EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本ガイドブックには、オランダの会計・監査・税務に関する最新の基礎的概要を掲載しています。すでにオランダへ投資されている企業、および今後投資を検討している企業の皆さまの基本的な理解にお役立ていただけますことを願っております。
オランダの会計制度は、オランダ民法第2編第9章において規定されており、主にEU第4号指令および第7号指令に準拠しています。これらは、IFRS適用会社であっても準拠しなければならない法令として定められています。会計基準に関しては、「オランダ会計基準ガイドライン (Richtlijnen jaarverslaggeving)」として、オランダ民法第2編第9章(主に362条)において、IFRSおよび判例を基に具体的な適用指針が定められています。明確化された規定と適用が推奨される事項に分かれており、法令ではないため強制はされないが、準拠すべき基準とされています。報告通貨はユーロが基本ですが、日本円などの外国通貨も可能です。オランダ会計基準はこれまでIFRSへのコンバージョンを進めてきました。また、IFRS第15号「顧客との契約からの収益」、IFRS第16号「リース」、およびIFRS第9号「金融商品」の予想損失モデルなど、一部の会計処理についてIFRSを任意で適用することも認められています。オランダの会計・監査制度の特徴の一つは、企業を規模に応じて大会社から極小会社まで分類し作成書類や監査の要否を定めている点です。また、国外企業がオランダに中間持株会社を有している場合が多いこともあり、中間持株会社に対しては連結財務諸表の作成免除規定が定められており多くの日系企業も適用しています。
オランダの主な税金には、法人所得税、個人所得税、付加価値税(VAT)、関税などがあります。オランダには、配当源泉税の免税、資本参加免税、研究開発活動の促進を優遇するイノベーションボックス税制、事前確認制度など税務上の優位性があり、日系企業が多くの拠点を設立しています。近年では世界各国が連携する形で進められている、多国籍企業が稼得する利益に係る各国への所得配分の適正化と、各国で適用される最低法人税率の導入を目指す取り組みとして税源浸食と利益移転(BEPS)への対応がトピックとなっています。
項目 | オランダ |
非上場企業(日本企業の子会社)のIFRSの適用の可否* | 可 |
IFRSと現地会計基準の主な差異 | 広範に亘って詳細な差異あり |
決算期の変更 | 可 |
決算期末の選定 | 可 |
| 会社法で作成が求められる財務諸表 |
|
提出する財務諸表 | 同上 |
保存期間 | 年次報告書と、関連する財務記録の保存期間は7年間 |
機能通貨適用の可否 | 可 |
法定監査 | 会社規模に基づく要件などあり |
*非上場企業のIFRS適用可否については、以下の基準で記載しています。
否:税務申告時または規制当局に提出(添付)する財務諸表が自国の会計基準で提出しなければならない場合。
可:税務申告時または現地当局に提出(添付)する財務諸表が自国の会計基準以外にIFRS基準であっても良い場合。
オランダの法令では、上場企業はIFRSを適用することが規定されていますが、その他の企業においても、適用が認められています。ただし、IFRSを採用した場合でも企業がオランダ民法の適用を免除されるわけではありません。特にIFRSを採用する場合には、企業の規模にかかわらず、財務諸表の監査およびオランダ民法に基づく取締役報告書の作成が義務付けられます。
オランダ会計基準は、IFRS のような原則主義ではなく規則主義であり、例外規程を具体的に定めている点が全般的な特徴です。オランダ会計基準はこれまで IFRS へのコンバージョンを進めてきましたが、依然として広範に亘って詳細な差異が存在します。オランダ会計基準と IFRS との主な差異は以下の通りです。
決算期末は定款により定められ、特段の定めがない場合には暦年が適用されます。オランダでは、定款の定めにより決算期の変更をすることが可能です。
オランダでは、ユーロ以外の通貨(機能通貨など)で財務諸表を作成することも認められています。税務上も一定の場合には、機能通貨により法人税の確定申告書を作成することが認められています。ただし支払いはユーロで行う必要があります。
原則として全ての企業は財務諸表を作成する必要がありますが、会社の規模に応じて作成書類や監査要件が定められています(後述)。一般には以下の財務諸表の作成が求められます。
株主資本等変動計算書は財務諸表注記に含まれます。なお、IFRSを採用した場合、損益計算書(包括利益計算書)に加えて、持分変動計算書およびその他の包括利益計算書(OCI)の作成が求められます。また、企業グループの親会社は、後述の各連結免除規定を適用しない場合、連結財務諸表および個別財務諸表の作成が要求されています。
オランダでは、企業は総資産、純売上高、平均従業員数の3つの基準に基づき「極小会社」「小会社」「中会社」「大会社」に分類されます。分類は、総資産、純売上高、平均従業員数の3項目のうち2項目を2期連続で満たすか否かで判定されます。
極小会社 | 小会社 | 中会社 | 大会社 | |
総資産(ユーロ) | ≦450,000 | ≦7,500,000 | ≦25,000,000 | >25,000,000 |
収益(ユーロ) | ≦450,000 | ≦15,000,000 | ≦50,000,000 | >50,000,000 |
平均従業員数(人) | <10 | <50 | ≦250 | >250 |
* 総資産は通常貸借対照表に表示されている総資産が使用されます。当該総資産は取得原価主義に基づき算定されます。
* 純売上高には配当収入は含まれません。受取利息は主要な事業目的に関連している場合には含まれるとされています。
* 平均従業員数の従業員は、Full time equivalent とされており法的に雇用契約のある従業員とされています。
* 設立初年度は最初の会計期間の貸借対照表日を基準日として、会社規模の判定が行われます。
* 連結財務諸表作成免除要件を満たす会社を除き、オランダ会社を親会社とする連結ベースで判定する必要があります。
*IFRS を適用する場合には規模的な要件にかかわらず適用初年度より「大会社」に区分される点に留意が必要です。
オランダでは上述の会社区分に応じ監査要件および作成書類、開示要求などが定められています。ただし、後述のような各免除規定を適用した場合にはこの限りではありません。
小会社 | 中会社 | 大会社 | |
法定監査の要件 |
| × | × |
連結財務諸表の要否 |
| × | × |
税務の簡易的会計処理 | × |
|
|
取締役報告書 | (任意) | × | × |
キャッシュ・フロー計算書 |
| × | × |
取締役の報酬開示 |
| × | × |
開示項目 |
|
| × |
簡略的な開示 | × |
|
|
極小会社に関しては、要約版の貸借対照表および損益計算書の作成が認められています。また取締役報告書や財務諸表注記の作成が免除される他、簡易的な会計基準の適用が可能です。
オランダでは、以下のような免除規定が存在します。適用にあたっては一部厳格な要件を満たす必要もあり、慎重な検討が必要となります。
なお、適用がある場合には年次報告書上、開示されます。また、個別財務諸表上、子会社及び関連会社株式は原価法(または回収可能価額のいずれか低い価額)にて評価されます。
| 期限 |
財務諸表の作成 |
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株主総会での財務諸表の承認 |
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財務諸表の商工会議所への提出 |
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株主総会での財務諸表の承認がなされない場合には、利益処分や自己株式の取得に制限がされます。また、財務諸表の作成、提出に関する法令遵守が適切に行われない場合には、該当する役員が法令違反とみなされ罰金などが科される可能性があります。
オランダの監査制度は、主にオランダ会計士(Dutch CPA)に対して、ロイヤル・ダッチ・インスティテュート・オブ・チャータード・オーディターズ(NBA)が職能団体として監督することで、その品質を確保しています。監査規制当局は Autoriteit Financiële Markten(AFM)であり、オランダの監査基準(Dutch GAAS) は国際監査基準(ISAs)に非常に近いものとなっています。
オランダには 2 種類の会計士のタイトルが存在します。ひとつは「RA」(Registered Auditor)で、監査を主な業務としています。もうひとつは「AA」(Auditor-Administrator)で、財務諸表の作成を主な業務としつつ、監査を行う資格も有しています。
その他、オランダにおいて特に留意が必要なトピックスには以下のとおりです。
法人税率(%) | 25.8 (a) | |
キャピタルゲイン税率(%) | 25.8 (a) | |
支店税率(%) | 25.8 (a) | |
源泉徴収税(%) | 配当金 | 15/25.8 (b)(c) |
利息 | 0/25.8 (c) | |
特許、ノウハウなどからのロイヤルティー | 0/25.8 (c) | |
支店送金税 | 0 | |
欠損金(年) | 繰戻 | 1 |
繰越 | 無期限 (j) | |
(a) 20 万ユーロまでの課税所得に対しては 19% の税率が適用されます。詳細については、セクション B の「税率」の項をご参照ください。特定の知的財産権 (IP)に関連する適格所得には 9% の実効税率が適用されます(イノベーションボックス)。イノベーションボックスの詳細については、セクション B の「イノベーションボックス」の項をご参照ください。
(b) 受取人が欧州連合(EU)加盟国、欧州経済領域(European Economic Area:EEA)加盟国、または配当金を含めた租税条約をオランダと締結している国に設立された親会社である場合、一定の濫用防止の要件が満たされることを条件に、15% の税率がゼロ(0)% に引き下げられる可能性があります。特殊事業体であるオランダ協同組合が支払う配当は、当該協同組合が持株会社や金融会社としての運営を主としていない場合には、オランダの配当源泉徴収税の課税対象にはなりません。詳細については、セクション B の「配当源泉徴収税」の項をご参照ください。さらに、オランダの広範な租税条約ネットワークの下で、オランダの配当源泉徴収税率は引き下げられるのが一般的であり、場合によってはゼロ(0)% まで引き下げられます(オランダの租税条約ネットワークは 100 本以上の租税条約により構築されています)。
(c) 2021 年 1 月 1 日以降は、低税率国・地域または税務上の非協力的国・地域に所在する関連事業体(親会社がグループ内で「決定的な影響力」を有すると定義される)や特定のハイブリッド事業体への利子やロイヤルティーのグループ内支払い、および濫用的な状況下での利子やロイヤルティーのグループ内支払いには条件付源泉徴収税が適用されます。2024 年 1 月 1 日以降は、この条件付源泉徴収税は(みなし)利益分配にも適用されています。利益分配金、利子およびロイヤルティーに対する源泉徴収税率は、法人所得税税率と同一です。オランダが租税条約を締結している国・地域の受取人への支払いについては、オランダ政府が毎年公表する低税率国・地域および税務上の非協力的国・地域のリストに当該国・地域が記載された最初年から 3 年間(すなわち、 2021 年に上記リストにすでに記載されていた国・地域は 2024 年 1 月 1 日)は既得権保護(グランドファーザー)条項が適用とされます。
(d) 欠損金は、(チェンジオブコントロール(change of control:支配権の変更) ルールに従い)(最初に)1 年間の繰り戻しと、無期限での繰り越しが可能です。ただし、欠損金の課税所得との全額相殺は、課税所得の最初の 100 万ユーロまでに制限されており、課税所得の 100 万ユーロを超える部分に対しては最大 50% までしか相殺できません。2021 年 12 月 31 日までに発生し、 2021 年 12 月 31 日の時点で繰り越し可能な税務上の欠損金を含め、税務上の欠損金は無期限に繰り越すことができます。
税金の名称 | 付加価値税(VAT) | ||
現地名称 | Belasting over de toegevoegde waarde (BTW) | ||
導入日 | 1969年1月1日 | ||
貿易圏への加盟 | 欧州連合(EU) | ||
所管 | 財務省 (http://www.minfin.nl) | ||
VAT税率 | 標準 | 21% | |
軽減 | 9% | ||
その他 | ゼロ税率(0%)および非課税 | ||
VAT番号の形式 | NL1 2 3 4 5 6 7 8 9 B 01 | ||
VAT申告の期間 | 月次 (課税対象者の要請または税務当局の要求による場合)。四半期(通常はこの期間) | ||
基準値 | VAT登録 | 国内で設立された事業者 | なし |
国内で設立されていない事業者 | なし | ||
遠隔販売 | 1万ユーロ | ||
EU域内取得 | 1万ユーロ | ||
電子的に供給されるサービス | 1万ユーロ | ||
国内で設立されていない事業者によるVATの控除 | あり(特定の条件あり) | ||
フルバージョンには、EY Tax Guideの日本語版(法人税、個人所得税およびイミグレーション、物品・サービス税(GST))が含まれています。本ガイドのフルバージョンをご希望の方は、こちらのお問い合わせより、以下の項目を記載の上ご連絡ください。