EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本ガイドブックには、メキシコの会計・監査・税務に関する最新の基礎的概要を掲載しています。すでにメキシコへ投資されている企業、および今後投資を検討している企業の皆さまの基本的な理解にお役立ていただけますことを願っております。
メキシコは世界有数の市場である北米と経済成長の期待される南米の両方に近接する地理的優位性を持つ国です。すでに自動車産業を中心に多くの日系企業が進出していますが、北米自由貿易協定(NAFTA)から進化した米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)により、北米地域の経済統合が一層強化されています。この協定は、関税の減免や貿易の促進だけでなく、知的財産権の保護、デジタル貿易、労働と環境基準の向上など、幅広い分野において新たなルールを設けています。これにより、メキシコは日本企業にとってさらに魅力的な投資先となり、ビジネスチャンスが拡大しています。
メキシコの会計制度は、メキシコ会計基準(Norma de Informacion Financiera:NIF) に 基 づ い て い ま す が、 国 際 財 務 報 告 基 準(International Financial Reporting Standards:IFRS)へのコンバージェンスがなされており一部を除きIFRSと差異は無いものとされています。外部会計監査人による会計監査については、上場企業および政府・金融機関関連企業は、外部会計監査人の設置義務がありますが、その他の企業は必須ではありません。一方、税制に関しては、電子化が進んでおり、CFDIと呼ばれる電子インボイスをすべての企業に義務付けていたり、従業員へ給与を支払う際に発行する給与明細も電子化の上、税務当局への提出が求められるなど、多岐にわたっています。さらには、電子会計情報提出制度が導入されており、企業は月次試算表などのデータを所定の期限内に税務当局へ提出する必要があります。なお、税務当局が公表した勘定科目の一覧表は適用税率までを区分けする内容となっており千数百項目に分類され、企業はそれぞれ関連するものだけを抜き出して勘定科目マッピング表を作成する必要があるなど、IT化を含めた対応が求められます。
項目 | メキシコ |
非上場企業(日本企業の子会社) | 否 |
IFRSと現地会計基準の主な差異 | 小 |
決算期の変更 | 不可 |
| 決算期末の選定 (暦年以外の採用可否) | 不可 |
| 会社法で作成が求められる財務諸表 |
|
提出する財務諸表 | 上場企業および政府・金融機関関連企業を除き会計監査は義務ではないため監査済財務諸表の提出義務は無いが、一定の条件を満たす企業は税務当局の指定する形式で財務情報(財務諸表およびその他の情報)を税務当局へ提出する必要がある |
保存期間 | 原則5年間 |
機能通貨適用の可否 | 可 |
法定監査 | 上場企業および政府・金融機関関連企業のみ必要 |
*非上場企業のIFRS適用可否については、以下の基準で記載しています。
否:税務申告時または規制当局に提出(添付)する、財務諸表は自国の会計基準で提出しなければならない場合
可:税務申告時または現地当局に提出(添付)する、財務諸表は自国の会計基準以外にIFRS基準であっても良い場合
メキシコで事業を行う企業は、原則メキシコ会計基準(Norma de Informacion Financiera: NIF)の適用が必要です。従って、日本あるいはその他の国でメキシコ法人の財務諸表を連結する場合は、グループで採用する会計基準に合わせるための修正が必要になる場合があります。
前述の通り、NIF は IFRS と同等であり、個別の基準の内容について一部を除き IFRS との差異はありません。
メキシコでは、国際的なコンバージェンスの動きを受けて、上場企業には IFRS の適用が義務化され、それ以外の企業は IFRS と同等である NIF の適用が求められます。NIF と IFRS の主な差異としては、インフレ会計において直近 3 年間の累積で 26% のインフレがあった場合に適用されることや、機能通貨会計における記帳通貨という概念、メキシコ特有の制度である労働者利益分配金(PTU)に関する取り扱いなどがあります。
NIF は次の通りです。
No. | 項目 | 関連する主なIFRSs |
NIF A-1 | 財務報告に関する概念フレームワーク | IAS 第1号、IAS 第8号、IFRS 第13号 |
NIF B-2 | キャッシュ・フロー計算書 | IAS 第7号 |
NIF B-3 | 包括利益計算書 | IAS 第1号 |
NIF B-4 | 株主持分変動計算書 | IAS 第1号 |
NIF B-5 | 事業セグメント | IFRS 第8号 |
NIF B-6 | 財政状態計算書 | IAS 第1号 |
NIF B-7 | 事業買収 | IFRS 第3号 |
NIF B-8 | 結合連結財務諸表 | IFRS 第10号 |
NIF B-9 | 期中財務報告 | IAS 第34号 |
NIF B-10 | インフレ影響 | IAS 第29号 |
NIF B-11 | 長期性資産の処分および非継続事業 | IFRS 第5号 |
NIF B-12 | 金融資産と金融負債の相殺 | IAS 第32号 |
NIF B-13 | 後発事象 | IAS 第10号 |
NIF B-14 | 1株当たり利益 | IAS 第33号 |
NIF B-15 | 外国通貨の換算 | IAS 第21号 |
NIF B-16 | 非営利目的の財務諸表 | ― |
NIF B-17 | 公正価値測定 | IFRS 第13号 |
NIF C-1 | 現金および現金同等物 | IAS 第7号 |
NIF C-2 | 金融商品 | IFRS 第9号 |
NIF C-3 | 売掛債権 | IFRS 第9号 |
NIF C-4 | 棚卸資産 | IAS 第2号 |
NIF C-5 | 前払費用 | ― |
NIF C-6 | 有形固定資産 | IAS 第16号、IAS 第37号 |
NIF C-7 | 関連会社および共同支配会社に対する投資 | IAS 第28号 |
NIF C-8 | 無形資産 | IAS 第38号 |
NIF C-9 | 引当金、偶発事象およびコミットメント | IAS 第37号 |
NIF C-10 | デリバティブおよびヘッジ活動 | IFRS 第9号 |
NIF C-11 | 株主資本 | IAS 第1号、IAS 第32号 |
NIF C-12 | 負債と資本の特性を持つ金融商品 | IFRS 第9号 |
NIF C-13 | 関連当事者 | IAS 第24号 |
NIF C-14 | 金融資産の譲渡および認識の中止 | IFRS 第9号 |
NIF C-15 | 長期性資産の減損および処分 | IAS 第36号、IFRS 第5号 |
NIF C-16 | 金銭債権の減損 | IFRS 第9号 |
NIF C-17 | 投資不動産 | IAS 第40号 |
NIF C-18 | 有形固定資産の除却に関連する債務 | IAS 第37号、IFRIC 第1号 |
NIF C-19 | 金銭債務 | IFRS 第9号 |
NIF C-20 | 元本および利息を回収する金銭債権 | IFRS 第9号 |
NIF C-21 | 共同支配の取り決め | IFRS 第11号 |
NIF C-22 | 暗号通貨 | ― |
NIF D-1 | 顧客との契約から生じる収益 | IFRS 第15号 |
NIF D-2 | 顧客との契約から生じるコスト | IFRS 第15号 |
NIF D-3 | 従業員給付 | IAS 第19号 |
NIF D-4 | 法人所得税 | IAS 第12号 |
NIF D-5 | リース | IFRS 第16号 |
NIF D-6 | 借入費用の資本化 | IAS 第23号 |
NIF D-8 | 株式に基づく報酬 | IFRS 第2号 |
NIF E-1 | 農業 | IAS 第41号 |
NIF E-2 | 目的のため非営利事業体による寄付または融資 | ― |
メキシコでは、設立・清算の場合を除き、会社法により 12 月 31日が法定決算日とされており、決算期の変更は認められておりません。
また、税務上の課税期間については会計年度がそのまま適用されますので、会計期間と課税期間は一致します。
企業は以下の財務諸表を作成する必要があります。
メキシコでは、上場企業および政府・金融機関関連企業を除き外部会計監査人の設置義務は無く、政府・金融機関関連企業を除く非上場企業には、税務当局による税務調査で求められる場合や融資を受ける際に金融機関から求められる場合などを除き、監査済財務諸表提出の義務はありません。
一方で、税務当局に対しては、一定の条件を満たす企業は税務当局の指定する形式で財務情報を提出する必要がありますが、この場合、提出する情報は必ずしも財務諸表と全く同じ情報とは限らない点に留意する必要があります。
なお、メキシコには、企業が税法に従って税金を計算し申告しているかを外部会計監査人が検証する、税務監査という固有の制度が存在しており、基準値を超えた課税収入がある企業もしくは上場企業は、その翌年度から税務監査を受ける義務があります。2022 年度税制改正により、税務監査報告書の提出期日は、7月から5月に変更されています。なお、2023 年 12 月時点の基準値は以下の通りです(基準値は毎年更新される)。
また、上記の基準値には至らずとも、下の基準値(2023 年 12 月時点)を超えた課税収入・総資産・従業員を有する企業は、税務監査を義務ではなく、任意で受けることができます。
税務監査を受ける場合、各企業で作成・提出する情報に代えて、公認会計士の作成する税務監査の結果を税務当局に提出することができます。この場合も提出形式は税務当局に指定されており、財務諸表一式に記載される内容より詳細な情報を要求されることがありますので留意が必要です。
作成した会計帳簿および関連する補助資料は、税務調査に備えて少なくとも税務申告後 5 年間は保管する必要があります。仮に修正申告を行った場合には、修正申告を行った翌日から 5 年が起算されますので、保存期間が 5 年を超える場合もあることに注意が必要です。なお、清算時などの特別な場合には個別に 10 年間の保存を要求される場合もあります。
NIF に基づき、機能通貨を検討する必要があります。メキシコの企業は米ドル建ての取引が多く、米ドルを機能通貨と考えている企業も多く存在しています。
ただし、税務上要求される事項はメキシコペソ(MXN)建てで計算・作成・報告する必要があることなどに配慮して、NIF には記帳通貨という概念が定義されており、機能通貨とは別に記帳通貨を定めることが可能です。そのため、機能通貨が米ドルであったとしても、会計帳簿への記帳通貨はメキシコペソ建てで行われることが一般的です。
メキシコでは、上場企業および政府・金融機関関連企業のみ法定監査を要求されていますが、それ以外の非上場企業は会計監査が義務付けられておりません。
ただし、前述のように、該当する企業は外部会計監査人による税務監査を必須または任意で受ける必要があります。
NIF は IFRS とほぼ同等であり、個別の基準の内容について一部を除き IFRS との差異はありません。
NIF と IFRS の主な差異としては、インフレ会計、機能通貨会計、メキシコ特有の制度である労働者利益分配金(PTU)に関する取り扱いなどがあります。
特に、機能通貨会計については、米ドルを機能通貨とする企業が多く見られる上、機能通貨が記帳通貨(現地通貨であるメキシコペソであることが一般的)と異なるという特殊な状況であり、注意が必要です。PTU に関する取り扱いについても、税効果会計と同様の考え方を用いて会計処理する必要があるため、煩雑な会計処理となっている点に注意が必要です。
また、メキシコの特徴の一つとして、税制が複雑かつ変更が多いことが挙げられます。最新の税法や税務当局の動向の変化に常に注意を払い、それらが会計、監査にどのように影響するかを理解し、将来の税務調査のリスクに備える必要があります。
さらに、メキシコでは多くの非上場企業で会計監査が義務付けられていませんが、日系企業においては連結グループのポリシーに従い、任意監査で会計監査を受けているケースが多いです。しかしながら、メキシコ人の母国語はスペイン語であり、監査を担当する公認会計士や、実務を担当する経理スタッフが英語に堪能ではない場合も多く、現地の経営者と十分なコミュニケーションが取れないまま会計監査が進み、監査の最終段階でいろいろな問題が表面化することが多く見受けられます。こういった問題を未然に防ぐため、企業内の適切な人材配置と、監査人との積極的なコミュニケーションを取ることが望ましいという点に注意が必要です。
法人所得税率(%) | 30 (a) | ||
キャピタルゲイン税率(%) | 30 (b) | ||
支店に対する税率(%) | 30 | ||
源泉徴収税(%) | 配当金 | 10 (c) | |
利息 | 流通証券に係る支払い | 10 (d)(e) | |
銀行への支払い | 10 (d)(f) | ||
再保険会社への支払い | 15 (d) | ||
機械の供給業者への支払い | 21 (e) | ||
その他への支払い | 35 (d) | ||
ロイヤルティー | 特許および商標からのもの | 35 (d) | |
ノウハウおよび技術支援からのもの | 25(d) | ||
鉄道車両からのもの | 5 (d) | ||
支店送金税 | 10 (c) | ||
欠損金(年) | 繰戻 | 0 | |
繰越 | 10 | ||
(a) 労働者利益分配金(employee profit sharing)として 10% が課されます(セクション D を参照)。
(b) 外国の居住者に係る資本税率は 25% または 35% です(セクション B を参照)。
(c) この税は 2013 年より後に創出された利益から支払われる配当金に適用されます(セクション B を参照)。
(d) これは非居住者に適用される最終課税です。タックスヘイブン(租税回避地)への支払いは一般に 40% の源泉徴収税の対象となりま
(e) 特定の要件を満たす場合、この税率は 4.9% に軽減される可能性があります。
(f) 租税条約締結国の居住者である銀行には 4.9% の軽減税率が毎年認められます。
税金の名称 | 付加価値税(VAT) | |
現地名称 | Impuesto al Valor Agregado (IVA) | |
導入日 | 1980年1月1日 | |
貿易圏への加盟 | 米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA) | |
所管 | メキシコ税務当局(SAT、Servicio de Administración Tributaria) | |
VAT税率 | 標準 | 16% |
軽減 | 8% | |
その他 | ゼロ税率(0%)および非課税 | |
VAT番号の形式 | 納税者番号 (RFC) 会社の番号は 12桁の英数字 | |
VAT申告の期間 | 月次 | |
VAT登録適用基準値 | なし | |
国内で設立されていない事業者によるVATの控除 | なし | |
フルバージョンには、EY Tax Guideの日本語版(法人税、個人所得税およびイミグレーション、付加価値税(VAT))が含まれています。本ガイドのフルバージョンをご希望の方は、こちらのお問い合わせより、以下の項目を記載の上ご連絡ください。