Technology |
48(43) |
※(出典: Dealogic、EY)