EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本ガイドブックには、インドの会計・監査・税務に関する最新の基礎的概要を掲載しています。すでにインドへ投資されている企業、および今後投資を検討している企業の皆さまの基本的な理解にお役立ていただけますことを願っております。
インド経済は力強い成長を続けており、2023年度の実質国内総生産(GDP)成長率は8.2% を記録し、2024年度も同様の成長が期待されています。この成長の基盤となっているのが人口増加であり、インドの2024年現在の人口は約14.6億人で、世界最大の人口を有する国となっています。若年層の労働力を背景として、特にIT産業や製造業が経済を牽引しており、インフラ投資の拡大も成長を支えています。
2024年6月にはインド国内総選挙が実施され、インド人民党を中心とする与党連合が過半数を維持し、モディ首相による内閣の連続第3期の政権がスタートしました。これにより、過去からのモディ政権の経済成長と雇用創出の取り組みが今後も継続される見通しです。モディ政権は外資誘致に積極的であり、その一環であるアーメダバードの金融特区では、税制優遇や金融・外貨取引等の規制緩和により外資系企業の誘致と金融サービスの拡充を目指しています。さらにEV産業や半導体産業にも力を入れており、インド国内での生産を促進するため、国内外の企業との連携を進めています。
税務面でも重要な取り組みがあり、2024年7月に発表された総選挙後の予算案では、所得税法・間接税法の簡素化や、外国法人に対する法人税率の引き下げ、税務訴訟の効率化などが提案されました。これにより、外資系企業にとってインド進出をためらう一因となっていた複雑な税制が、緩和される方向性が示されています。
項目 | インド |
IFRSの適用の可否 | 上場企業/非上場企業(日本企業の子会社)ともに否 |
適用される会計基準 |
|
IFRSと現地会計基準の |
|
決算期末の選定 | 通常は3月31日。 |
決算期の変更 | 当局の承認後に変更が可能 |
| 会社法で作成が求められる財務諸表 |
|
提出する財務諸表 | 同上 |
提出期限 | 会計年度の末日から6カ月以内に定時株主総会にて監査済み財務諸表の承認が必要。 |
保存期間 | 最低8年 |
機能通貨適用の可否 | 可 |
監査制度 |
|
*前年度の現金の収受が総額の5%以下、かつ前年度の現金の支払いが総額の5%以下の場合は、売上1億ルピー超
IFRS の適用は認められておらず、現地基準である I-GAAP と、インド版 IFRS である Ind-AS のいずれかが適用されます。
I-GAAP は純資産が 25 億ルピー未満の非上場会社で選択適用が可能であり、Ind-AS は全ての上場会社および純資産が 25 億ルピー以上の非上場会社に強制適用され、それ以外の会社では選択適用が可能です。
Ind-ASはIFRSと同等で、金融資産の評価やリース契約の認識などにおいて細かい相違がありますが、基本的に重要な相違はありません。
I-GAAP は IFRS と同じ考えの基準もありますが、減損において資金生成単位(Cash Generating Unit:CGU)の概念が存在しない、企業結合等により生じたのれんが 5 年間で償却される、オペレーティングリース取引がバランスシートに認識されないなど、多くの点で、IFRS と相違があります。
インド子会社が連結レポーティング・パッケージを IFRS に基づいて作成する場合、I-GAAP 準則で現地財務諸表を作成している場合は多くの仕訳および組替が必要となる可能性があります。
Ind-AS では、企業は自身の機能通貨として企業が主に経済活動を行っている環境の通貨を採用し、またこれを報告通貨とすることができます。通常、インドの企業はインドルピーを報告通貨として使用しますが、特定の状況下で、例えばインドの企業が外国の証券取引所に上場している場合や、外国の親会社の一部である場合など、企業はインドルピー以外の通貨を報告通貨として選択することが可能です。I-GAAP では機能通貨の定義および選定についての規定はされていません。
インドでは、会社法によって全ての企業に法定監査が求められています。前述のとおり、一般的な会計年度は 4 月 1 日から 3 月 31 日までです。法定監査の期限は決算日後 6 カ月であり、3 月 31 日を決算日とする会社においては 9 月末までに監査を完了する必要があります。
インド監査基準(Standards on Auditing, SA)は国際監査基準に準拠しつつ、現地の法律や規制の要件に合わせて適応されたものとなっており、国際監査基準および日本監査基準との体系比較は以下のとおりです。
国際監査基準 | インド監査基準 | 日本監査基準 | |
一般原則および責任 | ISA200~299 | SA200~299 | 監査基準報告書200~299 |
リスク評価およびリスク対応 | ISA300~499 | SA300~499 | 監査基準報告書300~499 |
監査証拠 | ISA500~599 | SA500~599 | 監査基準報告書500~599 |
他者の作業の利用 | ISA600~699 | SA600~699 | 監査基準報告書600~699 |
監査の結論および報告 | ISA700~799 | SA700~799 | 監査基準報告書700~799 |
特殊な監査/その他 | ISA800~899 | SA800~899 | 監査基準報告書800~999 |
イ ン ド に は 内 部 統 制 監 査 制 度(Internal Control over Financial Reporting, ICFR)、いわゆるインド版 SOX が存在し、売上高が 5 億ルピー以上または借入負債額が 2.5 億ルピー以上の会社(非上場会社も含む)が対象となります。
インド版 SOX の下では、企業の経営者は、財務報告に関する内部財務統制が存在し、有効であることを確認する責任を負います。また、監査人は財務報告に関する内部統制の有効性についてレビューの上、意見表明を行います。
監査法人による会計監査人の任期は継続して 5 年間を 2 回が限度であり、一度ローテーションアウトした会計監査人は 5 年を経過しなければ再任することができません。このため、通常 10 年、または 5 年ごとに監査人のローテーションが行われます。
監査人の強制ローテーションは以下の会社に適用されます。
小規模会社等2を除く非上場会社の監査でもインドの会計監査人の監査報告書には意見表明以外に CARO(Companies Auditor's Report Order)の規定する一定事項(棚卸資産の実地棚卸、不正、継続企業の前提など)のレビュー結果が記載されます。
2022 年 3 月期より適用となる CARO2020 は記載項目が下表のように 21 項目となり、以前よりも増加しています。監査人の報告責任を強化するものですが、企業にも財務に係る内部統制を強化し、重要情報を適時適切に監査人に提供する必要が生じます。
21項目の概要 | |
1.固定資産の詳細 | 14.内部監査体制・内部監査報告書の検討
|
親会社はインドに拠点を置く子会社等の監査報告書入手時にCAROにも目を通し、除外事項等が無いか確認することもグループガバナンスの観点から有益です。
税務監査
税務監査は所得税法に基づく、課税所得算出用の財務諸表に対する監査制度であり、年間売上高1000万ルピー超3 の会社が対象となります。会社法監査と違い決算期の変更はできず、3月31日を決算日とし、通常9月末4 の所得税申告書の提出期限までに実施される必要があります。
移転価格証明
移転価格の対象取引(国際/特定の国内取引)が1ルピーでもある場合、勅許会計士からForm 3CEBという証明書類の入手義務が生じます。
インド勅許会計士協会は近年、不正リスクへの対応と内部統制強化への取り組みとして、IT監査に関する下記のルールを通知しました。
内国法人の所得法人税率(%) | 15/22/25/30 (a)(b)(c) | ||
キャピタルゲイン税(資本利得税)率(%) | 20/30 (a)(c)(d) | ||
支店に対する税率(%) | 40 (a)(c)(e) | ||
源泉 | 配当金 | 内国法人への支払い | 10 (c)(f) |
外国法人への支払い | 20 (a)(c)(f)(g)(h) | ||
利息 | 内国法人への支払い | 10 (c)(f) | |
外国法人への支払い | 4/5/9/20 (a)(c)(f)(g)(i) | ||
特許、ノウハウなどからのロイヤルティー | 20 (a)(c)(f)(g)(h) | ||
技術サービス料 | 20 (a)(c)(f)(g)(h) | ||
支店送金税 | 0 | ||
欠損金(年) | 繰戻 | 0 | |
繰越 | 8(j) | ||
(a) これらの税率には、サーチャージ(surcharge)および目的税(cess)から成る追加的な課税が上乗せされます。
サーチャージは税額に対して以下の通り上乗せされます。
(b) 2024~25課税年度については、以下の状況において軽減法人所得税率が適用されます
(c) 2024年財政法(2024 Finance Act)は大統領の同意(assent)を受け、2024年3月に成立しました。また、2024年第2次財政法(Finance (No. 2) Act, 2024)が2024年7月に成立しました。
(d) 仮想デジタル資産の売却により発生するキャピタルゲインは、30%(適用されるサーチャージおよび目的税がこれに上乗せされる)で課税されます。
(e) この基本税率の例外については、セクションBを参照。
(f) インドでは、納税者のインド税務当局への登録時に、固有の識別番号であるPAN(Permanent Account Number)が割り当てられます。所得の受領者が自身のPANの提供を怠った場合、所得税法(Income Tax Act)の該当する規定により指定された税率と20%のうちいずれか高い方の税率で源泉徴収を行わなければなりません。
(g) 所得の受領者が通知済管轄区域(Notified Jurisdictional Area:NJA)に立地する場合、所得税法の該当する規定により指定された税率と30%のうちいずれか高い方の税率で源泉徴収を行わなければなりません(詳細については、セクションDを参照)。
(h) この20%の税率(2%または5%のサーチャージ(適用される場合)および4%の目的税がこれに上乗せされる)は、インド企業から外国法人に支払われるロイヤルティーおよび技術サービス料に適用されます。契約に基づき支払われるロイヤルティーまたは技術サービス料が非居住者である受領者のインド国内の恒久的施設または一定の場所(fixed place)に実質的に帰属する場合、当該支払いは純所得ベースで、40%の税率(2%または5%のサーチャージ(適用される場合)および4%の目的税がこれに上乗せされる)で課税されます。
(i) この税率は外貨建ての借入金または債務に対する利息に適用されます。いずれかの国際金融サービスセンター(International Financial Services Centres:IFSC)に立地する認知された証券取引所に上場する長期債券またはルピー建て債券(rupee-denominated bond:RDB)に対する利息が非居住者に支払われる場合には、4%の源泉徴収税率(2%または5%のサーチャージ(適用される場合)および4%の目的税がこれに上乗せされる)が適用されます。以下に対する利息が非居住者(外国法人を含む)に支払われる場合には、5%の税率(2%または5%のサーチャージ(適用される場合)および4%の目的税がこれに上乗せされる)の源泉徴収税が課されます。
さらに、インド法人または政府から外国法人に支払われる、外貨建ての借入金または債務に対する利息には、20%の税率(2%または5%のサーチャージ(適用される場合)および4%の目的税がこれに上乗せされる)が適用されます。非居住者である受領者のインド国内の恒久的施設または一定の場所に実質的に関連する利息は、40%の税率(2%または5%のサーチャージ(適用される場合)および4%の目的税がこれに上乗せされる)で課税されます。
(j) 未控除の減価償却費は無期限に繰り越し、その後の各年度における課税所得と相殺することができます。
税金の名称 | 物品・サービス税(goods and services tax:GST):中央物品・サービス税(Central Goods and Services Tax:CGST)、州物品・サービス税(State Goods and Service Tax:SGST)または連邦直轄領物品・サービス税(Union Territory Goods and Services Tax:UTGST)、統合物品・サービス税(Integrated Goods and Service Tax:IGST)、およびGST補償税(州の税収補償のための特別追加税)から成る | |
現地名称 | Maal aur Seva Kar | |
導入日 | 2017年7月1日(GST) | |
貿易圏への加盟 | アジア太平洋貿易協定 (APTA)、 南アジア自由貿易圏(SAFTA)、 ベンガル湾多分野技術経済協力イニシアチブ(BIMSTEC) | |
所管 | 中央税および統合税は中央政府、州政府および連邦直轄領(UT) が徴収・管理 | |
GST税率 | 0%、0.25%、3%、5%、12%、18%、28% | |
GST番号の形式 | 物品・サービス税の納税者番号 (GSTIN) はpermanent account number (PAN)と呼ばれ、最初の2桁は州コードを示している。 PAN はインド所得税法の下で発行される一意の納税者番号である。 | |
GST申告期間申告の期間 |
| |
登録適用基準値 | 物品の供給のみ | 特定のカテゴリーの州:100万ルピー |
その他の供給 | 特定のカテゴリーの州:100万ルピー | |
国内で設立されていない 事業者によるGSTの控除 | 特定の条件により可能 | |
フルバージョンには、EY Tax Guideの日本語版(法人税、個人所得税およびイミグレーション、物品・サービス税(GST))が含まれています。本ガイドのフルバージョンをご希望の方は、こちらのお問い合わせより、以下の項目を記載の上ご連絡ください。